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親愛なる暴力よ、どうかデモクラシーを守りたまえ

ロサンゼルスにて



「100発の飛翔体がネバダ方面から飛来中、市街地に入る前に叩き落とせ」


空中待機中のハヤブサが迎撃に向かい、飛来する巡航ミサイルを落とす。


三方向から都市を半包囲するかのような攻撃で、綿密に計画されていたことが伺える。


足の遅い巡航ミサイルや自爆ドローンに混じって、通常の手段では迎撃が困難なIRBMも含まれていた。


「防空網が突破されるぞ!」


「狙いは港湾施設だ」


ロサンゼルス沖で警戒待機していた第3打撃戦隊所属のアマテラス艦「古鷹」と「金剛」は弾道弾迎撃誘導弾を2発づつ打ち上げた。


ブースターを点火し、文字通り天に昇る勢いで飛び上がった。


「迎撃まで10秒」


大気圏外を飛翔していたIRBMの弾頭3発を迎撃した。


「1発残ってるぞ!」


最後の一つが着弾しようとしている先は、多数の燃料タンクが集中している場所でもあった。


命中すれば大火災だけではなく、湾全体が機能不全となり、本土からやって来る部隊や物資の揚陸も出来なくなる。


そうなれば戦争に負ける。


電探員が悲鳴に近い叫び声を上げた時、画面上の点が消えた。


誰かが迎撃したのだ。


「目標撃墜、まぁ上々かな」


最後の1発を迎撃したのは、第3打撃戦隊旗艦、山城型原子力巡洋艦「山城」である。


2025年に就役した本艦は、基準排水量30000tを誇る巨艦であり、世界最後の戦艦とも評されている。


第二次アラスカ沖海戦で活躍した山城の名を受け継いだこの艦には、200セルに及ぶVLSと4連装対艦ミサイル発射筒が4基搭載されている。


だがなんと言ってもこの艦が原子力である理由は、主砲の50口径140mm電磁加速砲であろう。


アマテラスシステムと連携するこの砲は、終末段階の弾道ミサイルすらも迎撃可能な速度で発射でき、射程は300kmに及ぶ。


単艦での戦闘能力は太平洋最強と謳われているが、余りにも高価で大型故に扱いづらい代物であった。


更にソ連崩壊に伴う軍事費削減の余波を受け3番艦は建造中止、

残った姉妹は箱入り娘のように大事にされつつ本土防空の任を担っていた。


このまま実戦を経験せずに世界三大無用の長物(万里の長城、戦艦モンタナ)の一つに数えられて終わるかに思われた。


しかし運命は唐突に匙を投げたり、拾い上げるものである。


第三次日米戦争の勃発に伴い、急遽サンフランシスコに派遣されたのだ。


「対空戦闘用具収め」

 

山城の艦長は顔色一つ変えず、水上目標への警戒を指示する。


飛来する対空目標の殆どが、移動目標を捉えることが出来ないプログラム誘導の巡航ミサイルである以上、自艦が狙われることはまずない。


仮に標的にされたとしても、ICBMやHGVすら撃墜可能な本艦を撃沈するのは不可能に近い。


その為、最も脅威となり得るのは民間船舶を装った自爆ボート、停泊中を狙った破壊工作等のチープキルである。


「艦長、巡航ミサイルの撃墜数は我が艦が最多だそうです」


「そうか、落とした分だけ手当が出ればいいのになぁ」


「全くです」


沿岸部の都市防空の大部分を海軍に担当させることで、前線の地対空ミサイルの数を増やす目論見は一定の成果を納めていた。


しかし戦況は依然として旧米が優勢であり、こちらは数的劣勢である。


敵の対空ミサイルによって味方航空機の行動が制限されている為、前線では火力が不足していた。


貯蔵弾薬の殆どを航空爆弾が占め、砲弾は枯渇し、火力の代替手段が失われていた。


航空至上主義への転換が裏目に出たのだ。


地上駐屯部隊が敵を足止めし、増援の航空機が敵を殲滅する。


そんな航空優勢を前提とした戦術が崩れた。


戦略を見直す必要があった。


「艦長、デモの激化に付き港での補給は危険と判断されました。いつも通り洋上での補給を」

 

「当分陸地は踏めそうにないな」


今現在、ロサンゼルス市内は暴動が起き収拾が付かない状態であった。


その混乱の中でも一際激戦を極めているのは、ロサンゼルス議事堂であり、多数の群衆が詰め掛けていた。


いつもなら、反戦平和主義者とそれに対する右翼系ミリシアのカウンターデモで収まる筈だったが、今日だけは様子が違った。


そこに黒人民族主義政党の支持者と、AUS(反全体主義学生連合)の学生も加わって予想以上の混乱が起きていた。


「ご覧ください!議事堂をぐるりと群衆が取り囲んでいます!」


「視聴者の皆さん、これはドジャースタジアム開幕日の様子ではありません。紛れもなく議事堂前の光景なのです!」


いつもは交通渋滞やカーチェイスの様子を撮影する報道ヘリのカメラには、議事堂周辺の混沌とした歴史の一幕を捉えていた。


「止まれ!それ以上近づくと撃つぞ!」


議事堂の警備に当たっていた議会警察の警官は、迫り来る群衆へ向けて9mm口径の拳銃を向けた。


だが余りにも数が多すぎた。


僅か6名の人員に対し、群衆は道路の右から左、芝生を埋め尽くす規模だった。


現在が戦争中であることを考慮しても、異常な雰囲気だった。


こうしたデモ集会はある程度の纏まりがあるものだが、思想的にも雑多な集団が揃っていた。


「銃を持ってるぞ!」


ライフルの銃身が向けられていることに気付いた瞬間、2つの十字が切られた。


そうか、自然発生したものではない。


この騒ぎは扇動によって起こされたのだ。


「中に入られたぞ!」


「そこの机を動かせ、早くしろ!」


議事堂内に通じる通路上に机や椅子でバリケードを構築し、その隙間から様子を伺う。


「緊急対応部隊は何処だ?」


警備主任が電話を掛けるが、電話回線は繋がらない。


軍隊を呼ぼうにも戦争で全員出払い、大部隊の動員は不可能だった。


議員や一般職員達は、消化器や議会旗の長い柄を手に身を守ろうとしている。


「クソ!もっとデカい銃が居る」


バリケード一つを隔てた先には、ただの群衆と呼ぶには恐ろしく危険な連中が土砂のように押し寄せている。


まだ18にも満たない学生の姿もあった。


「内勤の連中も武装させろ、暴徒をこれ以上中に入れるな」


警備室のロッカーからMP5短機関銃やType89カービンを持ち出し、全ての職員を武装させた。


「自分はただの受付担当です」


「私だってただの警備主任だ」


警察の銃を撃っても法的に問題のない職員を片っ端から集め、特別臨時警備隊を編成する。


「武装していたら撃って構わない、屋上の連中にもそう伝えろ」


「いいか相手が女子供だろうが躊躇うな」


特別臨時警備隊の警察官は表情こそ変えなかったものの、目を大きく見開いた。


「あの怒れる暴徒は暴力によって自らの主張を通そうとしている」


「ここは民主主義の砦だ、金持ちで俺達の給料を減らそうとする政治家共を命懸けで守れ!」


恐らく人権派の政治家は、我々を警察権の不当な行使か何かで告訴するだろう。


我々が撃った弾で貧困に苦しむ者達が死に、その屍を群衆が踏み潰す筈だ。


だが、それが何だと言うのだ。


我々は日帝による植民地化を回避し、その時々の情勢を利用して主権を取り戻した。


デモクラシーを守る為なら、国民が何人死のうが構わない。


これが国家による暴力が正当なものとなる瞬間なのだ。


警備主任はバリケードに手を掛け、その隙間から入り込もうとする暴徒を撃った。


首を仰け反らせ、力無く倒れてゆくその死に顔を私は一生忘れないだろう。


それを皮切りに銃撃戦が始まった。


最初は躊躇していた警官の指も、次第に良く動くようになった。


ピカピカの白いタイルに赤い湖、その上に空薬莢が浮かぶ。


「さっさと弾を込めろ!」


「弾薬の数より相手が多いんだ、バカ撃ちするな」


南軍旗を掲げ、赤と青の珍妙な化粧をしている全体主義者の男を撃った。


議事堂の北からはリベラルな連中が押し寄せ、南からは保守勢力、西から有色人種、東をその他雑兵が包囲していた。


「このままだと抑えられないぞ」


執務室の中で議員達は事態を収集させる為に必要な手続きを行っていた。


「戦争ってのは厄介なもんだよ、平時より勝手が利くがリソースが割かれてどうにもならん」


ヘリの数が足りず、議員全員を脱出させられるだけの数を揃えられないと言われた。


「在米日本軍がヘリを寄越すと」


「ふざけるな!我々がここから逃げたらこの国はどうなる?」


「テレビを見ている国民に我々政治家の尻を見せるつもりなのか!」


1人の若手議員が脱出に強く反対する。


「君の言わんとしていることは分かる」


中堅議員は理解を示しつつも、冷静に諭す。


「だが君も私も有権者の代表だ。ネットに死体の画像を上げられたら、彼らの主張はどうなる?」


中堅議員は以前、日本で暗殺事件が起きた事例を憶えていた。


演説の最中、仕掛けられていた爆弾が爆発し、14人の人々が犠牲となった。


病院へ運び込まれて行く政治家の写真がネットにアップされ、大変な社会的混乱を招いた。


民主主義体制下に置いて、政治家は国民の代表であり代弁者である。


「君に投票された票は5万だ、つまり君が死ねば5万人の言論が封殺されるに等しいということだ」


自分が損を被るだけなら命を懸けれるが、こう言われてしまっては天秤に別の物を供えざる得ない。


この説得に応じて渋々脱出を決意した若手議員は、出ていく寸前に警備主任と握手を交わし屋上へ向かった。


議員達が非常階段を登り、議事堂の屋上へ出る。


灰色の地面に置かれた室外機とそれに繋がる大小様々なパイプ、建物際に座り監視を行う狙撃チームの姿が見える。


「40年間議員をやってたが、ここに上がったのは初めてだ」


狙撃チームは三脚に狙撃銃を備え、武装した人間を排除していた。


「あれは銃か?」


「いや、ただの鉄パイプだ」


「街灯の隣に立ってる男が火炎瓶を持ってる。撃っていい」


強襲揚陸艦「知床」から発艦したクマバチが、議事堂屋上に到着した。


パイロットは建物に着陸を試みるが、ヘリポートは無く室外機等の設備が点在していた為、思うように接近出来なかった。


そこで建物の塀に接近し、機体下部の捜索レーダーを傷付けないギリギリまで接近した。


議員を乗せている間、機体側面から暴徒へ機銃を向け、地上からの攻撃を警戒する。


「まるでフィリピン撤退の時みたいだな」


1975年に日本軍がフィリピンの島から撤退した時のように、ヘリには大勢の人間が押し込められていた。


その後も「知床」の艦載ヘリは輸送を繰り返し、議事堂に残されていた59人の議員達が脱出した。



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