第六十六週 本当に相手のことが好きかチェックしてしまった!(木・金曜日)
木曜日の昼休み……っ!
校舎一階はしっこの階段裏にあるスペースで、わたしは赤金しろみちゃんと話していた。
教室とは違って、ここにはめったに人が来ない。だから内緒話もしやすいんだよ……っ!
長い下まつげと一緒にしろみちゃんがわたしに目を向ける。
「こんしまちゃんって、自分が相手のことを本当に好きか分からなくなったことある?」
「ないよ……」
鵜狩くんのことを言っているのはすぐに分かったよ。
正直にわたしは答える……っ!
「わたし、鵜狩くんのこと心の底から好きだから……。しろみちゃんのほうは……?」
「もちろんわたしも友春に対してそう思ってる」
彼氏の筈井くんとしろみちゃんの仲はとってもいい感じ。けれどしろみちゃんには別の不安があるみたい。
「といっても、怖くない? ――ある日いきなり自分が相手に幻滅するんじゃないかって。いわゆるカエル化現象だね」
確かにカエルはかわいい。でも魔法がとけたみたいにいきなり目の前の相手がカエルになればだれだって戸惑う。
「もしくは、相手のほうが自分に幻滅することだってあるだろうし……。そもそも『自分たちに限ってそれはない』と思い込んでいるカップルほど、そういうかたちで破綻するリスクをかかえているんじゃないかな」
「……確かに、そう思うとちょっと不安になっちゃうね」
「あ、ごめんっ。別にこんしまちゃんを不安にさせようと思ったわけじゃないんだ。ただ、友春とわたしが……そういうことになったりしないかと少し怖くなって」
「だいじょうぶだよ……わたしの心のなかにもそういう怖さはある気がする。むしろ気づかせてくれてありがとう……」
わたしはしろみちゃんと並んで考え込む……!
「自分が相手のことを本当に好きだったら、幻滅することもないのかな……」
「そうじゃないかなあ。わたしは友春の太い首も一途なところも頼りになるところも一緒に肉まんをおいしそうに食べてくれるところもわたしのことを下の名前で呼ぼうとしてくれるところも全部好き。でも、これだけ好きなら幻滅なんてありえなそうなのに……なぜか不安が消えないの」
ここで、ハッとするしろみちゃん。
「いや、待って……。なんかさっきからわたし、友春に『都合のいい彼氏像』を押し付けてない? これって結局『友春がわたしにとって都合がよければそれでいい』っていう自分本位の捉え方になっちゃってるのかも」
「自分本位というと……?」
「どう言えばいいんだろ。わたしが、相手のきれいな部分だけを見てその人を決めつけてるって感じかな。でも人ってそういうキラキラしたところばかりじゃないよね。わたしだって友春に無理やり『しろみ』って呼ばせようとしてたとこがあったもん」
「わたしも鵜狩くんの前でわざと転んじゃおうかなって魔が差すことがあるね……だきとめられたくて」
「それはそれでかわいいのでは?」
「かわいいのはしろみちゃんだよ……」
「ありがと。……あ、もしかしてカエル化っていうのは、自分にとって都合のいい外見や性格、家庭環境だけを見て『この人は素敵な人に違いない』と思ってしまうから起こるんじゃない? つまりその人にとってほんの一部にすぎないきれいな部分を見たからといって『この人は、ほかの部分も全部きれいなんだろう』と思い込む。本当は分からないのにね。そんなふうに自分で勝手にハードルを上げておいて、実際にきれいじゃない部分に直面したら勝手に失望する。これがカエル化のメカニズムでは……?」
「ナイス分析、しろみちゃん……」
「どうもっ。となるとさ、こんしまちゃん。自分が相手のことを本当に好きかどうか判定するには……その人がどれだけ素敵な人か確認するよりも、その人のちょいアレな部分を見てもそれでもなお相手のことを好きでいられるか自分に聞いてみることが大切なのかもしれないね」
「だね……。ただ、その『ちょいアレな部分』ってなに……」
「いやあ~、自分で言っといてなんだけどいきなり友春にそういう部分はイメージしにくいな~」
「しまった……わたしも鵜狩くんだとなかなか」
というわけで、一般的な彼氏についての質問を考えてみた……!
もちろん彼女にも応用できるよ。
「名づけて『本当に相手のことが好きかチェックできる十の質問』……っ!」
「ぱちぱちぱち~」
「一問目……『想像してください。あなたは相手の頭皮が薄くなっていることに気づきました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」
「え~っと、友春に当てはめてみると……」
「わたしも鵜狩くんで想像してみる……」
「いや、それでも好きだなあ。『それでも』って付ける必要性すらないくらい」
「……わたしも」
なかなか、いい質問だったんじゃないかな……っ? もちろん薄毛のほうが好みという人もいるだろうから、その場合はフサフサになったというシチュエーションを想像してみてね。
ついでしろみちゃんが二問目を出題する……ッ!
「……『想像してください。あなたは相手の隠していたちょいアレな写真を見つけました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」
「ちょいアレな写真が具体的になんであれ……わたしはやっぱり鵜狩くんのちょいアレな部分も好きになりたいし、みとめたいな……」
「まあ、だれにだってちょいアレな部分はあるわけだし。それをみとめないと、友春だってわたしのちょいアレな部分をみとめにくくなっちゃうわけだよね~」
むしろちょいアレな部分がないほうが不自然なのかもしれない。
じゃあ三問目に行きたいところだけど……。
「しまった……わたし、まだ思い付いてない」
「こっちもだよー。じゃ、あしたまでにそれぞれ四問ずつ用意しよっか。もちろん暴力とか不倫とかそういうライン越えのやつは論外だからね?」
※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※
およそ二十四時間が経過した金曜日の昼休み……!
わたしとしろみちゃんはきのうと同じ階段裏で顔を合わせたよ。
きょうは鵜狩くんと筈井くんも連れてきた……っ!
「やっぱりこういう階段裏は忍者って感じでいいな」
「鵜狩くんは本当に忍者が好きなんだね」
二人が笑い合っている……!
さっそくわたしは本題に入った。
「……『本当に相手のことが好きかチェックできる十の質問』……三問目」
「おもしろい質問だし、最初から三問目とはやるね」
鵜狩くんも筈井くんも目を丸くしてしまった。
わたしは説明不足だったことを反省する。
「しまった……実は、一問目と二問目はきのうしろみちゃんと出題し合ってたんだ」
頭皮と写真について二人にも同じ質問をぶつけると、「やっぱり好き」って返ってきたよ。
しろみちゃんも照れてるね。わたしもだけど……。
「あらためて第三問……『想像してください。あなたは相手があなたと同じ性別の友達と親しげに話しているのを見かけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。ただし相手が浮気しているというわけではありません』……」
「友春がそんな感じでも、わたしは別にとがめたりしないよ」
「僕も」
「俺も」
「出題者であるわたしも……」
しろみちゃんも筈井くんも鵜狩くんもわたしも意見が一致した。
で、四問目を出すのはしろみちゃん……っ!
「えっと……『想像してください。あなたは相手の本名が某キャラクターとまったく同じであると聞かされました。一般的な名前ではありません。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」
「好き」
「好き」
「好き……」
「わたしもそうだけど、こういうのって『そんな名前を付ける親のもとで育ったのなら、本人もちょいアレなのでは?』とか思われたりしそうだよね。わたしの『しろみ』って名前は、どうなんだろ。キャラクターとは関係ないけど」
「僕は君の名前が好きだよ、しろ」
「ありがとう、友春」
どんどん次の質問に移っていくよ……!
・五問目「想像してください。あなたは相手の豪快な寝言を耳にしました。それでもあなたは相手のことが好きですか」
眠っているとき、とくに人は無防備になる。
そのありのままの姿がトラブルになることもありそうだね……っ!
・六問目「想像してください。あなたは相手のノーメイクの顔を見ましたが、その顔はあなたの美的感覚からかけ離れているものでした。それでもあなたは相手のことが好きですか」
これについては、あらためてその部分を好きになれればいいと思う。
あと、ウィッグとかも一つのメイクなのかもしれない。
怖いのは……それを見た人が「だまされていた」って思うことじゃないかな。
一問目の頭皮の質問はシンプルに見た目にフォーカスしてたわけだけど、この六問目は普段から意図的に隠されているものに注目している。
・七問目「想像してください。あなたは相手があなたの尊敬する人を含む大多数から嫌われていることを知りました。それでもあなたは相手のことが好きですか」
・八問目「想像してください。あなたは相手が信頼している人に裏切られて莫大な借金を背負ったことを打ち明けられました。それでもあなたは相手のことが好きですか」
こんな感じで質問をくり返していったけど、わたしたちは「好き」と迷わず答え続けた……っ!
ただ――。
「しまった……実はわたし、ここまでしか思い付かなくて……これ以上はネタ切れ……」
「あ、それわたしもなんだ、こんしまちゃん」
どうやらしろみちゃんもひねり出せなかったみたい……。
このままじゃ八問で質問が終わっちゃう……っ!
ここで鵜狩くんが手を挙げた。
九問目を思い付いてくれたんだって……。感謝……ッ!
「……『想像してください。あなたは相手から自分は地球外生命体であると告げられました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……みんな、これでどうかな」
「いい質問。当然、友春が木星人でもわたしは好きだよ」
「しろがパラレルワールドの住人だったとしても僕の気持ちは変わらない」
「鵜狩くんが異世界からやって来ていてもやっぱり大好き……」
「俺もこんしまちゃんからそう言われたらあっさり受け入れると思う」
「……わたし、宇宙人だよ」
「分かってる。俺も宇宙人だから」
「しまった……一本とられちゃった」
なんか楽しい。しろみちゃんも筈井くんもふふっと笑ってる。
残るは十問目……ッ!
筈井くんが考えてくれたよ。
「ちょっとハズいけど……『想像してください。あなたは相手のことが好きではなくなりました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」
哲学的な質問だね……!
一番目にわたしが答える。
「好きじゃなくなってもなお好きでいられるならそれは本物だよ……」
自分でもなにを言ってるんだろうと思ったけど、それはそれ……。
二番目に鵜狩くんが答える。
「忍んでもまだ心の奥に気持ちは隠れているんじゃないかな」
「好きじゃなくなったんじゃないかと疑う日は絶対に来ない……とは断言できないけど」
三番目に答えたのはしろみちゃん。
「そのときはもう一度好きになる。好きって気持ちは更新制。永遠のものじゃなくて、定期的に立ち止まってそのときにふさわしいかたちにアップデートしていくものなのかも。……って、なに言ってんだろ、わたし」
それから筈井くんに尋ねる。
「友春は……どう?」
「僕も、そうだと思う」
ほおを赤らめてうなずく筈井くん。
「本当に好きなのか分からなくなることがあったとしても、僕はしろが――しろみが好きだとまた気づく」
「……友春。今、しろみって」
「う……これ以上はハズいから」
「かわいい。やっぱり、どんなことがあっても好き」
カエル化への不安は払拭されたみたいだね。
「こんしまちゃん、相談に乗ってくれてありがとう。いろいろスッキリしたよ~」
「僕からもお礼を言うよ。鵜狩くんも付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして……」
それからわたしはしろみちゃんと筈井くんに続けて言う。
「あ、たった今……十一問目も思い付いたよ……『想像してください。あなたは相手に足裏枕を頼まれました。それでもあなたは相手のことが好きですか』……」
「足裏枕?」
「文字どおり、足裏を枕にするの……」
「う~ん、さすがにライン越えかもしれない」
「しまった」
足裏枕はダメだった……!
鵜狩くんのほうもちらりと見てみる。
「ちなみに鵜狩くん的には……?」
「あり」
ダメじゃなかった。
こういう相性も大事ってことだね……っ!
※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※
付録「本当に相手のことが好きかチェックできる十の質問」まとめ
一、想像してください。あなたは相手の頭皮が薄くなっていることに気づきました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔見た目に関する質問〕
二、想像してください。あなたは相手の隠していたちょいアレな写真を見つけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔趣味嗜好に関する質問〕
三、想像してください。あなたは相手があなたと同じ性別の友達と親しげに話しているのを見かけました。それでもあなたは相手のことが好きですか。ただし相手が浮気しているというわけではありません。〔交友関係に関する質問〕
四、想像してください。あなたは相手の本名が某キャラクターとまったく同じであると聞かされました。一般的な名前ではありません。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔名前や家庭環境に関する質問〕
五、想像してください。あなたは相手の豪快な寝言を耳にしました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔ありのままの姿に関する質問〕
六、想像してください。あなたは相手のノーメイクの顔を見ましたが、その顔はあなたの美的感覚からかけ離れているものでした。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔認識のズレに関する質問〕
七、想像してください。あなたは相手があなたの尊敬する人を含む大多数から嫌われていることを知りました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔他人の評価に関する質問〕
八、想像してください。あなたは相手が信頼している人に裏切られて莫大な借金を背負ったことを打ち明けられました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔将来のリスクに関する質問〕
九、想像してください。あなたは相手から自分は地球外生命体であると告げられました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔不条理な事実に関する質問〕
十、想像してください。あなたは相手のことが好きではなくなりました。それでもあなたは相手のことが好きですか。〔好意の捉え方に関する質問〕
※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※
こうして書いてまとめてみたけど。
それぞれ別の質問に置き換えることもできそう……!
足裏枕は「趣味嗜好に関する質問」かな。
もしかして「不条理な事実に関する質問」だったりしないよね……?
※ ※ ※ ♢ ♢ ※ ※
☆今週のしまったカウント:六回(累計二百七十五回)
次回「第六十七週 無敵のカードを作ってしまった!(水曜日)」に続く!(九月十八日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしてもカエルってかわいいですよね~。




