第五十六週 時計の針が狂ってしまった!(日曜日)
だれかと待ち合わせをするときって、みんなはどうしているんだろう。
たとえば「この時間に集合!」って約束する。
けれどピッタリその時間に待ち合わせ場所に現れるのも難しい……!
時間よりも遅く到着したら申し訳ない気持ちになる。
でも早い時間に来たらそれはそれで相手を気後れさせてしまうかも。
そのときは「ごめん待った?」「いいや、今来たとこ」って受け答えするのが正解なのかな。
とはいえ定番のやりとりだから自分が気をつかっていることがバレバレで逆に相手に気をつかわせちゃうのかもしれない……っ!
かといって約束の時間にピッタリ来なきゃダメって思うと、待ち合わせがなんか堅苦しくなるね……。
というわけで、以上のことを共有したうえで今回は鵜狩くんとおもしろいデートプランを立ててみたよ。
その名も「待ち合わせオンリーデート」……!
つまり映画とか食事とかにはいっさい行かず、待ち合わせだけで終わるデートのこと……ッ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
日曜日、午後三時。天気は晴れ。
わたしは日傘を差しながら、とある公園の前に向かっていた……!
きょうの待ち合わせオンリーデートの流れは次のとおり……っ!
一、鵜狩くんと事前に決めていた待ち合わせ場所で、約束した時間に合流する。
二、合流後、五分以内に解散。
三、さらに解散後わたしが五分以内にスマートフォンで鵜狩くんに連絡を入れ、新たな待ち合わせ場所と時間を指定。
四、再合流後、また五分以内に解散。
五、今度は鵜狩くんが待ち合わせ場所と時間を指定する。再々合流後も、わたしと鵜狩くんで時間と場所の指定を交替しながら午後六時まで反復する。
なお場所として北極を指定するなど、物理的に不可能な要求はおこなえない……!
あくまでテクテク歩いてだいじょうぶな範囲で待ち合わせするんだね。
このデートプランをアヤメちゃんに話したら、「待ち合わせだけで終わるデートはこれまで数限りなくあったんだろうけど、たぶん今回みたいに待ち合わせだけをくり返すデートを計画した人は鵜狩くんとこんしまちゃんが人類史上初だと思う」って言われちゃった。
特別感があってワクワクだね……!
あ、それと……時間指定についてだけど、ちょっとした制約を設けることにしてるんだ。
その制約というのは、「○○時○○分集合」みたいな具体的な時間をピッタリ指定しないこと。
わたしが向かっていたのは、事前に決めていた公園前。
でも時間は「午後三時から三時半」って約束にしたんだよ。
待ち合わせ時間に幅を持たせることで「早く来ても遅く来てもピッタリに来てもなんか気まずい問題」を解決したんだ……っ!
今回の場合だと、指定された三十分のあいだの好きな時間に来ればいいわけだからね。
余裕があるから堅苦しくない……っ!
相手が遅く来ても時間内であれば約束の範囲内。逆に相手が早かったとしても、お互い時間内に到着していれば、申し訳ないって気持ちにならずに済む。
気楽な感じでわたしは公園前に来たよ。
時間は三時八分。公園に大きなアナログ時計があるからその針を確認したんだ。
そして鵜狩くんはもう到着してた。
わたしは声をかける……ッ!
「早いね、鵜狩くん……待たせちゃったかな……?」
「さっき来たところだよ、こんしまちゃん。そこの時計で三時十分に」
いつもどおり、シュッとしたあごとツリ目がとっても素敵な鵜狩くん。
「あ、これじゃ定番のやりとりだな」
「しまった……でもなんか言ってみたくなっちゃうね……っ」
日傘を差し出すと、鵜狩くんはそっとなかに入ってくれた。
「えっと、このあと五分以内に解散して新しい待ち合わせの時間と場所をわたしが指定……って流れだね」
「そうだね」
「駅前とかお店の前とかは、やめたほうがいいかな……利用しないなら冷やかしになっちゃうし」
「確かに。俺もそうするつもり」
「じゃ、そろそろ最初の解散……っ!」
公園前を離れ、わたしたちはテクテク移動を始める。
ついてくるわたしに、鵜狩くんがやんわりと言ったよ。
「解散だから、いったん別の道に進んだほうがいいんじゃないか」
「……しまった。一緒に行動していたら待ち合わせにならないよね……」
「だけどこんしまちゃんと歩くのも楽しい」
「わ、わたしもだよ……」
このままだと待ち合わせオンリーデートが破綻するから、いったん鵜狩くんとは別行動をとる……ッ!
スマートフォンで、次の待ち合わせ場所と時間を指定。
ちゃんと徒歩で行ける場所じゃないといけないし、時間もピッタリじゃダメ……!
場所は「銅像前」……時間は「夜明け前まで」を指定したよ。
先に着いたのはわたし。
まあ自分で指定した場所と時間なんだからわたしのほうが有利だよね……!
「って、しまった。そういう競争じゃなかった……」
ちなみに銅像が、なんの銅像かは分かんない。
軟体動物のようにも見えるし、ただの雲にも見える。でも町の「銅像」と言えばこれなんだよ……っ!
鵜狩くんも間もなく姿を見せた。
「早いな、こんしまちゃん。待った?」
「今来たとこだよ……なんてね」
「あ、うっかり俺も、さっきと同じやりとりを」
「しまったね……」
お互いにわざと言ったことが分かったから、わたしも鵜狩くんも思わず笑っちゃった。
「それに、指定した時間は夜明け前までだからおっけーだよ……」
「かなり範囲が広くていいね。俺だったら『日の入り前まで』って指定する」
「しまった」
「どうしたんだ」
「午後六時までの約束だから、夜明け前までって指定はほとんど意味をなしてない……」
「それを言うなら俺もうっかりしてた。今は七月上旬だから午後六時よりもあとに日没が来る」
「ふふ……それはわたしも気づかなかったなあ」
日傘のなかで、鵜狩くんをじっと見る。
「楽しいね……鵜狩くん」
「ああ、すごく新鮮で楽しい」
五分以内に解散して、次は鵜狩くんの番……!
指定された場所と時間をわたしはスマートフォンで確認。
(ふむふむ……場所は「一番大きいマンホールの蓋」だね。時間は「申の刻」……)
一番大きいマンホールの場所はすぐに分かったよ。
小学生のころ、鵜狩くんとアヤメちゃんと一緒に見つけたことがあるからね。
問題は申の刻。
昔の時間の表し方を用いているみたい。
確か「正午」の「午」は「うま」……つまりお昼の十二時は「午の刻」になるね。
十二支を二十四時間に対応させると、それぞれに二時間ずつ割り振ることになる。
お昼の十二時が午の刻なら、二時間飛んで午後二時が「未の刻」……さらに二時間飛んで午後四時が「申の刻」……!
よって指定された時間である「申の刻」というのは、午後四時あたり……!
今回の待ち合わせオンリーデートの時間指定にはピッタリはダメって制約があるから、そもそも申の刻は「時刻」というよりも「時間帯」を表現する言葉なんじゃないかな。
とすると、午後三時から午後五時までの二時間くらいの時間帯が申の刻。
(さすが鵜狩くんだね……幅も広いし、推理要素もあっておもしろい……)
わたしは大きなマンホールの蓋に向かったよ。
鵜狩くんの指定した場所だから鵜狩くんのほうが早く着いてるかなと思ってたんだけど、意外にもわたしのほうが先に到着したよ。
首をかしげていると、ほっぺたの近くが涼しくなったんだ……っ!
鵜狩くんが冷たいジュースの缶を二本持って待ち合わせ場所に現れたの。
「こんしまちゃんも飲む?」
「飲むよ……ありがとう」
ジュースというよりもスポーツドリンクだったかな……?
でも歩いて汗をかいてたから、体の末端までとっても染みたよ……!
「それにしても申の刻とは、やるね……鵜狩くん」
「こんしまちゃんこそ」
しばらく無言でジュースをゆっくり飲む……っ!
わたしはハッとして自分の影を見たよ。
「しまった……五分以上たっちゃったかな……?」
「たぶんな。でも俺の体感ではギリギリだいじょうぶ」
「……確認したら、わたしの体内時計も、まだ時間があるって」
「なら問題なさげだな」
「うん……あ、ジュースの空き缶、回収ボックスに入れてくるよ。鵜狩くんのも……」
「ありがとう。こんしまちゃん」
こんな感じで交替しながら、待ち合わせオンリーデートを進めていったんだ。
ゆる~い時間感覚のなか、懐かしい場所や行ったことのない場所にも行けて、鵜狩くんと相合い日傘を何回もできて……とっても楽しかった。
鵜狩くんも、わたしといろんな場所でまったり会えるから楽しいって言ってくれたよ。
このいっぷう変わったデートは大成功だったみたい。うれしい……。
そして刻限の午後六時が近づいたとき、鵜狩くんがこんなふうに待ち合わせ場所と時間を指定したんだ……!
「指定する場所は過去……指定する時間も過去」
なぞなぞ……?
大きなマンホールの蓋みたいな思い出の場所かと最初は思ったんだけど……それもちょっと違うみたい。
そもそも思い出の場所は、いっぱいある。
記憶に残っている――という条件だけなら絞り込みができない。
(なにか……今までのことでヒントがなかったかな……。とくに、ここだと言える場所。そして時間……)
歩きながら「あれ」を思い出して、鵜狩くんの指定する場所と時間の正体に気づいたよ……!
わたしは焦らずに歩いて、その場所と時間に向かったんだ。
やっぱり鵜狩くんは、そこにいた。
「こんしまちゃん、よくこの場所を見抜いたね」
「おもしろいなぞなぞだったよ……でも公園前というのは、なんとなく分かったからね……」
そう……最後に指定されたのは、きょうのデートの最初の待ち合わせ場所だ。
「ヒントは、時計の針……!」
公園の大きなアナログ時計を小さく指差す。
その短針と長針はちょうど重なって、どちらも真上を指していた……!
「思い出してみると……わたしは最初、この公園前に三時八分に来てた……それをあの時計で確認した……対する鵜狩くんは『さっき来たところ』と返してくれたけれど、『そこの時計で三時十分に』って続けたよね……三時十分に来た鵜狩くんのあと、三時八分にわたしが来るというのは普通ありえない……つまり」
細かく思い出せたのは、なんか変……って無意識のうちに感じていたからだと思う。
「あの時計の針は壊れて逆行してる……!」
もしかしたら修理中なのかもしれない。
「実際の時間は六時前だけど……時計が針を反時計回りに動かして時間をさかのぼったのなら、そんな時計があるこの場所は過去になる……! そんな逆行した時刻をわたしたちが見ているとすれば、この時間もまた過去になる……だから鵜狩くんの指定した過去の場所と時間はここしかないって分かったんだ……」
「すごいね。正解だよ、こんしまちゃん」
「やった……! 鵜狩くんもありがとね、とっても楽しいなぞなぞだったよ……」
「よかった。ただ、時計の逆行が少しだけ速いな。もう十一時台にさかのぼってる。午の刻ではあるけれど」
「過去で大切なものをなくしたから、それを探し出すために慌てているのかも……急がないと修理されちゃうもんね……」
「一生懸命探しているから、きっと見つかるよ」
鵜狩くんが、左に振れる針を見てつぶやく。
「こんしまちゃんは、過去に行きたい?」
「戻ってこられるなら。鵜狩くんは……どの過去がいい」
「かっこいい忍者がいる過去かな」
「いいね……! わたしは、過去のいつでもどこでも行ってみたい……」
そのとき、日傘を閉じて口に手を当てたんだっけ。
「いや、しまった……それじゃ範囲が広すぎるよね」
「悪くないと俺は思うな」
時計の針から目を離し、鵜狩くんがほほえんだ……!
「いろんな場所といろんな時間で、こんしまちゃんと会えるから」
「う、鵜狩くん。わたしも鵜狩くんと何度でも待ち合わせする……っ」
なんか暑くなってきたね……。
午後六時を迎えたあとは、一緒に帰り道を歩いたよ。
次はいつどこで待ち合わせるか、のんびりゆっくり話しつつ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
☆今週のしまったカウント:七回(累計二百三十六回)
次回「第五十七週 短冊の裏に隠してしまった!(火曜日)」に続く!(七月十日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしても待ち合わせって相手によっては緊張しますよね~。




