第六十週 心理テストが外れてしまった!(月曜日)
月曜日。
うちの高校で実施されている夏休みの午前の授業が終わってから、わたしは左隣の席を見た。
そこに、えくぼの素敵な男の子・束花りくくんが座っている。
ちょうどそのとき、鵜狩くんが束花くんに話しかけていたよ。
「束花。俺に用があるんだよな」
どうやら二人は事前に話す約束をしていたみたい……!
束花くんはえくぼを作ってスマートフォンを掲げたよ。
「うん。ちょっと鵜狩くんにやってほしいことがあってね」
映っているのはアプリの画面だった。
画面には「ドギマギ心理テスト!」という名前のロゴがおっきく表示されているよ……っ!
「この心理テストのテストプレイをしてほしいんだ」
「いいけど……聞いたことのない名前の心理テストだな」
「それ、ぼくが作ったから」
「え、すごいじゃないか、束花」
鵜狩くんも感心している……!
実際、束花くんはとても頭がいい。そして紙粘土で擬似的な虫の標本を作ることも得意だ。
だから人の心を細かく捉えるのもまた得意なんじゃないかな。
前に矢良さんが言ってたんだけど、束花くんは「理由」から「行動」を起こす人というよりは、「行動」から「理由」を考える人なのかもしれないんだって。
心理テストも、あとから「理由」や「心の状態」を明らかにするものだから……なんか束花くんにピッタリはまる感じがする。
……と考えながら二人の様子を観察していると、束花くんがわたしと目を合わせたよ。
「よかったらこんしまちゃんもアプリのテストをしてくれるかな?」
「任せて……」
というわけで、鵜狩くんと一緒にわたしも心理テストのテストをおこなうことになった……!
その前に、あらためてわたしも鵜狩くんも、前に束花くんちに上がってお互いの標本を作らせてもらったことのお礼を言ったよ。
あのときは束花くんにお世話になったから今度はわたしと鵜狩くんが束花くんのためになにかできたらうれしいな。
♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※
束花くんのスマートフォンを鵜狩くんとのぞき込んで、「ドギマギ心理テスト!」を始めるよ……!
さっそく「問い」が表示される。
『あなたは動物園に来ています。でも、見るのがちょっと怖い動物もいます。その動物は次のうちどれ?』
選択肢を提示するタイプの心理テスト……っ!
しかもカウントダウン付きだから、去年見たインタラクティブ映画を思い出す。
こういうのは変に考えずに直感的に選んだほうが心理テストの精度が上がるのかもしれないね……!
四択……ッ!
『1・ライオン 2・ゾウ 3・ナマケモノ 4・ゴリラ』
「う~ん、選ぶなら『1』かなあ……?」
回答はわたしと鵜狩くんで交互に担当することになっているよ。
わたしがライオンの画像をタッチすると、結果が出た……っ!
『あなたは冷静沈着な人です。周囲の意見に流されず、きちんと自分の考えを持って物事を観察できています。怖がりと誤解されることもありますが、いざというときの決断力はだれにも負けていません』
「……なんか合ってるかも。でも冷静沈着って言われると照れちゃうかな……」
「そっか。ありがとう、こんしまちゃん」
束花くんはうなずいて、わたしの言葉をノートにメモしたよ。
じゃあ次の問いに行く……っ!
『あなたはとても暑い砂漠を1人で歩いています。のどはカラカラです。そんなとき天から声が聞こえました。「おまえの望む飲み物をコップについで出してやろう。ただし飲めるのはその1杯だけだ。なにを望む」と。あなたはなんと答えますか』
さっきはわたしが回答したから今度は鵜狩くんの番だね。
選択式じゃなくて、直接文字列を打ち込む必要があるみたい……!
束花くんにも見えるよう、わたしたちはスマートフォンを机に置いたまま操作している。
減っていくカウントも一目瞭然だよ……っ!
「悩むけど、体にいいのがよさそうだね」
そうつぶやいて鵜狩くんが入力したのは――「梅酢」だった!
すると画面が切り替わって鵜狩くんの心理テスト結果が表示されたよ。
『その飲み物は、あなたが心の底から気に入っている人に対するイメージそのものです。飲み物の香りは第一印象を、味やのどごしは相手の隠している魅力を表しています』
合っているかはともかくとして、わたしだったら「緑茶」を選ぶかなあ……?
じゃ、どんどん心理テストを進めていくよ……っ!
『この絵はなんに見えますか』
質問文と共に、よく分からない白黒の模様が画面に映し出された。
「あ、これ知ってる……ロールキャベツテストだよね」
「ロールシャッハテストだよ」
「しまった……」
冷静に束花くんに指摘されてしまった。素で間違えるなんて恥ずかしい……。
ともあれ回答するよ。
だけど束花くんによると、実際のロールシャッハテストに変更を加えて、模様は束花くんオリジナルのものを使っているみたい。
左右非対称で、左から右に向かってゆるやかな上り坂ができているね。
坂の下からは足跡みたいなかたちがいくつか突き出ている……っ!
「……恐竜?」
回答を入力すると、すぐにテスト結果が返ってきた……!
『あなたが絵からイメージしたものは、あなたが潜在的に憧れているものです。ただし、これはただの憧れではありません。憧れていると同時に、あなたはそれに近寄るのを恐れています』
「確かに恐竜に会えたら楽しいだろうけど……すぐにやっつけられちゃうかもね」
「そっか、参考になるよ」
アプリ画面もじ~っと見て、束花くんがノートにペンを走らせる。
「でもテスト結果の文章がネガティブ寄りになってる感じがするから、まず『恐れ』のほうを提示してから……そのあとで『それは憧れでもある』と明かしたほうがいいかな」
プラスからマイナスの話題に移るより、マイナスからプラスの話題に行ったほうがいいってことかな……。
「……あ、ちなみに鵜狩くんはさっきの絵をなんだと思った?」
「忍者屋敷だな」
「そっか。鵜狩くんは忍者が好きだから、近寄るのを恐れているっていうテスト結果は外れてしまったかたちになったね」
「いいや、そうでもないよ束花。忍者屋敷で心が躍るのも事実だけど、やっぱり油断すると俺でも脱出できなくなる恐ろしいカラクリ屋敷だし」
「まるで本当の忍者屋敷に潜入したことがあるみたいだね」
「あ、いやそれは……っ」
「心のなかの忍者屋敷なんだよね、鵜狩くん……」
わたしはそれっぽいことを言ってみたけれど、直後よく分からないことを口走ったことに気づいちゃった。
「しまった」
「うっかりなんてことはないって、こんしまちゃん」
自分の胸をたたく鵜狩くん……っ!
「実際、俺の心には大きな忍者屋敷がある」
「よかった……」
心のなかになにがあるのか考えるのも心理テストかもしれない……!
「わたしの心にも冷鉱泉が湧き出ているよ……束花くん、これをどう見る……?」
「おもしろい質問だね。二人の心の情景も、一つの憧れの表れかもしれない。なんというか……安らぎ? みたいな感じもする」
とにもかくにも次の心理テストに移る……。
『あなたは人と両手をつないで輪を作ろうとしています。自分を含めて何人の輪を作りたいですか。数字で回答してください』
鵜狩くんが「29」という数字を打ち込むと――。
『それはあなたが求める親友の最大人数です』
――ちょっとドギマギしちゃった。
♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※
こんな感じで「ドギマギ心理テスト!」のいろんな問いに答えていったよ。
自分の好きなこととか、こだわりとか……そういうのが一つ一つ暴かれていく感じがするのがとってもいいね。
束花くんによると、心理テストは絶対的なものでもないんだって。
だから深刻になりすぎずに楽しんでもいいみたい。
で、終わったあとわたしたちは学食に行くことになったんだけど、束花くんがその前に飲み物をおごってくれたよ。
「二人とも、ありがとう。本当に参考になった。お礼になんか買ってくるけど、なに飲みたい?」
「お茶かな……」
「俺も」
「あ、そうだ……わたし、心理テスト思いついた……」
その詳細を束花くんにも聞かせる……っ!
「ここで選んだ飲み物が今の自分の心理状態を如実に示している……。つまりその飲み物こそが自分が現在飲みたいと思っている飲み物なんだよ……!」
「なるほど、哲学的だな」
首をひねりつつ、鵜狩くんは小さく目を細めたよ。
一方、束花くんはあごに指を当ててもっと首をかたむけていた……っ!
「そのまんますぎるような気も……」
「しまった……」
言われてみれば束花くんの「ドギマギ心理テスト!」と比べるとまだまだ浅かったかも。
学食に移ってから、わたしはほかの心理テストも考案してみる……!
「こういう問いはどうかな……『あなたは財布を拾いました。どうしますか』とか」
「……そういうのは、しかるべき場所に届けないとな」
「ぼくも鵜狩くんに同意」
「二人とも、いい子だね……!」
「でも答えが決まっている問題ではあるかもね」
その鵜狩くんの指摘に、わたしはハッとさせられた。
やっぱり心理テストはみんなの意見が分かれたほうがおもしろい気がする……!
「じゃあ選択肢を設けてみるよ……『あなたは宇宙人です。ユーフォーの燃料が切れて地球に不時着しました。だけど燃料を調達しようとユーフォーから出たところ1人の地球人に見つかってしまいました。どうしますか。次のなかから選んでください。1・逃げる 2・仲よくなる 3・死んだフリをする 4・相手の記憶を消す』……こんな感じで」
「記憶を消す技術も持っているのか。そのとき相手に危険はあるの?」
「ないよ……」
「なら俺は『4』かな」
「……束花くんは?」
「ぼくは『3』で」
「3はがんばりやで、4は知識の探求者かな……?」
「だったら『1』と『2』はどうなんだ、こんしまちゃん」
「えっとね、鵜狩くん……1は努力家で、2は天才肌……っ!」
「おもしろいテストではあるけれど、ぼくが『がんばりや』って感じはしないような」
大きなえくぼを浮かべる束花くん。
て、適当だったかな……。
「しまった……ごめんね」
「いや、むしろその心理テストのおかげでぼくにも『がんばりや』の側面があるのかもって思えたよ」
心理テストは、自分の心を「こうだ!」と確定させるものじゃなくて……自分の心と向き合うきっかけの一つなのかもしれない。
わたしもさっきの問いに回答してみる……っ!
「宇宙人のわたしが地球人と会ったら、『2・仲よくなる』を選ぶと思う……」
「2は天才肌だね」
「しまった……わたし、そんなんじゃないよ……」
ほほえんだ鵜狩くんと束花くんに同時に言われちゃった……。
この心理テストは外れてる?
でも本当だとしても、それはそれで悪くない。
心理テストって、そんな感じでいいのかもね。
♢ ※ ※ ※ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:五回(累計二百五十回)
次回「第六十一週 再び冷鉱泉につかってしまった!(土曜日)」に続く!(八月七日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしても心理学ってなんかカッコいいですよね~。




