第六十九週 推理要素のあるしりとりをしてしまった!(日曜日)
日曜日、わたしは久しぶりに矢良さんと長い時間おしゃべりすることをみとめられた。
病室のベッド横のイスに座って今年の文化祭のことを話したよ。
「……でね、今回はお店をやったんだよ。とくに鹿出さんが提案した『飲み物の種類当てゲーム』がなかなか好評で……」
「へー、舞ちゃんもおもしろいこと考えるねっ」
矢良さんは上半身を起こしたまま、ポニーテールをゆらした。
それからしばらくのあいだ、つい先日終わった文化祭のことを二人で存分に語り合った。
ここでわたしが次の話題を切り出す……!
「ちょっと勝負してくれないかな……」
使っていいことを確認したうえで、わたしはスマートフォンを矢良さんに渡す。
「それ……嫁田くんの。アプリの試作品を開発したから試しにやってほしいんだって……」
アプリはわたしのスマートフォンにもインストールされている……っ!
画面の「文字当てしりとり」のアイコンをタッチすると、ゲームが始まる。
「今回はわたしと二人でしりとり勝負をしてもらうよ……きっちり五回戦」
「望むところっ」
ついでニヤリとする矢良さん……ッ!
「法律の範囲でなにか賭けようかっ」
「じゃ、プライドを賭けよう……」
「それ実質ノーリスクノーリターンじゃん」
「しまった」
思わず笑い合った。
矢良さんもわたしも楽しめるなら――この時間を大切にできるなら、それが一番だと思う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
アプリ画面に映るのは、ひらがな五十音。長音の記号はない。
自分のターンが回ってくるたびにひらがなを順にタッチし、文字列を入力するよ。
ここまでは普通のしりとりだけど、嫁田くんの考えた「文字当てしりとり」では、それぞれのプレイヤーがゲーム前に非公開情報として特定のひらがな一字を登録する。
自分の登録したひらがなを五回使用するとゲームに勝つルール……!
ただし、相手の登録した文字を当てた場合も勝ちになる。
相手プレイヤーが文字列を入力したあとに、その文字を推理して宣言することができる。外した場合は宣言した側が敗北する。
なお「が」などの濁音や「ぱ」などの半濁音は「か」「は」といった清音で入力する。
小さい「っ」や「ゅ」も通常の「つ」や「ゆ」に置き換える。
「とりあえずやってみよう……」
「おーっ」
まず、それぞれで「五回言えば勝てるひらがな」一文字を登録した。
先攻は矢良さん。
わたしから画面を確認されないようスマートフォンをかたむけて入力。
文字列がわたしの画面にも表示された。「りんご(りんこ)」と打ち込んだようだ……っ!
同時に、五十音の「こ」「り」「ん」の右側が緑色に変わった。
相手プレイヤーがその文字を使用したと一発で分かる。回数を重ねるごとに、緑、黄色、赤、紫、灰色に変化していくみたいだよ。
ここで、文字列の入力とは別に「文字当てチャンス」というボタンも表示された。
けれどまだなんとも言えないから、ともかくわたしは「りんご」を受ける。
ごま(こま)の文字を順にタッチすると、五十音の「こ」「ま」の左側が緑になった。
自分がどの文字をいくつ使ったか確認したいときは文字の左を見ればいいみたいだね……っ!
矢良さん→わたしの順番で進んでいく。
りんご→ごま
まっち→ちりがみ
みち→ちかてつ
つみき→きかがく
「ここっ!」
わたしが幾何学と入力したところで、矢良さんが「文字当てチャンス」を発動させた。
「こんしまちゃんの登録したひらがなは――『か』だねっ」
「しまった……」
みごと矢良さんに当てられちゃった。
よって、文字当てしりとりを制したのは矢良さん……!
「名探偵だね……どうして分かったの」
「画面の五十音を見たら、こんしまちゃんがすでに『か』を四回使ったことが明らかだからね~」
「……しまった」
確かに「か」の文字の左側が紫に変色している。
「そっか……登録した文字を考えなしに五回使おうとすると、相手にあやしまれて見抜かれちゃうんだ……」
「単純なようでなかなか深いねっ。ちなみにあたしの登録した文字は『ち』だよんっ」
「え……全然分かんなかった」
矢良さんは「ち」「つ」「み」をそれぞれ二回ずつ使用していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
反省を生かして、二回戦スタート……!
文字を登録し、今度はわたしが先攻になる。
わたし→矢良さんの順番でしりとりが進行するよ。
りく→くるみ
みるく→くさり
りか→かるび
びいる(ビール)→るうれっと(ルーレット)
とけい→いんく
くく(九九)→くうる(クール)
「よし……っ、文字当てチャンス……」
矢良さんが「クール」と入力したところで、わたしは文字を当てようとした。「る」が四回使用されたことが分かったからだ。矢良さんの文字は「る」に違いない。
でも矢良さんは不敵に笑う……っ!
「それはどうかなっ。もっと五十音をよく見てみるといいよ」
「どゆこと……」
よく見ると、「る」だけでなく「く」の右側も紫色になっていた。
それは矢良さんの文字の使用状況を示す。
「しまった。『る』と一緒に『く』も四回使ってる……」
「どうする、こんしまちゃん」
「……むむむ。『く』か、それとも『る』か……」
特定する材料はない。
でもここで勝負に出ないと、どのみち登録したひらがなを五回使われる。
確率が二分の一だとしても、ここは動かなくちゃ……っ!
「文字当てチャンス発動……ここはやっぱり『る』でいくよ……」
相手の文字を当ててみろ! というメッセージを見ながらひらがなの「る」をタッチした。
結果、「文字当てに失敗しました。あなたの敗北です」というメッセージが表示される。
「しまった……正解は『く』だったんだ」
「いいやっ」
ポニーテールと共に矢良さんがかぶりを振る。
「あたしの登録した文字は『う』だよ」
「しまった。どっちでもなかったんだ……わたしは『く』『る』どちらを選んでもアウトだったんだね。おみごと……っ」
相手が四回使用したからといって、それが正解の文字とは限らない。
二択のうちのどちらかが正解と思い込んだ時点でわたしの勝ち目はなかったみたい。
「楽しいね……ちなみにわたしの登録した文字は『く』だったよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
文字当てしりとり三回戦……!
矢良さん→わたしの順で言葉を回していく。
りじちょう(理事長)→うさぎ
ぎじろく(議事録)→
「よし、ここは長めの言葉でかく乱するよ……」
→くろわっさん
「どうかな……」
「あ、こんしまちゃん。ん」
「……ん、しまった」
続行不能につき、わたしの負け……。
このときわたしの登録した文字が「ん」で矢良さんの文字が「わ」だったけど、結局あまり関係なかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
四回戦……!
わたし→矢良さんの順。
りんぐ→ぐみ
みかづき→きかい
いか→かかお
おから→らっかせい
……これで矢良さんは「か」を四回使用した。
でもだまされないよ……!
いんかていこく(インカ帝国)→
ここでわたしは矢良さんの反応をうかがう。
わたしも四回目の「か」を使ったからだ。
だけどこれはわたしのトラップ。
実は、「か」ではなく「い」のほうがわたしの選んだひらがな。
果たして矢良さんはスルーして文字列を入力。さすがに見抜いたみたいだね……。
→くうかい(空海)
この瞬間、画面にメッセージが表示された。
登録した文字を相手プレイヤーが五回使用したのであなたの敗北です! と書かれている。
「しまった……ホントに『か』を登録してたんだね……」
「そういうことっ。こんしまちゃんが深読みすることを読んであえて素直にいってみたっ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
ラスト五回戦……ッ! 現在わたしの四連敗……!
矢良さん→わたしの順番で開始。
りそう→うみうし
しそ→そこう(素行)
うかい→いんげんまめ
めだか→からす
すいか→かがみ
みみずく→くり
りんどう→うんちく
現在、わたしは「う」を四回使った。
でも勝負を決めるなら「うんきゅう(運休)」とかを使っているはずということで、矢良さんはわたしの登録文字が「う」ではないことを見切っているだろう。
くだら(百済)→らすと
とかげ→
これで矢良さんは「か」を四回使用。
でもさっきと同じ素直な手は使わないはず……!
→げんち
わたしの「ん」は四回目。
矢良さんはそれも登録文字じゃないと判断したようで、スルー。
ちがい→
この時点で矢良さんは「か」を五回使用した。「か」の右側が灰色に変わる。
でもまだしりとりが終わっていないということは、それが矢良さんの登録した文字ではないということ。
→いしゃ
最後が小さい「や」で終わった場合は大きい「や」でつなげる。
やせい→いぬ
ぬまち→ちんげんさい
これでわたしは六個の「ん」を使った。「ん」の左側が灰色になる。五回以上使った場合に表示される色は灰色で共通のようだ。でも終わらない。
いかすみ→みんと
とうがらし→しんぞう
うろおぼえ→えがお
おみなえし→しっぽ
ぽらりす→すがた
たいみんぐ→ぐるうぷ(グループ)
ぷらかあど→どらま
まんとひひ→ひらめ
最後の勝負はお互いとことん自分の文字を読まれないようにしているためか、なかなか決着がつかない。
めんたる→るうる(ルール)
るうまにあ(ルーマニア)→あらびき
きんかい(金塊)→いのち
ちいず(チーズ)→ずがい(頭蓋)
いべんと→とら
らんどせる→るびい
いろ→ろんご
ごんどら→らんだむ
むじんとう→うんどうかい
お互い、五文字以上使用した灰色文字も増えていく。
いてざ→ざっかや
やきもち→ちかしつ
逆に、一度も使用していない文字もある。
画面の五十音の色が変わっていない字を見れば一目瞭然。
矢良さんは「つ」「ね」「の」「は」「ゆ」「よ」「れ」「わ」「を」
わたしは「せ」「て」「な」「に」「ね」「は」「へ」「も」「ゆ」「よ」「れ」「わ」「を」
ここで、矢良さんがわたしの「地下室」を受ける。
つまはじき→
……これで「つ」「は」を初めて使ったことになる。
(もしかしたら「を」を登録文字にしている可能性もあるのかな……?)
まともに「を」を使う言葉はわたしには「てにをは」しか思い付かない。
この文字を登録したら五回使用は絶望的だけど、だからこそ相手をワナにはめるのに重宝する。
どうせ「を」を選んでいないと考えて別の文字を宣言したらその時点で負け。
→きんかくじ
じわれ→れんさい
いねむり→りゆう
うのみ→みらあ(ミラー)
あゆ→
ここでわたしは文字当てチャンスを発動した。
「分かったよ……矢良さんの登録した文字が」
「えっ、どうやって」
「今、矢良さんが使っていない文字は『よ』と『を』だけ……そして矢良さんは自分の文字を悟られないように、使うのをなるべくさけていたはず。だからこそ、お互いにこのラストゲームが長くなった……」
「じゃあ、そのどっちかってことっ?」
「いや……これは分かりやすすぎるから……ワナ。たぶん『つ』あたりじゃないかな……小さい『つ』としても使いやすいこの字を矢良さんがこれまでに一回しか使っていないのは不自然だし、その一回もわたしの『地下室』を受けてだもんね……」
ここまで言ったあと、わたしはかぶりを振った。
「でも……わたしがこういうふうに思考するのを矢良さんは読んでいたんだよね。だからこそ、『つまはじき』以降、じわれ、いねむり、うのみ、あゆと続けて露骨に使用済みの文字を増やしていった……そうして本当の矢良さんの登録文字である未使用の『よ』を浮かび上がらせて……それをワナっぽく演出した」
「未使用文字には『を』もあると思うけどなー」
「いいや……『を』を登録するのはリスクが高すぎる。いざというときに五回言えないからね……矢良さんは、わたしが間違えるのをただ待ち構えるだけじゃ満足しないと思う」
というわけで、わたしは矢良さんの文字として「よ」を宣言した。
すると「おめでとう! あなたはみごと相手の文字を当てました。あなたの勝利です」というメッセージが表示された。
矢良さんが悔しそうに笑う。
「最後の最後でやられちゃったっ。いやー、おもしろいねこのしりとり。けっこう頭使うし、さすが嫁田くん。ちなみにこんしまちゃんの登録文字はなんだったのかな~」
「わたしは『ぬ』だよ……一回しか使ってないけど」
「あー、確かに『ぬ』で始まる言葉も少ないし、『る』とかよりも目立ちにくいからなかなか読まれにくいっ」
そのあと、アプリの開発者の嫁田くんのために改善点も出しておく。
登録文字数や勝利に必要な文字の使用回数を調整できるともっとおもしろいとか、最後勝負を決める文字列で自分の登録した文字を二回以上使ったら負けにしたほうがいいとか――そんな感じかな?
意見をまとめてから、わたしはイスを矢良さんの枕元へ引き寄せる……っ!
「さらに……わたしたちがこれまで登録した文字をつなぎ合わせると……?」
「ま、まさかっ、そこに秘密のメッセージがっ!」
わたしは「かくんいぬ」で。
矢良さんは「ちうわかよ」だ。
「って、意味なかったあっ」
身を震わせて矢良さんは笑ってくれた。
もっとこういう時間を一緒に過ごせたらいいな……!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
☆今週のしまったカウント:八回(累計二百八十九回)
次回「第七十週 冷笑を冷笑してしまった!(土曜日)」に続く!(十月九日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
いつも「今週のしまったちゃん」をお読みくださりありがとうございます! 評価やブクマ、感想等も励みになります。
それにしてもしりとりって記憶力が問われますよね~。




