第五十五週 心配されてしまった!(木曜日)
どうも、ノートさん。
初めまして、わたしがくだんのこんしまちゃんです。
それじゃよろしくね。
今週からしばらくこの日記はわたしが書くよ……!
もとのご主人さまが元気になるまで、一緒に記録をつけながら待とうね。
あ、そうだ。
もうあなたは知っているだろうけど、一応伝えておこうかな。
わたし・紺島みどりには一週間に最低一回は「しまった」と言う自覚があるんだ……っ!
だから「今週のしまったちゃん」略して「こんしまちゃん」と呼んでほしいとみんなにも言ってる。
できればあなたもそう呼んでくれるとうれしいな。
やっぱり、この呼ばれ方が一番しっくりくるし……!
といっても無自覚で言うことも多いからあらためて自分で「しまった」をカウントするとなると、ちょっと変な感じだね。
そんなわけでわたしは毎週、あなたに「しまった」の回数を教えるつもり。
わたしの「しまった」に関わる物語を聞かせるつもり。
いきなり書き手がわたしになって、あなたも戸惑っていると思う。
けれど、だいじょうぶ。
あなたのご主人さまは絶対に元気になって、もう一度あなたに文字を書きつけてくれるから。
※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※
木曜日の昼休み……ッ!
わたしは鵜狩くん・アヤメちゃんと昼食をとったんだ。
お昼ごはんが終わったあとも、アヤメちゃんは矢良さんの机を気にしてた。
「こんしまちゃん」
息をのんでアヤメちゃんがわたしに言ったの。
「みくりちゃんは長期入院なんだよね? ホントにだいじょうぶなのかな。一応ララララ・ララララ・ラララインでメッセージ送ったらみくりちゃんから返信来るけど……なんか心配」
「いつ復帰できるかは不明みたい……でもだいじょうぶだと思う」
鵜狩くんにも視線を向けて、わたしは答えたよ。
そのとき、高いお鼻が素敵な男の子・中能美都風くんが学食から戻ってきたんだ。
「僕としても矢良さんのことは心配だね。できればお見舞いしたいところなんだけど……病院の場所が分からないし、分かったとしても勝手に訪ねるのはよくないだろうし」
「そうだよな、中能」
中能くんにうなずきを返した鵜狩くんは、自分のカバンからなにかを取り出して机に置いたよ。
それは四角形の真っ白な色紙だったんだ……!
「だから俺、矢良に寄せ書きするのがいいんじゃないかと思う」
「寄せ書きか。それはいいアイデアだね鵜狩くん」
うれしそうに首を縦に振る中能くん。
アヤメちゃんとわたしも中能くんとまったく同じ反応をしていたよ。
そんななか、髪をセンターパートに分けている女の子・鹿出舞さんが後ろから右腕を伸ばして中能くんと肩を組んだの。
鹿出さんは教室に戻ってきた中能くんに話しかけようと、自分の席から離れたみたい。
「おいおい、なに話してんだ美都風~」
中能くんと鹿出さんは一年生のころからクラスの学級委員を務めてる。
ちなみに鹿出さんとわたしは中学校も一緒だったんだよ……!
「気になるぞオイ。ろくでもねえ話題じゃねえよな」
「長期入院することになった矢良さんになにかできないかと思っていたんだけど、鵜狩くんがナイスなアイデアを出してくれたんだ」
肩を組まれてもわりと平然としている中能くんは説明したよ。鵜狩くんが矢良さんに向けた寄せ書きを提案していることを……ッ!
それを聞いて鹿出さんは手をたたいたんだ。
「へー、いいじゃんいいじゃん。みくり、そういうの喜ぶだろうし。わたしも鵜狩のアイデアに賛成」
「それを聞けてよかったよ鹿出。うっかり矢良に余計なことしているんじゃないかと俺、不安だったから」
いろんな色のペンをカバンから引っ張り出し、色紙の隣に置く鵜狩くん。
「じゃあ今からみんなで矢良にメッセージを書いていこう」
鵜狩くんが黒いペンを色紙に走らせる。
《元気になったら料理部に試食しに来てほしい 鵜狩慶輔》
続いてアヤメちゃんも、紫色のペンでメッセージを書く。
《みくりちゃん、わたしはだいじょうぶ。みくりちゃんのこと待ってるからね 菖蒲佳代子》
わたしも緑のペンでメッセージを届けたよ……!
《日記は任せてね》
でもアヤメちゃんがそれを見て、気づいてくれたんだ。
「だれが書いたか分からなくなるから自分の名前は最後に添えたほうがいいんじゃないかな」
「しまった……」
というわけで、《紺島みどり》という名前もちゃんと付け加えたよ。
そして中能くんと鹿出さんが矢良さんにメッセージを書こうってみんなに呼びかけてくれたんだよ……っ!
すぐにやってきたのは、矢良さんの席に近い谷高誠一くんや嫁田秀くん。
仲のいい六月一日涼芽さんや穂七瀬さん、勢さくらさん、蝶ひなぎくちゃんも色紙にあたたかいメッセージをしるしてくれた。
ひなぎくちゃんは《アタシとアニメ鑑賞しよう!!! 蝶ひなぎく》と書いてた。
いや、もっとビックリマーク多かったような気もするけど。
「アタシねー、みくりちゃんとアニメの趣味超合うんだ。ク○アニメに愛着が湧くところなんてとくに」
さらに流石星乃さんも寄せ書きに参加する。
流石さんのメッセージはわたしが代筆することになった。
《みくり》
ここでわたしは「おや」と思った。
だって一年生のころ流石さんは矢良さんのことを「矢良さん」と呼んでいたと思うから。
わたしの知らないところで矢良さんもクラスのみんなといろいろ交流してたんだなあと思うと、感慨深くなっちゃった。
《体を大切にね 流石星乃》
確か流石さんは以前わたしにこう言ってくれた。「たとえ本人に無理をしている自覚がなくても――みんなに応えようとすればするほど、人はいつの間にか壊れていくよ」って。
きっとそのことを念頭に置いた言葉なんだと思う。
それからわたしは穂さんのメッセージにも注目したんだ……!
穂さんは次のように書いてた。
《ワタシも自分らしくいくよ! 穂七瀬》
「ほ~、こんしまちゃん。ワタシの寄せ書き、気になるんだ?」
後ろから穂さんが声をかけてきた。
わたしは図星だったからうなずいたよ……っ!
「なんか言葉以上の意味が込められているような気がしたから……」
「あ、そういえばこんしまちゃんに言ったことないや。ワタシと庚とみくりん……みくりは小・中一緒だったんだよ~」
「え、そうだったの……? クラスもずっと同じ……?」
「いやクラスに関しては同じこともあったし違うこともあったね」
穂さんはしみじみと過去を思い出しているみたいだった。
「中学のときの制服も、スカートかスラックスかで選べたんだけど」
話しつつ、自分のはいているスラックスを軽くたたく。
「女子でスカートじゃないのワタシだけだったんだ。まあそれは今のクラスでも同じとはいえ、中学のクラスだとワタシの格好をからかってくる子たちがいてねー。でもみくりんは、ワタシの格好が変じゃないって堂々と言ってくれたんだ。男子と遊ぶワタシをバカにしたりもしなかった。『自分らしくいこう!』ってそのとき、みくりんが伝えてくれた。本当にホッとした。だからワタシ、みくりんに救われたようなもんなんだよなー」
「矢良さんらしいエピソードだね……」
わたしも、穂さんと一緒に小さく口角を上げていたと思う。
※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※
昼休みが終わってからも、みんなの寄せ書きは続いたよ……ッ!
放課後、立合先生も黒いペンでメッセージを書いてくれた。
《みんな、あなたの味方です 立合広夢》
たぶん先生は、入院中の矢良さんともしばしば会いに行く。
それでも寄せ書きに参加してくれた。
そのあと立合先生は委文知砂さんに手招きしたんだ。
委文さんはちょっとためらったけれど、先生のそばに歩いてペンを手に取った。
《元気な顔をまた見せて 委文知砂》
あとは見藤幸也くんが色紙に寄せ書きをして、先生とクラスのみんな二十七人のメッセージが輪っかみたいなかたちで連なったんだ。
でも飯吉庚くんは、きょうも来てなかったの。
中能くんがララララ・ララララ・ラララインで飯吉くんに「みんなで矢良さんへの寄せ書きをしてる」「あした飯吉くんも書かない?」って伝えたんだけど、飯吉くんはほとんどノータイムで「ボクはいいよ」「みくりの病院は知ってるからいつでも話せるし」と返したんだ。
それでも中能くんは「代わりに書くからメッセージだけでも教えてくれないかな」と送って粘ろうとしたけれど、鹿出さんは中能くんの背中をポンポンして言った。
「しつこくすんなよ、美都風。飯吉とみくりのあいだになんかあるって分かんねえかな」
もしかすると鹿出さんも、飯吉くんが矢良さんの元カレだと知っているのかもしれない。
「無理に寄せ書きさせても飯吉もみくりもどっちも嫌な気分になるだけだろ」
「……そうだね、鹿出さんの言うとおりだ。僕は二人の気持ちを考えていなかったみたいだよ。言ってくれてありがとう」
こういう経緯で、飯吉くんをのぞくみんなの寄せ書きが完成した。
飯吉くんのメッセージだけがなくてその部分が空白になっているのはさびしいけれど、強制することもできないもんね……。
でね、寄せ書きを持っていくのは、矢良さんの病院を知っているわたしの役目になったよ。
中能くんたちにも「任せて」ってわたしは言った。
ただ、アヤメちゃんは寄せ書きの色紙をじっと見ていたんだ。
「こんしまちゃんは『日記は任せてね』って書いてるよね」
「うん……」
「気になるんだけど、この『日記』って?」
「あっ、それね……」
例の日記……つまりわたしが矢良さんから引き継いで今書いている「これ」については、とくに秘密にしてほしいとは言われてない。
だからわたしは、まだ教室に残ってくれている鵜狩くんにも日記のことを明かした。
もちろん「言えないこと」については伏せるけど……。
「かくかくしかじか。以上がわたしの『しまった』とかを記録する『今週のしまったちゃん』だよ……」
「へ~、みくりちゃんって、そういう日記つけてたんだ。自分じゃなくて、こんしまちゃんを中心に……」
「一年以上の日記か。それはとても重要な記録だな」
アヤメちゃんも鵜狩くんも、大仰にうなずく……!
心配そうにアヤメちゃんが言う。
「でもこんしまちゃんってあんまり日記を書くイメージないんだけど……みくりちゃんが元気になるまで続けられそう?」
「たぶん絶対だいじょうぶだよ……」
「アヤメ。俺もこんしまちゃんは心配要らないと思う」
優しく鵜狩くんがフォローしてくれた……!
「矢良がこんしまちゃんを信じて日記を託したんだから」
「そうだね。……ごめん、こんしまちゃん。疑うような嫌なこと言って。うん、こんしまちゃんならだいじょうぶだよね」
「鵜狩くん……アヤメちゃん……」
二人が信頼してくれてわたしはうれしかったよ。でも――。
「しまった」
首をひねる鵜狩くんとアヤメちゃんに口癖のわけを説明する。
「わたし……二人の言葉がうれしくて心のなかで舞い上がっちゃったの……このまま調子に乗ったらダメ……だからもっと心配していいよ……!」
「分かった。困ったときは、なんでも言って」
ツリ目を細めた鵜狩くん。
アヤメちゃんも細かくうなずいて言葉を継いだよ。
「アレなときはフォローするよ。なんならアヤメと日記勝負でもしよっか。それでモチベになるかも」
「ありがとう……二人とも」
そしてわたしは安心して、矢良さんの病院に寄せ書きを届けに行ったんだ。
心配されるのと信頼されるの、どっちが幸せなんだろうとか考えたりして。
でもどちらも、相手のことを思っているからこその気持ちなんだよね。
※ ※ ※ ♢ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:二回(累計二百二十九回)
次回「第五十六週 時計の針が狂ってしまった!(日曜日)」に続く!(七月三日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
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それにしても寄せ書きって字の大きさとかでも個性が出ますよね~。




