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では、僕が見たものは一体何だ。あの一瞬、確かに真っ赤な宝石が見えた。それは婦人の鎖骨の上で、燃えるように輝いていた。間違いない。この目で見た。それなのに、実際宝石なんてものはどこにも描かれていない。
僕は白昼夢を見たのだろうか。それとも虚像か。異なる世界のものが、どこからか視界に入り込んだのか。
テオが僕の顔を覗き込む気配がした。
「どうしたんだ、エリアス。ぼーっとして」
言葉に詰まっている僕に代わって、ミアが答えた。
「おかしいのよ、エリアス。宝石なんてこのイラストには描かれていないのに、見たって言い張るの」
「宝石?」
フィンがミアの手から画集を取った。腕を伸ばしてしげしげと眺め、首を捻る。
「そんなの、どこにもないけど」
「でしょ?」
「エリアス、夢でも見たんじゃないの。それかベンに殴られた衝撃が今きたんだ。あいつの拳はすげえ固いからな。この間なんて、ベンに喧嘩を挑んだ奴が三メートルは吹き飛ばされてた」
フィンの軽口は、聴覚の外側を滑り落ちた。僕の脳裏には先程見たガーネットが鮮やかに浮かんでいた。ちろちろと燃える宝石は僕の思考を奪い、感覚を奪い、僕自身をも奪おうとしていた。
ぼんやりと宙を見つめている私に向かって、テオが心配そうに何度も呼びかけていた。
今もそうだ。机に向かって日記を書いている僕の傍に、ぴったりと寄り添っている。親鳥が雛を守るように、テオはその細い腕で僕を包み込んでくれている。
それでも、あの残像は消えない。ちろちろ、ちろちろと僕の眼の裏で瞬いている。
血のように真っ赤な光が、ちろちろ、ちろちろ、といつまでも。
赤が、僕の中で燃えている。




