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蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー  作者: みーしゃ
第一部 王立宮廷大学を目指そう!

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93. 聖女の否定

 読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。

 もう少しで第一部が終わります。どうぞよろしくお願いいたします。

「何を言ってるんだっ! 彼女の活躍を知らんのか!」


 他の教授がすぐさま批判の声をあげた。

 カテリーナは、筆記試験は同率一位、騎士コースの実技試験も、二位に大きく差を開けての一位だった。

 騎士コースの選抜者トーナメントで優勝し、そして何よりも魔人を倒し、聖女の奇蹟まで起こした人物だったからだ。

 学長のマギストロスは、批判的な教授に両手で自制するように促し意見を述べた。


「まあ、まずはエレウテリオス教授の意見を聞こう」


 ネオフィトスは、マギストロスに黙ったまま軽く会釈を行い言葉を続けた。


「この受験生には、魔力がありません」


 場が静まり返る。


「記録によれば、魔力量は“1”。実質ゼロです」


 我慢できなかった別の教授が口を開いた。


「彼女は魔人を討ち、奇蹟を起こしたのだぞ!」


「ふふ、奇蹟ですか……」


 エレウテリオスは冷徹な目のまま答えた。


「問題は、彼女が(・・・)奇蹟を起こしたのかどうかなのですよ」


「……どういうことだ?」


「彼女は、非常に高位の付与魔法を施された剣を使用しておりました」


「それに何の問題があるんだ!」


「その付与魔法を施したのが、彼女の兄である神聖騎士団副団長のアレクシオス・ルクサリス殿です。

 皆さまも御存じの通り、彼は高位の神官でありユースティリア神の強い加護を得ている人物です」


「……結論から言ってくれないか」


 別の教授が声をあげた。


「分かりました。では結論から申し上げましょう」


 エレウテリオスは、まずは指を一本立てて説明を始めた。


「まず第一に、彼女が魔人を討ち果たせたこと。これは、アレクシオス殿による付与魔法の結果と考えるのが妥当です」

「……なっ!」


 マギストロスが再び両手を挙げ、声を上げかけた教授に自制を促した。

 エレウテリオスは言葉を続ける。


「第二に、女神の奇蹟。これは彼女が起こしたのではなく、付与魔法を施した武器を通じて――つまり、アレクシオス殿に対して起こされたと見るべきです」


「そして――」


 エレウテリオスがわずかに目を細める。


「第三に、彼女の魔力の色です。彼女の魔力測定の鑑定結果を見ていただきたい。

 彼女の加護の色は透明です。つまり、どのような人間でも必ずあるはずの、女神の加護を持たない人物なのです!」


 場の空気が変わった。


「透明……だと!?」

「……加護がない? そんなことがありうるのか?」


 教授たちがざわつき始める。


「魔力が少ない者はたくさんいますが、加護の色を持たない人間は、聞いたことがありません」


 その場にいた皆が黙った。


「つまり、彼女は“特別”ではなく、“異常”だということです!」


 断言だった。


「そのような人物を、魔術研究の伝統を誇る宮廷大学に入学させることは、果たして正しいことのなのでしょうか」

「……エレウテリオス教授」


 マギストロスが、静かに名を呼んだ。


「君に問いたい」


 エレウテリオスは少し勝ち誇ったような表情で、マギストロスに視線を合わせる。


「君は理論を優先するのかね? それとも結果を優先するのかね?」


 エレウテリオスは即座に頭を働かせ、「理屈倒れ」という批判を受けないように、考えながら返答をしていく。


「私は理論に基づいた結果(・・・・・・・・・)を重視します。よい結果をもたらすために、日々、魔法理論の研究を行っているのですから」


「つまり、理論だけではなく、結果が伴わなければ意味がないということかね?」


「いえいえ、理論を元に推測し、研究を進めて結果の確認を行います。もしそこで、結果が出なかったとしても、その理論の誤りや足りない点などが解明されていき、次の研究に活かせるので意味があります」


「……君は数年前、魔力が少ないという理由で、ケファラスという人物の入学に反対したのを覚えているかね」


「はい、覚えておりますが……。今回の選抜と何か関係がありますか?」


「大いにある。彼が今、隣国のケレストースで何と呼ばれているか知っているかね?」


「いいえ」


「人々は彼を医聖と呼び、称えられているそうだ。彼は魔力はないものの病気の治療法をいくつも発見し、たくさんの成果をあげているとのことだ」


「……ふふ、そんなことですか。所詮、有から有の知識ではありませんか。我々が研究する魔術は、無から有を生み出す学問ですよ。……やはり、当大学には相応しくなかったと言わざるを得ませんな」


「そうだろうか。魔力を持たない者でも治療を行えるようになれば、結果として多くの国民が救われることになる。また、見つかった治療法を研究していけば、より効果の高い治癒魔術の術式を生み出せたり、新しい治癒魔法が見つかるきっかけになるとは思わんかね?」


「……」


 エレウテリオスは反論できず、黙ってしまった。

 その言葉を否定することは、研究の範囲を狭めることを意味し、魔術を幅広く研究するという大学の設立趣旨に反してしまうからだ。


 マギストロスは続けた。


「今回の出来事は、魔力を持たない人間でも、魔人を倒せるという証明にもなっている。この結果は今までの常識を根本から変えてしまう革新的な出来事だ」


 場の空気が変わった。

 その言葉には説得力があり、他の教授たちもうんうんと頷く。


「また、君の言う通り、仮に付与魔法に基づく奇蹟だとしたら、その武器を手にした者であれば、誰もが女神さまの奇蹟が起こせるということになる。それも十分な研究対象になるとは思わないかね?」


 エレウテリオスは苦虫を嚙みつぶしたような表情のまま、ずっと沈黙していた。

 その様子を察したマギストロスは、彼の面目をつぶさないように助け舟を出した。


「エレウテリオス教授。君の熱意を持った研究姿勢を否定するわけではない。しかし、女神さまの奇蹟はほとんど研究が進んでいない分野でもある。もし、加護を持たなくても女神さまの奇蹟を体現できる人物がいるとしたら、我が大学に受け入れて、じっくり研究してみたいとは考えられないだろうか?」


「……分かりました」


 エレウテリオスは静かに答えた。

 マギストロスはにっこりとほほ笑んだ。


「エレウテリオス教授、ありがとう」


 この言葉により、カテリーナを巡る議論は事実上決着した。

 その空気を感じた受験の担当官が言葉を発する。


「……それでは、他に異議やご意見はないということでよろしいでしょうか?」


 全員が同意して頷いた。


「それでは、合格者決定の実務へと移ります。次は最低合格点に近い受験生たちの選抜作業になります……」


 このとき、マギストロスは別のことを考えていた。


――学科も一位、実技も一位、大学主催の選抜トーナメントで優勝、魔人を討伐し住民の被害を抑え、女神の奇蹟を体現した。いくら大学の自治が認められているとはいえ、このような人物を不合格にしたら、陛下や国民は許さないだろうな……。


 マギストロスは宮廷大学の学長であると同時に、現職の魔術担当大臣で、閣僚の一人でもあった。

 彼は政治的な立場からも、カテリーナを不合格にすることはできなかったのだ。


 しかし彼は、政治的な理由によって受験者の合否を決める事はしたくないと思っていた。

 彼の本質は学者であり、大学の自治の観点から、学問の追求や自由な意見を制限することだけはしたくなかったのだ。


 こうして宮廷大学の合格者選抜会議は終了した。

 当のカテリーナは、まさかここでも自分の名が議題の中心になっているとは、そんなことは、つゆも思っていなかった。


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