第四十七週 理想的な旅行をシミュレートしてしまった!(金曜日)
週に一度は「しまった」と言う高校二年生、紺島みどりは一年生のころクラスメイトの子々津絵千香さんの相談に乗ったことがある。
すでに伴侶を亡くして久しい母方のおじいちゃんと父方のおばあちゃんが互いに結婚したいみたいだけどそれはみとめられるのか――これについて話し合ったのだ。
こんしまちゃんと子々津さんはネットで調べたりAIのラウェルさまに聞いたりして、おじいちゃんとおばあちゃんは結婚できるという解を得るに至った……。
それが去年の十月の出来事。
半年以上が経過した今、子々津さんの母方のおじいちゃんと父方のおばあちゃんとのあいだに進展はあったのだろうか……?
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
五月最初の金曜日。
昼休みに入ってから、こんしまちゃんは校舎一階はしっこの階段裏に移動した。
アヤメや和南くんといったクラスメイトと二人きりで話し合うときに使用してきたおなじみの階段裏だ。
そしてこんしまちゃんと共に、清楚な三つ編みの女の子も姿を見せる。
彼女こそが子々津絵千香さん。進級するに際してクラス替えはなかったので、相変わらずこんしまちゃんのクラスメイトである……ッ!
また二人きりで話したいことがあるそうだ。
子々津さんは近くにだれもいないことを確かめたあと、こんしまちゃんに今回の相談内容を明かす。
「どうかあたしと一緒に四泊五日の家族旅行をシミュレートしてくれない? ねねっ、このとおり」
手を合わせ、頼み込む子々津さん……っ!
こんしまちゃんは冷静に応える。
「もちろんいいよ……あしたから五連休だもんね……」
「ありがとう、こんしまちゃん」
合わせていた両手を子々津さんがそっと下ろす。
「それで今回一緒に行くのは、あたし・お父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃんの五人ね」
ちなみに子々津さんの両親は離婚しているけれど仲よしで、今も頻繁に交流しているようだ。
「定番の温泉旅行だよ。ちょっとずつ移動しながらゴールデンウィークの五日にわたって楽しむわけ。で……でさあ、そこで」
耳とほおを赤らめつつ、子々津さんが言いきる……っ!
「おじいちゃんとおばあちゃんがお互いに正式にプロポーズすることになってるんだ」
「それはとっても素敵だね……」
こんしまちゃんはすでに子々津さんから聞いている。母方の祖父と父方の祖母が恋愛的に好きという気持ちを告白し合い、互いにそれを受け入れたことを。
あれから二人はしばらく「付き合う」というかたちでデートを重ね、自分たちの気持ちが本当かどうかをじっくりと確かめたそうだ。
なお子々津さんはこんしまちゃんにそのことを打ち明けているけれど、信頼できる友達にならいくらでも自分たちのことを話していいという許可を祖父母からちゃんともらっている。
「本当によかったね、子々津さん……」
「うんっ。二人が幸せになってくれたらあたしもうれしい」
ここで子々津さんが自身の左右の指をからませる。
「ただ……旅行直前になって、あたし不安にもなっちゃって。おじいちゃんとおばあちゃんの気持ちは疑ってないけれど、万一うまくいかなかったらと……どうしても考える」
「その不安は、子々津さんが二人のことを一番に考えているからこそだと思う……」
こんしまちゃんは斜めに張り出した階段裏に背を向けた状態で背筋を伸ばす。
「まずは旅行一日目に出発しよう……みんなでテクテク歩いて温泉地に向かう……っ!」
「あ、あははー。さすがに徒歩では向かわないかな~」
「しまった」
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
気を取り直して旅行一日目をイメージする……!
まずお父さんが絵千香さんを連れて車を発進させる。
指定の場所でお母さんを乗っけたあと、おじいちゃんとおばあちゃんの同棲するおうちに向かう。
しばらくは五人でドライブ……ッ!
運転はお父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんが交替でおこなう。
* *
「みんな車を運転するのが好きなんだ。実際、運転も駐車もうまいし」
子々津さんは誇らしげにそう語った。
* *
で、午後三時ごろに最初の目的地である山麓の温泉旅館に到着する。
荷物を部屋に置いたあと、温泉につかる。
美肌効果のある温泉らしい……!
* *
「きっと温泉から上がったあと……」
途中でこんしまちゃんがさらにイメージを膨らませる。
「あらためておばあちゃんはおじいちゃんに見とれるんだろうね……」
「それだけじゃないかも」
子々津さんが笑ってほおに右手を添えた。
「おじいちゃんもおばあちゃんに見とれるはずだよ」
「考えてみればそうだね、両思いだもんね……」
* *
温泉のあとは卓球に興じる。
とくにおばあちゃんは卓球が得意なのだ。
ほてった体に気持ちいい汗を流しつつ、家族五人で盛り上がることだろう。
あとは部屋でひたすらゴロゴロする。
せっかく旅行に来たのにと言われるかもしれないけれど、せっかく旅行に来たからこそ時間を贅沢に使うのだ……!
で、部屋に夕食が運ばれてくる。
地元の山菜や川魚を中心とした料理に舌鼓を打つ。
それからまた温泉に入る。
ほかの宿泊客が増えてきたので、今度は卓球をスルー。
また部屋でダラダラと時間を流す……ッ!
敷かれたお布団にもぐり込んでいつもよりも早い時間に就寝し、一日目を終えた。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
旅行二日目のシミュレートに移る。
起床したあと、朝風呂につかってから朝食を済ませた。
五日間の旅とはいっても同じ旅館には一泊しかしないので午前のうちに次の目的地に向かい始める。
また四人で交替しながら車を運転する。
免許を持っていない絵千香さんはその様子をずっと後部座席から見ている。
* *
こんしまちゃんは家族みんなの笑顔を想像しながらうなずいた。
「それから子々津さんも、次の旅館に一直線だね……」
「まあ途中で寄るところはあるけど」
子々津さんはちょっと考えて、まばたきする。
「よかったら今からはあたしのこと、下の名前で呼んでほしいな。お父さんとおばあちゃんの名字も子々津だからちょっとややこしいし。ねねっ、ぜひ!」
「分かった……絵千香ちゃん……」
ちょっと距離が縮まったようで、うれしくなったこんしまちゃん……っ!
* *
昼ごろ、家族みんなでとある湖を訪れる。
白い遊覧船に乗り、キラキラ光る湖面を眺めた。
鳥たちが飛んでいるのを見つけたおじいちゃんがスマートフォンを構えて写真を撮る。
そのスマートフォンは写真撮影に特化したタイプであり、ブレもなくとても鮮明に対象を捉えることが可能だ。
それをおじいちゃんは、そばにいるおばあちゃんに見せる。
おじいちゃんの顔は湖よりもキラキラしている。
そんなおじいちゃんと鳥たちの写真を見ておばあちゃんも顔を輝かせるだろう。
遊覧船から降りたら、いよいよ二日目の温泉旅館へと車を走らせる。
ただしその旅館は湖の近くにある。
館内に卓球台はないけれど、代わりにきれいな湖を一望できた。
温泉は中性で、つかっているだけで落ち着く種類のものだ。
上がったあとおじいちゃんは、露天風呂に鳥が飛んできたけれど写真を撮れなかったと語る。その鳥の特徴も細かく伝える。
でもおばあちゃんは笑って、自分のところにも同じ鳥が顔を見せたと正直に言った。
一緒に入っていた絵千香さんとお母さんがその証人である……っ!
そこでおじいちゃんとおばあちゃんがほほえみ合い、もっといい雰囲気になるのだ。
* *
うっとりするこんしまちゃん……!
「鳥さんも自分たちを祝福している……ってお互いに言うのかな」
「んー、そういうことはあえて言葉にしないもんじゃない?」
子々津さんもまた、こんしまちゃんにほほえみかけた。
* *
二日目の旅館は、どっちかというと「ホテル」と呼んだほうがいい西洋風の外観だった。
食事も地元のものを無理に使わず、ひたすらおいしいものをビュッフェ形式で提供する感じだ……ッ!
泊まったのも和室ではなく洋室。
五人は、五つのベッドでグウグウ眠る……。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
なかなか順調に旅行の日程が消化されていき、三日目の朝が来る。
やはり朝風呂を済ませたあと朝食をとり、チェックアウト……!
また新たな温泉旅館を目指して車を転がす。
高速道路を抜けてから、ちょっと離れた山の中腹に車をとめる。
歩いて山を登っていく。
旅行者用のゆるやかなコースがあるしそんなに標高も高くないので、あんまりガチらずともラクに登頂できる。
おじいちゃんは写真を撮りながら山登りを進める。
頂上の広場に来たところで撮影した写真をみんなと共有した……っ!
相変わらず鳥の写真がほとんどだ。
かたちも大きさもポーズもさまざまである……!
さらにここでおばあちゃんもスマートフォンの画面を見せる。
そこには青っぽい鳥がブレたかたちで映っていた。
いい顔で鳥を撮るおじいちゃんを見て、自分もやってみたくなったとのこと。
おばあちゃんは「ヘタだったかな……」と遠慮がちに言ったけれど、おじいちゃんは「とっても素敵な一枚だよ」と褒めてくれた。
それでおばあちゃんの顔もぱあっと明るくなった。
で、五人は広場のベンチに座り、山登りする前に買っていたお弁当を食べる。
* *
実際にそんな未来が待っているかは分からない。
だからこんしまちゃんは旅行をシミュレートしながらも、これは現実に起こりうることなのか子々津さんに確認するのを忘れなかった。
当の子々津さんは、こんしまちゃんよりもよほど家族のことを分かっている。
「うん、ありありと想像できるよ。おばあちゃんもおじいちゃんもそういう優しくて魅力のある人だからね」
清楚な三つ編みをくしけずりながら、まるで自分のことのように照れる。
「でねっ、頂上の空気を吸いながら……あたしもスマートフォンのお絵かきアプリで絵をかくわけ」
「鳥の絵かな……」
「もちろんそれもだけど、一番は――」
もっと照れながら、子々津さんが言葉を継いだ。
「家族みんながそろっている絵を描きたい! で、今回は一緒に来られなかった母方のおばあちゃんのお母さんとかにも絵を送るんだ」
「きっと喜んでくれるね、絵千香ちゃんの絵だもんね……」
「あり?」
首をかしげ、いたずらっぽく詰め寄る子々津さん……っ!
「こんしまちゃ~ん。あたしの家族と直接会ったこともあたしの絵も見たことないのに、ずいぶん断言しちゃうんだね~」
「し、しまった」
「いいの、いいの。いい未来を想像してもらえてうれしいから」
子々津さんが上品に笑う。
「おじいちゃんとおばあちゃんの仲がうまくいかなかったらどうしよう……っていう一抹の不安が、心の底から取りのぞかれていくようだよ」
* *
頂上から山を下りて、車を転がし旅館に急ぐ。
三日目の旅館は古式ゆかしい伝統の感じられるところだ……!
無論、温泉もある。
血行促進や痔の治療などについての効能がみとめられているらしい。
卓球をするスペースもあったので、五人はさっそくラリーを始める。
長方形の台に限らず、真ん丸の卓球台もあった。
その真ん丸を五人で囲み、ラリーを百回以上続けることとなる……ッ!
小気味いい音と共に汗をしたたらせる。もっとも卓球が得意なおばあちゃんだけでなく、おじいちゃんもお母さんもお父さんも絵千香さんも全力で楽しむ。
ただし貸し切っているわけではないのでほかのお客さんの迷惑にならないよう、ほどほどにして切り上げる。
日が暮れてから料亭みたいなところで高級そうな和食を口にする……!
* *
このタイミングでこんしまちゃんが疑問を放つ。
「高級そうな和食ってどんなのかな……? ワサビとか……?」
「ワサビがついている可能性もあるけど、詳細は分からないみたい。一日目の旅館みたいに山菜とか川魚とかを出すかもしれないし出さないかもしれない」
そして子々津さんが目を細め、こんしまちゃんへと疑問を返す……!
「というかこんしまちゃん、相変わらずララララ・ララララ・ラララインやってないんだよね? やってたらあたし、画像とか送るんだけど」
「ありがとう……絵千香ちゃん。でもわたしは、ララララ・ララララ・ラララインをやらないことに決めてるんだ……別にアンチとかそういうのじゃないよ……」
「まあそこはこんしまちゃんの自由だよね」
基本的にこんしまちゃんは物事に対して全肯定のスタンスだけど、要所要所で絶対に曲げない自分を見せたりもするなあと子々津さんは思った。
「――みんながやっているからって必ずしも無理にやることはないし」
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
いいにおいのする畳と布団のなかで、四日目の朝を迎えた。
だが天気は雨……ッ!
季節外れかは知らないけど家族みんなはその日の夜にちょっとした花火大会を見る予定だった。よって絵千香さんが焦る……!
* *
「ど、どどうしよう……っ」
さしものこんしまちゃんも焦燥を顔に浮かべる始末……っ!
「こうなったら雨乞いを……」
「落ち着いてこんしまちゃん。逆に雨がやまなくなるよ」
「しまった……」
「いや、その気持ちはとてもうれしいからね。とにかく、こういうときはラウェルさまを頼ろう」
ラウェルさまとは、ララララ・ララララ・ラララインに搭載されているAIだ。
きょうの献立から将来の夢のことまでいろいろなことを相談できる。現におじいちゃんとおばあちゃんの結婚について考えるときもお世話になった……!
子々津さんはスマートフォンを右手に持って話しかける。
「ラウェルさまラウェルさま、起きてますか」
『お昼寝中です』
以前よりも流ちょうな声でラウェルさまが冗談を言う。
『ともあれご主人さま、わたくしにご用命でしょうか』
「四日後……五月五日の天気は分かります? 場所は――」
『――分かりますよ。午前中だけ雨ですね。午後からは晴れます』
「そっか、よかった」
胸をなで下ろす子々津さん。あとこんしまちゃん。
ラウェルさまも喜ばしげに笑い声を漏らす。
『なるほど、ご家族でご旅行ですか。それで天気を気にしていらっしゃったと。どうやら現在地の天気予報をもとに雨が一日中降ると予想したようですが、旅行先の地方に関しては六日も晴れですのでご心配なく』
「さすがラウェルさま、察しがいいですね」
『ご主人さまの検索履歴から家族旅行を計画していることは明らかでしたからね。ぜひとも、よい思い出を作ってください。じゃ、わたくしはお昼寝に戻ります』
「はい、ありがとうございました。ラウェルさまもいい夢を見てください」
子々津さんは画面に向かって頭を下げた。
* *
ともあれ雨がやむまで、外での行動は制限される。
旅館から車を出した一行は新たな温泉旅館に向かう道の途中で地元の歴史資料館を見つけた。
そこに入ってみる。
写真撮影はNGだったのでそれぞれ巻物とか出土品とかを網膜に焼きつける……!
午後、車を走らせているところで雨がやみ始める。
太陽に照らされる雨粒や水たまりを見てみんなが喜んだ。
そんな、いい雰囲気のなか旅館に着く。
四日目の旅館はこの旅行で最後に泊まる場所。
周辺は急な坂であり、ちょっと懐かしい感じの町並みが続いている。
そこを道なりに進んだ右手に目当ての旅館が構えられていた。
温泉はシュワシュワしており、つかった瞬間に肌を刺激してくる。
なんか元気にさせてくれる泉質だ。
このパワーをもらった状態で、いったん外に出る。
貸し出されていた浴衣を着て花火大会を見に行く。
やっぱり時期が早いかもしれないけれど、町にはちょくちょく浴衣を着た人がいた。
しばらく五人で花火を見たあと、ひとけの少ないところに移動する。
おじいちゃんとおばあちゃんを二人きりにして絵千香さんとお父さんとお母さんはその場を離れる。
あとはお互いにプロポーズするわけだけど、のぞき見なんていう無粋なマネはしない。
また合流したときの二人の顔を見れば、結果はすぐに分かる。
果たして絵千香さんの視界には――。
夜の花火に照らされるおじいちゃんとおばあちゃんの静かな笑顔が映っていた。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
とうとう旅行最後の五日目が訪れる。
シュワシュワした温泉につかって部屋に戻ってきたおじいちゃんとおばあちゃんに、あらためて絵千香さんがきのうのプロポーズの結果を聞く。
お父さんとお母さんも耳をかたむけるなか、おじいちゃんとおばあちゃんは結婚のプロポーズを互いに正式に受け入れたことを明かす。
最初におじいちゃんがプロポーズしたあと、次におばあちゃんがプロポーズをしたそうだ。
みんなは「おめでとう」「おめでとうございます」と祝意を述べる。
ただし、この場にいない家族や親戚には本人たちがじかに伝えるとのこと。
あとはチェックアウトギリギリまで部屋でゴロゴロしてから旅館をあとにする。
高速道路も利用して、絵千香さんたち五人は帰る。
やはり四人で交替しながら運転した。
旅行あるあるだけど、過ぎ去ってみればあっという間だった。
おじいちゃんとおばあちゃんを降ろし、お母さんとも別れ、絵千香さんはお父さんと共に帰宅する。
荷物を自室に置いて着替えたあと、絵千香さんはベッドに沈む。
うつ伏せになって枕をだいて、右に左に転がる……ッ!
もちろん、この旅行が成功したとしても母方のおじいちゃんと父方のおばあちゃんのことが今後もすべてうまく進展していくとは限らない。
これからどんな未来にしていくかは当の二人が決めることだ。
そうだとしても二人の孫として絵千香さんは、喜びを抑えられなかった。
今を生きている二人だけでなく、亡くなった母方のおばあちゃんと父方のおじいちゃんのことも思っていた。
自分は死ぬまで幸せだったから自分のパートナーもそうであってほしいと願った二人のことを。
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
「ひとまずこれで四泊五日の家族旅行のシミュレーションは完了だね……」
こんしまちゃんの穏やかで落ち着く声が階段裏に響く。
「絵千香ちゃんの母方のおじいちゃんと父方のおばあちゃんが幸せになることを……わたしも心から願ってるよ……」
「本当にありがとね」
子々津さんが、少しだけ涙ぐむ。
「おかげで不安も晴れたよ。絶対にうまくいくよねっ、ねねっ」
「うん……きっと」
この返しは無責任でもあるかもしれない。
けれどこんしまちゃんは子々津さんとその家族が不幸になってはいけないと強く思った。
そんなこんしまちゃんを子々津さんが真剣に見つめる。
「ところでこんしまちゃん……あたしに、なにか返せるものってある?」
「返す……? わたし、絵千香ちゃんに借りてたものあったっけ……」
「相談に乗ってくれた。去年もだよ。相談料くらい払いたい。といってもジュースをおごる程度じゃ足りない気がする」
「絵千香ちゃんはわたしがお弁当を忘れたときにからあげをくれた……」
「だとしても、まだ返しきれない――」
ここで子々津さんの動きがとまる。
「だったら……こういうのは?」
三つ編みを整えなおし、こんしまちゃんと再度目を合わせた。
「あたしの夢は――いや野望はウェディングプランナーになることなんだけど、もしこんしまちゃんと鵜狩くんが結婚するときは最高の結婚式を用意する」
「けけけけ……っ、けっけ……っ!」
一瞬にしてこんしまちゃんが赤くなった……っ!
子々津さんは慌てて言葉を引き取る。
「ご、ごめん。もちろん今どき結婚が絶対じゃないことも分かってる。だけど望むなら、あたしはこんしまちゃんにも幸せになってほしい」
「ま……まだ、そういうことは分かんないけど……」
もじもじしながら呼吸を整えるこんしまちゃん。
「も、もしだよ……もしそのときが来たら……絵千香ちゃんにいろいろ頼んじゃおうかな……」
「よし、承りましたっ!」
両手を数回たたいて子々津さんがうなずいた。
最後に、昼休みが終わる前にこんしまちゃんが問う。
「だけど絵千香ちゃんは……どうしてウェディングプランナーになりたいと思ったの……?」
「おじいちゃんとおばあちゃんを見ていたら、いつの間にかね」
子々津さんが、清楚な三つ編みを胸の前でいじる。
「なにかを望んでいる人には、その幸せを実現してほしい。一緒に未来を歩んでいきたいと互いに願う二人がいるなら、絶対に幸せになってほしい。あたしには、そういうエゴがあるんだ」
「みんなのことを思う、とっても優しいエゴなんだね……」
「それは矛盾では?」
「しまった……」
「でも、いいかもね。そういう感じでね」
ふふっと笑う子々津さん。
「きっと、あたしがだれかの幸せを考えて……それを勝手に計画しても、なにもかもがうまくいくとは限らないんだ」
こんしまちゃんのほうに振り返り、一緒に階段裏から出ようと促した。
「幸せだって押しつけちゃいけない。だけどだれかの幸せを願うことが悪いことだなんて、あたしは思いたくない」
「わたしもだよ……」
ゆっくりと、こんしまちゃんも移動を始める。
「みんな幸せであってほしい」
「そうだね」
廊下に戻るとき、子々津さんの三つ編みとこんしまちゃんのウェーブのかかったくせ毛がふれ合った。
階段裏に響いていた二人の声も、徐々に小さくなっていく。
「――ところでこんしまちゃんはゴールデンウィーク予定ある?」
「あるよ、えっとね――」
※ ※ ※ ※ ♢ ※ ※
☆今週のしまったカウント:四回(累計二百回)
次回「第四十八週 両手のやり場に困ってしまった!(木曜日)」に続く!(五月八日(金)午後七時ごろ更新)
いつもお読みいただきありがとうございます。評価やブクマ等も励みになっています!
それにしても旅行というのはちょっとした冒険なのかもしれませんね~。




