第五十八週 プラネタリウムで挟まれてしまった!(日曜日)
わたしたちのクラスは一年生のときからメンバーが同じで男子十三人・女子十五人の二十八人なんだけど、普通の高校だったらクラス内で何組のカップルが成立するんだろう……?
ゼロってこともありえるし、もしくは二桁になることもあるのかな。
今のところわたしが把握している――というより公認のクラス内カップルはわたしと鵜狩慶輔くん・筈井友春くんと赤金しろみちゃんの二組だね。
あと六月一日涼芽さんにも彼氏がいるみたいだけど、相手は別の高校の男の子みたいだから詳しくは分かんない。
といってもだれかとの関係って実際はそんなにハッキリしたものでもないと思う。
他人とか友達とか恋人とか言うけれど、そのあいだに明確な境界線ってあるのかなあと考えたりしちゃう……。
本当のところ「他人」も「友達」も「恋人」も存在してなくて、ただ人それぞれ違うその特別な関係に無理やり辞書的なラベルを貼っているだけなのかもしんない。
たぶんその在り方はありきたりでもいいし、もしくは人と違っていてもいいんじゃないかな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
日曜日の午後。
わたしは某所のプラネタリウムに足を運んだ。
とある二人と一緒にドーム内の星を見るんだ……っ!(ちなみにこれから書くことは、その二人からちゃんと許可をとって書いているよ)
そのうちの一人はすでに施設内のオープンスペースで待っていたよ。
「おっ、こんしまちゃん。こんちは」
ぷるっぷるの唇を震わせながらあいさつしてくれたのはクラスメイトの男の子・和南統人くん。
わたしがあいさつを返すと、和南くんはハッとして周囲を見回した
「って、気づいたんだけど……今のオレ、ワナにかかったような心持ちなんだが。早く来んじゃなかったわ」
「もしかしてたくさん待っちゃったの……?」
「あ、いやいやちげえって。誤解させてたらわりーな。ただ、こんしまちゃんと二人でいると鵜狩に申し訳ないっつーか」
「だいじょぶだよ……鵜狩くんにはきょうのこと、ちゃんと話してるし……わたしが恋愛的に好きなのはこれから先も鵜狩くんだけだから……。和南くんはただの友達だよ……」
「……だ、だよな。誤解なんてされねえわなっ」
なんとなく気づいたけれど、和南くんが本当に気にしているのは別のことだと思う。
ホワイトデーのお返しについてわたしに相談したとき和南くんは、鵜狩くん以外の男の子に恋愛的な興味を持っていないわたしに対して安心感を表明していた。
だから、ここでわたしと二人でいることに不安をいだくのは少し違和感があるんだ。
でも今はあのころから四か月以上がたってる。
そのあいだに、絶対に誤解させたくない相手ができたとしたら今の和南くんの心配も納得できる。
もちろん誤解させたくない相手というのは鵜狩くんじゃなくて――。
「こんしまちゃん、和南くん。遅くなってごめんね」
クラスメイトの女の子・流石星乃さんが、ほっそりとしたきれいな指を小さく振ってオープンスペースに姿を見せた……!
流石さんはホワイトデーのお返しとして和南くんからプラネタリウムの一人用チケットをもらったことがあるよ。
そのとき次は二人でプラネタリムに行こうという流れになったんだけど、結局流石さんと和南くんはこの四か月、学校外で会うことはなかったんだって。
バレンタインのチョコを流石さんは和南くんに渡してる。
でも二人は付き合っているわけじゃないし、恋愛感情をいだいているかも分かんない……っ!
ただ、少なくとも流石さんも和南くんもお互いのことを嫌っていないんじゃないかな。
今回わたしが付き添っているのは二人に頼まれたから……ッ!
ようやく二人でプラネタリウムに行く気になれたとはいっても、ほかにだれもいなかったらデートみたいで緊張するんだって。
和南くんがギクシャクした笑顔を向ける……!
「気にしないでいいって、流石。オレ、さっき来たとこだから」
定番のセリフ……!
流石さんはマンガが好きだから、たぶんときめいたんじゃないかな?
表情には出さず、流石さんはプラネタリウムのドームの入り口に足を向けたよ。
わたしと和南くんも続く……っ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
ドーム内部のイスにわたしたちは並んで腰かけた。
わたしの左隣に流石さんが、右隣に和南くんが座ったんだ……!
わたしは二人に挟まれたかたちだね。自分から挟まれにいったわけじゃないよ……?
ほかのお客さんもけっこういる。
子連れの人がとくに多いみたい……!
天井の丸いスクリーンに星空が映し出されるまでのあいだ、流石さんがぽつりと言ったよ。
「わたし、しばしばここに来るんだけど、いろいろきれいなものを見上げながら半分眠った状態でいるのがとくに好き」
「本当に眠ったらどうすんだ」
「そのときは和南くんが起こして」
……なんかわたしは会話に加われなかった。
間もなく上映が始まる。
あたりが暗くなる。みんな口を閉じる。ドームが静かになった。
キラキラとした星空が映し出される。
スタッフさんの解説もなんか心地いい……。
満天に広がるのは、季節に合わせて夏の星々。
天の川も流れてる……。
はくちょう座やこと座、わし座の輪郭が青白く浮かび上がっている。
速められた時間のなかで、星座たちが少しずつ夜空をすべる。
ここまでは日本から見た七月の星座だったんだけど……。
星空が一気にぐるんと回って、今度は南半球の夜空に切り替わったんだ。
七月のオーストラリアの空だね。ちょっと寒そう。
向きや位置は違うけれど、北半球と同じでわし座やさそり座があったよ。
南半球だからこそ観測できる、はちぶんぎ座、テーブルさん座、カメレオン座といった星座もあるんだって。
そして解説によると、星座の名前を日本語で書くときはひらがなかカタカナを使うのが正式なものらしい……。
再び北半球に戻る。
時間と日付はさらに進んで流星群が降り始める。
空が白んで明るくなる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
プラネタリウムを見たあとは、オープンスペースのそばにあるカフェに寄ったよ。
三つのイスが置かれたテーブル席に座って飲み物を注文したんだ……っ!
ミルクたっぷりのコーヒーをすする和南くん。
「かなりよかったわー。南半球の星座が見られたのも、なんつーか感動した。あんがと流石」
「それはなにより」
流石さんが飲んでいるのはブラックコーヒー。
ちなみにきょうのプラネタリウムを紹介してくれたのも流石さんだよ。
「ここ、季節に合った星座を映してくれるんだ」
「ってことは、夏以外に来れば別の星座も見られそうだな。……でも星座ってたくさんあるけど『ネコ座』ってあんのかな」
「きっとあるよ……冬の星座に『こいぬ座』ってあったと思うし」
わたしは砂糖をちょっとだけ溶かしたコーヒーを口に含んだ……!
「もしかしたら『こねこ座』もあるかも……!」
「いや、こねこ座はないかな」
「しまった」
「でも、夜空に子猫もいたら楽しそうだよね」
さすが流石さん……!
間違ったわたしを元気づけてくれている。
「そして『ねこ座』は存在する。たぶん、『ねこ』はひらがな」
「本当にあるんだな。オレ、聞いたことはねえけど」
「代表的な八十八の星座には含まれてないからね」
「八十八? なんか意外と少なくね? 宇宙には数えきれないほどの星があんじゃねーの」
「それ以上増やすと混乱するのかも。そもそもわし座とかこと座とか言うけど……こういうのって昔の人が勝手に言ってるだけでさ、現代人がまた一から星座を指先でつなぎ始めたらまったく違う星座が無数にできあがるんじゃない?」
「そういうのを無限にみとめたら収拾がつかなくなりそうだな。だから、ねこがあぶれたってわけか……十二支にもいないし、なんかかわいそうじゃね」
「……和南くん、ねこ好きなの?」
「好きっていうか」
ここで和南くんは、沈黙していたわたしのほうを見た。
「こんしまちゃんも気になる?」
「気になる……」
「ふーん、じゃ話すけどよ」
コーヒーカップを置いて声を低くする……。
「実はオレ、小六のころまでネコ飼ってたんだよ」
「どんな子?」
流石さんも、いったんカップを下ろした。
わたしも気になるからちょっと身を乗り出す。
和南くんは渦を巻くミルクを見つめながら答えたよ。
「種類は調べたことも聞いたこともねえな。ただ白くてフサフサでモフモフしてた。オレが帰ってくると身をすり寄せてきた。そんでオレが家から出ようとすると、一緒に出ようとするからさ……困ったよ。でもあごをなでると小さく鳴いておとなしくなってくれる。それがかわいくてさ。今でもみょんきちのこと思い出す」
「みょんきちって言うんだ。かわいい名前だね」
「え、いや……」
唇を少しワナワナさせる和南くん……!
流石さんはそのきれいな指でコーヒーカップをそっとなでた。
「だれが名前をつけたのかな」
「オレ……」
和南くんがカップを再びかたむける。
「……なんとなく、そういう名前が頭に浮かんだんだって。でもみょんきち、実は女の子だったからなあ。それに気づいたときは別の名前で呼ぼうとしたんだけど、もうみょんきちはみょんきちという名前にしか反応しなくなってたんだわ。だから死ぬまでみょんきちだった」
「写真とかある? みょんきち、わたしも見たい」
「実はあるんだよなー。こんしまちゃんも見てみて」
テーブルにスマートフォンを置いて、画像を見せてくれたよ。
みょんきちは本当に白くてモフモフそうなネコだった。けっこう大きい。小学生のころの和南くんと映っている写真もある。家族や友達に撮影してもらったのかな。
それから和南くんは、みょんきちとの思い出をたくさん聞かせてくれたよ。みょんきちは人を引っかくことがなかったとか、和南くんの頭にものぼったとか……そういう話。
プラネタリウムとは関係ない話題になっちゃったかな。
でもプラネタリムの星座を見て、和南くんが「ねこ座」ってあるのかなと思ったからこそ、みょんきちのことを流石さんもわたしも知ることができたわけだよね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
カフェをあとにし、わたしたちはプラネタリウムの施設から出た。
まだ日は沈んでいない。
流石さんが和南くんにやわらかく話しかける。
「和南くん、このあとまだまだ付き合ってよ」
「いいけど。なんでだ」
「約束してたからね。和南くんがホワイトデーにくれたチケットのプラネタリウムの感想を、二人でプラネタリウムに行ったときに聞かせるって」
「……ああ、そりゃ聞きてえな」
和南くんは静かに笑みを返したよ。
それから流石さんはわたしに視線を向けた……!
「こんしまちゃんも来る?」
「……え」
流石さんは気をつかってくれたみたい。
じゃあわたしも気をつかうまでだね……っ!
「ありがとう……でも、きゅ、急な用事を思い出したから無理……」
「用事?」
「テ、テーブルのさんを拭かなくちゃいけないの……」
「テーブルさん座の『さん』は『山』って意味なんだけど」
「しまった……わたし、窓の『桟』みたいなものかと」
「ふふっ。じゃ、こんしまちゃん。テーブルさんを拭くのがんばって」
「よし、南半球に行かないとね……!」
「北半球でもいいんじゃないかな。プラネタリウムがあるからね」
そして流石さんは和南くんに近寄り、わたしに手を振る。
「きょうはありがとね、こんしまちゃん」
続いて「ありがとな」と声をかけてくれた和南くんと一緒にプラネタリウムから離れて歩いていく。
わたしも「ありがと、楽しかったよ、またね……」とあいさつを返して帰路につく。
二人は単純に「友達」でも「恋人」でもない気がする。
星座のように隣り合う、流石星乃さんと和南統人くんという関係だ。
わたしはそんな二人のキラキラした関係を、一番いい席で見ることができたみたい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
☆今週のしまったカウント:二回(累計二百四十二回)
次回「第五十九週 息切れしてしまった!(火曜日)」に続く!(七月二十四日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしても星座ってきらびやかで独特のロマンがありますよね~。




