第五十一週 実姉と義弟(?)が出会ってしまった!(日曜日)
一週間に一度は「しまった」と言ってしまう女子高生・紺島みどりの交友関係はだいたいクラスメイトで完結している。
ただ、クラスメイト以外にも知り合いは存在するわけで――。
そのなかの一人が鵜狩クウガくんだ。
クウガくんはこんしまちゃんの彼氏の鵜狩慶輔くんの弟で、現在小学四年生……!
すでにこんしまちゃんは去年の十一月にクウガくんと出会い、親睦を深めているのだ……ッ!
そしてこんしまちゃんには紺島まふゆさんという姉もいる。
本来交わることのなかったまふゆさんとクウガくん――この二人が顔を合わせるとき、いったいなにが起こるのか……?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
日曜日の午後、天気は晴れ。場所は普通の公園。
鵜狩慶輔くんの弟であるクウガくんは、お兄さんのデートに同行していた……!
兄のデートに付き添う弟というのもめずらしいんだろうけど、まだ小四だし……それに肝心の鵜狩くんとこんしまちゃんが「クウガくんもよかったら一緒に遊ぼ~」ってノリなので別にいいのだ……ッ!
鵜狩くん兄弟は、どっちも少しツリ目。
でもあごのかたちが違う。
慶輔お兄ちゃんのあごがシュッとしているのに対して、弟のクウガくんのそれは丸っこい……っ!
そんな二人のもとに、日傘を差したこんしまちゃんが姿を現す。
相も変わらずウェーブのかかったくせ毛を持つ。
ベンチに座るクウガくんにほほえみを向けた。
「こんにちは、クウガくん……おっきくなったね……」
「あ、こんしまちゃんお姉さんこそお変わりなく。こんにちは」
瞬間、クウガくんがいたずらっぽい笑顔を返す……ッ!
「でもウチのアニキとデートだってのに、アニキよりも先におれに声かけてもいいんですかー」
「……しまった」
日傘をたたみ、鵜狩くんに向きなおるこんしまちゃん……っ!
「鵜狩くん……こんにちは」
「こんにちは、こんしまちゃん」
ただあいさつして名前を呼んだだけなのに、鵜狩くんもこんしまちゃんも心がほわほわしていた。
クウガくんがこんしまちゃんに追撃をかける。
「おれも鵜狩だからちょっとまぎらわしいですね。そこでこんしまちゃんお姉さん、アニキのこと下の名前でよんでみては?」
「へ……っ、きょきょきょ……っ」
ほおを染めながらも、この機をのがさずこんしまちゃんが攻勢に入る……!
「慶輔……くん……っ」
「え……み、みどりちゃん」
それを聞いて鵜狩くんも照れ、相手を下の名前で呼び返した……ッ!
といってもやっぱりいつもの呼び方のほうがしっくりくるので、結局「鵜狩くん」「こんしまちゃん」呼びに戻った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
気を取り直してこんしまちゃんがクウガくんに聞く。
「きょうはなにしたいかな……」
「まきびしの材料集め!」
いかにも忍者らしい提案だ。
クウガくんの声と共に鵜狩くんとこんしまちゃんは公園の木々の下を見て回ることにした。
なお、その公園のルールでは木から落ちた葉っぱや木の実を持って帰っていいことになっている。枝とかにくっついている葉っぱとかを取っちゃダメってことにもなってるけどね。
はしゃぐクウガくんを、鵜狩くんとこんしまちゃんはほほえみながら見ていた。
「見て見てアニキ、こんしまちゃんお姉さん! この葉っぱメッチャとがってて足のうらにささったらぜったいもんぜつしそうっ」
「――クウガ、指を切らないように気を付けて」
お兄さんの鵜狩くんが優しく声をかけた……っ!
だがここで、クウガくんの近寄った木の裏側から何者かが姿を見せた。
現れたのは、こんしまちゃんを上回るウェーブのくせ毛を持った女の人だ。
その正体をこんしまちゃんが口にする。
「お姉ちゃん……なんでここに……?」
そう、彼女こそがこんしまちゃんのお姉さんである紺島まふゆさん……ッ!
まふゆさんの格好は長そで長ズボンプラス帽子であった。
「いやちょっとフィールドワークしてたんだけど……あ、みどりは鵜狩くんとデートか~」
「お久しぶりです、まふゆさん」
かしこまって鵜狩くんがあいさつした。
彼にあいさつを返したのち、まふゆさんがきびすを返そうとする。
「ともあれ妹とその彼氏のデートに姉は不要。そんじゃねー」
「待ってください、こんしまちゃんお姉さんのお姉さん……?」
ちょっと疑問形っぽく言いながら、クウガくんがまふゆさんを呼びとめた……!
「おれ、鵜狩クウガです。こんしまちゃんお姉さんのかれしの弟なんですっ」
「え、そうなの。ちなみにお察しのとおりわたしはみどりの……こんしまちゃんの姉のまふゆです」
「まふゆお姉さん、あなたが木のかげにひそんでいたなんておれ全然気づかなかったです! お姉さん忍者なんじゃ!」
「……見破られたか」
実際は忍者じゃないけど、まふゆさんはノリよく答えた。
「そうだよわたしは極秘任務の最中だったんだ」
「やっぱりッ」
手をたたいて、クウガくんがまふゆさんに上目づかいを向けた。
「よかったらおれと、まきびしづくりの材料集めしませんか」
「……ちょっと待っててクウガくん」
いったんまふゆさんは鵜狩くんとこんしまちゃんの近くに寄って耳打ちする。
「フィールドワーク自体は急ぐものじゃないからいいんだけど、だいじょぶかなー」
「いえ。よかったらぜひクウガと遊んであげてください、まふゆさん。クウガも喜びますよ」
「鵜狩くん。それはわたしもそうしたいけど、クウガくん小学生だよね? 小学生の男の子と二十代の女子が一緒に遊ぶという絵面がなんていうか……めっちゃ事案感ない? 通報されたりしないかな。こういうのって合意があってもアウトの可能性が」
「お姉ちゃん……」
目を細め、こんしまちゃんがささやく……!
「きょうだい同士で遊んでいても、別に不自然じゃないと思うよ……」
「……きょうだい? わたしとクウガくんが?」
一瞬だけまふゆさんはポカンとしたが、直後ニンマリと笑った。
「あ、そゆこと~。確かに、それなら問題ないなー」
クウガくんのもとに走り寄るまふゆさん……ッ!
一方、あとに残された鵜狩くんが顔を赤らめる。
「こ、こんしまちゃん。クウガとまふゆさんがきょうだいってそれって」
「……しまったっ」
自分の言ったことの意味を理解し、一挙に体温を上昇させたこんしまちゃんであった!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
まふゆさんは木のそばでしゃがんだあと、クウガくんの右手のとがった葉っぱを見つめた。
「クウガくん、それまきびしにするんだ?」
「かっこよくてさっしょうりょくもありますからね」
葉っぱをポケットに収め、クウガくんがまふゆさんに近寄る。
「まふゆお姉さんはまきびしになにを使いますか」
「わたしは、そうだねー」
別の木の下を指差すまふゆさん。
「あれかな」
その先には、やわらかそうな葉っぱがちょこっとだけ散らばっていた。
意外そうな顔をしてクウガくんが首をひねる……!
「すげえやわやわじゃないですか? てきの動きをとめることには向かなそうですが」
「ふふ。クウガくんはまだ知らないようだね、あの葉っぱの威力を」
しゃがんだ体勢のまま、まふゆさんは移動してやわらか葉っぱを拾う。
「さわってみて」
「はあ」
受け取ってツンツンし、目を見ひらくクウガくん……ッ!
「すさまじいだんりょく……!」
「でしょう?」
「だけどこれじゃまきびしの意味がなくなるんじゃ」
「北風と太陽」
「えっ」
「確かに、とがっているまきびしで痛い目に遭わせるのも有効なんだけどそれだと相手も『なに○そ~』って意地になって進んでくるかもしんない」
「言われてみれば」
「そこで、あえて気持ちのいいまきびしを使う。踏んだときに足裏がめっちゃリラックスするヤツ。その心地よさに敵はあらがえなくなり、その場にとどまるしかなくなるね~」
「さすがまふゆお姉さんです」
ポケットからとがった葉っぱを抜き出し、捨てようとする。
「おれ、なにも考えていませんでした」
「……そういうわけじゃないよ、クウガくん」
まふゆさんは、クウガくんの手をそっと取った。
「やわやわまきびしで気持ちよさを味わわせることが有効な敵もいれば、とがったまきびしのほうを恐れる敵もいるはず。北風と太陽の話だってさ、本当に太陽だけが正しかったのかな。昔話のなかでは太陽が勝利したけど、相手によっては北風のほうが勝つ展開もありえたはず。もし北風と太陽に出てくる旅人が自分から上着を絶対に脱がないと心に決めていたのなら、結局は太陽も彼の心を動かせない。その場合は無理やり上着を吹き飛ばせるかもしれない北風のほうが有利とも言えるね」
「つまりまふゆお姉さんのまきびしも、おれのまきびしもそれぞれに強い場面があるってこと?」
「そうそう。だからクウガくんにはクウガくんのやり方を大事にしてほしいな」
「ありがとうございます」
クウガくんはとがった葉っぱを捨てるのをやめ、ポケットに入れなおした。
「にしても北風と太陽ってフェアじゃないですよね。無理やりやってもダメって話なんだろうけど、結局太陽が勝てたのって無理やりとかそうじゃないとか関係なく、ただ熱かったからでしょ。フェアな勝負するなら熱い風と太陽か……もしくは北風とキンキンに冷えた氷のかたまりで戦うべきですよね。同じ『じょーけん』でさ」
「……へー。クウガくん頭いいね。わたし考えもしなかったわー。確かに熱い風と太陽が戦ったら勢いよく熱風を吹きかける風のほうが有利だし、北風と氷のかたまりなら、まだ無理やり吹き飛ばせる北風のほうがワンチャンある。ありゃ、この場合……無理やり上着を飛ばそうとしない側のほうが不利になってるし」
しゃがんだ状態のひざに頬杖をつき、まふゆさんがうなずく……っ!
「ホントだ、おもしろい。そう考えると『太陽が旅人の上着を脱がすことができたのは無理やり脱がそうとしなかったから!』って教訓は破綻するね。『太陽が旅人の上着を脱がすことができたのは熱かったからだ! もし太陽に熱がなかったら穏やかな態度をとっても無意味だし、風にも太陽と同じ熱があったら風のほうが有利じゃないか!』ってこと。新説じゃないかっ」
「す、すみません。おれ、変なことを言っちゃって」
「いやいや変なことじゃないよー。すごいよクウガくん。そうだよね~、相手に行動を促したいときは『熱』ってのが重要なんだなあ」
「まふゆお姉さんにも熱ってあるんですか」
「そりゃあるよ(妹や弟に迷惑をかけられたいという根源的欲求が)」
ここでまふゆさんは、やわらか葉っぱを返そうとしたクウガくんを制止する。
「その葉っぱはクウガくんのまきびしにしたまえ」
「いいんですか」
「興味深い話を聞かせてくれたお礼」
「そういうことなら……」
そしてクウガくんはうれしそうにお礼を重ねた。
「なんかまふゆお姉さん、お姉さんのお姉さんって感じします」
「……そ、そうかなあっ」
ちょっとまふゆさんは照れてしまった。
すかさずクウガくんがたたみかける……ッ!
「よかったらまふゆお姉さん、おれのお姉さんになってください」
「なれると思う?」
「アニキとこんしまちゃんお姉さんがケッコンしたら」
「も~、クウガくーん。ませててかわいいじゃないか~」
互いに指を口元に当て、小声で笑い合う。
「じゃ、まだあの二人はベンチでよろしくやってるからわたしらもまきびし材料集めを続けよっか」
「うれしいですけど、だいじょぶですか。おれがさそっておいてなんですが、ごくひにんむにえいきょうしませんか」
「問題ないさっ」
立ち上がり、まふゆさんがクウガくんに右手を伸ばす。
「弟は、お姉ちゃんに迷惑をかけていい生き物だからねっ!」
「かっちょいい……!」
本当にかっこいいかはさておき、クウガくんは目をキラキラさせながらまふゆさんの手を取った。
そしてその様子をこっそり見ていたこんしまちゃんと鵜狩くんも互いに微笑し、口元に指をやっていた……っ!
ちなみにまふゆさんはあとで警察のかたに職務質問を受けてしまったが……鵜狩くんとこんしまちゃんとクウガくん自身がちゃんと説明してくれたのでなんとか事なきを得たよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
☆今週のしまったカウント:二回(累計二百十七回)
次回「第五十二週 人狼ゲームがグダってしまった!(月曜日)」に続く!(六月五日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
いつもお読みいただきありがとうございます。評価やブクマ等も励みになっております。
ところで小説家になろうでも投稿作品についてAIの利用状況の明示が求められるようになるので本作の後書きでもそのことに触れておきます。
最近のトータハーンの後書きにも同じようなことを書いていますが、本作「今週のしまったちゃん」やほかの曜日に投稿している「今週のしまったちゃん異世界ば~じょん」「ท(トータハーン)」を始めとする私の作品はすべてAIを使用していません。
アイデア出しも執筆も校正も最初から最後まで作者の私一人だけでやっているのでAI利用状況は「不使用」にあたります。
これからもそんなスタンスで執筆を続けていく感じですね~。




