89. 聖女の降臨
読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。
もう少しで第一部が終わります。どうぞよろしくお願いいたします。
空中での一瞬の攻防。
それは、当事者たちにとって生死を分ける紙一重の戦いだった。
カテリーナに気づいた魔人が、咄嗟に剣を横へ薙ぎ払った。
――ヒュンッ!!
鋭い風切り音。
その一撃は、カテリーナの突きを弾くためのものだった。
しかし――
カテリーナは、あえて突きを繰り出すように見せて、止めていた。
「ぬゥッッ!?」
魔人の顔に「しまった」という表情が浮かぶ。
その剣が空を斬った、その直後――
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
カテリーナは、全身の力を込めて突きを放った。
――ブシュゥッ!!
わずかに遅れて放たれたその一撃は、魔人の身体を完全に貫いていた。
「グゥォォォォーーーーーーッ!!」
獣のような咆哮が、空中から響き渡る。
渾身の突きは魔人の心臓を貫き、カテリーナの身体はそのまま魔人へぶつかるように密着した。
魔人の身体から、急速に力が失われていく。
カテリーナの飛翔の勢いで撃墜されたかのように、二人は放物線を描きながら地面へと落下し始めた。
カテリーナは剣から手を放し、着地の体勢を取ろうとする。
――その瞬間だった。
「コノまま……道連レダッ!!」
魔人の腕が伸び、カテリーナの身体をがっちりと抱きしめる。
「っ!」
そのまま、彼女を抱え込んだまま、頭から地面へ落ちる体勢へと変わっていく。
――危ない!!!
地上にいた誰もが息を呑んだ。
マギストロス学長は、咄嗟に魔法を唱えようとしたが、時間も魔力も足りなかった。
盾の騎士団長フォロスも、思わず落下地点へと踏み出したが、とても間に合う距離ではなかった。
他の受験生や応援に来ていた者たちも同様だった。
誰一人として、間に合う者はいなかった。
「放してッ!」
「放サンッ!」
魔人はすでに飛ぶ力も、炎弾を吐く力も失っていた。
だが最後の気力を振り絞り、カテリーナを締めつける力だけは決して緩めなかった。
両腕ごと締め付けられたカテリーナは、完全に身動きが取れなくなっていた。
――動けないっ!
このままじゃ、頭から落ちて……死んじゃう!
何とか拘束から逃れようと、焦りながら身体を必死に動かす。
だが、次の瞬間――
不思議なほど穏やかな気持ちが、心に広がり始めていた。
――でも……もしかして、やりきったのかな。
魔人の心臓は貫いた。
きっと、この魔人も死ぬ。
――なら……これでよかったのかも。
走馬灯のように、仲間の顔が脳裏に浮かんだ。
……ニコポリテス。
……ヨアニス。
……セバスティアノス。
そして、お兄さま……。
――みんな……ありがとう。
迫りくる死を受け入れて、カテリーナは静かに目を閉じた。
――その瞬間だった。
――フゥゥゥゥーーーーーーーーーン……
燃え上がる試合場の黒煙を吹き飛ばし、天から透明な光が降り注ぎ始めた。
澄んだ空気のようなその光が、カテリーナを優しく包み始める。
そして、空から光輝く大きな手が現れ、カテリーナを抱き抱えると、魔人は掴めないものを掴むような動きをしながら、強制的にカテリーナから引き剥がされていった。
魔人は驚愕の表情のまま、離れていくカテリーナを見つめていた。
言葉は……出なかった。
光の手に包まれるカテリーナの姿を、ただ、ただ、見ていることしかできなかった。
そして、完全に力が抜けた魔人は、頭から地上に落下した。
――グシャッ!
魔人になった男は、驚愕の表情を崩さぬまま、その最後を迎えたのだった。
「おぉ……!」
その場にいた全員が、光の手に包まれたカテリーナを呆然と見上げていた。
光の手は徐々に薄れ、空中のカテリーナの身体がゆっくりと正しい姿勢へと整えられていく。
そして、透明な光に包まれながら、カテリーナの身体はゆっくりと降り始めた。
目を閉じたカテリーナの表情は、まるで眠るようでもあり、まるで祈るようでもあった。
そしてその姿は、神々しく、荘厳で、まるで女神そのもののような美しさを誇っていた。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「聖女の奇蹟だ……」
その一言が合図になった。
歓声が一斉に弾けた。
「うぉぉぉぉっ!!」
「魔人を倒したぞー!」
「やったぁぁぁ!!」
「女神さまの奇蹟を呼んだんだっ!」
「カティーーッ!!」
歓声が試合場に響き渡った。
「ああ! きみは、なんて……なんて、凄いんだ!」
アレクシオスは治療を続けながら、黒煙が聖なる光によって吹き払われ、女神の手がカテリーナを包み込む光景を目撃していた。
胸の奥が、温かさで満たされていく。
――ああ、女神さま。
カテリーナをお守りいただき、本当に……本当にありがとうございます!
彼は必死に治癒魔法を施しながら、女神へ祈りを捧げ続けていた。
その中で――
カテリーナはゆっくりと地面へ降り立った。
まるで、天から女神が降臨したかのように。
「……ん?」
カテリーナはゆっくりと目を開く。
そこには――
涙を浮かべながら、歓喜する仲間たちの姿があった。
「聖女カテリーナさま、万歳!!」
カテリーナ付きの衛士が、ひときわ大きな声を上げた。
その声をきっかけに、歓声はさらに強いものとなった。
「えっ、えっ!?」
自分は死ぬと思っていた。
それなのに無事でいることも、皆が歓喜している理由も――
当事者であるカテリーナには、まったく理解ができていなかった。
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