103. 誓いの言葉
読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。
次回で最終回です。最後までどうぞよろしくお願いいたします。
「このたびは、このような栄えある賞を賜り、誠にありがとうございます」
カテリーナは、一言一言を噛みしめるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
その声には、自ら歩んできた人生の重みが宿っていた。
「……私は、生まれつき魔力をほとんど持っていません。
そのため、幼い頃から『落ちこぼれ』だと言われ続けてきました」
広場に集まった一般市民の間から、大きなどよめきが起こる。
貴族社会では、ルクサリス侯爵家のカテリーナがほとんど魔力を持たないことは、比較的知られた話だった。
しかし一般市民にとって、彼女は大聖女アナスタシアの娘であり、神聖騎士団副団長アレクシオスの妹であり、さらには女神の奇蹟を起こした聖女として語られている人物である。
その本人の口から、「魔力をほとんど持たない」という告白が語られたことは、会場にいた誰もが予想していない事実だった。
「自分には何の価値もない。
誰の役にも立てない。
そんなふうにずっと思い続け、自信を持つことはまったくできませんでした」
会場は水を打ったように静まり返る。
誰もが、カテリーナの言葉に耳を傾けていた。
「ですが、私は大切なことに気付きました。
それは、『できない』と思い込むのではなく、どうすれば『できる』ようになるのかを求め続けることこそが、何よりも大切だったということです」
その言葉に、新入生たちの表情が変わった。
皆、真剣な眼差しで壇上を見つめている。
「『魔力を持たないのだから、大学への進学は諦めろ』――
そうではありません。
魔力を持たないのなら、誰よりも学び、誰よりも剣を磨けばいい。
自分にできることを見つけ、その力を磨き続ける。
そうすれば、私のような者でも、最優秀入学者になることができるのです」
その言葉は、一般市民の胸に深く響いていた。
この国では、魔法こそがすべてだった。
貴族は生まれながらに強大な魔力を授かり、多くの平民はわずかばかりの魔力しか持たない。
だからこそ、人々はいつしか思い込んでしまう。
平民だから仕方がない。
貴族とは違うのだ、と。
人生は、生まれや血筋、才能ですべて決まるのだと。
しかし、その思い込みを打ち破った少女が、今、目の前に立っていた。
「……ですが、今回の結果は、決して私一人の力ではありません。
学問を学び続けることができたのも、剣の道へ導いていただいたのも、兄であるアレクシオスが、ずっと支え続けてくれたからこそです」
カテリーナは貴族席へ視線を向けた。
だが、多くの観客の中から兄の姿を見つけることはできなかった。
それでも脳裏には、これまでの日々が鮮明によみがえる。
幼い頃から、自分を守り続けてくれた兄。
入学試験へ向けて学問を教え、自分に合う剣を探し、一から鍛え上げてくれた兄。
その数え切れないほどの優しさを思い出し、胸が熱くなる。
涙がこみ上げそうになるのをこらえ、カテリーナは続けた。
「兄だけではありません。
家族や、我が家で働いている人たちなど、多くの方々の支えがあったからこそ、私はここまで来ることができたのです」
魔狼との戦い。
宿で毎日、剣の稽古に付き合ってくれた衛士たち。
勉強を支えてくれた侍女たち。
多くの人々の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「そして、魔人の討伐も、私一人では絶対に成し遂げることはできませんでした。
仲間たち一人ひとりが、それぞれの力を発揮し、その力が一つになって初めて、魔人を討つことができたのです。
つまり、この最優秀入学者という栄誉も、多くの人たちの支えがあったからこそいただけたものなのです」
一緒に戦った受験生の中でには、その言葉を聞き、目に涙を浮かべる者もいた。
カテリーナは静かに会場全体を見渡す。
「『できない』
『やめておけ』
『お前には無理だ』
私は、そんな言葉を、正しい努力を続け、支えてくださる方々への感謝を忘れることなく、仲間と力を合わせていくことで…………全て覆していきたいと思っています!」
その言葉には、力強い決意が込められていた。
「これから始まる三年間。
私は仲間と共に学び、共に競い合い、そして助け合いながら成長していくことを、ここに誓います。
――皆さま、本日は本当にありがとうございました」
カテリーナは深々と頭を下げた。
その瞬間――
万雷の拍手と、大歓声が広場を包み込んだ。
それはまるで、大地そのものが震えているかのような喝采だった。
彼女の言葉には、飾りも偽りもなかった。
だからこそ、その真っ直ぐな想いが、多くの人々の心へ届いたのだ。
歓声は、いつまでも鳴り止まなかった。
カテリーナの瞳には涙が浮かんでいた。
だが、それは悲しみの涙ではない。
自分の本当の気持ちが、多くの人々へ伝わった喜びの涙だった。
そして、その惜しみない拍手と歓声は、彼女の胸に、新たな自信と勇気を刻み込んでいくのだった。
貴族席では、アレクシオスが静かに妹を見つめていた。
「……よく、ここまで来たね」
誰にも聞こえないほど小さなその呟きとともに、一筋の涙が頬を静かに伝う。
愛するカテリーナが、自らの力で未来への第一歩を踏み出した。
その姿は、アレクシオスにとって何よりも誇らしかった。
しかし、その一方で、この光景を冷ややかに見つめる者もいた。
「……ふっ。今は我が世の春を楽しむがよい。
やがて大学に潜む我らの同志により、お前は地獄を見るのだからな」
フードを深く被った男は、人混みの中で不気味な笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この日。
宮廷大学に、一人の少女が入学した。
魔力を持たないと蔑まれながらも、努力を積み重ね、自らの手で未来を切り拓いた少女。
この瞬間、まだ誰も知らない。
彼女がやがて世界の歴史を大きく塗り替え、人々の価値観すら変える存在となることを。
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