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爆発的なキンレンカ

神が必要の無い人間を創らないというのなら、私は必要の無い人間という役割の元産まれたのだ


テキサス州 エル・パソにて



「今日午後、日本側との交渉が終了し、新たに休戦協定が結ばれました。内容について今から読み上げます」


1.停戦監視委員会による両軍の監視を行う


2.捕虜並びに拘束された住民の速やかな返還を行う


3.武装勢力への支援を即刻中止する。違反した場合、軍事的手段を講じる


「ハンズ最高司令官は事態は依然として不安定な状態であり、軍事的緊張は続いていると声明を出しました」


「ふざけやがって!」


テレビを乱暴に消すと、男は石原を殴った。


「言え!貴様の目的はなんだ?」


「………」


「駄目です喋りません」


8時間以上尋問したが、何も言わぬ石原を相手にバテてしまった。


「大したもんだよ、普通は嘘でも何か喋るものなのに」


拳による打撃からオーソドックスな電気責め等を一通りやったのだが、全く効果が無かった。


「もういいよ」


石原の前に椅子を逆向きに置くと女は座り、ため息をつく。


「来ちゃったものは仕方ないけどさ、ちょっと困っちゃうよ」


「お前は何者なんだ?」


「見て分からないなら勘が悪いな、DLFAに決まってるじゃない」


気付きも、疑いもしなかった。


砲火を交えた敵の1人が、我々の懐に潜り込んでいたとは夢にも思わなかった。


「いつも街中に潜んで何をしていたんだ」


「色々だね、IEDの効果判定だったり破壊工作とか勧誘」


「かんゆう?」


「AUSのバカ学生はいいカモだからね」


デモ集会には色んな連中が集まるが、その大半が社会に対する不満を持っている。


その中でも特段の馬鹿を見付け出す必要があった。


「馬鹿は目立つ、熱に浮かされてるから」


例えば、歴史を学んでいる過程で自国嫌悪を感じ自らを断罪人と思い込む馬鹿な人間


例えば、嫌儲思想や反権力思想に取り憑かれ貧困を誇り始める馬鹿な人間


例えば、暴力的手段を肯定して行動そのものが目的化する馬鹿な人間


「馬鹿な人間が集まればテログループが出来上がる。私はそういう連中を集めるのが仕事なんだ」


薄ら笑いを浮かべる彼女の目は、何処か嬉しそうだった。


1969年、西米は占領期間を終えて戦後混乱期を脱し、目覚ましい経済成長を遂げていた。


しかし国際情勢は依然混沌を極めていた。


フィリピン戦争の激化、ソ連との核競争、旧米の西海岸奪還の可能性という差し迫った脅威、経済的安寧を謳歌する中で不安は確かにあった。


その不安の中で産まれた存在がDLFAだった。


軍国主義路線を突き進む日本は、西米政府へのフィリピン戦争協力の外圧を掛けていた。


そんな弱腰な自国政府と、国益の為なら他国の権利を踏みにじる日本に憤慨したのだ。


真の民主主義を解放する。


それが目的であった筈なのに、いつしか政治家や建物と一緒に民間人を吹っ飛ばす手段が、目的に成り代わっていた。


「そうだ、映画でも見ない?」


鼻歌混じりにテレビを点けた女は、チャンネルを切り替えた。


これから尋問を再開しようとしていた仲間達は拍子抜けして、怪訝な表情で顔を見合わせる。


「イナゴ身重く横たわる時、我々は新たな……」


俳優がセリフを喋るその画面に照らされて、銃身に切られたネジにサプレッサーが回っているのが見えた。




AM 01:00「最西の峠作戦」開始



2機の79式クマバチ改三が夜空に飛び上がる。


総勢24名の海軍特殊部隊員は溢れるやる気と殺気を抑えながら、作戦地域まで輸送される。


「ムロラン1からムロラン2へ、高度を下げろ旧米軍のレーダーに探知されるな」


揺れる機内の中ではワルキューレの騎行が流れ、全員馬に跨がって草原を駆けている気分になっていた。


「カジノ行ったことある奴いるか?」


唐突に1-2がマイク越しにそう問い掛ける。


「俺はない」「俺も」「……ある」


「俺は2回ある。大阪とベガス」


「またその話か、もっと面白い話しろバカ」


聞き飽きた昔話に文句を言いながら、隊長に話を振る。


「隊長は?」


「あるぞ、強盗で」


ヘリは目標地点の5kmまで接近し、突入間近となる。


「音楽を消せ、準備しろ」


20式の槓桿を引き、薬室に弾を入れ、四眼暗視装置を装着する。


扉を開けた瞬間、ローターに舞い上げられた砂埃が機内に入り込み砂漠の匂いが鼻をくすぐる。


速やかに降下すると、訓練通り建物の外壁に張り付いた。


「ムロラン1離脱する、作戦の成功を祈る」


監視カメラが敷設されているとの事前情報もあったので、手際良く破壊して行った。


「各員、誤射に注意」


食品加工工場に偽装したこの建物には、事務所と搬入口、それから従業員用の合計3ヵ所の出入口がある。


今回は搬入口を除く2ヵ所から侵入する。


「ガーベラ1は南側から突入する」


「パラムシル6、北側から突入」


バールで抉じ開け、スクワッドを組んで死角を作らないように突入した。


「よし始めろ、トンボを出せ」


ドローンオペレーターが小型ドローンを起動する。


ドイツ製の「Libelle」は、全長10cmの手のひらサイズのドローンだ。


扇風機よりも小さな駆動音、30分の飛行時間と3kmの通信範囲、赤外線カメラ、これらの機能と性能が15kgの重量に収められていた。


日本円にして1セット150万円の高額装備だが、予算が潤沢な特殊部隊にはあまり関係のない話ではあった。


「走査を開始する」


トンボが先行し、その後方を追従する。


工場内には加工用の機械が並んではいたが、使われた形跡が無くそれでいて埃被っていた。


「2名確認、武装している」


驚いた表情を浮かべる2人のDLFA構成員の顔が、不鮮明な映像越しでもハッキリと見えた。


発見から間髪いれずに前進し、心臓をダブルタップで撃ち抜く。


「こいつは標的じゃない」


ドローンを駆使して工場内を制圧すると、次は地下に取り掛かる。


「地下に突入するぞ」


この時点で5分とも掛かっていなかった。


あの2人は様子を見に来たってところだろう。


上の工場部分は特に人員が配置されてる訳でも、防衛装置が備えられてもなかった。


「事前情報通りだな」


「次が鬼門だぞ」


事務室の絨毯をひっぺ剥がすと、その下にベニヤ板が敷かれていた。


更にそれを剥がすと、地下に続く階段が露になる。


この先に銃眼付きのスチール耐火扉が待ち構えていた。


ドローンを先行させ、扉の銃眼が機能しているか偵察する。


ドローンに気付いたらしく、扉の向こうに居る射手が反応して銃口を向ける。


しかし発射はされなかった。


潜入中の工作員が上手くやっているようだ。


「LAMを放て」


パラムシル6-3がパンツァーファウスト3を担ぎ、スチール扉に向けて発射する。


「発射するぞ!」


「後方良し!」


着弾と共に一瞬で地下道に粉塵が立ち込み、6-3は床に倒れ込む。


この為だけに炸薬量を調整した特別な弾頭を使っていたが、それでも凄まじい衝撃だった。


大丈夫かと聞くと、6-3は咳き込みながら這い出てきた。


「クソ!ガスマスクを着けるべきだった……」


「6-3負傷、持ち場を交代する」


扉にはメロンサイズの穴が空き、その穴の向こう側には腸を散らしたDLFAの死体が見えていた。


「ガーベラ1はこれより扉の破壊に取り掛かる」


1-6がサーミックランスを使い、扉を溶断してゆく。


「ドアが破られるぞ!」

「撃て!撃ち殺せ!」


扉を隔てた銃撃戦が始まり、メロン穴目掛けて銃弾が飛ぶ。


G3ライフルの弾が扉に当たって甲高い音を発し、20式のサプレッサーで抑制された銃声がそれに応える。


被弾した敵は膝から崩れ、壁に手を付きながら横向きに倒れ込む。


角の向こうへ、その身体が引きずり込まれる。


「トンボを入れろ」


溶断している間に穴からドローンを侵入させ、中の偵察を行う。


部屋中央に大きな机があり、その上に弾薬と武器を慌てて用意した形跡があった。


そして扉が6つ、そのうちの2つは格子状の鉄扉だ。


資料の焼却を行っているようで、ペンキ缶に燃えた紙が乱雑に突っ込まれている。


柱の裏に隠れていた男がドローンに気付き、ライフルを棍棒代わりにして叩き落とした。


「どうだ?」


「あと20秒」


溶断が完了し、扉が重い音を立てて倒れると同時に閃光手榴弾を投げ入れ突入する。


柱裏の敵を射殺し、各部屋の掃討に掛かる。


扉越しに乱射する敵に対して、撃ち返して来なくなるまで集中砲火を浴びせた。


扉を開けると穴だらけになったDLFA幹部の姿が露になる。


胸に3発撃ち込み、そいつの顔と記憶を照らし合わせる。


「コーディを射殺」


コーディはDLFA技術開発部門担当の人間でサンノゼ私立大学出身のエリートだった。


こいつの作ったIEDマニュアルは数多くの兵士と民間人を吹っ飛ばすのに貢献した。


部屋の奥に隠れていた2名は頑固に抵抗していたが、多勢に無勢、12名の特殊部隊員によって無力化される。


「ローレンス夫妻を射殺」


この2人はメディア広報並びプロパガンダ担当で、広告代理店のとロスの地元テレビ局に勤務していた。


以前からDLFAと内通し、資金援助や逃亡幇助を行っており、危険思想の持ち主として市警とWAIAにマークされていたが、監視の目を掻い潜ってメキシコへ逃亡した。


それまでビラ張りや機関誌を発行する程度しか出来なかった連中が、SNSとオールドメディアを連携駆使したやり方で支持者を増やした。


「次で最後だ」


鉄扉に爆薬を設置し、爆破準備を完了させる。


「発破!」


「……クリアだ」


2つの鉄扉を破壊したが、片方は武器庫でもう一方はトンネルだった。


「クソが、やっぱり逃げられたか」


地下内を制圧したことを確認すると、視認性の悪い暗視装置を外してライトを点けた。


縦横1m規模の脱出用トンネルは、奥をフラッシュライトで照らしても見えない程遠く続いていた。


「ヒマワリから全隊へ、西の方角から地元警察の車列が接近中」


「時間だな、報告を期待しよう」


迎えのヘリが来るまでの間に、他のDLFAに繋がりそうな情報を片っ端から収集する。


外周を警戒していたガーベラ2と3の分隊は接近する車両へ銃を向けた。


「SWATだ、撃つか?」


「警察の交戦規定じゃ、こっちが撃つまで撃ってこねえよ」


「武器を捨てて投降しろ!」


地域住民が「うちの近くで銃を乱射してる奴がいる」とでも通報されたのか、重武装の部隊がファーストレスポンダーとして現れた。


照準を警察官の頭へ定め、何時でも撃てるように構える。


「演習中だ!下がらないと上に報告するぞ」


「なら所属とIDを言え!」


押し問答をしている最中、1人のSWAT隊員があることに気付く。


目の前にいる兵士達は全員M4カービンではなく、20式を所持している。


こいつらアメリカ兵じゃない、そう察知した隊員は悟られないようゆっくりと車両の陰に隠れ、応援を呼ぼうと無線機に手を伸ばす。


「今装甲車の後ろに隠れた奴、動きが変だった。気付かれた」


「撃って構わん、全員排除しろ」


同時射撃で一瞬のうちに7名の命を奪うと、軽機関銃で車両のエンジンを破壊する。


「こちらムロラン3、着陸地点付近に接近、準備された」


ヨナグニサンが垂直離着陸モードに移行するが、機動力を失ったこの瞬間が最も撃墜される可能性が高くなる。


上空待機中のリュウセイ三五型からの通信で、スクランブル発進したF16戦闘機2機が急速接近していることが報告された。


「時間がないぞ!乗り込め!」


22人全員が乗り込んだことを確認すると、海軍の男は手を上げて見送る。


「後は任せるぞ!」


「了解、ではさようなら!」


ヘリは2人だけを残し、西端の空に消えて行った。


工場内に放置されていた車に乗り込むと、警察官の屍の合間を抜けて東へ向かった。


一方その頃、警察と海軍特殊部隊が銃撃戦を繰り広げている間、DLFA幹部の2人はまんまとトンネルから逃げ仰せていた。


「おい、早く引っ張ってくれ」


トンネルの出口から男2人を引っ張り出し、服に付いた砂を払う。


「他の連中は着いてこねえな」


「全滅したか、セーフハウスに向かうぞ」


ここまで追い込まれた状況は幾度とある。


西米警察に捕まった時とか、空爆で死にかけた時とか、組織内の闘争で謀殺されかけた時、色々あった。


だがこうして危機を脱することが出来た。


暫くはカナダ辺りに身を隠すのがいいだろう。


そこで資金を蓄え、機会を伺いつ


6発の銃声が響き、世界が終わる。


「コンドラートを射殺」


こいつはロシア人ってこと以外の素性は分かっていない。


調達部門担当でロシアマフィアとかKGBって噂もあったが、噂の域を出なかった。


「並びにザカリーを射殺、日は昇った」


「全部隊へこちらヒマワリ、全ての作戦目的が達成された。各員速やかに撤収せよ」


死体の顔写真を撮る彼女は全てをやり切り、笑みを浮かべた。


「こちらナスタチウム、作戦地域から離脱する」

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