第六十五週 髪型で感情を表現してしまった!(火曜日)
久しぶりに自己紹介するよ。
わたしの名前は紺島みどり。現在、高校二年生。
一週間に一度は「しまった」と言うわたしは「今週のしまったちゃん」略して「こんしまちゃん」と呼ばれている。
あと、わたしはわりと特徴的な髪を持っていると思う。
端的に言うと、ウェーブのかかったくせ毛なんだ……っ!
ちなみに、天然モノだよ。
※ ♢ ※ ※ ※ ※ ※
火曜日のお昼休み……ッ!
鵜狩くんアヤメちゃんと昼食を終えたあと、わたしは六月一日涼芽さんに声をかけた。
六月一日さんはバレー部所属。髪型は短いサイドポニー。
機嫌がいいときは右を、逆のときは左を結わえるって六月一日さん自身が言ってるよ。
きょうはどちらでもなく、頭のてっぺんを結ってるね……。
「こんにちは、六月一日さん……」
「……こんしまちゃん」
机の横にしゃがんだわたしに視線をやって答える六月一日さん。
「なんか『こんにちは』って言ったらきょうずっと顔を合わせてなかったみたいで面白いね」
「しまった」
「いや面白いからいいんだよ?」
「しまってなかった」
「でしょでしょ」
頭頂部のホイップクリームみたいな毛先がふんわりゆれる。かわいい……。
鵜狩くんのいる右のほうの席を見て六月一日さんが聞く。
「ところで最近こんしまちゃん……鵜狩とはどんな感じ」
「いい感じ……」
「ふーん」
六月一日さんは左右に目を泳がせてから慌てて手を振る。
「あ、別にわたし、鵜狩のことねらってるわけじゃないからっ。ほかの高校に彼氏いるし!」
彼氏について話すのは六月一日さんにしてはめずらしい。
「こんしまちゃん、わたしが彼のことにふれるのはどうしてか疑問に思った?」
「しまった……バレちゃった」
「いや、これまではなんとなく話さなかっただけなんだわ。筈井としろみ……そして鵜狩とこんしまちゃんも、人に聞かれてもないのに自分たちのこといちいち話したりしないよね」
「だね……」
筈井友春くんと赤金しろみちゃんも付き合っているけれど、確かにそれを露骨にアピールすることはほとんどない……っ!
でも今回、六月一日さんが彼氏について言及したのはどうしてなんだろう。
「わたしが髪型で自分の機嫌を表現してるのはこんしまちゃんも知ってるよね?」
「……うん」
「といってもこないだ彼に言われたんだ。右のサイドポニーも左のサイドポニーもどっちもかわいいって」
「事実だね……!」
「あ、ありがと。まあそりゃ、わたしもうれしかったわ」
ほおを染める六月一日さん……っ!
「だけど、おかげで困ったことにもなった。わたし、機嫌悪いときは自分から見て左にポニー作るわけだけれど、彼に『かわいい』って言われたことを思い出すとその状態でもたちまち機嫌よくなっちゃって。バレーの練習やってるときはあえて左をサイドポニーにして自分に緊張感を持たせるようにもしてたけどさ、このごろそのやり方が通じなくなったの。もちろん彼は全然悪くないし、むしろ髪型を褒めてくれてありがとうって感じ。だから逆にどうしたらいいのかって思う」
「それで、緊張感を持てる新しい髪型を開発してたんだね……」
「そうそう」
笑って、頭のてっぺんに結わえた髪をちょんちょんさわる。
「この髪型で新しく不機嫌を表現しようと思ったんだけど、ちょいムリがあるかなー」
「かわいいもんね……」
「ありがとう、絶対あいつもそう言うわ。だから、かわいいって言われない髪型を見つけたいと思うよ」
「じゃあ……わたしが参考としていろんな髪型になってみる」
「――なら、あたしにも協力させて、ねねっ」
わたしたちの話を聞いていた子々津絵千香ちゃんが自分の机から六月一日さんのもとにやってきてくれたよ。
絵千香ちゃんの清楚な三つ編みが元気よくゆれる……っ!
「あたし、けっこう髪をいじいじするの得意だからさ。いいかな、涼芽ちゃん、こんしまちゃん」
「そりゃ歓迎だよ。絵千香ありがと」
「わたしも絵千香ちゃんにいじいじされたい……」
「やった。あたしもこんしまちゃんの髪でいろいろやってみたいと思ってたんだよね」
そこで絵千香ちゃんはスマートフォンを取り出し、AIのラウェルさまに相談する。
「まずどんな髪型がいいでしょう」
『まずは自分で考えたほうがいいんじゃないんですか、ご主人さま』
「分かりました。じゃあラウェルさまは鋭くアドバイスしてください」
『では毒舌ツッコミモードに切り替えます』
相変わらずラウェルさまは高性能のようだ……!
絵千香ちゃんはうなずき、そっとわたしの髪にふれる。
「ねねっ、なにがいい?」
「怒髪天を衝く感じで……」
「髪型でいかりをあらわすわけだね」
サッサッサーと絵千香ちゃんが髪をいじいじするよ……!
なんかふんわりした感覚があって、むしろ気持ちいい。
六月一日さんが手鏡を貸してくれたのでそれをのぞき込む。
わたしの髪が炎のごとく立ちのぼっている……ッ!
もともとウェーブがかかっているおかげで、そのゆらめきもみごとに表現されているみたいだね。
「すごいよ絵千香ちゃん……かっこいい! ね、六月一日さん……」
「確かにこれは『かわいい』って絶対言われない。ナイスすぎるよ絵千香」
『え~、ただのトンチキな髪型じゃないですかっ』
ラウェルさまも流ちょうにナイスツッコミを入れたよ……!
絵千香ちゃんはラウェルさまに苦笑したあと、別の髪型にも挑戦したいと言った。
髪をもとに戻す前に六月一日さんが撮影していいかどうか確認した。
わたしは「もちろんオッケー」と答えたよ。
さて次の髪型は――。
「後ろ髪を引かれる感じでお願い……」
「了解。にしても、こんしまちゃんってけっこう語彙力あるよね」
またもやササササーッと絵千香ちゃんが髪を優しくいじる……!
鏡を見ると、文字どおり髪が真後ろに流れている。
前髪はそのままだからオールバックじゃないけれど、なんというか横長の旗が風になびいているようなテイストだ……!
わたしの髪がくせっ毛だから、こういう奇抜な髪型も整えやすいのかも……?
「まるでちぎれた雲のようでもあるね……」
「絵千香センスいいね~。これも『かわいい』とはベクトルが違うもん」
『行列のとき後ろに並んだらお鼻をくすぐってきそうですね!』
さすがラウェルさま。よく気がついてる。
どころか、口にも入っちゃいそう……!
で、六月一日さんの撮影が終わってから、また別の髪型に行ってみるよ。
「危機一髪の状態を表現してほしいな……絵千香ちゃん」
「今度は四字熟語? 文字どおりにできないから難度はさっきまでの二つよりも上だね」
しばらく絵千香ちゃんは首をひねったあと、意を決してわたしの髪に手を伸ばした。
そのていねいな手つきから、毛根や髪が傷まないよう気をつかってくれているのが分かる……!
果たして危機一髪の髪型とは――。
完成品をわたしは鏡越しに見た。
「あれ……?」
鏡面に映っていたのはいつものわたしの髪。
なんの変哲もない、ウェーブのかかったくせ毛……!
「どのあたりが危機一髪なんだろ……?」
視線を走らせ、変わったところを探してみると……あるものをてっぺんに見つけた。
それは線に見えた。
いや、これは……髪の毛だ!
髪の毛の一本だけが、わたしの頭のてっぺんで佇立している……っ!
「……しまった、やられた。最初は分かんなかった……けどこれはまさに危機一髪……! たった一本の毛が危うさとはかなさを表現している……それでいて力強さとたくましさも感じられる……」
「あー、あえて一本だけってのがポイントなんだね。絵千香、これも最高だわ!」
『いやめっちゃ引っこ抜きたいんですけど』
「どうやらラウェルさまもお気に召したみたい。時間の許す限りどんどんやるよ~」
それから絵千香ちゃんは間髪をいれずサッサッサ~サッサササ~といろんな髪型を作っていったよ。
わたしの髪をゾウの耳みたいにして悲しみを表現した。
「悲しいぞ~ってことでねっ」
『うれしいぞ~でも通じるのでは?』
鹿のツノをまねた髪型にも挑戦した絵千香ちゃん……っ!
「大きくなりすぎたツノに対して喜びよりも焦りのほうがまさっている状況」
『ご立派です!』
そんなこんなでラウェルさまのツッコミも炸裂させながら、絶妙な髪型を再現していく。
でもそろそろお昼休みも終わりに近づく。
六月一日さんとわたしはお礼を言ったよ。
AIであるラウェルさまを一時停止させ、絵千香ちゃんはにっこり笑った。
「むしろこんしまちゃんには楽しませてもらったから、あたしからもありがとねっ。あと涼芽ちゃん、これでいろんな感情を表現できたかな? 絶妙なラインを攻めたつもりだけどさ」
「うん、これなら絶対あいつもムリに『かわいい』って言わない。本当にありがと、絵千香。こんしまちゃんも」
素直に喜ぶ六月一日さんを、わたしはもっと応援したくなった。絵千香ちゃんも同じ気持ちのようで、うんうんとうなずいている。
そして後日、写真に撮ったわたしのいろんな髪型を参考にして六月一日さんが同じ髪型を再現したそうだ。
怒髪天を衝く髪型を見せたところ、彼氏さんは「かわいい」とは言わなかったという……!
でも「かっこいい」とは言ったらしい。
それを思い出すと上機嫌になっちゃうということで、ほかの髪型も彼氏さんに見せる六月一日さん。
そのことごとくを彼氏さんはポジティブに褒めてくれた。
危機一髪の髪型の六月一日さんもかわいいのだとか……ッ!
さらに「どんな髪型の涼芽も素敵だよ」と伝えたらしい。
六月一日さんとしてはうれしかったけれど、これじゃ不機嫌をあらわす左のサイドポニーの代わりにできるものが見つからない……!
だから、うれしいと同時に、もどかしかったんだって。
それで六月一日さんはいいことを思い付いたんだ。
不機嫌……というよりは、「もどかしい」という気持ちを込めて左側にサイドポニーを作ればいいんじゃないかって。
やっぱり彼氏さんはその髪型も褒めてくれるから、そこには明るさも混じってる。
明るさと一緒に、心地いいもどかしさも象徴しているよ……!
もどかしさは人をドキドキさせもする。
そういう意味で左のサイドポニーは、六月一日さんにほどよい緊張感をもたらしてくれるものになった。以前よりバレーの練習にも熱が入るようになったんだって……っ!
※ ♢ ※ ※ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:三回(累計二百六十九回)
次回「第六十六週 本当に相手のことが好きかチェックしてしまった!(木・金曜日)」に続く!(九月十一日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしても髪型を変えると同じ人でもガラッと印象が変わったりしますよね~。




