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2400夜襲開始

過去を改めることも出来ないのなら、未来だって変えることも出来ない




中部米陸軍第35歩兵師団 第39歩兵旅団戦闘団指揮所にて


「日本軍は防御陣地を構築しつつあり、偵察部隊の報告によると複数の120mm迫撃砲が陣地内に配備されているのを確認しました」


「高い所は全部取られたな、頭を低くしなきゃ歩くことも出来んとは」


「攻撃するとなると、相当の損害を覚悟しなければなりません」


しかめっ面を並べホワイトボードを睨み付ける旧米の士官は、それぞれの見解を述べる。


「しかし今のうちに叩くべきでしょう。築城資材の空輸はスティンガーで妨害出来ていますが、陣地が完成すればより厳しい状況になることは確かです」


日本軍は高台に陣を構え、急ピッチで作業を進めている。


陸路での輸送は困難な為、空輸に頼っているようだった。


それを狙い、小部隊で陣地付近へ潜伏し、荷下ろしの最中を狙って携行式の地対空ミサイルで撃墜するやり方を取っている。


この戦術は効果を上げており、これまでに7機の輸送ヘリと1機の戦闘ヘリを撃墜していた。


しかし発射後は即座に森林に隠れて離脱しなければ、敵の無人機に補足され空中哨戒のヘリに狩られる危険性もあった。


「我々としても敵陣地への攻撃を早めてもらうと助かる」


野戦砲兵大隊は砲弾不足を訴えた。


連日の激しい砲撃戦と航空攻撃によって損耗し、各砲に分配出来る数は残り100発を切っていた。


「ヒューストンの政治家が答えを求めている。あとどれだけ戦い続けられるかを」


特殊作戦コマンド第8特殊部隊グループの部隊長は、日本側が停戦交渉を開始する可能性について危惧していた。


「停戦交渉を優位に進める為に、山岳地帯の奪還が必要不可欠とOSSは結論付けている」


例え陣地を奪還したとしても、政治交渉の場で引き渡すことになるだろう。


だが山の頂を目指す意味はある。


「……天候の悪化を待って総攻撃を開始する。ライスよりステーキ食ってる方が強いってことを日本人共に教えてやれ」




レイモンド山 白樺警戒陣地にて



遠目から見れば、瓦礫で出来た荒れ地にしか見えぬこの場所も、我々にとっては立派な陣地である。


鉄条網が蛇の如く身をくねらせ、獲物が掛かる瞬間を待ちわび、それを狙う汎用機関銃が十字放火をせんと構えられる。


土嚢の隙間から手を伸ばすと、締め固まっていない土が手に纏わり付いた。


砲撃を受け、耕やされ続けたせいで雨が降る暇さえなかったのだ。


「おい石原!飯持って来たぞ」


岡田が持ってきたのは、飯盒に入れられた温かいご飯とカレーではなく、戦闘糧食だった。


「パック飯も飽きてきたな、温食が食いたいぜ」


米の上にハンバーグを乗せ、モッチャモッチャと食いながらボヤいた。


ここに配置されていた部隊は壊滅した。


敵のコマンド部隊は優秀らしく、ここ白樺陣地は2週間足らずで大尉の墓場とも称されるようになった。


「外はどんな感じだ?」


分隊長が様子を見にやってきた。


陣地に籠ってる時は、こういう感じにいつも全体の様子を見に来るのだ。


「静かですよ、静か過ぎて怖いくらいです」


「地雷もセンサーも反応無し」


岡田はそう言って、木に巻き付けられた人感センサーをちらりと見る。


街のホームセンターから分捕った防犯用の物を取り付けただけだったが、これが意外と馬鹿にならない。


たまに動物が反応することもあるが、戦闘が激しくなれば逃げてしまうので気にはならなかった。


「潜望鏡貸してくれ」


鉄条網の向こう側に変わりはない。


土に埋もれた死体も、砕け散った白樺の木も変わっていない。


陣地前面の障害物になる木は全て伐採し、遠隔起爆式の対人地雷が敷き詰められた。


「確かに怖いな」


「なんかかくれんぼしてる気分っすね」


「お前ってやつは気楽でいいよなぁ」


「そうだそうだ、もっと階級を上げて俺の気苦労を味わえ」


「その前に死ぬと思うから大丈夫ですよ」


反応に困る答えを返され、分隊長と石原は顔を見合せ肩を竦めた。


ため息を溢して目を瞑る。


「何をそんなに疲れている?」


「分かるだろ、色んなことが頭から離れないんだよ」


「過ぎたことを考えても仕方ないが、考えないと行けない気がするんだ」


「あいつら全員殺しても問題ないだろう


」お前が今の人生を振り返って努力してなかったから今こんな気分になってるんだろ「


「周囲より優れていたい、変わり者でありたいと願う」


「その癖に他者よりも違うと、極度に怯える。」


「左派の癖に保守的だな」

「どうでもいいならなぜそう口を出す、ほうって置いて殺せばいいのにお前らはいつもそうだ不満で気持ち悪い自己嫌悪の回廊に陥る私は低空の怪物め」


「起きろよ」


鋭い目で周囲を見渡し、反射的に銃を手に取る。


「交代の時間だぞ」


岡田はずっと起きていたようだ。


「どれくらい眠ってた?」


「4時間ぐらい」


地面で冷たくなった尻を持ち上げ、背筋を伸ばした。


「お前は交代しないのか?」


「もう少しここにいる。寒い方が好きだ」


雲行きの怪しい空に背を向け、腰を低くしながら寝床に戻る。


ここに来て3日と経っていないが、何処に何があるかを既に把握出来ている。


それぐらい狭い陣地だった。


「なんでわかんねぇんだよ!」


岡田は寒いのが良いなんて言っていたが、本当の理由はこれだろう。


「すいません確認して来ます」


小隊長はいつになく怒鳴り散らし、不機嫌な態度を取っていた。


「確認確認ってお前そればっかじゃん、怒鳴られるの怖がってたらいつまでもこうだからな!」


田口小隊長は物に当たり散らす癖があり、得意技は私物爪先蹴りだ。


今もこうして部下の荷物を蹴り続けている。


井内分隊長に殺すぞと脅かされてから、隠れてこういうことをするようになった。


とても睡眠が出来るような雰囲気ではなかったが、疲れていたので気にせずに横になる。


いつ降るか分からない空の下で寝るよりは、良いかも知れないからだ。


「もういい気分が悪い!」


田口が出ていくと同時に、ドアに向かって物が飛んだ。


「野郎ぶっ殺してやる」


「後ろ弾なら協力するぜ、あの気分屋の癇癪持ちは制御が効かない」


「そうだな、俺達で始末した方が良いかも知れん」


最初は突拍子もない考えだったが、次第にどうやってあの男を殺すかを全員で議論するようになった。


「やっぱり撃ち合ってる間にやるべきだ」


「官給品(89式)でやったら検死された時バレるんじゃないか?」


「戦地帰りの死体に、検死なんかわざわざやるもんか」


具体的提案とそれに対する意見は、完璧な計画を立てる上での要素の一つだ。


半分本気で半分ノリだった。


別に田口が無能だから殺すとか、我々が正気を失っているから殺す訳でもなかった。


麻痺しているに過ぎないだけだ。


疲れは倫理と一緒に何処かへ行ってしまったのか、眠りにつくその時まで話し込んだ。


ただ実行者は決まらなかった。



白樺陣地 迫撃砲小隊にて



「降りそうだな」


山の天気は荒れるとは言うが、これは特に酷いものになると長年の経験で分かった。


「カバーを掛けておこうか」


「そうしよう」


砲はこの陣地で最も火力を発揮する兵器だ。


砲に何かあっては砲兵の恥と思い、せっせと作業をしていると頭上から微かに音が聞こえた。


空気を掻き回す機械音と、黒い小さな影が星空の下に浮かんでいる。


しかしそれを認識した時にはもう遅かった。


カチンと砲身に当たり弾き落ちたそれが、手榴弾であることを死の刹那で認識する。


閃光、そして破片が兵士達の肉体を切り裂く。


「敵襲!敵襲!」


拳銃を抜き、空のクワッドコプターに向けて撃つ。


しかし当たらない、いや当たる訳もない。


次に投下された手榴弾が転がった先は、弾薬庫の中だった。


戦闘が起きても、すぐ駆け込んで取り出せるように扉を開けっ放しにしていたのが、ここでの日常に慣れた罰だ。


反射的に覆い被さったことを後悔はしない、ただ願った。


頼む爆発しないでくれ


爆発は胸ポケットに仕舞っていた家族写真諸とも、心臓を貫いた。

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