↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
66/72

第六十六週 本当に相手のことが好きかチェックしてしまった!(木・金曜日)

 木曜日の昼休み……っ!

 校舎一階(いっかい)はしっこの階段裏にあるスペースで、わたしは赤金(あかがね)しろみちゃんと話(はな)していた。


 教室とは違(ちが)って、ここにはめったに人が来ない。だから内緒話(ないしょばなし)もしやすいんだよ……っ!


 長い下(した)まつげと一緒(いっしょ)にしろみちゃんがわたしに目を向ける。


「こんしまちゃんって、自分が相手のことを本当に好きか分からなくなったことある?」

「ないよ……」


 鵜狩(うかり)くんのことを言っているのはすぐに分かったよ。

 正直にわたしは答える……っ!


「わたし、鵜狩くんのこと心の底から好きだから……。しろみちゃんのほうは……?」

「もちろんわたしも友春(ともはる)に対してそう思ってる」


 彼氏(かれし)の筈井(はずい)くんとしろみちゃんの仲はとってもいい感じ。けれどしろみちゃんには別の不安があるみたい。


「といっても、怖(こわ)くない? ――ある日いきなり自分が相手に幻滅(げんめつ)するんじゃないかって。いわゆるカエル化(か)現象だね」


 確かにカエルはかわいい。でも魔法(まほう)がとけたみたいにいきなり目の前の相手がカエルになればだれだって戸惑(とまど)う。


「もしくは、相手のほうが自分に幻滅することだってあるだろうし……。そもそも『自分たちに限ってそれはない』と思い込(こ)んでいるカップルほど、そういうかたちで破綻(はたん)するリスクをかかえているんじゃないかな」

「……確かに、そう思うとちょっと不安になっちゃうね」


「あ、ごめんっ。別にこんしまちゃんを不安にさせようと思ったわけじゃないんだ。ただ、友春とわたしが……そういうことになったりしないかと少し怖くなって」

「だいじょうぶだよ……わたしの心のなかにもそういう怖さはある気がする。むしろ気づかせてくれてありがとう……」


 わたしはしろみちゃんと並んで考え込む……!


「自分が相手のことを本当に好きだったら、幻滅することもないのかな……」

「そうじゃないかなあ。わたしは友春の太い首も一途(いちず)なところも頼(たよ)りになるところも一緒(いっしょ)に肉まんをおいしそうに食べてくれるところもわたしのことを下(した)の名前で呼ぼうとしてくれるところも全部(ぜんぶ)好き。でも、これだけ好きなら幻滅なんてありえなそうなのに……なぜか不安が消えないの」


 ここで、ハッとするしろみちゃん。


「いや、待って……。なんかさっきからわたし、友春に『都合のいい彼氏像(ぞう)』を押(お)し付けてない? これって結局『友春がわたしにとって都合がよければそれでいい』っていう自分本位の捉(とら)え方になっちゃってるのかも」

「自分本位というと……?」


「どう言えばいいんだろ。わたしが、相手のきれいな部分だけを見てその人を決めつけてるって感じかな。でも人ってそういうキラキラしたところばかりじゃないよね。わたしだって友春に無理やり『しろみ』って呼ばせようとしてたとこがあったもん」

「わたしも鵜狩(うかり)くんの前でわざと転んじゃおうかなって魔(ま)が差すことがあるね……だきとめられたくて」

「それはそれでかわいいのでは?」

「かわいいのはしろみちゃんだよ……」


「ありがと。……あ、もしかしてカエル化っていうのは、自分にとって都合のいい外見や性格、家庭環境(かんきょう)だけを見て『この人は素敵(すてき)な人に違(ちが)いない』と思ってしまうから起こるんじゃない? つまりその人にとってほんの一部(いちぶ)にすぎないきれいな部分を見たからといって『この人は、ほかの部分も全部きれいなんだろう』と思い込(こ)む。本当は分からないのにね。そんなふうに自分で勝手にハードルを上げておいて、実際にきれいじゃない部分に直面したら勝手に失望する。これがカエル化のメカニズムでは……?」

「ナイス分析(ぶんせき)、しろみちゃん……」


「どうもっ。となるとさ、こんしまちゃん。自分が相手のことを本当に好きかどうか判定するには……その人がどれだけ素敵な人か確認するよりも、その人のちょいアレな部分を見てもそれでもなお相手のことを好きでいられるか自分に聞いてみることが大切なのかもしれないね」

「だね……。ただ、その『ちょいアレな部分』ってなに……」

「いやあ~、自分で言っといてなんだけどいきなり友春にそういう部分はイメージしにくいな~」

「しまった……わたしも鵜狩くんだとなかなか」


 というわけで、一般的(いっぱんてき)な彼氏についての質問を考えてみた……!

 もちろん彼女(かのじょ)にも応用できるよ。


「名づけて『本当に相手のことが好きかチェックできる十(じゅう)の質問』……っ!」

「ぱちぱちぱち~」


「一問目(いちもんめ)……『想像してください。あなたは相手の頭皮が薄(うす)くなっていることに気づきました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」

「え~っと、友春に当てはめてみると……」

「わたしも鵜狩くんで想像してみる……」


「いや、それでも好きだなあ。『それでも』って付ける必要性すらないくらい」

「……わたしも」


 なかなか、いい質問だったんじゃないかな……っ? もちろん薄毛(うすげ)のほうが好(この)みという人もいるだろうから、その場合はフサフサになったというシチュエーションを想像してみてね。


 ついでしろみちゃんが二問目を出題する……ッ!


「……『想像してください。あなたは相手の隠(かく)していたちょいアレな写真を見つけました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」

「ちょいアレな写真が具体的になんであれ……わたしはやっぱり鵜狩くんのちょいアレな部分も好きになりたいし、みとめたいな……」

「まあ、だれにだってちょいアレな部分はあるわけだし。それをみとめないと、友春だってわたしのちょいアレな部分をみとめにくくなっちゃうわけだよね~」


 むしろちょいアレな部分がないほうが不自然なのかもしれない。

 じゃあ三問目に行(い)きたいところだけど……。


「しまった……わたし、まだ思い付いてない」

「こっちもだよー。じゃ、あしたまでにそれぞれ四問ずつ用意しよっか。もちろん暴力(ぼうりょく)とか不倫(ふりん)とかそういうライン越(ご)えのやつは論外だからね?」


※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※


 およそ二十四時間が経過した金曜日の昼休み……!

 わたしとしろみちゃんはきのうと同じ階段裏で顔を合わせたよ。


 きょうは鵜狩(うかり)くんと筈井(はずい)くんも連れてきた……っ!


「やっぱりこういう階段裏は忍者(にんじゃ)って感じでいいな」

「鵜狩くんは本当に忍者が好きなんだね」


 二人(ふたり)が笑い合っている……!

 さっそくわたしは本題に入(はい)った。


「……『本当に相手のことが好きかチェックできる十(じゅう)の質問』……三問目」

「おもしろい質問だし、最初から三問目とはやるね」


 鵜狩くんも筈井くんも目を丸くしてしまった。

 わたしは説明不足(ぶそく)だったことを反省する。


「しまった……実は、一問目と二問目はきのうしろみちゃんと出題し合ってたんだ」


 頭皮と写真について二人にも同じ質問をぶつけると、「やっぱり好き」って返ってきたよ。

 しろみちゃんも照れてるね。わたしもだけど……。


「あらためて第三問……『想像してください。あなたは相手があなたと同じ性別の友達と親しげに話(はな)しているのを見かけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。ただし相手が浮気(うわき)しているというわけではありません』……」


「友春(ともはる)がそんな感じでも、わたしは別にとがめたりしないよ」

「僕(ぼく)も」

「俺(おれ)も」

「出題者であるわたしも……」


 しろみちゃんも筈井くんも鵜狩くんもわたしも意見が一致(いっち)した。

 で、四問目を出すのはしろみちゃん……っ!


「えっと……『想像してください。あなたは相手の本名(ほんみょう)が某(ぼう)キャラクターとまったく同じであると聞かされました。一般的(いっぱんてき)な名前ではありません。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」


「好き」

「好き」

「好き……」


「わたしもそうだけど、こういうのって『そんな名前を付ける親のもとで育ったのなら、本人もちょいアレなのでは?』とか思われたりしそうだよね。わたしの『しろみ』って名前は、どうなんだろ。キャラクターとは関係ないけど」

「僕は君の名前が好きだよ、しろ」

「ありがとう、友春」


 どんどん次の質問に移っていくよ……!


・五問目「想像してください。あなたは相手の豪快(ごうかい)な寝言(ねごと)を耳にしました。それでもあなたは相手のことが好きですか」


 眠(ねむ)っているとき、とくに人は無防備になる。

 そのありのままの姿がトラブルになることもありそうだね……っ!


・六問目「想像してください。あなたは相手のノーメイクの顔を見ましたが、その顔はあなたの美的感覚からかけ離(はな)れているものでした。それでもあなたは相手のことが好きですか」


 これについては、あらためてその部分を好きになれればいいと思う。

 あと、ウィッグとかも一(ひと)つのメイクなのかもしれない。


 怖いのは……それを見た人が「だまされていた」って思うことじゃないかな。

 一問目の頭皮の質問はシンプルに見た目にフォーカスしてたわけだけど、この六問目は普段(ふだん)から意図的に隠されているものに注目している。


・七問目「想像してください。あなたは相手があなたの尊敬する人を含(ふく)む大多数(だいたすう)から嫌(きら)われていることを知りました。それでもあなたは相手のことが好きですか」


・八問目「想像してください。あなたは相手が信頼(しんらい)している人に裏切られて莫大(ばくだい)な借金を背負(せお)ったことを打ち明けられました。それでもあなたは相手のことが好きですか」


 こんな感じで質問をくり返していったけど、わたしたちは「好き」と迷わず答え続けた……っ!


 ただ――。


「しまった……実はわたし、ここまでしか思い付かなくて……これ以上はネタ切(ぎ)れ……」

「あ、それわたしもなんだ、こんしまちゃん」


 どうやらしろみちゃんもひねり出せなかったみたい……。

 このままじゃ八問で質問が終わっちゃう……っ!


 ここで鵜狩くんが手を挙げた。

 九問目を思い付いてくれたんだって……。感謝……ッ!


「……『想像してください。あなたは相手から自分は地球外生命体であると告(つ)げられました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……みんな、これでどうかな」


「いい質問。当然、友春が木星人でもわたしは好きだよ」

「しろがパラレルワールドの住人だったとしても僕の気持ちは変わらない」

「鵜狩くんが異世界からやって来ていてもやっぱり大好(だいす)き……」


「俺もこんしまちゃんからそう言われたらあっさり受け入(い)れると思う」

「……わたし、宇宙人だよ」

「分かってる。俺も宇宙人だから」

「しまった……一本(いっぽん)とられちゃった」


 なんか楽(たの)しい。しろみちゃんも筈井くんもふふっと笑ってる。


 残るは十問目……ッ!

 筈井くんが考えてくれたよ。


「ちょっとハズいけど……『想像してください。あなたは相手のことが好きではなくなりました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」


 哲学的(てつがくてき)な質問だね……!

 一番目にわたしが答える。


「好きじゃなくなってもなお好きでいられるならそれは本物だよ……」


 自分でもなにを言ってるんだろうと思ったけど、それはそれ……。

 二番目に鵜狩くんが答える。


「忍(しの)んでもまだ心の奥(おく)に気持ちは隠れているんじゃないかな」

「好きじゃなくなったんじゃないかと疑う日は絶対に来ない……とは断言できないけど」


 三番目に答えたのはしろみちゃん。


「そのときはもう一度(いちど)好きになる。好きって気持ちは更新制(こうしんせい)。永遠(えいえん)のものじゃなくて、定期的に立ち止(ど)まってそのときにふさわしいかたちにアップデートしていくものなのかも。……って、なに言ってんだろ、わたし」


 それから筈井くんに尋(たず)ねる。


「友春は……どう?」

「僕も、そうだと思う」


 ほおを赤らめてうなずく筈井くん。


「本当に好きなのか分からなくなることがあったとしても、僕はしろが――しろみが好きだとまた気づく」

「……友春。今、しろみって」

「う……これ以上はハズいから」

「かわいい。やっぱり、どんなことがあっても好き」


 カエル化への不安は払拭(ふっしょく)されたみたいだね。


「こんしまちゃん、相談に乗ってくれてありがとう。いろいろスッキリしたよ~」

「僕からもお礼を言うよ。鵜狩くんも付き合ってくれてありがとう」


「どういたしまして……」


 それからわたしはしろみちゃんと筈井くんに続けて言う。


「あ、たった今……十一問目も思い付いたよ……『想像してください。あなたは相手に足裏枕(まくら)を頼(たの)まれました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」

「足裏枕?」

「文字どおり、足裏を枕にするの……」

「う~ん、さすがにライン越(ご)えかもしれない」

「しまった」


 足裏枕はダメだった……!

 鵜狩くんのほうもちらりと見てみる。


「ちなみに鵜狩くん的(てき)には……?」

「あり」


 ダメじゃなかった。

 こういう相性(あいしょう)も大事(だいじ)ってことだね……っ!


※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※


付録「本当に相手のことが好きかチェックできる十の質問」まとめ


一、想像してください。あなたは相手の頭皮が薄くなっていることに気づきました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔見た目に関する質問〕


二、想像してください。あなたは相手の隠していたちょいアレな写真を見つけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔趣味嗜好に関する質問〕


三、想像してください。あなたは相手があなたと同じ性別の友達と親しげに話しているのを見かけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。ただし相手が浮気しているというわけではありません。〔交友関係に関する質問〕


四、想像してください。あなたは相手の本名が某キャラクターとまったく同じであると聞かされました。一般的な名前ではありません。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔名前や家庭環境に関する質問〕


五、想像してください。あなたは相手の豪快な寝言を耳にしました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔ありのままの姿に関する質問〕


六、想像してください。あなたは相手のノーメイクの顔を見ましたが、その顔はあなたの美的感覚からかけ離れているものでした。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔認識のズレに関する質問〕


七、想像してください。あなたは相手があなたの尊敬する人を含む大多数から嫌われていることを知りました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔他人の評価に関する質問〕


八、想像してください。あなたは相手が信頼している人に裏切られて莫大な借金を背負ったことを打ち明けられました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔将来のリスクに関する質問〕


九、想像してください。あなたは相手から自分は地球外生命体であると告げられました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔不条理な事実に関する質問〕


十、想像してください。あなたは相手のことが好きではなくなりました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔好意の捉え方に関する質問〕


※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※


 こうして書いてまとめてみたけど。

 それぞれ別の質問に置き換(か)えることもできそう……!


 足裏枕は「趣味(しゅみ)嗜好(しこう)に関する質問」かな。

 もしかして「不条理な事実に関する質問」だったりしないよね……?


※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※


☆今週のしまったカウント:六回(累計(るいけい)二百七十五回)

次回「第六十七週 無敵のカードを作ってしまった!(水曜日)」に続く!(九月十八日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)


本作「今週のしまったちゃん」をお読みくださりありがとうございます。評価、ブクマ、感想等も励みになります。


それにしてもカエルってかわいいですよね~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。