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帰還

ヒューストン上空にて



ヒューストンは1945年12月のワシントンDC陥落以来、中部アメリカの臨時首都として機能し続けていた。


道路に沿って低空飛行を行うキャメロンとフランクの両機は、日本軍の攻撃編隊に接近していた。


翼下のパイロンには、AMRAAMを6発とサイドワインダーを2発搭載している。


現在の高度は100フィート、平時なら始末書では済まされないレベルの高度だった。


「ラプター01から02へ射程一杯でアムラームを放つ」


「02了解」


8機編隊で飛行する日本軍機は、重い爆弾を積んで運んでいる筈だ。


機首を上げてTWSモードで目標を捉え、AMRAAMを発射する。


慣性誘導と指令誘導によって追尾させるので、ロックオンの必要がなく敵の警報装置に感づかれずに中間誘導を行うことが出来る。


AMRAAM自身のレーダーが起動する瞬間まで敵の警報は機能しない。


幸い敵編隊は此方に気付いておらず、何処かにいるであろう敵のAEW機も感知していないようだ。


これはキャメロンの誤認だった。


実際には日本の早期警戒機は低空から迫る敵機を探知していた。


しかし警戒機の注意は、上空待機中で難を逃れていた別のF15に向けられていた。


敵機の位置と高度、速度を味方機に伝える。


「北西から2機接近、リュウセイに対応させる」


「東の方角から1機接近、はぐれ機か?」


キャメロンとフランクの2機は、ほぼ重なって動いていた。


その為1機だけだと誤認させ、脅威度が低いと判断させた。


「護衛機を向かわせる」


警戒機の指示でリュウセイが向かおうとするが、作戦指揮官がそれを止めた。


「リュウセイは第5世代の新鋭機だ、万が一があってはならない」


市内にはSAMや対空機関砲が幾つも残存している。


針山の上を歩かせるには、あまりにも高価な機体だった。


「しかし味方機が……」


「これは元帥閣下からの命令だ、リュウセイを無傷で帰還させなければならない」


「了解しました。ヒャクメからウミワシ隊へ、護衛機は向かわせられない現状戦力で対処せよ」


ウミワシ隊は編隊の中から敵機迎撃に向かわなければならなくなった。


「俺がやる」


名乗り出た泉中尉は重い爆弾を投棄して身軽になると、1人迎撃に向かった。


「気付かれたぞ!向かって来やがる!」


「敵機はこっちで引き付ける、お前は群れを狙え」


フランクはキャメロン機から離れ、1人迎撃に向かった。


相棒が作り出したチャンスをものにすべく、キャメロンは攻撃編隊へ向けてAMRAAMを発射した。


ロックオン出来た敵機に向け、片っ端から撃ち放っていく。


只でさえ対空砲火に曝されていたウミワシ隊は、横槍で放たれた空対空ミサイルに苦しめられる。


「ヒャクメから全機へ、ミサイル接近」


「畜生め!全機散開、ブレイクしろ!」


早期警戒機が早くにミサイルを捕捉したこともあって、ウミワシ隊は有効な回避機動を行うことができ、AMRAAMに撃墜されずに済んだ。


しかし編隊は乱れ、最早攻撃どころでは無くなった。


「待ってろクソ野郎共、ヤンキーの戦い方を魅せてやる!」


アフターバーナーを吹かしながら敵機の群れに突入する。


エネルギー切れで機動力を失ったコクフウを狙い、サイドワインダーを発射した。


訓練でも見たことのないような、綺麗なラインを描きながら着弾する。


そのまま敵機の尻に食い付き、ドックファイトを開始する。


重力に逆らって機動を続け、視界が暗くなる。


「照準に入って来い!俺に捉えさせろ!」


ロックオンし、最後のサイドワインダーを発射した。


ミサイルはフレアに欺かれ、外れてしまう。


ならばと機関砲を使い、敵機を逃すまいと攻撃を続ける。


相手の尻を追うのに夢中になっていると警報装置が鳴り響き、背後に付かれていることに気付く。


フレアを発射しながら、エアブレーキを最大限利用して減速し、敵機の背後に回り込んだ。


すれ違い様に相手パイロットの顔どころか、太股に貼り付けてある黄色のニーボードまで見えた。


そのまま機関砲で敵機を撃ち抜く。


幾つかの部品が脱落してフラフラと飛行していたが、それでもまだ生きている。


トドメを刺そうとした直後、別の敵機に攻撃を受けた。


「クソ!」


背中に衝撃を感じると同時に、パワーを失い纏まりのない音が聞こえてくる。


右のエンジンをやられたようだ。


計器はあらゆる警報を発し、不快で不安になる音を立て続けた。


このままでは市街地に墜落してしまう、そう思ったキャメロンは何とか機体を保ちながら近場の空港を目指した。


幸いにも敵機は自分を追い掛けて来ず、飛行に集中することが出来た。


「こちらアメリカ空軍701飛行隊キャメロン中尉、敵機の攻撃を受け右エンジンを損傷、緊急着陸を行いたい」


「こちら管制塔、Aの滑走路に消防隊が待機してる。そちらのタイミングで降りてくれていい」


黒煙を吹きながらも、必死に飛び続ける様子はインターコンチネンタル空港の管制塔からも見えていた。


「了解、感謝する」


左右に揺れる機体を水平に保ち、何とか安定を得ようとする。


いつもより少し速い速度で滑走路へ侵入したが、特大の問題も無く着陸した。


この瞬間彼は英雄になった。


いや、なってしまった。




大日本帝国 内務省 軍監視委員会にて



「貴方の証言が外部に漏れること、またそれによって不利益を被ることは一切ない」


まるで尋問を受ける前の謳い文句みたいだ。


「では始めましょう、石原宗一郎一等兵」


小隊が全滅したあの日、破壊した車両の煙が目印となって私は友軍に救助された。


それからロサンゼルス陸軍病院まで後送された。


病院にいる間、色んな人間が矢継ぎ早に訪ねて来た。


査問委員会やら戦術研究室やら、お役所臭い名前の連中が色々だった。


だが一番驚いたのは師団長直々に見舞いに来たことだった。


小隊が全滅した話はニュースになっていたらしく、指揮官の責任問題を追及する話が出てきたのが原因だった。


中隊長は解任、降格処分を受けた。


それにしても話が大きくなり過ぎだった。


たかだか小隊……たった29人如きにこの騒ぎだ。


正直、腹が立っている。


今騒いでる奴らは戦友が苦しんでいる時、何もしなかった奴らだ。


死んで初めて人間扱いしてくる癖に、一丁前にお悔やみを言ってくる。


「貴方の小隊は敵の対空部隊を捜索する為に前線を越えた、間違いないですね?」


「あぁ」


石原のやる気のない返事と姿を見て、背広の男は攻め方決める。


「現場指揮官の判断は正しかったと思いますか?」


笑い転げそうになった。


こいつの安い挑発は大多数の軍人に通用するのだろう。


小隊は家族も同然だ、家族を侮辱されれば相手の目論見が分かってても乗らざる終えない。


特に現場は横の繋がりが太く、上に不満がある人間は多い。


そしてそういう不満がある人間を相手にしてきたのが軍監視委員会だ。


軍監視委員会は内務省に設置された、軍部に対する透明性・遵法性が確保されているかを監視する為の組織だ。


内偵で集めた軍部の不祥事(隊内いじめ・自殺、クーデターの計画)を公表及び追及する。


要は吊し上げ部隊だ。


下を煽てて上の首を狙う。


そういうやり方で、今までボロを出させて落としてきたのだろう。


「間違ってた、あの小隊長は最悪だ」


背広の男は誘いに乗ってこなかった石原に、怪訝な表情を浮かべる。


死人の悪口を饒舌に話してやった。


「俺には中隊長を解任した理由が全く分からない、小隊が全滅した原因はあの馬鹿小隊長にある。二階級特進ではなく、二階級降格すべきだと私は!」


「もういい結構、ハァ」


こいつからは情報は取れない、そう判断した背広の男は書類作りの為の質問を繰り返し尋問を終えた。


夕方まで掛かりそうな雰囲気だったが1時間で終わってくれた。


タクシーを拾い、運転手に丸の内へ向かってくれと頼んだ。


「……ラジオを付けてくれ」


「車保険入るなら!大日本生命!お電話お待ちしております」


「………」


「ニュースをお伝えします。通常兵器拡散防止を巡る国枢総会において、ドイツ大使は改めて国際社会との連携を強調しました」


「ソ連崩壊以降、国外への武器流出数は増加を続けており、日本政府は紅海へアマテラス艦を派遣するなどして取り締まりを強化しています」


「ここでいい」


タクシーを降り、空を見上げた後、辺りを見渡す。


敷き詰められた車、真顔で歩くスーツ姿のビジネスマン、道路脇に並ぶ飲食店、当たり前の世界だった筈だ。


それなのに、どうしてこんなに違和感を感じるのだろう。


コーヒーを頼んで壁際の席に座った。


「随分早いな」


「向こうが諦めてくれた」


背後に座っていた情報部の男は、自分の前に座り直した。


「軍監の尋問をどう切り抜けた?」


「死体を蹴った」


「なるほど」


「死者は反論しないし、証言は全て真実」


内務省は基本的に国内で起きたことにしか関与しない。


軍の不祥事を追及する立場にあるとは言え、戦地で起きた現場指揮官の判断ミスまで追及するのは筋違いだ。


にも拘らずここまでしつこく調べているのには理由があった。


内務省は今回の米侵攻作戦を快く思っていないらしく、米大陸派遣軍が第二の関東軍になることを恐れていた。


どうにも米派軍は文民統制を無視して作戦を進めようとしている節があった。


陛下の軍隊を独断で動かそうとしていたかも知れないという可能性は、内務省としても無視出来なかったのだろう。


重箱の隅をつつくだけでは飽き足らず、叩いて上が滑り落ちるまでやるつもりらしい。


民間人誤爆や派遣軍内での不正横領といった、大から小なりの不祥事を全てかき集め、命令を出した奴の首を取るのが内務省の目的だった。


小隊が全滅した話は、その重箱の隅をつついた程度の話に過ぎなかった。


「礼がまだだったな、望むキャリアがあればそれに応えよう」


石原は何も言わず、財布から万札を取り出し机に放り投げた。


決めていたがもう一度決めた。


こうして私の軍隊生活は終わりを迎えた。


「………帰り賃がない」


ATMを探して歩くことになった。




英雄製造会社 著者 本田 正 p220より



彼の手腕は、一企業をコントロールするだけでは収まらなかった。


オクラホマの閑静な住宅地に、その英雄は暮らしていた。


英雄は撃墜王キャメロンの名で通っていた。


首都ヒューストン攻撃に際し、日本軍機を多数撃墜したエースパイロットであった。


インタビューに応じてくれたキャメロンは30年経っているとはいえ、かつての敵国人に対し寛大な態度で接してくれた。


手始めになぜ取材に応じてくれたのかと問うと、もう英雄である必要がなくなったからだと答えた。


「あの日、私は3機撃墜したことになっているが確実なのは1機だけだった」


彼はプロパガンダに嘘は入れない。


事実のみを記載するから説得力があった。


キャメロンの戦果は撃墜1、未確認1だけであったが、それを誤認させるような切り抜き方をした。


キャメロンの僚機であったフランクも日本軍機を落としていたが、共同撃墜扱いにされていた。


当時劣勢に立たされていた旧米の国民は、この戦果に熱狂した。


キャメロンは至る場所でサインを求められ、遠い親戚や学校の友達が沢山出てきた。


世間の熱狂に反し、複雑な感情を懐いていたと話す。


戦争が英雄を作るのではなく、戦争が英雄を求めるのだとキャメロンは語る。


「新しい戦争が始まったから、もう私は必要無くなった」


撃墜王の肩書きを降ろした男は、目を瞑り静かに唸った。


「これで俺の戦争が終わった」


彼に英雄に仕立てられたのはキャメロンだけではない。


お次はボルトマートで働く21歳の……

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