99. 侮辱
読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。
もう少しで第一部が終わります。どうぞよろしくお願いいたします。
突然の不遜な声に、カテリーナは驚き、マクリナはビクリと肩を震わせた。
「ふん。社交界にもろくに顔を出さず、『高貴なる血統の責務』も果たさぬお前が、受験者主席などという栄誉を受けるとはな」
周囲の空気がわずかに張り詰める。
貴族社会においても、ここまで露骨な侮辱は好まれない。
だが――それを許されるだけの家格を持つ者も、ごくわずかながら存在した。
「パンクラトル公アンドロニコス!」
カテリーナは思わずその名を口にした。
幼い頃の記憶が蘇る。
いじめっ子のテオフラストスとはまた違う形で、自分を傷つけてきた少年。
それがアンドロニコスだった。
「ほう。覚えていたか」
アンドロニコスは鼻で笑う。
「年を重ねるにつれ、恥ずかしくて社交界に出られなくなったものだと思っていたぞ」
「……っ!」
確かにカテリーナは成長するにつれ、社交の表舞台での関わりは減っていた。
だが、それは自ら望んだことではない。
義母カリスタが『ルクサリス家の恥になる』として制限していたためだった。
「我らは代々、国家と王家を支えてきた名門貴族だ。それが魔法ではなく、野蛮な剣頼みとはな」
カテリーナの瞳に怒りが宿る。
自分への侮辱なら耐えられる。
しかし家名を貶められることだけは許せなかった。
「……我が家を侮辱するなら、たとえ公爵家の方であろうとも容赦はしませんっ!」
「ほう?」
アンドロニコスの口元が歪む。
「どう容赦しないというのだ。決闘なら受けて立ってもよいぞ」
青白い魔力がその手に集まり始めた。
「魔法も使えぬお前に勝ち目などあるまいがな」
「お願い、やめて……」
マクリナが震えながら声を上げる。
しかし、その声は二人には届かなかった。
カテリーナが剣の柄に手を掛ける。
その瞬間――
すっと、一人の男が二人の間へ割って入った。
「我が妻に何か御用かな?」
セバスティアノスだった。
アンドロニコスが眉をひそめる。
「……セバスティアノスか。関係のない者にはご遠慮いただきたいな」
「聞こえなかったのか?」
セバスティアノスは胸を張った。
「我が妻だッ!」
「……妻?」
アンドロニコスが首を傾げる。
「いつ結婚したのだ。結婚式に招待された覚えもはないぞ」
「妻なんかじゃない。妄想だよっ!」
横からヨアニスのツッコミが入った。
「なっ!?」
セバスティアノスが振り返る。
「ヨアニス! 余計なことを言うな!」
「事実だろっ!」
アンドロニコスは思わず吹き出した。
「ふははははは! 外野はそう言っているぞ。白馬の王子様にでもなったつもりか?」
「違う!」
セバスティアノスは堂々と言い放つ。
「正確には未来の妻だ!」
「は?」
アンドロニコスは少し驚いた表情で話し始めた。
「未来の妻だと?」
次の瞬間、大声で笑い出す。
「ハハハハハ! こんな魔力もない女を娶るというのか! レオニダス家の高貴な血筋を穢したいらしいな」
セバスティアノスの表情が変わった。
「……貴様っ!」
笑顔が消える。
「我が妻だけでなく、我が家名まで侮辱したな」
静かな怒りが滲む。
「……許さんっ!」
――カチャ
セバスティアノスの手が剣に触れ、鍔と鞘が離れる音が鳴った。
同時に、アンドロニコスの手も青白く輝き始め、周囲の魔素が引き寄せられていく。
それを見ていた周囲の人間の間に緊張が走る。
一触即発の状態だった。
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