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見世物小屋はすぐに見つかった。アーチ形の柱と煉瓦造りの建物が洒落ているコヴェントガーデンは、毎日のようにマーケットが開催されている。
いつもなら人々の活気で賑わう瀟洒な広場なのだが、深い霧のせいか、人々は皆重い足を引きずるように歩いていた。呼吸するだけで肺が重くなるような空気が満ちていた。
顔に傷を負った果物売りや、裸足で駆けまわる幼子らの、客を引きとめる声が虚しく響く中、見世物小屋は不吉なほど目立っていた。
派手派手しい看板や煽り文句で飾り立てられた入り口を潜ると、中はさらに不吉であった。
まず初めに抱いた印象は、闇、だった。息が詰まるほど狭い観客席、狭い舞台に、暗闇が我が物顔で居座っていた。天井から吊るされるランプはぽつりぽつりと瞬き、闇の暗さを一層濃いものにしていた。
劇場でよく見られるようなカーテンや飾り紐は見られず、木の板の舞台が観客席側に張りだしていた。
吐瀉物が乾いた痕が、観客席の位置からもよく見えた。
ベンチは、でこぼことした地面に直接置かれていた。何人かが既に座っていたが、彼らが発している空気は総じて悪意であった。観られる者と観る者の悪意がぶつかり、混ざり、息が詰まるような雰囲気が小屋中に漂っていた。
私は後ろの席を選んで座った。ショーが始まる前から、既に後悔しはじめていた。
ショーが始まっても、私は中々楽しめずにいた。
年齢の割に身体が著しく未発達な男性や、腕や足などの四肢が欠損している若い女性が舞台に立った。
所謂「畸形」と呼ばれる人々に、観客は歓声を上げ、同時に嘲笑した。
悪意は、どんどん質量を増していった。比例するように、私の呼吸も浅くなった。
私は背中を丸め、ベンチの木目の数を数えることに神経を注いでいた。すぐにでも席を立ちたかったのだが、入り口には厳めしい顔をした男が立ち構えていた。見物料を払わずに観覧する客や、「見世物」に対して乱暴をはたらく客がでないように見張っているのだろう。変に目立つようなことは避けたかった。
何も視界に入れず、何も耳に届かず、何も感じないように私は努めた。
悪意に満ちた小屋の中で、私は貝になった。
ショーは終盤へと近づいていた。変に気取った男の声が、貝になった私の耳朶を打った。
「それでは、最後の見世物です。世にも不思議な畸形の双子、ヒルトン姉妹!」
……双子。心の奥底にしまい込んだ記憶の蓋が開きかけた。必死に押し戻す。出てくるな。しかし、押しとどめられていた水が氾濫するように、記憶の奔流は勢いを増し、私の体の奥からこみ上げた。噴出しようとする。止めろ。その記憶は捨てたのだ。これ以上、私を翻弄しないでくれ。
光の帯の中に、二人の少女が現れた。
彫りの深い顔立ちも、上質な布のように黒々とした長髪も、鏡合わせのようだ。実の双子だということは疑いようもなかった。二人とも白いリボンを髪に留めていた。観客の不躾な視線に晒されながら、二人の少女は歌を歌い、体をくねらせた。
少女たちが細い四肢を動かすたびに、腰の部分でくっついたワンピースが揺らめいた。私は見るまい、と思いながらも、視線が固定されるのを止めることができなかった。
布の下の景色が狂おしいほど見たい。同時に、眼を抉り出してでも視界に入れたくなかった。
愛らしい声で歌い続ける少女たちの後ろに、先程気取った声を出した男性――恐らく、団長だ――が立った。もったいぶるように笑んだ後、少女たちのワンピースをするりと脱がせた。
奇妙に繋がった裸体が、闇の中に浮かび上がった。
記憶の蓋にひびが入った。




