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勝てる戦争をしよう

モハビ・フリーウェイにて



「M1戦車8両、M2戦闘車12両、自走榴弾砲5両、複数の対空車両を無人機で確認」


中隊参謀からの報告が送られ、敵の数が判明する。


「思ったりより多いな」


直ちに対機甲戦闘の準備に入り、対戦車誘導弾を発射器に装填する。


陣地後方で待機していた砲兵が射撃を開始し、ドンドコと遠くの方で着弾音が響く。


それと同時に、匍匐飛行でレーダーを回避しながら接近していたオニヤンマ戦闘ヘリが対戦車ミサイルを発射する。


砲撃の中、傘型陣形で前進を続けていた先頭車両に命中し、火柱を上げた。


中多も攻撃に加わり、苛烈な攻撃が旧米機甲部隊を襲う。


その部隊を援護する為に敵砲兵も砲撃を行い、防御陣地に敵弾が降り注ぐ。


「陣地内に砲弾落下、1小隊分隊長が戦死」


砲撃は凄まじく、地響きと耳鳴りと共に地形をえぐる。


形相必死に向かって来る敵軍は、確固たる意思の元にあらゆる火力を陣地前面に集中させた。


「敵が地雷に接触、足が止まりました」


「予定通りだ、射撃を開始せよ」


隠匿された戦車用掩体に身を隠し、この瞬間を待っていた10式各車は砲撃を開始する。


8年前は旧式のオンボロの中に砂金の如く紛れていたエイブラムス戦車が、アリのように押し寄せていた。


地雷と砲撃で身動きの取れない状態に追い込む。


「いいぞ!このまますり潰せ!」


工兵に感謝しなければならない。


この強固な防御陣地がなければ、今頃は敵歩兵が陣地内に入り込んでいただろう。


敵の攻勢は失敗に終わった。


「なんだあの戦車?」


車長スコープ越しに見えるソイツは、エイブラムスよりも一回り大きく、亀のように全周を装甲で覆っている。


旧米はこんな物まで用意していたようだ。


防御陣地前面に現れたその存在は、図体も存在感も異様に巨大だった。


「弾種徹甲、目標前方の戦車!」 


APFSDSは確かに敵の装甲に吸い込まれてゆき、そして弾けて粉々になった。


「馬鹿な受け止めやがった」


敵の反撃で10式の前面装甲に穴が空き、そのまま弾薬庫まで到達して爆発した。


その正体はナチスドイツが開発した「重工兵戦車エレファント」である。


冷戦終結によって不要になった本車を東米に無理矢理押し付け購入させ、それをそのまま旧米に供与したのだ。


車体重量70t、乗員は5人、主砲は52口径130mm滑腔砲、同軸機銃にはMG3を装備している。  


NBC兵器による影響下でも活動でき、ソ連軍防御陣地を突破する為に造られた冷戦時代の産物である。


車体前面には地雷除去用に各種アタッチメントが取り付け可能、標準装備として車体上面には導爆線発射装置が格納されている。


予算が有り余っていた頃に産まれた怪物ではあるが、機動力は皆無に等しく後退速度は10kmと鈍足でHammer ohne Stiel(柄の無いハンマー)と揶揄された。


一度下ろせば二度目はないという意味である。


2000年のグライフスヴァルトで起きた原発事故の際に出動したっきりで、それ以来実戦投入はされていなかった。


そのもて余された怪物が今、牙を向いた。


地雷が爆破処理され、そのエレファントが切り開いたら道から次々と歩兵戦闘車が突入する。


「戦車、徹甲、小隊集中、撃て!」


複数のAPFSDSが撃ち込まれるが、火花を散らすばかりで効いている様子がない。 


「いったいどんな装甲したらそうなるんだ!?」


「対榴に切り換えろ、爆風で履帯を破壊する」


しかしエレファントを援護する為に敵も10式に向けて当然攻撃を加える。


砲弾と対戦車ミサイルからの攻撃に対処することに必死で、エレファントを攻撃する余裕などなかった。


歩兵戦闘車から降車した敵歩兵が、25mm機関砲の援護射撃を受けながら防御陣地へ侵入する。


「突入しろアルファチーム、死角に注意!」


破片手榴弾が投げ入れられ、陣内のあちこちで爆発が起きる。


彼らは陣地掃討の為に手榴弾を10個以上持ち歩き、銃身の短いカービン銃で武装していた。


「諦めて投降しろ!」


倒れている日本兵に向けて追加で弾を撃ち込む。


人は死ぬ時、悲鳴を上げちゃくれない。


マズルフラッシュと共に事切れ、倒れた後に被服に血が滲み出るだけだ。


「奴らは何処だ?」


「コンタクト!」


黒い短髪の若い日本兵の姿が見えた。


まだ垢抜けていない顔をしていた。


俺はそいつの顔に5.56mm弾を叩き込んだ。


「やったか?」


「1人倒した」


「陣地内に敵歩兵が侵入、もう持たない。さよなら、さようなら」


日本兵は無線に向かって叫ぶと自爆した。


「やべぇ」


「どうした?」


「口の中にヤツの肉片が入った」


2人の旧米兵は互いに乾いた笑いを交わした。




ロサンゼルス 在米日本軍司令部にて



現在、旧米軍主力は市内中心部から100kmの位置まで迫っている。


航空機による阻止攻撃を試みたが、敵の防空兵器に阻まれ思った以上の効果は出なかった。


開戦初期にはハワイの第44戦略航空爆撃軍団を投入したが、核兵器運用能力がある爆撃機を損耗率の高い任務に就かせることに軍は強い懸念感を抱き、10日後にはアラート任務に戻っている。


安田司令官は「戦況好転せず」の報告を上げる度に、中央からの不信感が高まっているのを肌で感じていた。


だがそれも今日で終わる。


遂に本土から主力部隊が到着し、反撃の準備が整った。


第7機甲師団や近衛第2師団といった名だたる精鋭が到着し、厭戦気分漂っていた将兵達の士気の向上も見られた。


第2次大戦以来、最大の戦力が集結しつつあった。


本土から陸揚げされた最新鋭兵器が夜の市街を通って運ばれてゆく。


各種交通インフラは暴動の影響で麻痺している為、揚陸作業に遅れが出ていた。


ロス市街地での暴動は武装公僕達の手によって粉砕された。


約800台の車が燃やされ、2万人が逮捕、死者492人の大惨事だった。


そのうちの279人は議事堂前の雑踏事故で死亡している。


後の調査によると、この大暴動は旧米の情報操作によって引き起こされたようで、幾つかの過激派団体への扇動行為が確認されている。


銃器使用が許可された後は、治安当局側が優位に事を進めた。


ネットは大荒れで議論に似た罵倒合戦は紛糾していたが、現実の市内は静まり返っていた。


日本軍は防戦一方な状況を打開すべく、新砲塔10式改を初投入する。


各種光学機器の更新と共に、電子装置と無人機偵察システムを流線的な形状の砲塔に組み込んでいる。


第2次日米戦争とモンゴル国境紛争での戦訓を元に設計されている。


これが約200両、加えて西米軍の74と90式戦車も合わさり、900両の戦車が揃った。


日米両軍合わせて、2000両以上の最新鋭戦車が集結しつつある。


この戦争最大の機甲戦となる、ランカスターの戦いが幕を開けようとしていた。




政人 船橋滋回顧録 p121にて



76年体制崩壊を招いたのは、やはり第3次日米戦争開戦時の不祥事が原因でしょう。


当時私は首相秘書官という立場でありましたので、そういった個人間での取引は耳に入って来ていました。


当時の旧米は戦車や榴弾砲といった移動に負担の掛かる重装備のみを移動させ、人員だけ東米国境に張り付けるという擬装作戦を行っていました。


大規模な軍事演習が東米で行われ、それに呼応する形で旧米も演習を行い、当時の国際社会はそちらに注意が向いていたと記憶しています。


内調は演習の規模に反し、稼働している車両が少ないことを衛星画像の解析によって把握していました。


内部に潜入している人的情報源から、重装備が少数づつ何処かへ消えていると報告もされていた。


にも関わらず、旧米軍の奇襲に対応出来なかった理由は、報告を安田在米司令官が情報を伏せたからです。


安田は退官後は政界進出を考えており、総理が所属していた日本自由党に入ることが約束されていました。


本土では選挙が近い時期で、不確定な情報を報告すると入党時の心象が悪くなると考え、報告をなかったことにしていました。


第2次日米戦争当時の在米司令官は、独断で侵攻を行っています。


フィリピン戦争での失敗以降、自由民主主義路線への緩やかな転換を行っていた日本にとってそれは受け入れ難い暴挙でした。


軍隊を動かす権利があるのは、選挙によって選ばれ陛下から任命された文民と、陛下ご自身にあると定められています。


制御の効かない軍人は、政治家にとって危険以外の何者でもありません。


前任者は表向き、予算横領の罪で処罰を受け解任されましたが、文民統制の逸脱という事実は隠蔽されました。


石原莞爾の真似事をする軍人を更迭し、政治家とって制御しやすい軍人を後任に置く必要がありました。


それが安田だったというだけなのです。


安田自身も、旧米軍の動きが怪しいというだけで大規模な兵力を準備する必要はないと考えてました。


動こうとしない安田に業を煮やした内調は、総理に直接報告を上げています。


総理自身も確認の為に連絡を取りました。


安田は「旧米は東米と睨み合っている最中で、こちらに攻撃を仕掛けてくる可能性は低い」と回答しました。


官僚や大臣と協議すべき内容を共有せず、一方向の視点から判断するというこの失敗は、日本自由党没落の原因に通じるものがあったと私は考えています。


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