表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/62

第五十五週 心配されてしまった!(木曜日)

 どうも、ノートさん。

 初めまして、わたしがくだんのこんしまちゃんです。


 それじゃよろしくね。

 今週からしばらくこの日記はわたしが書くよ……!


 もとのご主人さまが元気になるまで、一緒(いっしょ)に記録をつけながら待とうね。


 あ、そうだ。

 もうあなたは知っているだろうけど、一応(いちおう)伝えておこうかな。


 わたし・紺島(こんしま)みどりには一週間(いっしゅうかん)に最低一回(いっかい)は「しまった」と言う自覚があるんだ……っ!


 だから「今週のしまったちゃん」略して「こんしまちゃん」と呼んでほしいとみんなにも言ってる。


 できればあなたもそう呼んでくれるとうれしいな。

 やっぱり、この呼ばれ方が一番(いちばん)しっくりくるし……!


 といっても無自覚で言うことも多いからあらためて自分で「しまった」をカウントするとなると、ちょっと変な感じだね。


 そんなわけでわたしは毎週、あなたに「しまった」の回数を教えるつもり。

 わたしの「しまった」に(かか)わる物語を聞かせるつもり。


 いきなり書き手がわたしになって、あなたも戸惑(とまど)っていると思う。


 けれど、だいじょうぶ。

 あなたのご主人さまは絶対に元気になって、もう一度(いちど)あなたに文字を書きつけてくれるから。


※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※


 木曜日の昼休み……ッ!

 わたしは鵜狩(うかり)くん・アヤメちゃんと昼食をとったんだ。


 お昼ごはんが終わったあとも、アヤメちゃんは矢良(やら)さんの(つくえ)を気にしてた。


「こんしまちゃん」


 息をのんでアヤメちゃんがわたしに言ったの。


「みくりちゃんは長期入院なんだよね? ホントにだいじょうぶなのかな。一応(いちおう)ララララ・ララララ・ラララインでメッセージ送ったらみくりちゃんから返信()るけど……なんか心配」

「いつ復帰できるかは不明みたい……でもだいじょうぶだと思う」


 鵜狩くんにも視線を向けて、わたしは答えたよ。

 そのとき、高いお鼻が素敵(すてき)な男の子・中能(なかよく)美都風(みつかぜ)くんが学食から(もど)ってきたんだ。


(ぼく)としても矢良(やら)さんのことは心配だね。できればお見舞(みま)いしたいところなんだけど……病院の場所が分からないし、分かったとしても勝手に(たず)ねるのはよくないだろうし」

「そうだよな、中能(なかよく)


 中能くんにうなずきを返した鵜狩くんは、自分のカバンからなにかを取り出して机に置いたよ。

 それは四角形の真っ白な色紙(しきし)だったんだ……!


「だから(おれ)、矢良に()()きするのがいいんじゃないかと思う」

「寄せ書きか。それはいいアイデアだね鵜狩くん」


 うれしそうに首を(たて)()る中能くん。

 アヤメちゃんとわたしも中能くんとまったく同じ反応をしていたよ。


 そんななか、(かみ)をセンターパートに分けている女の子・鹿出(ろくで)(まい)さんが後ろから右腕(みぎうで)()ばして中能くんと(かた)を組んだの。


 鹿出(ろくで)さんは教室に(もど)ってきた中能くんに(はな)しかけようと、自分の席から(はな)れたみたい。


「おいおい、なに(はな)してんだ美都風(みつかぜ)~」


 中能くんと鹿出さんは一年生(いちねんせい)のころからクラスの学級委員を務めてる。

 ちなみに鹿出さんとわたしは中学校も一緒(いっしょ)だったんだよ……!


「気になるぞオイ。ろくでもねえ話題じゃねえよな」

「長期入院することになった矢良さんになにかできないかと思っていたんだけど、鵜狩くんがナイスなアイデアを出してくれたんだ」


 肩を組まれてもわりと平然としている中能くんは説明したよ。鵜狩くんが矢良さんに向けた寄せ書きを提案していることを……ッ!


 それを聞いて鹿出さんは手をたたいたんだ。


「へー、いいじゃんいいじゃん。みくり、そういうの喜ぶだろうし。わたしも鵜狩(うかり)のアイデアに賛成」

「それを聞けてよかったよ鹿出(ろくで)。うっかり矢良(やら)に余計なことしているんじゃないかと俺、不安だったから」


 いろんな色のペンをカバンから引っ張り出し、色紙(しきし)(となり)に置く鵜狩くん。


「じゃあ今からみんなで矢良にメッセージを書いていこう」


 鵜狩くんが黒いペンを色紙に走らせる。


《元気になったら料理部に試食しに来てほしい 鵜狩(うかり)慶輔(きょうすけ)


 続いてアヤメちゃんも、紫色(むらさきいろ)のペンでメッセージを書く。


《みくりちゃん、わたしはだいじょうぶ。みくりちゃんのこと待ってるからね 菖蒲(しょうぶ)佳代子(かよこ)


 わたしも緑のペンでメッセージを届けたよ……!


《日記は任せてね》


 でもアヤメちゃんがそれを見て、気づいてくれたんだ。


「だれが書いたか分からなくなるから自分の名前は最後に()えたほうがいいんじゃないかな」

「しまった……」


 というわけで、《紺島(こんしま)みどり》という名前もちゃんと付け加えたよ。

 そして中能(なかよく)くんと鹿出(ろくで)さんが矢良さんにメッセージを書こうってみんなに呼びかけてくれたんだよ……っ!


 すぐにやってきたのは、矢良さんの席に近い谷高(やたか)誠一(せいいち)くんや嫁田(よめた)(しゅう)くん。


 仲のいい六月一日(むりはり)涼芽(すずめ)さんや()七瀬(ななせ)さん、(いきおい)さくらさん、(ちょう)ひなぎくちゃんも色紙にあたたかいメッセージをしるしてくれた。


 ひなぎくちゃんは《アタシとアニメ鑑賞(かんしょう)しよう!!! 蝶ひなぎく》と書いてた。

 いや、もっとビックリマーク多かったような気もするけど。


「アタシねー、みくりちゃんとアニメの趣味(しゅみ)(ちょう)合うんだ。ク○アニメに愛着が()くところなんてとくに」


 さらに流石(さすが)星乃(ほしの)さんも寄せ書きに参加する。

 流石さんのメッセージはわたしが代筆することになった。


《みくり》


 ここでわたしは「おや」と思った。

 だって一年生(いちねんせい)のころ流石(さすが)さんは矢良さんのことを「矢良さん」と呼んでいたと思うから。


 わたしの知らないところで矢良さんもクラスのみんなといろいろ交流してたんだなあと思うと、感慨深(かんがいぶか)くなっちゃった。


《体を大切にね 流石星乃》


 確か流石さんは以前わたしにこう言ってくれた。「たとえ本人に無理をしている自覚がなくても――みんなに(こた)えようとすればするほど、人はいつの()にか(こわ)れていくよ」って。


 きっとそのことを念頭に置いた言葉なんだと思う。


 それからわたしは()さんのメッセージにも注目したんだ……!

 穂さんは次のように書いてた。


《ワタシも自分らしくいくよ! ()七瀬(ななせ)


「ほ~、こんしまちゃん。ワタシの寄せ書き、気になるんだ?」


 後ろから穂さんが声をかけてきた。

 わたしは図星だったからうなずいたよ……っ!


「なんか言葉以上の意味が()められているような気がしたから……」

「あ、そういえばこんしまちゃんに言ったことないや。ワタシと(かのえ)とみくりん……みくりは小・中一緒(いっしょ)だったんだよ~」


「え、そうだったの……? クラスもずっと同じ……?」

「いやクラスに関しては同じこともあったし(ちが)うこともあったね」


 穂さんはしみじみと過去を思い出しているみたいだった。


「中学のときの制服も、スカートかスラックスかで選べたんだけど」


 (はな)しつつ、自分のはいているスラックスを軽くたたく。


「女子でスカートじゃないのワタシだけだったんだ。まあそれは今のクラスでも同じとはいえ、中学のクラスだとワタシの格好をからかってくる子たちがいてねー。でもみくりんは、ワタシの格好が変じゃないって堂々と言ってくれたんだ。男子と遊ぶワタシをバカにしたりもしなかった。『自分らしくいこう!』ってそのとき、みくりんが伝えてくれた。本当にホッとした。だからワタシ、みくりんに救われたようなもんなんだよなー」

「矢良さんらしいエピソードだね……」


 わたしも、()さんと一緒(いっしょ)に小さく口角(こうかく)を上げていたと思う。


※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※


 昼休みが終わってからも、みんなの寄せ書きは続いたよ……ッ!

 放課後、立合(たちあい)先生も黒いペンでメッセージを書いてくれた。


《みんな、あなたの味方です 立合(たちあい)広夢(ひろむ)


 たぶん先生は、入院中の矢良さんともしばしば会いに()く。

 それでも寄せ書きに参加してくれた。


 そのあと立合先生は委文(ひとり)知砂(ちさ)さんに手招(てまね)きしたんだ。

 委文(ひとり)さんはちょっとためらったけれど、先生のそばに歩いてペンを手に取った。


《元気な顔をまた見せて 委文知砂》


 あとは見藤(けんとう)幸也(こうや)くんが色紙に寄せ書きをして、先生とクラスのみんな二十七人のメッセージが輪っかみたいなかたちで(つら)なったんだ。


 でも飯吉(いいよし)(かのえ)くんは、きょうも来てなかったの。


 中能(なかよく)くんがララララ・ララララ・ラララインで飯吉(いいよし)くんに「みんなで矢良さんへの寄せ書きをしてる」「あした飯吉くんも書かない?」って伝えたんだけど、飯吉くんはほとんどノータイムで「ボクはいいよ」「みくりの病院は知ってるからいつでも(はな)せるし」と返したんだ。


 それでも中能くんは「代わりに書くからメッセージだけでも教えてくれないかな」と送って(ねば)ろうとしたけれど、鹿出(ろくで)さんは中能くんの背中をポンポンして言った。


「しつこくすんなよ、美都風(みつかぜ)飯吉(いいよし)とみくりのあいだに()()()()()って分かんねえかな」


 もしかすると鹿出さんも、飯吉くんが矢良さんの元カレだと知っているのかもしれない。


「無理に寄せ書きさせても飯吉もみくりもどっちも(いや)な気分になるだけだろ」

「……そうだね、鹿出さんの言うとおりだ。僕は二人(ふたり)の気持ちを考えていなかったみたいだよ。言ってくれてありがとう」


 こういう経緯(けいい)で、飯吉くんをのぞくみんなの寄せ書きが完成した。

 飯吉くんのメッセージだけがなくてその部分が空白になっているのはさびしいけれど、強制することもできないもんね……。


 でね、寄せ書きを持っていくのは、矢良さんの病院を知っているわたしの役目になったよ。


 中能くんたちにも「任せて」ってわたしは言った。

 ただ、アヤメちゃんは寄せ書きの色紙をじっと見ていたんだ。


「こんしまちゃんは『日記は任せてね』って書いてるよね」

「うん……」


「気になるんだけど、この『日記』って?」

「あっ、それね……」


 例の日記……つまりわたしが矢良さんから引き()いで(いま)書いている「これ」については、とくに秘密にしてほしいとは言われてない。


 だからわたしは、まだ教室に残ってくれている鵜狩(うかり)くんにも日記のことを明かした。

 もちろん「言えないこと」については()せるけど……。


「かくかくしかじか。以上がわたしの『しまった』とかを記録する『今週のしまったちゃん』だよ……」


「へ~、みくりちゃんって、そういう日記つけてたんだ。自分じゃなくて、こんしまちゃんを中心に……」

一年(いちねん)以上の日記か。それはとても重要な記録だな」


 アヤメちゃんも鵜狩くんも、大仰(おおぎょう)にうなずく……!

 心配そうにアヤメちゃんが言う。


「でもこんしまちゃんってあんまり日記を書くイメージないんだけど……みくりちゃんが元気になるまで続けられそう?」

「たぶん絶対だいじょうぶだよ……」


「アヤメ。俺もこんしまちゃんは心配()らないと思う」


 (やさ)しく鵜狩くんがフォローしてくれた……!


「矢良がこんしまちゃんを信じて日記を(たく)したんだから」

「そうだね。……ごめん、こんしまちゃん。疑うような(いや)なこと言って。うん、こんしまちゃんならだいじょうぶだよね」


「鵜狩くん……アヤメちゃん……」


 二人(ふたり)信頼(しんらい)してくれてわたしはうれしかったよ。でも――。


「しまった」


 首をひねる鵜狩くんとアヤメちゃんに口癖(くちぐせ)のわけを説明する。


「わたし……二人の言葉がうれしくて心のなかで()()がっちゃったの……このまま調子に乗ったらダメ……だからもっと心配していいよ……!」

「分かった。困ったときは、なんでも言って」


 ツリ目を細めた鵜狩くん。

 アヤメちゃんも細かくうなずいて言葉を()いだよ。


「アレなときはフォローするよ。なんならアヤメと日記勝負でもしよっか。それでモチベになるかも」

「ありがとう……二人とも」


 そしてわたしは安心して、矢良さんの病院に寄せ書きを届けに()ったんだ。

 心配されるのと信頼されるの、どっちが幸せなんだろうとか考えたりして。


 でもどちらも、相手のことを思っているからこその気持ちなんだよね。


※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※


☆今週のしまったカウント:二回(累計(るいけい)二百二十九回)

次回「第五十六週 時計の針が狂ってしまった!(日曜日)」に続く!(七月三日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)


いつもお読みいただきありがとうございます! 評価やブクマ、感想等も励みになります!


それにしても寄せ書きって字の大きさとかでも個性が出ますよね~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ