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焼残

死ぬのは一瞬、生きるのは苦痛、逆にしても同じ事



白樺陣地にて



「昨日、オニヤンマが落とされた。対空ミサイルにではなく、機関砲にだ」


ホワイトボードに張り出されたのは、M7シューティングガードの写真だった。


M2ブラッドレーの車体に、M61バルカンと能力向上型スティンガーミサイルを搭載した近接防空車両だ。


「我々の任務は山岳部に潜伏する対空兵器の位置を捕捉し、航空部隊に通達することだ」


敵の攻撃を退けた翌日、小隊は山狩りに駆り出された。


「何が任務だ、ぶっ殺してやる」


既に兵員の多くは疲弊しきっている。


砂漠で敵野戦軍を叩き潰し、市街地では民間人を巻き込んだ熾烈な戦闘を繰り広げた。


ラスベガスからこの半壊した陣地まで、1ヶ月かそこら費やしたと思う。


想像出来ただろうか?子供の頃、いや大人になろうとも想像出来なかった筈だ。


「無反動砲を持っていくか?」


「ドンパチしようって訳じゃないんだ、邪魔になる」


「じゃあこれ持ってけ」


岡田は石原に旧米製のM72対戦車ロケットを投げ渡す。


どこでこれをと訊くと、昨日襲撃してきた特殊部隊の死体から分捕ったと話した。


「ついでにコイツも」


岡田は新しい玩具であるコルト9mm SMGを見せびらかす。


「こりゃ凄いぞ伸縮ストックにアルミハンドガードで携行性を高めてある。照準器はエイム社製のドットサイトとIRレーザーをタンデム搭載して、マズルデバイスは大型サプレッサーが取り付けてある。これなら夜に撃っても発砲炎はみえない」


「つまり凄いってことか」


「あぁ凄い、一級品ってやつだ」


普段より軽装の筈だが、それでも装備が酷く重く感じた。


小隊長の馬鹿は元気一杯に行軍を開始し、その後ろで足取り重く歩いている兵隊を気にも止めない。


「腹減ったなぁ」


「なんで上は飯食う前に動かしたがるんだ?」


「知らねーよさっさと終わらせて戻ろう」


まずはヘリが撃墜された現場から機関砲の射程を元に、捜索を開始することになった。


轍を見つけ、その足跡を追って敵車両を探すという古典的やり方をするしかなかった。


「上で無人機が捜索してるってのに、どうして見つけられないんだ?」


「対サーマル偽装網でも使ってるんだろう」


分隊長は地図を広げ、首を捻りながら山を見渡す。


旧米の前線防空部隊は、レーダーのスイッチを切ったまま前線近くに潜伏する。


そして近接航空支援にやってきた低空を飛ぶ航空機を叩き落とすという、ゲリラ的に活動を行っている。


「撤退ルートを確保しつつ、潜伏しやすくて射線が通る場所を選ぶだろう」


「そんな場所ありますかね?」


「なけりゃ妥協点を見つけてる」


連中の戦術に当てはめて考えると、ビック・コットンウッド・キャニオンロード(州道190号線)沿いが怪しい。


V字型の峡谷にアスファルト舗装の州道が伸びていて、背の高い針葉樹が密集している。


攻撃後に全力で退避すれば、パトリオットミサイルの防空域まで直ぐに到達することが出来る。


戦争のエスカレーションってやつを防ぐ為に、ロッキー山脈を超えての航空攻撃は行わないようお達しが来ていた。


故にロッキー山脈から向こう側は、旧米軍にとっては聖域と化している。


「手分けして捜索しますか?」


「ここは敵の地元だ、只でさえ少ない人員を分散する訳にはいかん」


「手分けして探すぞ!」


小隊長はまるで軍神の如く振る舞い、曹長である分隊長を無視して先行する。


「なぁ小隊長おかしくないか?」


「いつもおかしいだろう」


「いやそうじゃなくて、恐れが消えてるんだ」


殺すぞと脅されて大人しくなっていたが、どうにも変だ。


恐れを上回る焦り、何が何でも武勲を挙げようと浮き足立っている様子は、針山に手を突っ込むが如き危うさがある。


「もしかしたら昇進しようとしてるんじゃないか?」


田口はあの歳で中尉留まり、同期からは終わったやつ扱いされ、部下からの信頼はご存じの通りだ。


ずっと惨めな思いをしてきたのだろう。


ソ連崩壊で今後は戦争をする機会が減ると予想されている。


個人的には抑え付けられていた民族自決の感情が噴出し、新しい形の戦争が始まる可能性が高いと考えているが、ニュースはそう伝えていない。


この戦争が終われば、武勲を立てる機会は定年まで来ない。


そう思った田口は最後の賭けに出た。


「必要になったら俺が撃つ」


分隊長はそう石原に向けて呟いた。




イタリア領トリポリにて



「計画が台無しだ」


ヘルゲンはワインボトルを手にを一気飲みする。


「うぐっ!」


シュルツマンは呆れ果てた。


重さも形状も違うウイスキーとワインのボトルを取り間違える程に激昂し、それでむせ返っている様にだ。


「ベルリンの騒ぎでクーデターはもう不可能だ。首都警備は秩序警察主導で進められることになった」


「我々傘下の部隊は、報復措置でテロリストの潜伏先と思われる地域の浄化作戦に動員されました」


だがこれは偽装だ。


この件にはユダヤ人もスラブ人も関わっていない。


秩序警察内部に居る内通者の話では、OGHが射殺した1人はイタリア人との情報だった。


シュルツマンは疑心から窓の外へ目をやる。


このトリポリ港はイタリア軍も駐留している共用基地だ。


クーデター計画の要であるフランクフルト号の改修は、全てドイツ人で固めてある。


だがこの基地に出入りしている誰かが、内通者の可能性もある。


警戒しなければならない。


「計画はいつも狂う、取り戻せるか?」


「取り戻す?そもそも我々は初期の段階から大幅な変更を強いられています」


ワインボトルの向こう側に見える紫の歪んだ景色が、あの失敗を思い出させる。


そう、偶然あのパトロール隊に出会った時から、我々の計画は狂い出していた。




アルジェリア某所にて



「パイプ9からパイプ10、遅れてが生じている。もっと飛ばせ」


タンクローリーを護衛する彼らは、AGFサーバル2両で前後を硬めながら砂漠を走っていた。


「だとよ、親衛隊に入って荷物運びなんて」


MDVが愚痴を溢すと、ストーナーが薄ら笑いを浮かべて話す。


「俺はこの仕事、結構得なことだと思ってるぜ。この輸送だけで駐車場を高級車で埋め尽くせる」


まだ新しい物である以上、量産されていないせいもあってか、高値が付いている。


実際ムーラン社は通常の石油価格の10倍を出した。


間違いなく、この事実は独占しておくことに価値がある。


だがそうはならなかった。


タンクローリーがRPGの攻撃を受け、路肩に止まる。


「アンブッシュだ!」


「12時と3時の方向から攻撃されてる。野蛮人共を殺せ」


1台がタンクローリーの盾となり、もう1台は機動しながら攻撃を行う。


マウザーGL9の照準装置の電源を起動して、正面に向けて発射した。


25mmエアバースト弾が敵の頭上で炸裂し、あっという間に沈黙する。


たった数人、それも待ち伏せするしか脳のないゲリラ連中を退けるのは容易いことだった。


問題が起きたのは、この後だった。


「防護服を着ろ!タンクを塞げ!」


RPGの弾頭は不発で爆発こそしなかったものの、タンクからオレンジ色の液体が漏れ出している。


どうにか穴を塞ごうと、布や何やらを被せている時だった。


遠くから砂埃を上げて近付く車列が見えた。


「まずいイタリア人だ」


この輸送作戦自体が極秘である以上、友軍であっても接触は避ける必要がある。


「どうする?」


「当たり障りなくやれ、必要なら始末しろ」


パトロール隊の指揮官からこんなところで何をしている?そう問われ、事前に用意したカバーストーリーを話す。


「我々は作戦機への燃料輸送を行っている。詳細については秘匿権を発動する」


ここら辺では臨時の野戦基地が設営されることがある。


筋は通っていたが、イタリア側の指揮官は違和感を覚えていた。


幾ら作戦の為とは言え、不発弾が突き刺さったタンクローリーを修理しようなどと考えないだろう。


それなのにドイツ人達は、まるで船から溢れた黄金を塞き止めるが如く、オレンジ色の液体をかき集めている。


「ローマ兵が怪しんでるぞ」


「黙れストーナー、冗談を言ってる場合か!」


しかしコイツらを生かして返せば、妙な部隊が居たと噂が広まるだろう。


噂が広がれば、感の鋭い人間が嗅ぎ付け、そこから我々の計画が漏洩する可能性がある。


「このタンク何を積んでるんだ?ガソリンじゃなさそうだが」


MDVとストーナーは目線で互いの位置を確認すると、イタリア兵達の死角に立った。


「おいなんだお前ら、どうして後ろに立とうとする」


不審な動きを怪しんだイタリア兵は、腰のホルスターに手を伸ばす。


銃を抜かれる前に銃を抜き、イタリア兵2名の頭を撃ち射殺する。


「なにを!?」


ほぼ一方的な銃撃戦が始まった。


至近距離から不意打ちで銃撃を受け、反撃する間もなく死んだ。


若い兵士の1人が命からがら車に乗り込み、混乱しながらも逃げる。


「逃がすな!」


逃げる車と追う車、両方とも走ってはいるが追う方向には機関銃が搭載されている。


それでもその兵士は7kmほど、車が壊れるまで逃げることが出来た。


それで観念するかと思ったが、ソイツは車から這い出て走って逃げようとした。


だからエアバースト弾を使って殺害した。


しかし撃った場所がまずかった。


死体は30m下の谷底へ落ち、回収が難しくなった。


「おいどうすんだよ、証拠が残っちまうぞ」


我々が殺したという証拠が体内に残っている以上、焼くなり埋めるなりしなければならない。


「テルミットで焼けばいい」


放棄車両や機密情報の破壊を行う為の焼夷手榴弾を投げ落とし、死体を燃やした。


「全部燃えるといいが」


「2000度以上の温度だぞ、全部燃えるさ」


だが、全て燃えてはくれなかった。


ワインボトルに反射する太陽の光が、シュルツマンの目に焼き付く。


あのイタリア兵を焼いたテルミットのように、強烈で酷く鬱陶しい光だ。

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