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第五十三週 しがない口癖を持ってしまった!(金・土曜日)

 女子高生・紺島(こんしま)みどりが「今週のしまったちゃん」の異名(いみょう)を保持できるのは「しまった」と週に一度(いちど)(くち)にするからだ。


 いわば「しまった」こそがこんしまちゃんをこんしまちゃんたらしめるものである……ッ!


 ではその必殺の武器にも等しい「しまった」が(うば)われてしまったら、こんしまちゃんは自分を維持(いじ)することができるのか……?


 今回はその「しまった」がおびやかされる話だ。

 こんしまちゃん史上、最大のピンチ……ッ!


※ ※ ※ ※ ♢ ♢ ※


 金曜日の放課後。

 矢良さんのいる病院を出たあと、こんしまちゃんは鵜狩(うかり)慶輔(きょうすけ)くんの弟であるクウガくんに出くわした。


 クウガくんが公園のベンチにこんしまちゃんをさそい、おこづかいで買った棒状アイスを差し出す。


「こんしまちゃんお姉さん、ほいアイス。買いすぎちったから、もらってよ」

「いいの……?」


「この前のアニキとのデート……よく考えたらおれ、空気も読まずにノコノコついてきちゃっておじゃまむしでしたよね。そのおわびってことで」

「おかげでお姉ちゃんもクウガくんと会えて喜んでた……むしろクウガくんが一緒(いっしょ)でよかったよ……」

「ま、まふゆお姉さん喜んでたんですか」


 赤くなってクウガくんが棒状アイスをこんしまちゃんのほおに当てた。


「とにかくとけますよ、ほいアイス」

「ありがとう……だったらもらうね、ほいアイス……」

「ほいアイスの『ほい』はアイスの名前じゃないですって!」

()()()……」


 なんか違和感(いわかん)はあるけれど、クウガくんからもらったアイスをこんしまちゃんがなめる……!


「冷たい……おいしい」

「うめーっ。って、こんしまちゃんお姉さん、アイスたれそう!」

「まった、まずい……」


 アイスが垂れ、こんしまちゃんの制服に落ちる……ッ!


 ――かと思いきや間一髪(かんいっぱつ)のところでクウガくんが左腕(ひだりうで)()ばし、()けたアイスをみずからの体で受けとめた。


「あぶねっ」

「助かったよクウガくん……まさに忍者(にんじゃ)でかっこいいね」


 それからポケットティッシュを取り出し、クウガくんの腕のアイスを()き取るこんしまちゃん。

 でもクウガくんは不思議そうな顔でこんしまちゃんを見つめ返す。


「あ、ありがとうございます。だけどさっきからこんしまちゃんお姉さん、なんか(へん)……」

「まった。知らずにクウガくんに変なことしてたならごめんね……」

「いや変なことはされてないですけど……って、それですよ、『しまった』じゃなくて『まった』になってんじゃん!」

「……まった。って、あれ?」


 これは――まずい。

 なんとかしなければ、来週から「今週のまったちゃん」にタイトル変更(へんこう)余儀(よぎ)なくされる……!


※ ※ ※ ※ ♢ ♢ ※


 歯牙(しが)()かれた野獣(やじゅう)の気分を味わいながらこんしまちゃんは帰った。

 結局「しまった」が回復することもなく、その()はベッドに横たわるなり(ねむ)りに落ちた。


 で、夢を見る。


 格好は体操着(たいそうぎ)

 あたりは見覚えのある体育館だ。


「ここは……以前『第一回(だいいっかい)人格バトル』をくりひろげた場所……わたしのなかに眠る別の人格たちと主人格の座をめぐってゼッケンを争奪(そうだつ)し合った舞台(ぶたい)……!」

「セリフが説明的すぎるよ……」

「ま、まった……って、あなたは……っ」


 目の前のフローリングにこんしまちゃんシリーズの一人(ひとり)の生首が置かれていた。

 正確には、小学三年生相当の「今週のうまったちゃん」がゆかにうまっているのだ。


「うまったね、こんしまちゃん……はてなき()()()()に」

「こんうまちゃん……っ!」


 (ひさ)しぶりに別人格と再会したこんしまちゃん。


「だけどこんうまちゃんの『埋没(フォーリンダウン)』は足までをうめる能力じゃなかった……?」

()()()()のこんしまちゃんが日々()()()しているようにわたしたちも強くなって()()()()()()()()()()のイスをねらっているの……」

「ほかのみんなは元気……?」


「まずは自分の心配をすべきだよ、こんしまちゃん……()()()()のシャツの前面を見て……」

「まった……っ」


 こんうまちゃんの言ったとおりにシャツを確認すると、そこにはなんの模様(もよう)もなかった。

 以前の人格バトルのときは「し」という文字が()かび()がっていたはずだけど……。


「わたしの『し』が(うば)われている……!」

「でも『し』と発音すること自体はできているので……とくに『しまった』の『し』だけを取られちゃった感じじゃないかな……」

「まった……いったいだれがなんの目的で……」


「ふふふ、犯人はこのわたしです!」

「なにもの……」


 こんしまちゃんも生首のこんうまちゃんも、声のしたほうを同時に見た。

 そこにいたのは、今のこんしまちゃんにもっとも近い顔を持つこんしまちゃんシリーズだった……!


 体操着のシャツには「ま」という文字が刻まれている。


「あなたはだれ……わたしも(ふく)むこんしまちゃんシリーズ全十六体に『ま』から始まる個体は存在しなかったはず……」

「当ててみなさい、正体を」


「今週のままったちゃん……?」

「どんな動詞を過去形にしたらそんな活用になるんですか。わたしが知ってる限りでは『ままる』なんて動詞は日本語にありませんよ」

「まった」

「そう、わたしの正体は()()()()『今週のまったちゃん』!」


 テクテク歩いてきた今週のまったちゃんは、こんうまちゃん生首のそばに(こし)を下ろした。


(おどろ)くのも無理からぬことですね。わたしは以前の人格バトルに参加していませんでしたし、こんうまちゃんとも(はつ)顔合(かおあ)わせです。どうも初めまして」


「はじめまして……わたしはこんうまちゃん」


「わたしも初めまして……あらためて、こんしまちゃんだよ。あなたの略称(りゃくしょう)は『こんまちゃん』でいいのかな……」

「わたしは文の区切りの記号(,)ですか。それに、ほかのみんなのように『四文字』プラス『ちゃん』がいいいです」


「まった……じゃあ『こんのまちゃん』で」

「それなら不服はありません。『こんまたちゃん』も候補(こうほ)でしょうが、それだと『こんたまちゃん』と区別がつきにくいですからね」


「だけど本当にこんのまちゃんがわたしの大切な『し』を奪ったの……?」

「ご名答」


「……こんのまちゃん自身が教えてくれたんだよ」

「し、まった」

「今の……っ!」


 こんしまちゃんもこんうまちゃんも、こんのまちゃんのセリフに(きょう)がくを示した。

 不敵に()み、シャツの(した)から「し」という文字がプリントされた布を引っ張り出すこんのまちゃん……!


「お(さが)しのものはこれですか、こんしまちゃん」

「ホントに犯人だったんだ……どうして今こんなことを……」

「ズバリ。人格バトルで無視されたことに対する復讐(ふくしゅう)です」


 あ(ぜん)とするこんしまちゃんへと、こんのまちゃんが「し」の布をヒラヒラさせてみせる……ッ!


「こんしまちゃんから『しまった』を奪えばかなりの精神的ダメージを見込(みこ)めるかと思いましてね。ちなみに今になって動いたのは矢良(やら)さんのしるす日記『今週のしまったちゃん』がちょうど一周年(いっしゅうねん)(むか)えるタイミングだからです。こんしまちゃん自身も()かれているでしょうから、その心の(すき)()きやすいと考えました」

「かなりの効果をあげてるよ……いつもの口癖(くちぐせ)が出せないだけでいつもより早く眠れちゃったから……」


「それじゃ快眠(かいみん)じゃないですか!」

「まった……っ。とにかく、ごめんなさい……」


 生首のこんうまちゃんと共にこんしまちゃんは頭を下げ、謝罪の意を(ひょう)した。

 こんのまちゃんはぷりぷりしている。


「許すまじ、こんしまちゃん。このままでは(はら)の虫が治まりません。そこで人格バトル特別編をおこないませんか」

「ルールは……?」


「わたし・こんのまちゃんとこんしまちゃんとの一騎打(いっきう)ちの勝負です。勝ったほうが主人格として降臨(こうりん)するんです。こんしまちゃんが勝てば『し』はお返ししましょう」

「受けるしかないみたいだね……」

「バトルの形式としては『あっち向いてほい』を指定します。これなら二人でやれますし、すぐに決着がつくでしょう。なお、こんうまちゃんには立会人(たちあいにん)になってもらいますよ」


「分かったあ……」


 こんうまちゃんの生首がうなずく。

 そんなわけで、人格バトル特別編のスタート……!


「じゃんけんぽん、あっち向いてほいっ」


 さっそくこんしまちゃんが勝利し、指を下に向けた。

 果たして、こんのまちゃんも下を向いていた……っ!


 ガッツポーズを作るこんしまちゃん。


「よし……わたしの勝ちだね……」

「ふふふ、『回帰(リスタート)』を発動」


 そんなこんのまちゃんの言葉を聞いた瞬間(しゅんかん)、下を向いていたはずの指が引っ込んでいた。

 こんのまちゃんの顔も正面を向いた状態に戻っている。


「じゃあ、あっち向いてほいを始めましょう」

「まった……もう勝敗は決したはず……」


 立会人の生首に、こんしまちゃんは声をかける。


「だよね、こんうまちゃん……」

「いや、まだ始まってないよ……」

「そんな」


「わたしもこんしまちゃんシリーズ。よって能力が使えるんですよ」


 こんのまちゃんがニヤリとする。


「能力名は『回帰(リスタート)』……時間を好きな過去に戻せる(ちから)です」

「……まった、強すぎる」


 気を取りなおしてあっち向いてほい……!

 またこんしまちゃんが勝ち、こんしまちゃんの指のほうにこんのまちゃんの顔が向かう。


「今度こそわたしの勝ち……こんしまちゃんシリーズの能力は一週間(いっしゅうかん)一度(いちど)しか使えないからね……」

「それはどうでしょうか」

「……はっ!」


 気づくと、こんしまちゃんの指はまた引っ込んでいた。

 こんうまちゃんに聞いても、まだあっち向いてほいは始まっていないらしい。


「ど、どうして……」

「簡単なことですよ。わたしは『回帰(リスタート)』で能力使用前の過去に戻っているわけですから、その都度使用履歴(りれき)がリセットされて毎度『回帰(リスタート)』を打てるようになるのです!」

「まったあ……っ」


 このままいけば、勝てるまでこんのまちゃんは時間を戻し続ければいい……ッ!


「……どうすれば」


 次のじゃんけんではこんしまちゃんが負け、こんのまちゃんが指を動かした。

 こんしまちゃんは上を向き、こんのまちゃんは右を指差している。


「とりあえず……しのいだ」

「あまいですよ、『回帰(リスタート)』……」


 場面はこんしまちゃんがじゃんけんに負けた過去に戻った。


「これなら負けはありえませんっ!」

「ままった」


 なんとかこんしまちゃんは相手の指をかわし続けるも、そのたびにこんのまちゃんが都合のいい過去に回帰する……ッ!


 当然ながらこんうまちゃんは何回もあっち向いてほいがくりかえされていることを知るよしもない。


「いや……まった」


 ここで、こんしまちゃんがとある重大なことに気づいた。

 さらに指をかわし、体を大きくかたむける。


 こんのまちゃんはまた外したけれど、回帰(リスタート)を発動。


無駄(むだ)ですよ、こんしまちゃん。また指差してあげましょう」

「ちょっとまった……」


 立会人のこんうまちゃんが戦いをとめる。


「今ので『ほい』が終わったから、またじゃんけんしないと……」

「え」


 驚き、こんのまちゃんは息をのむ。


「どういうことです。わたしの能力は間違(まちが)いなく発動したはず。……あ!」


 見ると……体を大きくかたむけたこんしまちゃんが、フローリングにうまっていたこんうまちゃんの全身をゆかの上に引き上げていた。


 こんしまちゃんはこんうまちゃんと(かた)を組んだ状態で言う……!


回帰(リスタート)破れたり……」

「な、なぜこんうまちゃんを。本当に回帰(リスタート)を無効化したというんですかッ」


「いいや、回帰(リスタート)は発動している……確かにあなたは能力を使って過去に戻っていた。けれど(ひと)つおかしなところがあった……それは、能力を受けたわたしが『戻される前の時間』を認識していること……でもこんうまちゃんはそうじゃなかった……」


 おびえるこんのまちゃんに、言葉を続けるこんしまちゃん……っ!


「つまりあなたの能力を全身で()びることができた場合に限り『戻される前の時間』が認識できるということ……これなら、過去に戻ってもこんのまちゃん自身がその事実を記憶(きおく)していることにも説明がつく……」

「か、からくりが分かったところで」


「そうかな……立会人であるこんうまちゃんの全身を引っ張り出して『戻される前の時間』をわたしたちと同じように認識してもらえば、たとえあなたが時間を戻してもこんうまちゃんが覚えている限り、あっち向いてほいの結果は()()()()()()()()()()()()……!」

「そ、そんな。こうなったらイカサマなしでやるしか」

「じゃんけんぽん」


 こんしまちゃんがじゃんけんに勝ち、指を右に動かす……!

 こんのまちゃんはみごと、同じ方向を向いてしまった。


 過去に戻っても、こんうまちゃんがさっきの結果を覚えていたので意味がなかった。

 ガタガタ(ふる)え、この状況(じょうきょう)をどうにか切り()けようとするこんのまちゃん……!


「まった、まった。こんしまちゃん」

「……だめ。なぜなら余分な『し』を手にした今のあなたは――」


 こんしまちゃんが主人格として(きび)しくさとす。


「今週のまったちゃんですらない……」

「し、まったあ~」


 肩を落とし、こんのまちゃんが涙目(なみだめ)になる。


「うう、負けは負けです。『し』はお返ししますっ」


 こんしまちゃんのシャツの前面に「し」の文字が浮かび上がった。


「無様に負けたわたしをどうするんですか……こんしまちゃんのなかから追放ですか」

「追放なんてしないよ……もとは今週のまったちゃん――こんのまちゃんを忘れていたわたしが悪いんだから。あらためて、ごめんなさい……」


 こんうまちゃんとこんしまちゃんの再度の謝罪を受け、こんのまちゃんが目をパチクリさせる。


「わたしもこんしまちゃんシリーズとしてここにいていいんですか」

「もちろん……」

「こんしまちゃんの寝首(ねくび)をかくためにチャンスをうかがっても……?」

「もちろ」

「そこは了承(りょうしょう)しちゃダメですよっ!」

「しまった……あ、言えた」


 瞬間、こんしまちゃんの視界が一気(いっき)に明るくなった。


※ ※ ※ ※ ♢ ♢ ※


 いつの()にやら土曜日。

 朝の光を()び、「しまった」という寝言(ねごと)と共にこんしまちゃんは目覚めた。


 こんうまちゃんとこんのまちゃんは()えなくなっちゃったけれど、夢の内容は覚えている……!


(本当に戻ったのかな……)


 気になったこんしまちゃんは、廊下(ろうか)でお姉さんのまふゆさんと顔を合わせるや、お願いした。


「お姉ちゃん……わたしに口癖(くちぐせ)を言わせてみて……」

寝癖(ねぐせ)ついてる」

「しまった……よかった」


 というわけでタイトルはそのまま――。


※ ※ ※ ※ ♢ ♢ ※


☆今週のしまったカウント:二回(累計(るいけい)二百二十六回)

次回「第五十四週 前向きな心で預かってしまった!(水曜日)」に続く!(六月十九日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)


いつもお読みいただきありがとうございます。評価やブクマ、感想等も励みになります。


今回で「今週のしまったちゃん」も一周年になります!

それと、あんまり後書きとかを書いていないと作者が生身の人間か疑われそうなので今回は多めに書きますね。


去年の六月九日に第一話を投稿して、ほかの作品とも並行させながら一回も休むことなく今回の第五十三話まで更新し続けることができたのは読んでくださっているみなさまのおかげです。改めて感謝を申し上げます。


正直、去年に一回目を投稿したときは「すぐネタ切れになるんじゃないか」とか「すぐ(作者の私の)心が折れるんじゃないか」とか思っていましたが、やってみると意外と続くものですね~。


実際は「今回こそ無理かもしんない」「なにも思い付かん!」「間に合うのコレ?」「もう書けん、限界」といった言葉が頭のなかに毎週のごとく去来していますが、やっぱり私はこの作品と作中の登場人物全員が大好きです。


途中サボらずに済んだのはこんしまちゃんたちの行く末を自分が一番見たいからでもあると思います。


ではこれからも更新頑張りますので、二年目もよろしくお願いします!

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