首都急襲
死ね
日の出にて
闇夜は過ぎ去ったが、明日が迫っていた。
「生きてるか?」
「死んでよ」
最早、兵士として行動はしていなかった。
ここが何処かだとか、生き残る為だとか、そういうはっきりしたことは全部考えないようにした。
こんな山奥では自暴自棄になってもしょうがない。
無気力を通すことが七難八苦から遠ざかる一番の近道だ。
虫が足元を這っていても、それを振り払う気にならない。
空に飛ぶ鳥が、全て航空機に見えて来る。
100万払っても構わないからこの苦しみから解放されたい。
初年兵教育の過程を耐え抜いた時、気弱な自分消え、何でも出来る自分になっていた。
だがそれは錯覚に過ぎず、教育を受け慣れただけなのであって、強くなった訳ではないのだ。
今まで耐えられていたことが、いつの間にか耐えられなくなっている。
それに気付くのは男としてあまりにも恐ろし過ぎた。
私はここに居るべき人間ではなかった。
「石原……移動しないとまずい」
岡田は空に浮かぶ豆粒を指差すと、銃で狙いを付け撃った。
敵の偵察ドローンに見付かったようだ。
立ち上がろうと踏ん張ったが、疲労困憊の状態で最後の気力もさっき出しきった今、もう歩くことも出来そうになかった。
「もう駄目だ、置いてってくれ」
「うるさい立て、俺1人で小隊全員分の遺品を片付けたくはないぞ」
肩を抱えられながら引きずられ山を登るが、すぐに追い付かれると分かっていた。
誰か助けてくれ!いや助けなんか来ない。
岡田は息切れし、疲れ果てて今にも死にそうだった。
「もういい構うな、置いていけよ」
足と腕、四肢共に限界を迎えた岡田は石原を岩陰に座らせる。
「やっぱ田口の野郎ぶっ殺しといて正解だった」
岡田は笑おうとしたが、広角を上げることしか出来なかった。
空が暗く、力の抜ける感覚、草木を撫でる風の音が悲しくある。
先は見えない、誰も付いてこない、ただ寂しい。
これが死ぬということなのだろう。
「もう怒鳴り声を聞かずに済む」
上官の声も母親の声もだ。
岡田は短機関銃を乱射しながらたった一人の万歳突撃を敢行する。
まるで飛び降りでもするかのような勢いだった。
多くの言葉を交わすことも、涙を流すこともなく、他の連中と同じように死んでいった。
岡田の稼いだ時間を利用して、追ってとの距離をまた引き離した。
「日本兵はイカれてやがる」
突っ込んで来た敵兵の死体を撃ち、無線で報告を行う。
「こちらブラボー2、1人取り逃した」
「しかしよく粘るやつだ」
コマンド部隊の隊長は、敵ながら天晴れと称賛を送る。
敵の偵察小隊を返り討ちにしてやったが、まだ残党が残っていた。
夜の内に片付けて置きたかったが、如何せん降伏もしないような相手なので苦労している。
「どうする?そろそろ敵の即応機動部隊が来るぞ」
既にタイムリミットは過ぎている。
取り逃したはぐれ鼠を追って、大群に囲まれでもしたら厄介どころの話ではない。
「味方防空圏内まで離脱する、シューティングガードも撤収させろ」
旧米部隊は撤退を開始したが、石原はそれに気付かずしばらくの間、逃げ回った。
山を超え、草木に足を引きずりながら跡を残し、再び190号線に出た。
トボトボと歩いていると、前からエンジンの唸りが聞こえてくる。
死神の迎えがやってきたようだ。
道路脇に身を隠し、LAWを構えてじっと待った。
無限軌道車特有の地響きを上げるそいつは、こんなことになった原因たる対空戦車だった。
車長も操縦手も車体から顔を出し、視界を確保しながら走行している。
一瞬バレるかと思ったが、どうにも急いでるのか周辺確認はしていないようだった。
石原は必中の距離まで戦車を引き付け、車体側面に向けてロケット弾を発射した。
ロケットは戦車の足回りに命中し、履帯が引きちぎれ転輪がアスファルトに転がった。
制御を失った戦車はカーブを曲がり切れず、そのまま斜面に乗り上げる。
動きが止まったところへ、間髪入れず2発目を砲塔に撃ち込んだ。
今度はミサイルランチャーに命中して、誘爆を起こし丸焦げになる。
顔を出していた車長は即死し、操縦手は火ダルマになりながら這い出てきた。
中からもう1人出てきたので、その背中を撃った。
全身が炎に包まれ、聞くに堪えない悲鳴を上げる操縦手を撃ち殺そうかとも考えたが、この連中に慈悲を掛けようとは思わなかった。
そいつらが焼け死ぬその時まで座って眺めていた。
翔鶴型原子力航空母艦 アカギにて
翔鶴型原子力空母の5番艦として1984年に就任した空母「赤城」は、排水量10万tを誇る巨大艦である。
翔鶴型は、1955年型信濃から採用された新機軸である傾斜飛行甲板と、鳳翔級で培った原子力艦運用能力が合わさった空母の完成形だ。
70~80機の航空機を搭載可能で、現在の日本海軍で運用されている正規空母は、翔鶴型8隻と加賀型4隻の計12隻である。
その内の1隻である太平洋連合艦隊所属の空母機動部隊は今、カリブ海に居た。
「衛星写真と諜報員の情報によるとパトリオットが8基、短SAMとVADSが複数点在している」
「パトリオットの発射台は中立国大使館付近に配置されている。よって本体への直接攻撃は禁ずる」
「敵の航空戦力は?」
ガンルームでブリーフィングを受けるパイロット達は、全ての情報を頭に入れると同時に疑問をぶつける。
「エリントン空軍基地には2個飛行隊規模のF15Cがスクランブル待機状態で配備、E3が空中哨戒に当たっている」
今回の作戦は奇襲作戦であると同時に、中々進まぬ停戦交渉を優位に進める為の政治的思惑もあった。
これ以上引き延ばし工作や交渉を渋るなら、我々は首都攻撃にも躊躇いはないと、旧米政府へ送る脅しのメッセージでもある。
そして万全を期すためにパナマ運河を通過せず、南米をぐるりと回ってアメリカの中庭へと、敵に気付かれず潜り込むことに成功した。
「1機も落とされるな、重要目標のみを叩け」
2個の空母飛行隊はカタパルトから射出され、全機ヒューストンへ機首を向けた。
メキシコ湾内は旧米のミサイル艇やら潜水艦がうようよしている。
その為、湾内に入らないギリギリを突く。
アマテラス艦から巡航ミサイル計120発が発射される。
「!これはいったい!?」
その頃、旧米レーダーサイトの画面には、無数の機影が写し出されていた。
「なんだこの群れは?」
画面上では、東米国境から複数の機体が侵犯して来ているのが確認出来た。
「何か妙だ、自己診断プログラムを走らせろ」
フロリダの基地から発進してきたのなら、ニューオリンズのレーダーに引っ掛かる筈だ。
警戒網を掻い潜ったとしても、この機数では必ず何かしらの痕跡は残す。
そうこの影は突然沸いて出てきたかのようだった。
「こいつはサイバー攻撃だ、この調子ならデータリンクも切断されてるな」
旧米の将校は、まだ使える通信手段を使って別レーダーとの連絡を取る。
「現在サイバー攻撃を受けている。そちらのレーダーで東米機は確認は出来るか?」
「ネガティブ、機影は確認出来ない」
眉間にシワが寄り、表情に険しさが増す。
「他の手段、AWACSはどうだ?」
「通信が繋がりません」
AWACSはサイバー攻撃が行われる前に、リュウセイ三五型 A/B-1ステルス艦上戦闘攻撃機によって撃ち落とされていた。
「モズ1から全機へ、鷹の目を潰した」
防空網に出来た穴を抜け、120発の巡航ミサイルが五月雨の如く降り注いだ。
ミサイルの狙いは防空司令部並びにエリントン空軍基地、攻撃隊の脅威となる存在を重点して狙った。
対空放火がミサイルを撃ち落とさんと、上空へあらゆる火力を放つ。
「空軍基地へ向かってるぞ!」
「撃ち落とせ、敵はノロマな巡航ミサイルだ!」
パトリオットミサイルやVADS対空機関砲が射撃を開始する。
電子戦機による妨害で探知距離や命中精度が落ちているが、それでも亜音速の巡航ミサイルを撃墜するには充分だ。
しかしデータリンクを切断されている為か、一つの目標に対し複数のミサイルを発射してしまった。
防空司令部にミサイルが直撃し、この攻撃で49人が死傷して司令室への電力供給が遮断された。
この攻撃によって集団は個になり、現場指揮官の判断に頼らざる終えなくなった。
エリントン空軍基地の第8基地防空部隊は果敢に対空戦闘を行い、飛来するミサイルの7割を叩き落とした。
しかし飽和攻撃の前に防空網を突破され、滑走路に着弾を許す。
「Jesus!滑走路がやられた……」
目と耳を潰して手足を捥いだ、あとは口を封じる。
滑走路破壊の一報は攻撃隊に伝わり、全機突撃の合図が下る。
12式空対艦誘導弾を積んだ83式コクフウは、雷撃隊の如く低空を切り裂きながら飛行する。
「目標捕捉、敵フリゲート艦、撃て」
12機から4発づつ、計48発の対艦ミサイルが200kmの地点から発射された。
湾内では複数の艦艇が緊急出港を試みていたが、丁度帰港したばかりで人員が下船しており、出港に手間取っていた。
エンジンを起こすことすら叶わず、命中弾を受け戦闘能力を喪失する艦が続出する。
そんな中1隻のスプルーアンス級が、味方艦の盾にならんと立ち塞がった。
「オールウェポンフリー撃ち尽くせ!」
駆逐艦「ジャック・ロア」は、SM2、主砲、CIWSを使い、殺到する対艦ミサイルを迎撃する。
水上艦からでは水平線の向こう側から飛来するミサイルを捕捉することが出来ない。
その為、水平線から姿を現す20kmの地点までSM2は撃てない。
「目標捕捉、SM2撃て!」
ジャック・ロアはSM2によって2発を迎撃し、主砲とCIWSで1発づつ落とした。
僚艦のOHペリー級「ハンク」も、3発のミサイルを迎撃する。
「総員衝撃に備え!」
しかし、4発目を防ぐことは出来なかった。
一瞬でバイタルパートを貫き、大きな火柱を上げた。
「ハンク被弾炎上中!」
「真っ直ぐ突っ込んで来る!チャフ発射!」
放たれたアルミの壁はミサイルを食い止め、ジャック・ロアを守った。
ようやく攻撃を切り抜けたが、湾内は大混乱に陥り滅茶苦茶な状態だった。
軍民の船舶が入り乱れ、ニアミスが多発して中には衝突したケースもあった。
勇敢に活躍していたジャック・ロアであったが、攻撃を受けた艦艇から舞い上がる黒煙に視界を塞がれ、民間タンカーの接近に気付かず衝突されて戦闘不能となった。
ノースハイウェイ146号線にて
軍用車両で封鎖されたこの道に2機のF15が待機していた。
「機体の用意は?」
「大丈夫だ、早く奴らを落としてくれ」
整備員と言葉を交わすと、機体に乗り込み動作チェックを手早く済ませる。
キャメロン中尉とフランク中尉の両名は、基地が攻撃された場合に備えて分散配備されていたF15のパイロットであった。
これ以上、故郷の空を好き勝手される訳にはいかない。
祖国防衛に燃える彼は、僚機のフランクを連れてヒューストンの空へ上がった。




