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 木漏れ日が、水滴のように木の枝から滴り落ちていた。小鳥があちらこちらで可愛らしい泣き声を響かせ、遠くからは川のせせらぎも微かに聞こえてくる。爽やかな風が森を通り抜け、地面に蹲っている僕の髪を揺らした。

 子供たちに何度も踏まれた地面は固く、書き物をするのに丁度よかったが、頭の内側に響く声が邪魔をした。その声は僕の名を呼んでいた。


 エリアス。


 僕と同じ年の、少年の声だ。


 エリアス。


 落ち着いた声で、何度も何度も脳内に話しかけてくる。


 エリアス、何処にいるんだ。エリアス。


 最初は聞こえないふりをしていたが、声が常に聞こえている状態では、いつまで経っても筆が進まない。諦めて返事をした。


 ここだよ、兄さん。


「エリアス!」


 一人の少年が、木の幹と幹の間から現れた。僕と同じ顔をしているその少年は、額に汗を浮かべていた。


「なんだ、ここにいたのか」

 

 呆れたように呟き、私の隣に腰を下ろす。

 少年が着ているくたびれたシャツには、無数の小枝や葉っぱが纏わりついていた。比較的身軽な僕と比べて、この兄は森の中を駆け抜けるのがそう上手くない。


「何度も呼んだのに返事をしないから、かなり遠いところに行ってしまったのだと思った」

「日記を書いていたんだよ。テオの声が邪魔だったから、しばらく無視してた」

「ひどいなあ」


 テオは全くそう思っていない様子で笑った。僕は紙に視線を戻し、続きを書こうとしたが、


 思ったより近くにいてくれて良かった。


 心底ほっとしたようなテオの声がまたもや脳に響き、諦めて短くなった鉛筆を放り投げた。


 十一年前、僕とテオはほとんど同時にこの世に生を受けた。


 母親の胎内で育つ受精卵が二つに分離する理由は、はっきりとは分かっていない。

 ただの偶然。神が授けた奇跡。呪われた証。

 様々な憶測が流れているが、僕とテオが双子であることは紛れもない事実だった。

 テオがほんの少し早く産まれたから、便宜上テオが兄で僕が弟だ。だが、それも僕たちを詰め込んだバスケットの中にあった手紙に書かれていたことらしく、本当かどうかは分からない。


「何でこんな場所に一人でいたんだ」


 テオが聞いた。僕は散乱していた紙を集めて、胸に抱いた。

 動く度に、臍の辺りがじくじくと痛んだ。


「喧嘩した」

「喧嘩? 誰と」

「ベン。悪口を言ってきたから殴ったら、仕返しに腹を蹴られた。二人とも引っ込みがつかなくなって、地面を転がりまわって喧嘩した。フィンが止めてくれなかったら、今でも殴り合っていただろうな」

「ああ、だから腹を庇うようにしているのか」


 テオは僕の腹を覗き込むようにして、服を捲ってきた。

 人のことをよく見ている兄に気を遣われないよう、せっかく我慢していたのに、簡単に見破られたことが恥ずかしくて、僕はテオに背を向けた。

 そんな思考さえ全てお見通しな片割れは軽く笑い、僕の腰を緩く摩った。


「食事当番の仕事をしている真っ最中に、そんなことが起こっていたとはね。誰か教えてくれれば、人参の皮むきを放り投げてでも、見に行ったんだけどな」

「喧嘩は苦手じゃなかったのか」

「するのはね。でも見るのは別だ。お前が戦っているんだったら尚更。あのベン相手でも勝ったんだろ?」

「勝った……のかな。途中で無理やり打ち切られたから、よく分からない。少なくとも五発はあいつの顔に拳を打ち込んだけど」

「いつも威張りくさってるあいつの顔がボロボロになったんなら、十分勝ちだろ……流石、俺の片割れだ」


 穏やかな夏の日だった。

 テオの声はあまりにも優しかった。同年代の子供と比べても細い腕が僕の体を包み込み、服の上から腹を軽く撫でた。

 僕は母親の羽毛にくるまれた雛鳥のように、うっとりとその快さに身を委ねた。


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