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 シュナイダー孤児院は、ドイツ屈指の大都会ベルリンから二五〇キロほど離れた小さな村、シュタインへリングにある。


 没落した貴族の別荘を譲り受けたらしい。石造りの屋敷は歴史を感じさせながらも、どこか瀟洒な雰囲気を漂わせているが、そこに住むのは身寄りのない子どもたちと疲れ果てた職員たちだ。

 良くいえば自然豊か、悪くいえば時代に取り残された廃村に佇む孤児院に、子どもを引き取りにくる者など中々現れない。三〇人あまりの食欲旺盛な子どもたちを十分に養うには、あまりにも資金が足りなかった。

 職員たちは何も言わないが、経営難に陥っていることは日々の食事からそれとなく察することができた。大人の苦悩は子どもにも伝播する。食事が少なくなっていくのと比例するように、子ども同士の喧嘩も絶えなくなった。僕もまたその内の一人だった。


 森を突っ切れば、孤児院の裏口側に出る。どれだけ面倒でも、表の玄関から入れと職員たちに言われている。

 表玄関から伸びる廊下を右に曲がれば食堂だ。

 三〇人の子どもたちで賑わう食堂に入ると、傷だらけのベンが憎々しげに僕を睨んだ。右目は大きく腫れあがり、口の中を切ったのか咀嚼も覚束ない。

 テオが喉の奥だけで笑った。


「えらくやったんだな」

「自業自得だ。謝る気はない」

「謝らなくてもいいだろ。睨むだけで何もしてこないってことは、あっちも多少負い目がある証拠だ」


 昼食はジャガイモのポタージュスープに、ポテトサラダ、人参とエンドウ豆を塩で煮たものだ。寸胴鍋に全員分の量が入っていて、一人一人の皿に職員がよそって渡す。

 以前のように大量の食物を手に入れることができなくなった中で、子どもたちは依然食欲旺盛なのだから、どうしても足りなくなる。年下や力の弱い子の食事を無理やり奪う奴が出てくるのも当然だった。

 僕とテオは端の席を取り、上半身で皿を覆うようにして食べた。自分のものは自分で守らなくてはいけない。


「そういや、気になっていたんだが、ベンに何を言われたんだ? 悪口って言っていたけど。お前があれだけやるって相当だろ」


 テオは言った。もう食べ終わっていたが、皿にはエンドウ豆だけが綺麗に残っている。僕は腕を伸ばし、エンドウ豆を取る代わりに人参をテオの皿に移した。

 双子でも嫌いな食べ物までは似ていない。


「別に……僕とテオって、口に出さなくてもお互いの感情が分かるだろ。双子だからだと思うけどさ。昔からそうだった……それをあいつは馬鹿にしてきたんだ。気持ち悪いって。普通の人間じゃないって。それに……」

「それに?」

「……僕とテオが、仲いいから……その……デキてるんじゃないかって」

「デキてる?」


 テオは素っ頓狂な声を上げた。視線が集まった。テオは手を振ってその視線を払い、僕の方に身を屈めた。


 青空を詰め込んだような瞳と目が合った。


「マジで、あいつがそう言ったのか。俺とお前がデキてるって?」

「そうだ」

「……そういうこと、どこで覚えてくるんだろうな。エリアス、あいつの言うこと気にしなくていいからな。馬鹿のことなんざ放っておけ」

「……放っておけなくて、喧嘩になったんだけど?」

「そういや、そうだった」


 テオはくつくつと笑い、テーブルの下で僕の腹に手を滑らせた。服越しではなく直接感じるテオの手は、冷たい上にひどく固かった。

 何分か先に生まれたというだけで兄の役割を背負い、今まで僕を守ってきた手だった。僕はその手を取り、両手で温めた。


 呆れたような声が、真向かいからした。


「そういうことをしてるから、デキてるなんて思われるんじゃないか」


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