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劣悪さに勝る優越

中部米軍防御陣地正面にて



自走榴弾砲からの砲撃が行われた後、第35戦車大隊は機械化歩兵と共に、攻撃を開始する。


地雷処理ローラーを装備した10式を先頭に、16式と相互援助を行いながら陣地へ接近する。


「11被弾、炎上中!」


「大蔵省の馬鹿共め、キドセンが戦車の代わりになるわけないだろ!」


35戦車大隊の編成は、ロサンゼルスの治安維持対応に特化した編成のままだった。


不正規戦に16式は持ってこいだが、正面切っての戦闘には厳しい現実がある。


予算削減の波で、戦車の定数が足りない上に、国防費の大部分は空軍に持って行かれている。


「90でも74でも寄越しやがれってんだ!」


ローラーが地雷を起動させ、土煙が上がった。


戦車の援護を受けながら、92式が地雷原を爆破する為にロケットを放った。


数珠繋ぎに爆薬が繋がれたロケットは、対戦車地雷が植えられた、世界一危険な畑に向かって飛び込む。


光、音、衝撃波が順番に訪れ、脳と胃袋を揺らす。


地雷原に出来た通路を戦車が雪崩れ込み、砲撃と同軸機銃を塹壕へ撃ち込みながら突入する。


M113装甲車から放たれたTOWが、先頭を進んでいた10式に命中した。


被弾した衝撃で履帯が破損し、行動不能となる。


その隙を見逃さず、戦車豪に身を隠していた敵戦車からの砲撃が集中する。


「前方戦車、徹甲、撃て!」


必死の砲撃を続ける10式だったが、敵は我々と同じように味方戦車へ容赦なく砲撃を浴びせた。


装甲に次々と鋼鉄の雨粒が降り注ぎ、10式はその身に無数の穴を開け、沈黙した。


かと思えば、誘爆した弾薬が雄叫びを上げるが如く火柱を伸ばし、爆ぜた。


顔見知りの仲間達は、いつまで経っても戦車から脱出して来ない。


つい数週間前、ロスの映画館で肩を並べた仲の彼らは無線の一つも寄越さない。


撃破された先頭車が地雷原に築かれた道を塞ぎ、後列は詰まる。


そこを狙われ、更に砲撃が加えられる。


「砲塔を後ろに回せ、残骸を押し出すぞ」


砲身を傷付けぬよう車体の後ろへ回し、馬力の全てを使って味方を押し出した。


文字通り亀のような速度で味方の墓標を盾にしながら進み、そして地雷畑を突き抜けた。


「目標、前方のエイブラムス、小隊集中、撃ってぶち殺せ!」


生き残った車両で集中砲火を浴びせ、敵エイブラムス戦車を撃破した。


89式装甲戦闘車からのミサイルがトドメになったようで、行動不能になった戦車から乗員が出てきた。


遠隔操作式の50口径の機銃を使い、戦車から逃げ出す乗員を射撃する。


機関砲が敵の機関銃を排除し、反撃の目も、抵抗の目も潰した。


「火点を潰した!全員降車しろ!」


陣地内の装甲戦力を排除したことを確認すると、歩兵が装甲車から降車し、塹壕の制圧に取り掛かる。


「饅頭投げ!」


旧米兵もこちらの言葉を理解しているようで、手榴弾という単語に反応して無茶苦茶に撃ってくるようになった。


だから空き缶とか饅頭なんて隠語を使って、敵に悟られないようにしていた。


塹壕に手榴弾を投げ入れ、爆発と共に突入する。


砂漠の渇いた土煙が、口や鼻をざらざらにし、独特な匂いとなってやってくる。


塹壕は折り曲がった直線で構築され、幾つもの死角が出来ていた。


市街地戦での近接戦闘の訓練が、塹壕の掃討戦で生かされる。


5m先が敵の陣地であり、敵も味方も互いに小銃を持っている状況に置いて、勝つために必要なのは度胸だ。


「饅頭をもう一つ」


曲がり角の度に手榴弾を放り、爆発の中へ突っ込んで銃を撃つ。


煙の中からパッと光が灯った直後、自分の顔が無くなっていることに気が付き、地面に倒れ死んだ。


これが人生、いつ死ぬか分からない癖に命を掛けている。


21歳の勇敢な若者の命を、1発60円の7.62mm×57の弾が刈り取った。


戦争というものが、如何に不条理で無益な行いかが分かる。


死体袋に入れられて、無言の帰宅を待つしかない彼らを横目に、我々は前進する。




シーダーシティ・リージョナル空港にて



ここを一言で言い表すなら、街外れの辺鄙で小さな空港だった。


侵攻前は、幾つかの小さな航空会社が国内線を運航していて、鉄道や自動車より少し割高ではあるが、それを補う早さと快適さで人気があった。


本社から地方の営業所へ出向く会社員を中心に利用が多く、車だと1日の距離を日帰りで済ませられるという。


駐機しているのは小型セスナかプライベートジェット位で、会社のロゴ入りの機体も幾つか見受けられる。


そして沢山の乗客達を運んだ小さな飛行機達は、日本軍の爆撃で真っ黒焦げになっていた。


「変だな?全部片付いてる」


そんな軍事的価値の低いこの場所を、誰かがさっさと制圧してくれたらしい。


シーダーシティにある空港を確保しろと命を受け、馳せ参じてみれば、敵は全て殲滅されていた。


だが銃火が交えたという訳ではなく、ほぼ一方的な戦闘だったようだ。


敵兵のM16に装填された弾倉には、30発きっちり入っている。


「撃つ暇もなくやられたのか、撃ち殻も少ない」


死体を見ると、正確に頭か心臓を貫かれている。


「手際が良過ぎて不気味だぜ」


「何も無いに越したこたぁない、そうだろ?」


降車して岡田と共に空港施設を捜索する。


空港というよりもキャンプ場にあるコテージのような外見と内装の建物内には、毛布や寝袋が所狭しと並んでいた。


開戦直後に爆撃され、使い物にならなくなった滑走路の為に、復旧を進めていた作業員達の寝床になっていたようだ。


「どうやら俺達は事後処理回されたようだな」


機動力があり、隠密行動に適した何らかの部隊が飛行場を制圧した後、一般部隊に占領を引き継がせた。


その一般部隊が我々であると、井内分隊長は感じ取った。


敵の脅威はないと判断し、小銃を下ろした矢先、たて続けに3発づつ銃声が鳴り響く。


「なんだ畜生、外に回れ!」


分隊長が誰が撃ってるかを無線で確認すると、殺気立った感情が一瞬で冷めた。


「小隊長殿が射撃訓練をやってるらしい」


外に出てみると、小隊長は風で揺れる雑草に向け89式をぶっぱなしていた。


「小隊長、何を狙っているんですか?」


「あそこの草が動いた!何か居る筈だ!」


基礎訓練終えたての新兵でも、もうちょっと考えて撃つような場面でも田口の野郎は引き金が軽かった。


「何かとは?」


珍しく苛つく素振りを見せる分隊長は、気だるげに持っていた小銃を持ち直した。


「……………」


「あんまり下手なことしてると殺しますよ」


怒ったところは愚か、嫌味一つも言わない仏の分隊長のゾッとする発言は、周囲の人間全員を震わせた。


石原は無意識に後退りし、車両の後ろに体半分を隠した。


「格納庫を見てくる」


分隊長が遠くに行ったのを見計らって、岡田はニタニタ笑った。


「面白いったらねえよな」


「ヒヤッとしたよ、後ろ弾にならなくて良かった」


今でこそあまり聞かなくなってはいたが、戦闘の混乱に乗じて上官の背中に銃弾を撃ち込む事案は稀にあった。


「少し前に海軍で後ろ弾があった話知ってるか?」


「海軍で?」


陸軍とは違い、海軍では小銃を持つことは少ない。


その為、上官殺しは滅多に起きない。


後ろ弾を恐れる必要がない以上、容赦ない拷問のような指導を行う非道な士官も多いと聞く。


「そいつは射撃訓練の時、手すりに備え付けられた12.7mm機銃の弾を1発だけ抜いたんだ。その弾をパイプに仕込んで、便所に居た一等兵曹を撃った」


「薬莢は?射撃訓練の後はいつも数えるだろ?」


「偽造したんだよ、3Dプリンタで」


「手が込んでるな」


もっと暇になる前に、格納庫から戻ってきた分隊長が、厄介なことになったと言ってきた。


格納庫中央に羽が捥がれたセスナが放置されている以外に、青いコンテナが置いてあった。


「見ろ、コンテナ内部に装填用のレールが敷いてある。こいつは弾薬庫だ」


民間コンテナに偽造した弾道ミサイルパニッシャーの弾薬庫は、その中身を空にしていた。


ここで一つの疑問が再燃する。


我々より先にここへ到達し、制圧を行った部隊は何を目的にこんな空港を襲ったのか?


「空軍の最優先破壊目標が、こんな所にあったとはな。ここで装填されたのか?」


最初は誰もがそう思ったが、コンテナ内の上部と地面に、重量物が落ちて出来た傷の痕跡があった。


例えるなら、タンスの引き出しを無理矢理引き抜いて、床に叩き付けたような傷跡だった。


装填された訳ではなく、弾薬だけ持ち出されたのだ。


何の為に?


井内は深く思考をする前に、考えるのを止めた。


大きな陰謀の前には、個人など小さな歯車に過ぎない。


そして逆向きに動く歯車は、他の大きな歯車に砕かれる。


「しかし変だ、空軍が偵察機と衛星で四六時中見張ってたってのに、見付からずに逃げ仰せたとは」


「大方航空撃滅に夢中で見逃したんだろ」


井内は空になったコンテナを見詰めたまま、部下に気付かれぬよう小さく唸った。


これを回収したのは、旧米ではなく我々よりも先に到着していた部隊であると悟っていた。


そしてその予想は当たっていた。



24分前……

「SRBMは回収した、今から持って帰る。ユダをいたぶり過ぎるなよ」


衛星電話で誰かと話すその男は、クマバチに吊り下げられた弾道ミサイルを見て笑みを浮かべる。


「ヨナグニサンを持ってくるべきだった。そしたらコンテナごと吊り上げられた」


「あるものがあっただろ」


男はそう言って、ヘリの座席を叩く。


コンテナには弾道ミサイルと装填機構が備わっていたが、それら全て合わせるとクマバチでは吊り上げられぬほど重くなる。


だが弾道ミサイル本体だけなら、十分事足りる。


「打撃力は手に入れた。あとはジャーマンがどう動くかによって、こいつの使い道が決まる」


海軍の男はそう言って、また笑みを浮かべた。

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