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「オリヴァー、店の仕事はいいの」

「アイラ」


 オリヴァーは、自分よりも年下の少女をしっかりと受け止めた。幼馴染の妹の体は、がりがりに痩せている。

 霧の中にいたからか、少女の髪や肌はしっとりと湿っていた。瞳に宿る光が、明るく輝いていた。


「今は休憩中。それより、お前一人か。サイラスはどうした」

「お兄ちゃんはそこで、ピュアーを拾ってる。いいのがあったんだって」


 アイラが駆けてきた霧の中から、少年の声が聞こえた。


「アイラ、急に走ったら危ないっていつも言ってるだろ」


 時間をかけて、一人の少年の全身がオリヴァーの前に現れた。少年が片足で跳ねながら進むたびに、彼を包む霧も蠢めいた。持っているブリキのバケツがからからと音を立てた。

 オリヴァーは肩を貸し、少年が地面に座るのを手伝った。


「助かるよ、オリヴァー」

「無理するなよ、サイラス」


 オリヴァーとアイラも、輪になるように地面に座った。


 サイラスのズボンは、右膝の下からだらりと垂れ下がっている。

 数年前、疾駆する馬車に轢かれて潰れたのだ。それからずっと左足だけで生活している。義足を手に入れる金も伝手もなかった。スラム街の子供たちからは、一本足(レフトレッグ)のサイラスと呼ばれている。


 アイラが、サイラスからバケツを受け取った。オリヴァーは中を覗き込む。犬の糞(ピュア―)が三分の一ほどまで溜まっていた。


「もうこんなに溜まったのか」

「イーストエンドの端から端まで、這いずり回って集めた。ここは食べ物が少ないから、犬も飢えてる。中々いい糞が見つからない。今日からはもっと街の方へでて、集めるつもりだ」


 金がなくては生きていけない。スラム街の子供は物心ついたときから、金を稼ぐ方法を考える。自分で食べていく方法を得られなかった者から死んでいく。そんな世界だ。


 サイラスとアイラは「汚れ落とし(ピュア―)」探しをしていた。犬の糞は皮の汚れをよく落とす。集めて持っていくと、バーモンジーの皮なめし業者が大量に買い取ってくれる。

 バケツ一杯で一シリング二ペンスの収入。

 朝から晩まで地面を這いずり回っても、パン一切れすら満足に買えない額しか入らない。


 オリヴァーも、一か月前まで二人と一緒に「汚れ落とし」探しで稼いでいた。

 マックスのパブが働き手を求めていることを風の噂で聞いて、早速行って、頼み込んだ。慣れない頭を下げて頼み込んだのが功を奏し、マックスの下で働かせてもらえることになったとき、サイラスとアイラも誘ったのだった。

 パブで一日中働くようになったら、なかなか二人とは会えなくなる。


 マックスさんのパブで働くことになった。お前らも一緒に来ないか。働き手は何人いてもいいらしい。給料もちゃんと出る。空き部屋も提供してくれる。これを逃したら、もう一生出会えないくらいの好条件だ。


 熱く語るオリヴァーに、サイラスはゆるりと笑った。


 いや、申し訳ないけど俺はいい。


 そして、膝から下を失った自身の右足を撫でた。


 俺はこの体だからな。早く動けない。客相手の商売には向かないよ。自分のペースで集められるピュア―探しの方が、俺には合ってる。


 兄の言葉を聞いて、アイラもオリヴァーの誘いを断った。片足の兄を支えなければいけない。そしてなにより、サイラスと離れて働くなんて幼いアイラには考えられなかった。


 当たり前のように一緒にいる二人を、オリヴァーは少し羨ましく思う。どれだけ幼い頃から一緒に育っても、血で繋がった絆には敵わない。


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