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第六十七週 無敵のカードを作ってしまった!(水曜日)

 高校の授業で小学校に行(い)くことになった。

 行(い)き先は、わたしの通う高校に附属(ふぞく)する小学校だよ。


 去年の十二月(じゅうにがつ)の授業では附属幼稚園(ようちえん)に行って年長さんのみんなに読み聞かせをした。


 今回は小学校だけど、なんか懐(なつ)かしい気もするね。


※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※


 水曜日の午前、わたしたちは小学校一年生(いちねんせい)のクラスを訪(たず)ねた。

 立合(たちあい)先生やクラスメイトの勢(いきおい)さくらさん、中能(なかよく)美都風(みつかぜ)くん、谷高(やたか)誠一(せいいち)くんと一緒(いっしょ)に図工(ずこう)の授業を見守るよ……!


 みんなにあいさつしたあと、担任の先生が授業内容を説明してくれた。

 この図工の授業では、白い厚紙(あつがみ)を使うみたい……っ!


 切ってもいいし曲げてもいい。

 組み合わせてもいいし絵をかいてもいい。


 大切なのは、自分の作りたいものを作ること。


 さっそく一年生(いちねんせい)のみんなが工作(こうさく)に取りかかるよ。

 高校生のわたしたちといろいろ交流しながら作るというかたちだね……!


 勢(いきおい)さんも中能(なかよく)くんも谷高(やたか)くんも笑顔(えがお)でみんなと接(せっ)している。


 そんななか、わたしに声をかける子がいた。


「やっぱり。見(み)おぼえがあるとおもったらこんしまちゃんじゃないですかー。わたしのこと、わかんないんですか。く(・)う(・)ですよ、くう」

「あ、くうちゃん……」


 去年、幼稚園に読み聞かせに行(い)ったときに顔を合わせた子だよ。


「……久(ひさ)しぶりだね。会えてうれしい……」

「まあ、わたしはべつにうれしくなんかないですけどねー」


「そ、そういういいかたしたらご(・)か(・)い(・)されちゃうよ、くうちゃん」


 隣(となり)の席には、あむちゃんがいた。あむちゃんとも去年の幼稚園で会っているね。


「ごかいしないで、こんしまちゃんっ。くうちゃんは、てれちゃってるだけだから」

「だいじょうぶ……分かってるよ。あむちゃんも久しぶり……再会できてうれしいな」

「あむもこんしまちゃんに会いたかったよっ」


 あむちゃんが明るく笑った。

 近くの席にいたみんながわたしのことを聞いたので、くうちゃんとあむちゃんは「この人はこんしまちゃん」と紹介(しょうかい)してくれたよ。


 わたしはちょっと身をかがめてみんなに聞いてみる。


「みんなは厚紙を使ってなにを作るのかな……?」


 回答はさまざま……ッ!

 お城(しろ)や迷路(めいろ)、お花など。みんなとっても素敵(すてき)だね……!


 で、くうちゃんとあむちゃんはオリジナルのカードゲームを作るみたい。

 こぶしを握(にぎ)って気合いを入(い)れている……っ!


「あむちゃん。まずは、かみをハサミでちょきろう」

「おなじ大きさにするのがいいかな」


 どういうカードにするか、二人(ふたり)にはちゃんと見(み)えているみたいだね……!

 わたしはいったんそこから離(はな)れて、教室全体を見回った。


 勢(いきおい)さんは、工作のじゃまをしないよう気をつけながら明るく声かけをしている。

 谷高(やたか)くんは、みんながハサミとかを安全に使えているかどうか気を配っている。

 中能(なかよく)くんは、なかなか手が進んでいない子と優(やさ)しく話(はな)している。


 三人とも特定の子だけじゃなくて、小学一年生(いちねんせい)のみんな一人一人(ひとりひとり)のことをちゃんと見ている。けっしてネガティブな言葉をかけず、ポジティブな言葉でみんなと交流している。


 わたしも、そういうことを意識して見回るよ……っ!


 クラス内を一周(いっしゅう)したあとは、くうちゃんとあむちゃんのもとまで戻(もど)ってきた。


 すでに二人(ふたり)とも厚紙を切り終えたみたい。

 使い終わったハサミもちゃんと閉じている。


 クレヨンを取り出し、カードに枠(わく)をつけるくうちゃん。


「上のわくにイラストをかいて、下(した)のわくにこうかせつめいぶんをかくんですよ、こんしまちゃん」

「おお……本格的でとってもいいね、くうちゃん」


「でねっ、あむはね、うらめんにいろをつけるんだっ」

「いいアイデアだね……!」

「えへへっ」


 あむちゃんは笑顔でクレヨンを動かし、カードの裏面を真っ黒に染(そ)めた。

 くうちゃんは表(おもて)の枠に絵をかいていく。


「こんしまちゃん、このえ、へたぴっぴでしょうか」


 ひさびさにくうちゃんの「へたぴっぴ」という言葉を聞けてわたしはとてもうれしかった。


「そんなことないよ、とっても上手(じょうず)だよ……」

「じゃあなにをかいたか、あててください」


「……ドラゴン?」

「カバです」

「しまった」

「まあわたしのげいじゅつてきセンスのおかげでカバもドラゴンにみえるってことですか」


 くうちゃんはイラストの上に「カバドラゴン」というカード名を記入した。


 ここでわたしは、ほかのみんなの工作も再び見て回る……!

 お城や迷路、お花もかたちになってきている。すごい……っ!


 ポジティブな言葉をかけながら、クラスを一周(いっしゅう)した。

 再度(さいど)戻ってきたところで、あむちゃんがわたしのスカートをくいくい引っ張った。


「こんしまちゃんっ、これからあむとくうちゃんがカードゲームするから見てて」

「それは楽(たの)しみ……」


 くうちゃんとあむちゃんは机(つくえ)を合わせて向かい合っていた。

 お互(たが)いに手札を一枚(いちまい)だけ持っている。


 先に手札を切ったのはくうちゃん。


「てかげんしないよ、あむちゃん……!」


 カードの表面(おもてめん)にはカバドラゴンがえがかれている。

 イラストの下(した)に効果(こうか)説明文が添(そ)えられているよ。


 その効果をくうちゃんが読み上げる……っ!


「だせばかち」


 つまり「出せば勝ち」という最強のカード。ぶっ壊(こわ)れだね……!

 対するあむちゃんは、これをどう受けるのかな……っ!


「わるいけど、あむもよ(・)う(・)し(・)ゃ(・)しないもんっ」


 あむちゃんが切ったのは、「かわいすぎるネコ」というカードだった。

 イラストもおだんごみたいでとってもかわいい。


 かわいすぎるネコの効果は――。


「むてき」


 確かにかわいすぎるネコにふさわしい効果と言える……! これもかなりの威力(いりょく)を持っているカードであることに間違(まちが)いない。


 でも勝敗はどうするんだろう……?


「おもったんだけど、あむちゃん。これ、しょうぶになっていないんじゃ。カバドラゴンがさいきょうすぎてバランスちょうせいへたぴっぴだよね……?」

「かわいすぎるネコさんがむてきすぎるもんね」

「そう。ネコさんもむてき。だけどこのままじゃしょうぶがつかない。てことで、カバドラゴンにあらたなこうかをつけるよ」


 くうちゃんは「だせばかち」に続いて「ただしかわいすぎるネコにはまけちゃう」と書いた。

 あむちゃんが慌(あわ)てる。


「そこまでしたらカバドラゴンさんがないちゃうかも……」

「うん、このままだとカバドラゴンがだれにもかてなくていじけちゃう」

「ど、どうしよう、くうちゃんっ」

「おお、おちついて、あむちゃん」


 二人がわたしのほうをじいっと見た。


「こんしまちゃんっ、なんかいいかんがえっ!」


 少し目がうるうるしている。

 わたしは、まだイラストのない残り六枚のカードを見て提案する。


「……ちょっとジャンケンしない?」

「なんでジャンケン?」

「ヒントになるかな~っと思って……」


 そんなわけで、くうちゃんとあむちゃんとジャンケンをしたよ。

 それぞれグー、チョキ、パーを出してバラバラになった。


「これはひきわけですね……あ!」

「どうしたの、くうちゃん?」


「わたし、いいことおもいついちゃった。ごにょごにょー」

「……えっ、いいねそれっ。くうちゃん、てんさいだよっ」


 どうやらこれ以上の心配(しんぱい)は必要ないみたい……!


 しばらくは二人(ふたり)だけにカードゲーム作(づく)りを任せて、ほかのみんなの工作を見ながら一人(ひとり)一人と交流する。


 すでに工作を完成させた子もいた。

 みんなのことを無限に褒(ほ)めたい……!


 またまたくうちゃんとあむちゃんの席に帰ってくると、二人がわたしのスカートをちょいちょいつまんだ。


「むてきのカードゲームができたから、こんしまちゃんに見せてあげます」

「くうちゃんががんばってくれたのっ」

「いや、あむちゃんのいろぬりやイラストがあってこそだよ。ありがとう」

「うれしい。くうちゃん、ありがとー」


「二人ともがんばったんだね……っ。どんなカードゲームに進化したのかな……」


 わたし自身もワクワクしている。

 さっきの手札は一枚(いちまい)だったけど、今はそれぞれ四枚ずつカードを持っている。


 二人はそのうちの一枚(いちまい)を抜(ぬ)き、場に出す……!


 あむちゃんが出したのは、カバドラゴンだった。

 対するくうちゃんは、「ハリネズミのようなヤマアラシ」を手札から切った。


 新たなカードが環境(かんきょう)に追加されたということだ。

 ハリネズミのようなヤマアラシの効果をくうちゃんが口(くち)に出す。


「さいきょう。ただしカバドラゴンにはトゲトゲがつうじない」


 カバドラゴンは「だせばかち。ただしかわいすぎるネコにはまけちゃう」という効果を持っている。

 対するハリネズミのようなヤマアラシは最強だけど、そのトゲトゲもカバドラゴンには通じないとすれば、ネコにしか負けないカバドラゴンが勝負を制(せい)することになるね……!


「すごいね、あむちゃん、くうちゃん……これならカバドラゴンも勝利できてニッコリだよ……!」

「わーいっ」


「……いや、まだだよ。こんしまちゃん、あむちゃん。このままじゃハリネズミのようなヤマアラシがかわいそう」

「しまった……」


 あむちゃんとわたしの声が重なった。


 勝負が再開され、くうちゃんとあむちゃんが新たなカードを手札から出す。

 あむちゃんはハリネズミのようなヤマアラシを切った。どうやら各カードを二枚ずつ作って、それぞれ同じ四種類のカードを初期手札にしているみたいだね。


 迎(むか)え撃(う)つくうちゃんは「マタタビおに」というカードを出した。

 効果説明文には「ぜったいまけない。ただしハリネズミのようなヤマアラシにはあたまが上(あ)がらない」と書かれていた。


 ということは、ハリネズミのようなヤマアラシがマタタビおにに勝利したということになるね……!


 ここまでくれば、「かわいすぎるネコ」にもテキストが追加されていると予想できる。

 おそらく――。


「むてき。ただしマタタビおににはやられちゃう」


 マタタビおにを切ったあむちゃんに対し、かわいすぎるネコを出したくうちゃんはその新たな効果を読み上げた。


 最後はあむちゃんが「かわいすぎるネコ」を、くうちゃんが「カバドラゴン」を出す。

 どちらも同じ名前のカードと効果が変わらないので、かわいすぎるネコにカバドラゴンが負けちゃった。


 あむちゃんがさらに元気にスカートを引っ張ってきた。


「すごいよねっ、かわいすぎるネコさんはカバドラゴンさんに、カバドラゴンさんはハリネズミのようなヤマアラシさんに、ハリネズミのようなヤマアラシさんはマタタビおにさんに、マタタビおにさんはかわいすぎるネコさんにかっちゃうのっ! みんなニッコニコになるチャンスがあるんだよっ」

「みんなだれかに負けて、みんなだれかに勝てるんだね……よくできてるよ」


 うなずきつつ、わたしはあらためて八枚のカードを見た。


「あむちゃん、くうちゃん……とってもいいカードゲームを作ることができたみたいだね」

「ジャンケンをヒントにしたんです」


 くうちゃんもちょっと強めにスカートを引いてきた。


「ほら、こんしまちゃん。ジャンケンってグーがチョキに、チョキがパーに、パーがグーにかてるじゃないですか? そんなふうに、グルグルかてるあいてをまわすかんじでカードをつくっていったらこのむてきのカードゲームがうまれたんですよー」

「ナイスな発想だね……」


 各プレイヤーのカードを三種類じゃなくて四種類にしたのは、厚紙をきれいに使いきるためだと思う。


「そうだ……お互い同じカードを出したときはどうなるのかな」

「あいこです!」

「さすが……細(こま)かいルールまで、よく考えられてるね」


 それからくうちゃんとあむちゃんは工作の時間が終わったあと、ほかのクラスメイトのみんなとオリジナルカードゲームで遊んでいた。


 なかなか盛(も)り上(あ)がっている。好評を博(はく)しているみたいだね……っ!

 もちろんほかのみんなの作った工作も素敵だったよ。勢(いきおい)さんも中能(なかよく)くんも谷高(やたか)くんも、一人(ひとり)一人の作品を褒めていた。


 そのあいだに、くうちゃんがあむちゃんに連れられてやって来た。


「ほらっ、くうちゃん。こんしまちゃんに」

「ありがと、あむちゃん。あの……こんしまちゃん、さいごにわたしとあそんでください!」


「もちろんいいよ……さそってくれてありがとね……」

「は、はいっ。ただしながびくと先生がこまっちゃうので、いっぱつしょうぶです」


 互いに四枚の手札を持ち、ただカードを切る。


 くうちゃんのカードはかわいすぎるネコ。

 わたしのカードはハリネズミのようなヤマアラシ。


 でも、それぞれのテキストに相手のカード名は記載(きさい)されていない……!


「これはどうなるのかな……?」

「それはもちろん」


 どこかうれしそうに、くうちゃんが言う。


「むてきとさいきょうで、ひきわけですよ!」

「そっか……悪くないね。……ちなみにカバドラゴンとマタタビおにを出した場合は?」

「やっぱりひきわけです。よわいところもあるけれど、みんなむてきでさいきょうだから」


※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※


☆今週のしまったカウント:二回(累計(るいけい)二百七十七回)

次回「第六十八週 通り過ぎてしまった!(月曜日)」に続く!(九月二十五日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)


「今週のしまったちゃん」をお読みくださりありがとうございます! 評価やブックマーク、感想等も励みになります。


それにしてもカードゲームにもいろんな種類があって実際にやってみると面白そうですよね~。

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