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誰かが焼いた世界に自分だけの家を建てる

「納屋が燃えてるぞ!」


「武器を持て!圧政者を迎え撃て」


「俺はサイロの様子を見てくる!畜生、親父はこんな時にどこ行った!?」


新露軍のsu24戦闘爆撃機が無誘導爆弾で次々とニシス族の重要施設を破壊してゆく。


何機かのMi24が上空へ上がっては、空対地ミサイルに撃ち落とされて行った。


混乱に乗じて誰にも気付かれず地下室から脱出していた班長とナスタチウムの2人は、草葉の陰で死んでるように身を隠していた。


「大慌てだね、文字通り家に火が付いてるから」


「さっきのスホーイ、翼下に焼夷爆弾を吊るしてやがった。焼きバナナになる前に逃げた方がいい」


誰もこちらを見ていないことを確認すると、速やかに撤退を行う。


事前に計画していた通り、北の方角にある森の方へ逃げる。


「まずい屈め!」


班長の声と同時に曳光弾が頭上を通過した。


装甲車を伴う機械化歩兵の集団が、徒党を組んで突撃してくる。


「気付かれた?」


「いや、弾は上に逸れてる。俺達を狙ってない」


イワンの居た家に向かってロケット弾が連射されて、業火に焼き付くされる。


「TOS-1だ、あんな物まで」


サーモバリック弾頭搭載の多連装ロケット車両だ。


装甲車両を殆ど持たないニシス族相手には充分過ぎる程の火力だ。


間違いなく今夜ニシス族は地上から消え去るだろう。


「合流地点に急ぐぞ」


向こうで絶滅戦争をやってる間に歩いて登って隠れて走った。


信じられないほど呆気なかった。


旧ソ連時代に築き上げた諜報網を潰し、あらゆる組織を巻き込んだ男は何も語らなかった。


いや、語れなかったのかも知れない。


濡れた地面を慎重に進んでいると、近くで銃声が響く。


「次から次へ誰が撃ち合ってるの?」


「多分ニコライだ」


ギリースーツを脱ぎ捨て身軽になると、銃声の鳴る方へ向かった。


敵集団は8~10人の分隊規模で、岩陰に隠れるニコライは敵の火力を真正面から浴びていた。


その側面から忍び寄り、最適な位置で攻撃を準備する。


相手よりも斜面上側、見下ろせる位置に立つと、手信号の合図で同時に攻撃を開始する。


お互いに初弾で一人づつ仕留め、反撃しようと遮蔽から身を乗り出した男を班長が倒した。


思わぬ方向からの銃撃に不意を突かれ、敵は3人目の損害を出した辺りで後退した。


「班長ですか!」


「ニコライ!そっちに行くから撃つなよ」


再会を喜ぶなんて仰々しいことはせず、互いに状況を報告し合う。


「狙撃銃は放棄しました。逃げ回るのに邪魔で」


「こっちはイワンを始末した。後は帰るだけ」


「帰る時が一番怖いんだよ、通勤中よりも帰宅の方が事故率は高いって統計もある」


「へぇ、そうなのか」


「ホントホント、USOの大学論文で出てた」


「嘘じゃねぇか」


雨は上がり、寒さだけが地上に残る。


さっきの連中に追跡されないよう、地面に付けた足跡に沿って数歩戻り、岩上を歩いた。


初歩的なテクニックだが時間稼ぎになるだろう。


森は不安の象徴だ。


少なくとも私の文学では森という存在は畏怖すべき対象である。


私達はその腹の中で蠢いていた。


先頭を進んでいた班長が拳を上げて停止を促す。


「レーニンは?」


「ブタ野郎!」


合言葉で互いに味方であることを確認しつつ、警戒しながら道路へ近付く。


車番をしていたルカ、ピョートル、ウラジミールの3人と合流した。


「車を出してくれ!」


この間ロシア人から借りたキャデラックのSUVに全員で乗り込んだ。


敵に探知されないようヘッドライトとテールランプを塞ぎ、一切の光源を出さないように移動する。


頼りはこの型落ちの暗視装置だけだった。


「ああ畜生、ちゃんと見えてんのかそれ」


ふらふらヨタヨタと移動するピョートルの運転技術にルカは不安の声を上げる。


「見えてるよクソ、焦点距離が変なんだよ。もっと性能良いの買えば良かったんだ」


「文句言うなよ!暗視装置がオニギリみたく、そこらにコロコロ転がってる訳ねえだろ!」


「オニギリがそこらに転がってる訳もねえだろ!」


「おしどり夫婦のお二方、喧嘩はおよしになって」


「「うるせぇ、縛って売り飛ばすぞ!」」


「やっぱ仲良しじゃん」


ルカとピョートルの喧嘩芸に見事ツッコミ切ったナスタチウムは、満足げに笑みを浮かべた。


そこで全てが真っ暗になった。


長いような一瞬経ったような感覚に襲われる。


脳震盪、ぐらつく視界を叩き直すと上下逆さになった車内にある銃を握った。


「何が起きた?」


車体に弾が当たる音が響く。


撃たれている。


脱出しなければならない。


窓から這い出ると、木々の生い茂る森へ走り出す。


その直ぐ後ろで土が跳ね上がり、重い金属音が頭に染み込む。


戦闘ヘリの機関砲だった。


辺りを見回すと、班長達が近付いて来る敵に向かって応戦しているのが目に入る。


頭が整理出来てきた。


多分、あのヘリからロケットかミサイルで狙われたのだろう。


それで奇跡的に助かったらしいのだから悪運は尽きていないようだ。


何処に隠れていたのか知らないが、あのヘリの悪運も強そうだ。


生い茂る木々に視界が遮られているお陰で、機関砲の射撃が外れている。 


「右から回り込んで来るぞ、対応しろ!」


AS Valで回り込んで来ている敵を銃撃する。


だがサプレッサーで音は最小限に抑えられ、弾倉に20発しか入らないこの銃ではサプレッション効果を充分に発揮出来なかった。


手榴弾を投げたが、樹木に当たってあまり良い位置に落ちなかった。


火力で押されて10m先まで接近されてしまう。


悪いことは立て続けだ、更に最悪な事態に陥る。 


「ウソでしょ詰まった!?」 


こういう銃身をサプレッサーで覆い尽くした銃は熱が籠りやすい。


連続射撃によって薬莢が膨張し、排莢不良を起こしていた。


槓桿を引いて薬莢を強制排出しようとするが、薬室内で詰まって取り出せなかった。


「頭下げろ!」


ウラジミールが機関銃の銃口を横薙ぎに振って3人倒した。


その直後、機関銃ごとグレネードランチャーで吹き飛ばされた。


ウラジミールの襟首を掴んで木陰に引きずり込み、傷の様子を見るが首元がパックリと裂けていた。


ほぼ即死したような状態だった。


ルカとピョートルが正面の敵を食い止めているが、機関銃火力を失った今、最早限界だった。


班長とニコライが駆け付け、ウラジミールの状態を見る。


自分が判断した時同様、死んでいると結論付けた。


「もう逃げるしかないぞ」


「殿は?」


「俺達だ」


その微笑みが目に焼き付く。


これが生き残る手段なのだ。


「行けよ、誰かが苦しんで貰わなきゃ困るんだ」


ナスタチウムは瞬時に決断し、全員を置いて独り山奥に姿を消した。


「最高だな」


「確かに、女を助ける為に死ぬなんて最高の死に方だ」


「コテコテだ、一昔前の映画じゃあるまいし」


「砲撃で圧殺されるよりかマシさ」 


上空の戦闘ヘリは低空でホバリングしながら機関砲で追い詰めようとする。


我々にヘリを落とす武器がないことは、もう悟られているようだ。


「敵に接近する、ヘリの火力を封殺するぞ」


向こうだってデンジャークロースは躊躇う筈だ。


「近接戦に持ち込んでぶち殺せ!」


ニコライの援護射撃で3人が木陰から飛び出す。


敵弾が頬を掠め、腹を熱い鉄が突き破るような感覚が脳ミソにダイレクトに響いた。


班長は血を流しながら地に伏せる。


「クソ……」


被弾した、だがまだ動ける。


片手でライフルを構え撃った。


ルカは1人を倒したが、敵の集中砲火を浴びて蜂の巣にされた。


その光景を見たピョートルが、最後の弾倉を装填して弾数も気にせず撃ち続けた。


「ルカ!」


ピョートルの胸に大穴が空いた。


ニコライは必死に戦ったがヘリの機関砲で引き裂かれ、血煙になって消えた。


それと同時に森は暗闇を取り戻す。


恐らく私がこれから最後に見るのは閃光、銃口から発射される銃弾で終わる。


目を瞑りやしない。


「こいよソ連の亡霊、俺をレーニンに会わせろ」


強烈な閃光が風と共に訪れる。


巨大な火の玉が地上から沸き上がる様子に目を焼いた。


これはマズルフラッシュの炎などではない。


どうやらニシス族は考えるうる中で最も最悪なシナリオを選んだようだ。


奴等が何故、核武装に踏み切ったのかが今なら分かる。


欲しかったのは独立や自由ではなく尊厳だったのだ。


木々はしなり曲がり、動物は空に舞い、辺りに色んな物が落ちて来た。


目の前にいたロシア人達は吹き飛ばされ、ヘリは豪風に煽られ墜落した。


「帰ろうか」


遠くに見えるキノコ雲が視界から消えた。




爆発後の世界にて



「この野郎、俺を米俵みたいに担ぎやがって」


「私はおなごですよ」


ナスタチウムは班長を民家の前に停めてあったトラックに押し込んだ。


付けっぱなしのキーを回してエンジンを掛け、黒煙をマフラーから吹き出しながら不安定な唸りを上げる。


民家の中から誰か出てくるかとも思ったが、住民は出てこなかった。


放射性降下物を恐れてトラック泥棒をとっちめる気が湧かないのか、もう既に逃げ出しているのか。


「はぁ………」


長い距離班長を担ぎ歩いたせいで背中と足が痛む。


疲れていてお互い口が利けなかった。


窓ガラスに首を凭れて半分眠りながら運転する。


道脇に出来た水溜まりに朝日の顔が反射する。


「私の父親、政治家だったんだよね」


唐突に始まった身の上話は何かの合図にも思えた。


「そして社長令嬢の母との政略結婚で産まれたのが私って訳、何処へ行くにも運転手付きのセンチュリーに乗った小生意気なガキ」


懐かしみを込めた表情を浮かべつつも、思い出の回想には自嘲するかのような言い回しをする。


「悩みなんかナンにもない生活だったよ、たまに脅迫状来たりしたけど全部父宛だったし」


世襲議員として政界入りした父は選挙に強い政治家として有名だった。


金の使い方が上手く、グレーなやり方で味方も敵も増やすのに秀でていた。


安全保証関連には特に熱心で国防大臣時代に起きたビルマ動乱の際には、反政府勢力への空爆強化を総理へ進言したと聞いている。


ただその時、軍が旅客機を誤射してしまい、左翼の文化人やノンポリ層から批判を浴びた。


マスコミからフィリピン戦争頃に逆戻りだと叩かれ、総辞職となった。


そんな逆風の中で行われた選挙中だった。


「どっかのバカテロリストが演説台に仕掛けてたんだよ、爆弾」

 

至近距離から炸裂した手製爆弾には、200個のベアリングボールが仕込まれていた。


父は真っ二つに千切れ、会場で演説を聴こうと集まった聴衆も被害を受けた。


一生歩けなくなったり、両目が潰れた人も居た。


私はこれだけ酷い事件が起き、民主主義を脅かす出来事に脅威を感じる筈だと思っていた。


「でも世論ってヤツはさ、父が死んだことが嬉しかったんだ」


フィリピン戦争で学び軍事独裁制から脱却し、デモクラシーを選んだ筈の民衆は当然の報いだと声を上げた。


「夜中に電話が毎晩掛かって来て、天罰が下ったとか俺達の税金を無駄にしたから死ぬのは当然って嫌がらせが来るんだ」


国民が立ち上がったって革命家気取りの連中が居るんだ。


「そりゃさ、父に罪がないなんて言うつもりないよ。でも、それで暴力が罷り通るならこっちだって手段は選ばないよ」


「……それがCIRAに入った理由か」


「暴力を行使する者は、より強い暴力に封殺される」 

 

お前達がこのシステムの恩恵に気付かないのなら、気付かせてやる。


私も同じクズに成り下がって、暴力でお前達を皆殺しにしてやる。


「私が独裁者になった時、アイツらがどんな理論で正当性を主張するのか楽しみだよ。演説台に仕掛けた爆弾の前には無意味なのにね」


班長はナスタチウムの個人闘争の目的を悟った。


「そんな話をするってことは俺はもう駄目らしいな」


流れ出る血はもうあまり残されていない。


そして今まで全てをひた隠しにした来た女が、全ての感情をさらけ出した意味を理解する。


「さよなら戦友、貴方は愛国者だ」


班長は息を引き取った。

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