ソルトレイクシティ空港の戦い
死への恐れはない、生きることが恐ろしい
ソルト・レーク・シティにて
「120mm迫撃砲、射撃命令、面制圧射撃、目標、敵歩兵大隊、効力射、榴弾瞬発、装薬3」
FO1からもたらされた情報が射撃指揮所を通じ、迫撃砲小隊が射撃を開始する。
「半装填!」「半装填ヨシ!」
「発射!」
腹の底、胃液が波打つ衝撃が運河の向こう岸で響き渡る。
プロボを制圧した我々はソルトレークにある空港を目指し、サプラス運河を渡河しようとしていた。
「軽機はあの草むらに制圧射撃をしろ!おい岡田、FVの運転手と話してこっちに来させろ」
分隊長は的確に指示を出しながら、擲弾を5発仰角を付けて撃った。
7.62mm汎用機関銃、M2ブローニング重機関銃、TOWミサイルの猛烈な射撃に晒され、架橋作業は難航していた。
「第3中隊損害多数、なお残存戦力は……」
その飛翔体は文字通り、ヒュッ!バン!と音を上げて命中した。
「畜生なんだ!?」
敵の徘徊弾薬が中隊の無線兵を吹き飛ばしたのだ。
旧米側呼称でワイヤレスキラーと呼ばれている自爆突入型の無人機である。
肩撃ち式のランチャーから発射され、敵の無線を逆探知して突入するという代物だ。
だがこの兵器で命を落とした兵士は、自分の記憶ではこれっきりだった。
弾頭重量がそれほど大きくなく、肝心の無線探知機能についても性能は高くはない。
着弾時の音だけは大きかった為、こけおどし砲だのホラ吹き爆弾と揶揄されるようになった。
「FVが来たぞ!」
89式装甲戦闘車が35mm機関砲を連射しながら接近し、敵陣地を制圧する。
装甲車を狙ってATMが撃ち込まれるが、稜線を駆使して上手く避け逆に撃破してしまった。
対戦車チームを喪失しても尚、抵抗を続けていたが次第に火力で圧倒されて行き、最後は35mmで1人づつ掃討された。
速やかに工兵が架橋作業を開始して、煙草を吹かす暇さえ与えないほどの超特急で橋を掛けた。
「我滑走路を闊歩セリ」
空港に一番乗りした部隊は無線でそう宣言した。
「我々も遅れを取るな、前進セヨ!前進セヨ!」
小隊長はいつもの調子で怒鳴り散らし、装甲戦力の到着を待たずして突出する。
しかし空港施設内とターミナルには多くの敵兵が点在していた。
移動している最中も、敵からの攻撃が続く。
「建物の陰に戦車がいる!狙ってるぞ」
岡田はその戦車が、他の旧米製戦車と比べ全高の低い車体であることと、全体にペタペタと張られた爆発反応装甲の特徴から、T72A1だと判断した。
1991年のソ連食料危機支援の一環で旧米から大量の麦が輸送された。
その対価としてルーブルの代わりに受け取ったのが、T72Bだった。
搭載機銃を全て米国製の物に換装し、赤外線暗視装置を廃止して熱映像装置に変えてあるのが大きな特徴だろう。
改修を受けたT72はT72A1として、ソ連製兵器を中心に編成される第2機甲師団に配備された。
「分隊長、奴らレッドアーマーズです」
「なんだってクソ?空軍が仕留め損なった連中か!」
FVの重MATでT72を撃破するが、その反撃に食らった弾で大破した。
「まだ隠れてるぞ」
油断して滑走路を爆走していた連中は、T72の同軸機銃で車両ごと穴だらけにされる。
敵は上手いこと航空機から見えない位置に隠れ、射線の通った味方を次々と攻撃していた。
「現在敵のT72と交戦中、航空機格納庫内に居ます。近接航空支援を要請します」
アラワシが無誘導爆弾を投下し、戦車は格納庫ごと吹っ飛んだ。
兵装を全て使い果たしたアラワシは、じゃああとはよろしくと言わんばかりに旋回して戻って行った。
「もう1両を仕留めるぞ!」
パンツァーファウストや84mm無反動砲を発射するが、移動しながらの射撃がそう当たる筈もなかった。
地面に窪地を増やすか装甲に弾かれ、有効弾を与えられずにいた。
パッと戦車に火が付き、そのまま爆発して動かなくなる。
誰かが対戦車誘導弾を命中させたようだ。
戦車を撃破してしばらくすると、敵の一部部隊が降伏してきた。
空港は包囲され、突破する火力も機動力もない上に、大量の負傷兵を抱えたままでは戦えないと判断したようだ。
「まだ中に大勢残ってるだろうな」
「どうしようかね?」
車両の陰で手をこまねいていると、後方からやけにゴテゴテした高機動車が近付いて来た。
「海さん連中が来たぞ!来たぞ!」
嫌な予感ってやつは、いつの間にか車の屋根にこびり付いてる鳥の糞並みによく命中する。
特にこんな仕事をしていると、予感ってのに振り回されることは多々ある。
「状況は?」
まるでジョギングをしに来たかのように軽々とした足取りで現れたそいつらは、海軍特別陸戦隊の特殊強襲部隊だった。
我々から話を聞くと、早々に突入して行った。
隊長格の人間の顔には見覚えがあった。
前にロサンゼルスで憲兵を脅した海軍の男だ。
ソルト・レイク・シティ空港にて
「ガーベラ1-1から3-1へラウンドの西から侵入する」
「了解、ちゃんと引き付けてくれよ」
工兵が爆破撤去したバリケード越しに銃撃戦が始まった。
エスカレーターの昇り口には、土嚢を積み上げた機関銃陣地が構築され、来客歓迎の準備は整っているようだった。
最初の数秒は威勢良く撃ち続けていたが、サプレッサーの抑制された音で射撃は止まった。
「クリア、片付けたぞ」
後方から侵入し、警戒していても水のように浸透されていた。
きっちり2発撃ち込み、止めを刺しながら移動する。
「もっと手こずるかと思った」
「小賢しい訓練ばっかりやってたお陰だな」
「俺達が右フックで正面から殴り倒すように運用されたら終わりさ」
一般部隊と特殊部隊の違いを例えるなら、日本刀と忍刀だと答える将校が居る。
合戦をするには忍刀では短過ぎるし、寝首を掻くのに日本刀では長過ぎる。
特殊部隊は超人集団等ではなく、一般部隊とは違う戦い方が出来るというのが特徴なのだ。
戦車や榴弾砲で敵を粉砕し、塹壕を掘って敵の攻撃に耐えるというような戦い方はしないし出来ない。
あくまでも他所の部隊より訓練で使う弾薬が多く、それぞれの隊員が空挺降下や爆破作業といった特殊技能を持った軽歩兵だ。
「援護しろ」
手榴弾を空港事務所へ投げ入れ、爆発と同時に踏み込む。
死角となるドアの両端を警戒しながら突入し、銃を持っているなら死体も撃った。
訓練で何千回と繰り返したからこそ、背後を味方に任せ目の前の敵に我の全力を投入して当たることが出来る。
この一点に置いては、どの部隊よりも優れていると自負していた。
速く正確に、対応の暇、思考を与さえせずに強襲する。
「こちらガーベラ1-1空港ラウンジを制圧」
「こちらパラムシル6、管制塔を制圧、設備への損傷は軽微」
続々と制圧の報告が上がる中、未だ銃火の曳光が伸びる場所があった。
メンテナンスハンガー内に、残存する兵力の全てが集結していたようだった。
このハンガーは戦時を想定し、厚さ5mの鉄筋コンクリートで構築された民間空港には似つかわしくない建物だった。
1961年に建設されたこのコンクリート建築物は、軍用機を守る掩蔽壕としての役割を担っていた。
しかし、1980年代になると日本軍爆撃機の高性能化に伴い、ソルトレイクシティ空港は緒戦で機能を喪失する可能性が高いと判断された。
1989年には軍民共用空港としての役割を終え、戦闘機部隊はデンバーの空港に移転している。
このメンテナンスハンガーは、その軍民共用時代の遺物を再利用したものであったが、その頑強さは歴史が補強していた。
「T72がまだ居やがるぞ」
小隊編成なのに転がってる残骸が3両分しか見えないのが引っ掛かっていたが、虫みたく隠れていたようだ。
「馬鹿正直に撃ち合う必要あるか?航空支援を呼んだ方が良さそうだ」
「あんな所に籠ったって、地中貫通爆弾を落とされたら一発で棺桶になるってのにさ」
あれだけ追い詰められても降伏しないってことは、相当な覚悟か或いは意固地になっているのだろう。
「人命を尊重してやろう、メガホンあるか?」
格納庫から突き出た戦車砲の射線に入らないよう近付き、敵に投降を促す。
「意地を張るな!投降しろ!」
「ファッキンジャ○プ!」
(こいつは南部訛りだな)
「まぁ腹を割って話そうじゃぁないか、いまからそっちに行くぞ」
海軍の男は小銃とヘルメットを置くと、敵のど真ん中に手ぶらで入って行った。
ハンガーを包囲していた味方部隊はその行動にぎょっとしていたが、同僚は上手い冗談を言おうと無線を賑わわせていた。
中に入ると、幾度となく嗅いだ籠城戦の臭いが漂ってくる。
ざっと千人はこの中にいるだろう。
空薬莢から香ばしい火薬、戦闘服に染み込んだ汗と土は、ここで戦い死んで行く者達の死臭となる。
1人で蜂の巣に入り込んだ男に、敵意は向けても銃を向ける兵士は存在しなかった。
「指揮官と話がしたい」
突然の来訪者に戸惑ってはいたが、申し出は案外簡単に受諾された。
旧米軍の指揮官は少佐だった。
「我々は降伏しない」
それがその若い指揮官の答えだった。
「まぁそう言いなさんな、わてがここにいる限り襲ってはこれん。少し話でもしましょうや」
海軍の男は相手の南部訛りの英語に合わせて話を始める。
「下手な英語だと言われはしまいか?」
「喋りは西米の兵隊から移ったんだ、夜の繁華街ではイギリス訛りで話してる。そっちの方が女受けがいい」
互いに笑いが起き、少佐は煙草に火を付ける余裕が生まれた。
「吸うか?」
「いや煙草は吸わん」
「俺も1ヶ月前までは電子タバコで我慢してた。今じゃシケモクでも吸ってやれる気分だ」
灰が床にポトリと落ちる間の沈黙が続き、少佐は切り出す。
「部下を死なせたことは?」
「何度もある。目の前で出血死したり、首を切り落とされて死んだり、俺の知らないところで死んだりした」
「ならわかるだろ、もう引き下がれない」
人間不思議なもので、生きてる時よりも死んだ後の方が思い入れが強くなるのだ。
いくら悲しんでも戻りやしないし、弔いをしても利益にもならない。
「クリスタルの検問所に弟が居たんだ。ギターが趣味で週末になったら海水浴に行く約束をしてた」
あんたらの仲間に殺された。
少佐の携帯に表示された写真に、その弟の笑顔が張り付いていた。
「あんたならどうする?突然襲ってきた連中に家族を殺されて、黙って手を挙げられるか?」
海軍の男は無理だと答える。
そして作り話を始めた。
「昔ある所に、一目惚れした女が居たんだが化け物が壊した。だからその化け物も仲間も皆殺しにした」
「何故そうしたかって言うなら、それが出来たからだ」
「だがお前らには出来ない、ここをもうすぐハヤブサが爆撃する。だから降伏しろ焼け死ぬ前に」
天を仰いでも、蛍光灯しか見えやしない一室で少佐は天を仰いだ。
「なぁ今の話、どれだけ本当なんだ?」
「殆ど作り話さ」
986名の旧米兵は投降し、ソルトレイクシティ空港の戦いは日本軍の勝利に終わった。
仕事辞めたのでもうこの小説を書くしか存在価値が無くなった
生きてる内は書き続けます




