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奴らを殺してお前も死ね

人生ほど辛辣な皮肉屋はいない


自らの「行動 発言 思想」全て把握しながらも、実際にそうなるまで教えてはくれない



ベルリンにて



防弾SUVの中から街並みを用心深く観察するセルジョは、猛禽類のように鋭く尖った目をしていた。


助手席に座るエラルドが、その目をやめろと言ってみる。


「輩みたいな雰囲気を出すな、カメラ映りが悪くなるぞ」


街灯に隠された監視カメラが、信号待ちの車内から見える。


ドイツ人は毎日見張られて暮らしていて、気が張らないらしい。


路上を歩く者達は、巧妙に隠匿されている筈のカメラを無意識に意識していた。


いつ何処でどういう行動を取れば自分の首が締まるか、潜在的に判るとでも言うべきなのだろう。


監視社会での阻害された自由を謳歌しているのだ。


平穏には代償があると教育され、理解しているが故に彼らはこの得体の知れぬ気味の悪さを恩恵としている。


歴史ある建築物と、定期的に整備された真新しいアスファルトが、正しく近代国家とも言えよう。


80年の年月が成熟させた帝国主義の威風堂々とした権威的な建築に、緑化された近代的街並みが相まって禍々しい美しさすらある。


「いいね、ここで銃を振り回せるなら死んでも文句ねぇや。それと」


「女が居ればもっといい、そうだろ?」


「分かってきたじゃねえか」


「聖書の内容よりも、貴様の思考回路を覚えちまったのは人生で一番目の汚点だ」


「二番目は奥さんに逃げられたことか?ぬへへ」


カルロとエラルドが皮肉と冗談で突っつき合っている間に、車はドイツ民間先進技術研究所の正面ゲートに着いた。


ARX160ライフルの薬室を確認し、装填されていることをしっかりと確かめる。


「銃は本当にイタリア製でいいのか?」


「いいんだ、我々が奴らの動きを感知しているというメッセージになる」


「ドイツの下僕同然のイタリアがそれをしたところでどうなる?精々、飼い犬に手をかまれた程度だぞ」


「我々は仮にも核保有国だ、世界がまともな限りは大丈夫な筈だ」


世界がマトモだったことなど、あるのだろうか。


「用意は出来てるか?」


「汝一切の望みを捨てよと言うが、地獄の門をくぐったつもりはない」


「俺もまだベアトリーチェに逢うつもりはない」


電波妨害装置を起動し、線が乱れて砂嵐の音に包まれる。


警備員が運転席に接近してきたのを見計らって、サイドガラスを下げる。


身分証を提示してください、なんて言われる前にサプレッサー付きのベレッタで射殺する。


エラルドとセルジョも、銃眼から外にいる警備員を撃ち殺した。


「車止めを下げろ」


詰所の操作盤からボラードを動かし、地中に埋める。


駐車場へ白線を無視して乱雑に車を停め、建物内へ突入する。


中に居た警備員はカルロ達を見て驚き、撃つなと叫んだ。


躊躇いはしなかった。


きっちり2発撃ち込み、倒れた男の頭を撃ち抜いた。


騒ぎに気付いた研究員が、廊下に出てきて目が合った。


「動くな!」


セルジョが一瞬撃つのを躊躇った隙を突いて、研究員は火災警報器を押した。


次の瞬間には、引き金を引いて丸腰の研究員を撃っていた。


「防火シャッターが!?」


シャッターが閉まる前に滑り込み、目標の場所へ前進する。


「くそったれ、消防と警察に連絡が行くぞ」


「知らんゴリ押すだけだ!」


国営でも民間でも、ドイツの研究所は金が掛かっている。


どの部屋も電子ロックで施錠され、各階毎に自販機と日当たりの良いテラスが設置されていた。


「良い環境で働いてやがって、うちの大学もこういうの欲しかったな」


逃げ出す人々の姿が、窓越しにみえる。


あと5分もすれば警察が到着して、外に居る連中が銃声を聞いたと話す。


そうなれば、警官が研究所を包囲し、重武装の対テロ部隊が突入してくるだろう。


「ここだ、第9研究室」


散弾銃で蝶番を撃ち壊し、白壁で部品ごちゃごちゃな研究室へ入る。


「なんだ君たちは?ここには何もないぞ」


研究員は機械にシーツを被せている真っ最中だった。


「オレンジの皮は何処にある?」


「なんの話だ?」


カルロは研究員の頭を撃ち、隣に居た助手へ銃を向ける。


「時間が無いから頭を狙った。お前も頭を狙う」


「……分かったよ、頼むから撃たないでくれ」


「急げカルロ、警官がわんさか集まってる」


皮の入った冷凍ボックスを抱えて、3人仲良く廊下を駆け付ける。


来た道は防火シャッターで封鎖されて戻れないので、別のルートから駐車場に戻る。


その途中、何人かの警官が突入してきたが全て排除した。


警察側の初動対応を見る限り、銃乱射事案だと思われているようだ。


じゃなきゃこんなに早く警官を突っ込ませない筈だ。


「セルジョお前が運転しろ、エラルド!座席の下に良いものがある」


座席の下にはMG42汎用機関銃が格納してあった。


「確かに良いものだ」


戦争で一番皮肉を感じるのは、相手の武器で相手の同胞を殺すことだ。


機関銃の銃口を銃眼に押し付け、パトカーの後ろに身を隠す警官へ向けて射撃する。


電動ノコギリ宜しくな発射音と共に、硝煙が車内へ充満した。


7.92mm徹甲弾は易々と車のドアを貫通し、防弾チョッキの裏にある臓器まで届いた。


9mmのFMJを止めるのが精々な防弾では、こいつは厳しいだろう。


警官も応戦をするが、銃弾は雨粒のように弱々しい。


「少し揺れるぞ」


体当たりでパトカーを押し退け、包囲を突破する。


「何処に行けばいい?街中カメラだらけだ」


「カメラがない場所があるだろう」


カルロはそう言って、フォレクスハレの背後に目を向ける。


「ヒトラーの墓に踏み込む気か!?」


国家予算の0.1%を注ぎ込んで建設された巨大墓地へと、ハンドルを切った。


「クソ!ここも封鎖か」


トラックとパトカーが道路に即席のバリケードを築き、その後ろから無数の銃口が狙っていた。


ヒビの入る防弾ガラスの隙間から、黒い服装の連中が見えた。


「マシンガンの弾が切れる!」


撃ち尽くした機関銃を放棄し、ライフルを銃眼に押し付けた。


このSUVの中にいる限りは、幾ら弾が飛んで来ても大丈夫な筈だ。


「あぁ畜生バスだ!」


囚人輸送用のバスが自分達のSUV目掛け突っ込み、横向きにシェイクされる。


上下が反転し、身体中あちこちをぶつけて酷く痛んだが、目の前に迫る警官に比べれば、些細なことであった。


「畜生、ドイツ野郎も考えたな」


「ヤバイぞ、囲まれてる」


「心配するな、もう一つのとっておきがある」


銃眼を開き、手榴弾を外へ転がした。


ジリジリと車を包囲する警官達は、大慌てで散らばった。


爆発と同時に車から飛び出し、制圧射撃を行いながら、近くの集合住宅の敷地に入った。


芝生や花壇を蹴飛ばし、踏み荒しながらヒトラーの墓を目指す。


ライフルの下部に取り付けられたアンダーバレルグレネードランチャーを発射し、追ってきた警官をふっ飛ばした。


「援護するから先に行け!」


走りながら銃を装填して、エラルドに当てぬよう射線を意識しながら射撃を行う。


エラルドがカルロの目の前まで迫った瞬間、全身黒の重装備の部隊が姿を現す。


防弾チョッキに銃弾が命中して煙が上がる。


まるで体が蒸発したかのように、次々と命中してエラルドが倒れた。


「くそったれめぇ!!!」


片手でエラルドの襟を掴み引きずり、片手で銃を乱射しながら後退する。


セルジョが部屋のドアを蹴破ってルート確保し、そこへエラルドを運び込んだ。


「すげえ、足の感覚がねえぞ」


大半の弾はプレートが受け止めていたが、腰の肉をぐちゃぐちゃに引き裂いていた。


「さっきの奴らを見たか?連中OGHを投入してきやがった」


エラルドを撃ったのは、対テロを想定して創設された秩序警察の首都警備群だった。


「特殊部隊まで出張ってきたか、どうする?」


カルロはエラルドと少しの間見つめ合い、銃に弾を込めて渡した。


「いつかこうなると思ってたぜ」


「俺もだ、頼めるか?」


エラルドは笑って見せ、頼まれるもんかと断った。


「葬式なんかするんじゃねえぞ、墓も必要ねえ」


ゴミクズみたいに死んでやるよと言ってのけた。


カルロとセルジョは、殿になったエラルドを振り返りもせず、逃げ延びる為に走った。


ヘルメットを脱ぎ、とっておきを抱えて床に伏せる。


「来い、俺のスコアになれ」


エラルドは気配を察知し、壁越しに敵を撃った。


えらく正確に狙ってくる敵は、無駄弾を使わずエラルドを追い詰める。


閃光手榴弾が投げ込まれ、強烈な光と音に感覚を奪われた。


光の中で十字架が見えた気がしたが、それは敵の銃口だった。


首元に大きな穴ができ、心臓の送り出す血液がそこから漏れていた。


「俺の死顔でシゴいてみな」


独り言を呟き、頭を撃ち抜かれた。


「被疑者を排除、死体を確認する」


OGHの隊員が、うつ伏せになっていたエラルドの死体をひっくり返した瞬間、手榴弾の安全レバーが外れた。


「グレネード!」


あっという間だぜ


エラルドの死体は手榴弾の破片と共に、肉片となって壁に飛び散った。




フォレクスハレにて



「テロリストは何処へ消えた?」


「現在ベルリン警察と国防軍並びに親衛隊が連携して捜索しています」


「やっていることを訊いた訳じゃない!何処へ消えたかと問うてるんだ」


「報告は入っておりません。総統墓地に入った所までは追跡出来ていました」


90年の歳月を掛けて築き上げた監視社会も、墓穴の先までは見通せないという訳だ。


ルドルフは面白くて鼻で笑った。


「もういい、次は死体袋に入ったテロリストを持って来い」


第一秘書が出ていったのを見計らって、背後で眠る信頼の置ける秘書を呼び出した。


「お呼びですか?」


「今回の事案は何処の差し金と考えてる?」


「さぁ、外向けにはユダヤ人と発表しておきますか」


「その言い方、真相が判るとまずいみたいだな」


国の最高権力に座っているからといって、情報が入って来るとは限らない。


党内にはヘルゲン派の連中が大勢居る。


奴は総統の座を狙う為に、様々な工作を行っている。


例えばあの第一秘書、あいつはヘルゲン派の腐った息が掛かったスパイだ。


私の失態を誘うべく、情報を隠匿して報告している。


痴呆症疑惑を持たせて、党内に公務遂行への不信感を持たせようというのだ。


亡き総統が、なぜ後任にデーニッツを指命したのかが分かる。


ナチス党内の権力闘争は複雑に絡み合い、それに手を付けるのは毒蛇で知恵の輪をするようなものだった。


権力の空白が野心家な政治家を刺激し、新たな社会主義体制を実現を目論見させる。


体制の変化を望まぬヒトラーの信奉者が、その影を追って幻影を造り出す。


ヘルゲンは後者に当たる。


若くはないがその分それなりの実績があり、耳障りが良い言葉を並べ立てるのが巧い。


「総統閣下、考え込むのは構いませんが話の途中ですよ」


「年寄りの悪い癖だ、それで?」


「これを言うのは3回目です。テロリストの正体はイタリア人です」


イタリア人!まさかドイツ内の反乱の兆しを察知したということなのか?


或いはそう思わせたい第三者の陰謀か?


物事がゴタゴタになればなる程、歴史家は面白がり、テストを受ける学生は頭を抱える。


そして当事者は上を見上げた。


「君はどう思う?」


「彼らは研究所を襲いました。奪取した物は人工皮膚、オロンジュブルート計画に関係する物です」


「あれは凍結した筈ではなかったかね?」


「歯車が一つ動くと、必ず何処かが連動して動くものです」


「その最初の歯車を特定しろ、大方予想はつくが確信が欲しい」



反乱の芽を摘め! 

圧政から這い上がった連中は節操がないぞ!

民族共同体を破壊するのならば、哀れでひ弱な少女にすらも容赦するな!


2001年 ナチス党国家保安演説より

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