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ランカスター機甲戦

カルフォルニア州ランカスターにて



在米日本軍は、こうした大規模な機甲戦が起きると想定していなかった。


多くの装備と戦術は市街地での治安戦を想定して組まれたもので、部隊は小規模で高い機動力が求められた。


これまでの戦闘方針では、我の数よりも圧倒的な戦力に対し、防御と遅滞を持ってこれを阻止。


歩兵は防御陣地を築城し、敵の主攻勢の際は機甲戦力がこれら陣地の支援を行い、数的劣勢を補う。


高い戦略機動力を有する航空機の到着を待って、反撃に転じるというのが、軍の教科書に書かれた方針だった。


このドクトリンは攻撃に対して消極的かつ、火力頼みの消耗戦であると批判を受けていた。


だが対ソ連を想定し、満州での訓練を重ねた第7機甲師団は違う考え方を持っていた。


「第1防衛線に敵主力が到達、防御陣地が激しい砲火に晒されています」


砂漠に降り注ぐ激しい砲弾の雨で巻き上げる爆炎と土煙は、近衛連隊の本部からでも確認出来るほど、高く舞い上がっていた。


塹壕に身を隠す兵士達は、つい昨日敷設した対戦車地雷が砲撃によって破壊される様子を見せ付けられた。


「頭出すな!破片にやられるぞ!」


それと同時にMLRSのロケット弾が、後方の補給地点を攻撃する。


旧米軍は日本側のGPS妨害で精密砲撃が出来ず、クラスター弾を利用した攻撃を仕掛けていた。


射程が榴弾砲より長い分、こうした運用がされている。


87式自走機関砲や81式対空誘導弾等を装備した野戦防空を担う高射防空部隊が、飛んで来るロケットを迎撃した。


前線から近接航空支援の要請を受けた戦闘ヘリ小隊が、匍匐飛行を行いながら対戦車ミサイルの射程まで接近する。


「タカオ隊は北西から作戦域に侵入中、到達時間は3分後」


先頭を突き進む戦車が防御陣地へ砲撃を行い、友軍歩兵が対抗して無反動砲で二方向から同時攻撃を加える。


「高度に注意、SAMに捕捉されるな」


パイロンに搭載されている対戦車ミサイルの射程は9km程度。


対して、旧米の防空兵器であるシューティングガードに搭載されている能力向上型スティンガーの射程は約8km。


少しでも前に出過ぎると、マッハ2.2の速さで飛来するスティンガーに迎撃されてしまう。


ヘリからミサイルをつるべ撃ちに発射すると同時にフレアを吐き出しながら回避機動を行う。


砂漠は平面に見えて、多くの山々がなだらかに据わり構えている。


それら地形を駆使してレーダーの目から逃れる。


「04被弾!制御できない墜落する!」


テールローターに破片を受けたオニヤンマが、尻を上下左右に揺らしながら落ちてゆく。


放たれた対戦車ミサイルが次々と命中し、陣地を攻撃していた戦車隊は大損害を受ける。


だがそれはこちらも同じことで、3個砲兵連隊の火力は凄まじい損害を与えられていた。


「第1中隊壊滅、第2中隊との連絡途絶、第3中隊は弾薬欠乏」


「これ以上の遅滞は不可能だ、連隊本部に後退すると伝えろ」


「大隊の後退を援護する、砲兵は敵機械化歩兵を叩け」


通信は次々と悪い報告ばかり運んで来る。


そして最悪は更に最悪を運んで来る。


「師団長、敵の3個戦車大隊が15号線から移動中、中央突破を試みていると思われます」


「今さら力押しをするとは考えにくい、こちらの戦力を誘引するつもりかも知れない」


備えがあると分かっている場所に、貴重な機甲戦力を投入するほど敵は愚かではない。


だがこの数を無視することは出来ない。


「援軍を向かわせると伝えろ」


正直こちらも戦力に余裕が無いが、友軍を見殺しにするほどの余裕も無い。


「第6師団からです、手出し無用と」


その回答、なんと猛々しいのだろうか。


汲み上げて来るものを抑え、奮戦を期待すると返答した。


「敵が第2防衛線に到達したとの報告」


「全車両、機動を開始せよ」


擬装を解き、穴蔵から姿を現した戦車は泥化粧が施されていた。


派遣された第7師団の各車両は、日本本土の植生に合わせた森林塗装が施されており、砂漠の環境に適していなかった。


塗装を塗り直す時間的余裕のない状況で、現場のアイデアが輝いた。


装甲にのりを吹き掛け、その上に砂を貼って簡易的な砂漠迷彩を施した。


「作戦目標は突出する敵の後方連絡線を分断、包囲を行う」


「主要幹線道路を確保せよ」


右翼側から進軍を開始した第7機甲師団は、時速50kmの速度で前進を行う。


89式装甲戦闘車を装備した偵察小隊は熱線映像装置と小型無人機を組み合わせた偵察手段で、広範囲を索敵する。


敵機甲部隊の主力は15号線を利用してビクタービルに殺到している。


しかし戦争とはカオスの連続で、予想だにしない出来事は次々と起きる。


「南東5km先に敵戦車を発見」


「こんな場所に?」


偵察隊の報告では、その後方にも大量の戦車が追従しているようだ。


「敵さんも同じことを考えていたようだ、偵察隊を下げろ。徹甲装填」


旧米側は精鋭、第1騎兵師団所属の第2旅団戦闘団を投入していた。


彼らも第7師団と同じように、後方連絡線の分断を狙っていた。 


第7機甲師団所属の第71戦車連隊並びに第11機械化歩兵連隊は、彼らと対峙することとなる。


敵のドローンが飛来し、89式が対空射撃を行う。


射撃管制装置のシステムアップデートを繰り返した甲斐もあって、低速の航空目標ならば近接信管砲弾を利用した迎撃が可能である。

  

発見した偵察ドローンは速やかに撃ち落とさなければならない。


さもなくば、敵部隊後方に展開しているであろう自走榴弾砲や重迫撃砲部隊の集中砲火を浴びるだろう。


偵察による目標の選定が終わると、FPVドローンによる攻撃が始まる。


5~20km程度の後続距離を有しているが、弾頭重量は対戦車ミサイルよりも軽い。


戦車を攻撃する際、決まって狙うのは装甲の薄い上面ハッチや火が付けば木っ端微塵の弾薬庫だ。


戦車隊を守る為に89式は対空射撃を行い、昼空の下でミニチュアの防空戦を始める。


現代戦では、戦場の霧を全て晴らしてしまうかのような膨大な数のセンサーが、張り巡らされている。


ドローンはその数ある中の技術の一角に過ぎないのだ。


登場した当初はゲームチェンジャーとして持て囃されていたが、こうして対抗手段が生まれ、運用方法も確立されてくると戦場に同化するようになった。


対抗手段は戦車を滅ぼすに至らず。


「敵戦車を目視で確認、各個に射撃せよ!」


双方共に、主砲の有効射程圏内まで接近すると同時に少しでも優位な位置を確保しようと機動を行う。


しかし彼らが会敵した場所は、恐ろしいほどの平面で遮蔽物と言うならば、所々に建てられた数件の民家のみだった。


攻撃と陣形、そして足を止めぬことこそが最も生存性を高める手段であった。


「車体下部を狙え!」


タングステンと劣化ウラン製の矢が飛び交い、それが装甲に当たり火花を散らす。


「何両居やがるんだ」


見えるだけでも20両、その奥には5つ以上の集団が迫っていた。


3km先の敵のM2ブラットレーからTOWミサイルの発射炎を確認し、即座に砲撃を加えた。


初速はミサイルよりも滑腔砲の方が上だ。


砲弾がブラッドレーの砲塔に命中して爆発を起こした。


ワイヤーの切れたTOWは安全装置が働き、自車の手前で自爆した。


「敵の装甲車を撃破、次だ!正面の戦車を狙え!」


破壊を喜ぶ暇も無く、次の目標へ照準を合わせ徹甲弾を放つ。


砲弾は山なりに飛び、エイブラムス戦車に命中したが、何事もなかったかのように動いていた。


反撃で敵の集中砲火を浴びて、先陣を切り開いていた第1戦車中隊の10式が次々と撃破される。


「陣形を崩すな、火力で押せ!」


戦車連隊の各中隊は横隊を維持しつつ、システムを通して連携攻撃を行う。


怯むことは無く、だだ前へ前へと切り開くことしか考えなかった。


1km先の敵戦車小隊に対して、左右正面の複数の位置から攻撃を加え、これを撃滅する。


「12時方向、8両突っ込んで来るぞ!」


突撃陣形で向かって来る敵戦車と歩兵戦闘車の群れは、怒り狂ったバッファローのように地響きを立てる。


約700mmの距離まで接近していた敵のブラッドレーは、25mm機関砲の弾種を徹甲弾のAPDS-Tではなく、榴弾のHET-Tで攻撃を行った。


機関砲弾は、10式上部に備え向けられている工学機器に損傷を負わせた。


旧米のM2ブラッドレー搭乗員コミュニティ内では、万が一敵の戦車と遭遇した際、榴弾を使うようにする戦法が広まっていた。


25mm機関砲では現代MBTの複合装甲を貫通するのは不可能だ。


そこで戦車の目であるペリスコープや熱源映像装置を狙うことで、敵車両の戦闘能力を削ぎ、撤退もしくは友軍の攻撃を援護するというものだった。


「畜生、さっさとヤツを黙らせろ!」


主砲、同軸機銃、重機関銃等の戦車に搭載されているあらゆる火器を利用して攻撃を行う。


「右端から順番に撃っていけ、敵の動きは機敏だぞ」


まず陣形の外側を走るブラッドレーに砲撃を行った。


敵車両は既にTOWを撃ち尽くしていた為、大きな爆発を起こさなかったが、乗員が中から飛び出したのを見て撃破したと判断した。


次に狙った敵戦車は、砲弾がターレットリングに命中して大爆発を起こした。


運悪く装填中で弾薬庫のドアを開いていたのが爆発の原因だった。


搭乗員は即死し、叫ぶ暇さえ無かった。


更に3両の戦車を撃破し、71戦車連隊所属の第2中隊4号車は、この戦闘での最多撃破数を記録した。


状況が不利であると判断した旧米軍は、砲兵による火力支援を要請した。


後方に待機していたM109自走榴弾砲パラディンは、前線観測員からの誘導の元、砲撃準備を行う。


友軍の危機に対処すべく、砲身の仰角を上げる砲兵中隊その姿は、国旗掲揚を行う兵士が如く、そして砲口を空へ捧げる。


「アキシマ2-1、目標をレーダーで捉えた、攻撃を開始する」


その旗目掛けて超音速で爆音を響かせながら接近する4機編隊のアラワシは、低空侵入爆撃を強硬する。


野戦防空兵器がまだ生きている状態での侵入は危険が伴うが、これで怯んでいては防空網制圧作戦が無駄になる。


精密誘導爆弾では味わえない破壊、敵の輪郭がはっきりと見える瞬間まで接近する恐怖は、やられる相手が一番感じる筈だ。


95式戦闘機の操縦士は抵抗爆弾を一斉に投下した。


爆弾の後尾に取り付けられたパラシュートが一斉に開花し、タンポポの種のように空中を舞う。


アラワシは減速した爆弾を置き去りにしながら、全力で離脱する。


爆炎の絨毯が縦長に伸び、自走砲を消し炭にした。


離脱する機体を捉えたM7シューテングガードは対空砲火を浴びせるが、時既に遅く西の空へ飛んで行った。


アラワシは帰り際、機銃を使い嫌がらせ程度の気持ちで戦車を攻撃した。


戦車に大した効果はなかったが、旧米軍にとっては大きなプレッシャーとなった。


後方の砲兵が壊滅し、敵の航空機が前線への近接航空支援を開始したという事実は士気を下げるに十分なことだった。


「空軍がやってくれたぞ!」


立ち上がる黒煙と今しがた頭上を通過した友軍機の姿は、百の激励、千の称賛よりも勇気を与えられる。


徐々に後退してゆく車両が現れ始め、旧米軍第2戦闘団は支援の無いまま絶望的な戦闘をすることとなった。


砲塔を後ろに回して射撃しながら後退していた戦車は、エンジンに被弾して撃破された。


そのままバック走行で下がるエイブラムスは、全速力で進む10式に追い付かれ集中砲火を浴びる。


炎上するブラッドレーから脱出する米兵は、89式の35mm機関砲と同軸機銃によって排除された。


たった1時間足らずの戦闘で旧米軍は85両の車両を喪失し、日本側も50両近くの車両を失った。


第3次日米戦争で最も大規模な機甲戦が行われたランカスターの戦いは、日本側の辛勝に終わった。


包囲されることを恐れた旧米軍はロサンゼルス攻略を断念し、撤退の決断を下した。


侵攻から3ヶ月にして、戦線は膠着状態に入った。


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