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報復の報復の報復

隠れ家にて



車の中からじっと見つめる先にあるその隠れ家は、ソビエト内に点在するセーフハウスの1つであった。


「何か変化はあったか?」


「いや何も、そっちはどーだった?」


30分ほど100m手前から観察した後、班長が周辺をぐるりと回って待ち伏せが居ないかを確認した。


「後ろの方の森も調べてみた。まぁ何もなかった」


「ほんじゃ行こっか」


ナスタチウムは車のドア枠を支えに降車し、銃を片手に隠れ家へ向かう。


強めの痛み止めを飲んだお陰で多少はマシになってはいるが、それでも酷い痛みだった。


「大丈夫か?」


「5.45mmは五臓六腑に沁みわたるね」


「ああそうかよ、そのうちベートーヴェンみたいになるかもな」

 

「誰が鉛中毒だ」


家の壁に張り付き、ドアノブをゆっくりと回す。


少し開けてワイヤーが仕掛けられていないか確認する。


「援護しろ」


班長は散弾銃を構え、室内へ突入する。


それと同時にナスタチウムも突入して班長の死角をカバーする。


そして入って直ぐ違和感に気付く。


殺風景で生活感を感じないリビングに、土で出来た足跡が無数に家の奥へ延びていた。  


長く使っていない筈の場所に人の痕跡がある。


「レーニンは!」


班長の声に反応して返答が来た。


「クソ野郎!」


ニコライが姿を見せると、どうせ生きてると思ってたと互いに憎まれ口を叩いた。


「他に生き残ってるのは?」


「ウラジミールとルカとピョートル、これ以上に無いぐらい最悪だ」


「聞こえてるぞ!」 


奥で床に腰掛ける3人の誰かがそう叫んだ。


「もう帰国か?」


帰国だと、おめおめと帰れと?ふざけるなよ。


やり遂げなければならない、たとえ私独りだけでもイワンを仕留める。


「まさか、まだ続けるぞ」


班長の言葉に冗談でしょうと皆顔に表情を浮かばせる。


「目星は付いてる。残りのイワンは2人、ニシス族の方を殺す」


これまでの情報と照らし合わせてみれば、ナスタチウムが狙っているのはニシス族のイワンで間違いない。


「ウラル山脈南部に奴らの総本山がある」


その場所は、ニシス族がソ連に故郷を追われて強制移住させられた土地だった。


鉱山労働者として働かされ、その多くが命を落とした。


彼らの元住んでいた場所は数百回に及ぶ核実験によって、住める環境ではなくなっている。


ニシス族にとっては酷い扱いを受け、同族の血が山を覆い尽くす程流れた土地であってもそこが故郷なのだ。


そこから離れることはもう出来ない。


「俺はあんたと10年は一緒にやってきた。だから命令するならそれに従う。だがこの女に命令されてるなら話は別だ!」


ルカはナスタチウムを指差し、そう怒鳴った。


班長は話してやれと目線をやると、ナスタチウムはアパートでした内容をもう一度話した。


言いたいことはあっただろう。


それを堪え、黙ってその現実味と突拍子も無い話を聞き続けた。


ウラジミールは静かにそれを受け入れた。


ニコライは腕を組んで床板を見詰めた。


ピョートルは相棒の顔を伺っていた。


ルカは完全に納得せず、ふて寝を決め込んだ。


「あれどういう意味?」


「付き合ってやるよってことさ、準備を始めよう」


一同は、その翌日にウラル山脈南部へ向かった。


メドノゴルスクに情報収集拠点を設置し、敵情を把握する。


核兵器貯蔵施設を見付けるのはさほど苦労はしなかった。


本部が衛星写真で目星を付けた施設を我々で監視する。


核兵器の整備保守点検には専門家が必要になる。


ニシス族は情報漏洩の可能性を排除するために、警備から作業員まで全ての人員を同族で固めていた。


少数民族の物理学者や核兵器の整備を行える作業員となると、もっと少なく特定もしやすい。

 

そいつらが頻繁に出入りする施設を片っ端から潰せば、核兵器の貯蔵場所へ辿り着ける筈だ。


問題はイワンの方だ。


どんな顔をしていて、どんな格好をしているのかが判らない。


あの女にはそれを見分ける方法でもあるのだろうか。


訊いても血を見れば判るとはぐらかされる。


こうして1週間に及ぶ偵察を行った結果、判明したのは予想通りの結果だった。


5人では無理だと言うことだ。


「我々の最優先目標はイワンの排除、可能ならニシス族が保有する核弾頭の無力化も行う」


「自分で言っててナンだが、どう考えても無茶だな」


ボードに張り出した偵察写真と情報を整理しながら、そうボヤいた。


ウラジミールは全ての目標を達成するには、砲兵と機械化歩兵が大隊規模で必要だと話す。


「だが今叩かなければならない。ニシス族は核弾頭を保有しているが、それを飛ばす為のミサイルは持っていない」


班長はアストラハンの港でドイツ人と取引した時に語った話をその根拠に上げる。


「奴らは濃縮ウランと引き換えにMRBMを調達しようとしていたがドイツ人に阻止されてる」


核抑止力とは裏を返せば、敵国の都市を何時でも破壊出来る力だ。


ニシス族にとっては、これから独立の妨げになるであろう新露軍を牽制さえ出来ればいい。


だが奴らがもっと射程の長いミサイル、例えばICBMを持てば、満州は愚か日本本土を射程圏内に納める事になる。


霞が関の連中もそれを懸念して俺達にこんな無茶を押し付けてきたのだろう。


「いっそのこと新露軍に全部押し付けちまうのはどうだ?」


ピョートルの投げやりな思い付きにナスタチウムは反対する。


「さっき言ったこともう忘れた?技術だけ持ってかれてオシマイ、新露軍はソ連以上の超大国になる。産業を牛耳られるぞ」


「……話が逸れたな襲撃の計画に戻そう」


ニシス族は核兵器貯蔵施設と思われる場所3ヵ所に、常駐の警備を300人以上配置していた。


DShKや無反動砲を荷台に取り付けた車両を保有し、付近に待機させている。


「大物も見つけたしな」


調査によってニシス族の族長が住む家も特定した。


内戦初期にソ連軍を居住地区から追い出し、新露側に付いた人物でもあった。


敵の敵は味方理論で新露政府もニシス族の武装化を多少大目に見ている節がある。


だが彼らが内戦の混乱に乗じて核弾頭を盗み出したと知ったら、容赦などしないだろう。


「大物?コイツは内戦で火事場泥棒紛いのことをしただけだ。良くて中物だ」


「なんだ中物って?マグロじゃあるまいし」


ルカとピョートルが何時もの調子で喧嘩し始め、皆揃ってため息を溢す。


最も脅威となるのがこのMi-24Pだ」


言わずもがな知れた戦闘ヘリであり、強力な武装と兵員室に8名の乗員を乗せることが可能なヘリだ。


「30mm機関砲、左右のハードポイントに32連装の57mm無誘導ロケットが搭載されてる」


「この白いのはなに?燃料タンク?」


ロケットポッドの隣にある物にナスタチウムは注目する。


「いや恐らく爆弾だ、単なる爆弾」


それは朗報かも知れない情報だった。


奴らがATGMや空対空ミサイルの在庫を切らしているのなら、幾分かの優位性を確保出来る。


例えばヘリを無力化した後、戦闘車両を突っ込ませて蹴散らすことも可能だろう。


「まぁ敵がどうするにしても、頭数の問題をどうするかだ」


「確かに5人じゃ野球もサッカーもできやしねぇ」


「本部に進言して臨時の予算を着けて貰おうと思う。金で動く人間は大勢いる」


「ゴロツキを何人集めても囮にしかならない。腕の良い連中は皆クリミアでソ連残党軍とやり合ってる」


そして僅かに残っていた腕の良い連中はニシス族が雇ってしまっている。


「重要な任務なんだろう。確実な方法でイワンを殺るなら、使う人間は慎重に選ぶべきだ」


「……見方を変えてみないか」


要は技術だけ新露軍にもニシス族にも渡さないようにすればいいのだ。


「我々はイワンだけを始末する。狙撃なり砲撃でもした後に新露軍に密告すればいい」


ニコライの提案は非常に現実的かつ、これまで出た中で最もマシなプランだった。


自国領土内に独立国家を作って、あまつさえ核武装をしようとしてるとなれば連中が放っておく筈はない。


「名案だがイワンの正確な居場所が判らなければ意味がない」


「目星は付けてある」


ニコライは写真に写る族長の家を指差す。


この家を監視していて分かったことがある。


それは搬入される物資の量に対して人員が極端に少ないこと。


建物に不必要なアンテナが多く、それを考慮しても発電機の数が一軒家にしてはやたらと設置されていた。


「運び込まれた燃料を元に計算してみた。1週間で200世帯分を賄い切れる発電量だった」


これと言った確証は無いが不自然な所が多過ぎた。


ナスタチウムは技術が持つ特性を理解していた。


熱エネルギーによって膨張する性質を持つアレを運用するなら電力は必要不可欠だ。


「確かなの?」


「あぁ、間違いはない」


「ならやろう。周到に準備を重ねて寝首を掻く」


ハンマーは必要ない。


手術メスを扱うような繊細な手捌きで息の根を止める。



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