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 泥濘の底に私はいた。


 深い深い眠りであった。夢を見ることすらしなかった。何かに引っ張られるようにして、意識が闇の底へ沈んでいた。


 阿片が無理やりもたらした眠りだ。決して心地よいものではない。しかし、何も考えずに熟睡できるのは久しぶりであった。


 私は闇に身を任せた。闇が私の中に入り込んだ。どこまでも広がる闇の中で私は細かな粒子となり、端から端まで漂った。己という存在がひどく希薄だった。


 眠りはふいに終わった。闇から意識が引き上げられる瞬間、声を聞いた。聞き慣れた声であった。

 現実と夢の狭間のような世界でダニエルの声は、奇妙なほど生々しく私の頭蓋に響いた。


 ――君と僕は運命共同体なのだから。


 私がこの店の二階に居を移したときに、彼が言ったことだ。私はそれを聞いたとき、心に何か硬いものがすとんと落ちたように感じたのだった。いつもと違って真剣に言っているのであろう彼の方を見ていられなかった。


 運命共同体。君がその言葉を使うか。


 目覚めたとき、私の目の前に蝋人形があった。グロブナー夫人の邸宅に置かれていた蝋人形。滑らかな肌、柔い金髪、長い睫毛に縁どられた瞳……。


 ガラスの瞳には、私がくっきり映っていた。


 蝋人形の中には闇が広がっていた。彼を初めて会ったときに、私が見た闇だ。私は彼と同化し、彼は私を満たした。彼と私はほとんど一つの生き物のように融け合ったのだった……。


 その闇が私に牙をむいた。


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