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セントジョージの戦い

バージンリバーゴージにて



もうガラス越しの砂漠を見飽き、それから車内で4回ほど昼寝が出来る時間が経った頃だった。


州間高速道路15号線を進み続けていた我々小隊は、峡谷で敵の待ち伏せを受けた。


「何してる!さっさと50口径を撃て!」


「仰角が足りない!撃ち降ろされてる」


322kmの長さを誇るコロラド川支流の、ほんの一部に過ぎない場所だった。


「敵は何処だ?」


「太陽で良く見えない!」


目を開けてられない強烈な逆光で、敵の輪郭すら掴めない。


十字砲火を受けて、先頭を走っていた車両が、転落防止用のコンクリートブロックに突っ込んだ。


曹長が擲弾銃で、谷上に居る機関銃を吹っ飛ばす。


いつでも大火力を叩き出せる擲弾銃は、小さな女神に等しい。


「今の音聞こえたか?」


岡田が何を言っているのか判らなかった。


次の瞬間、目の前で土とアスファルトが巻き上がり、視界が塞がれた。


「砲撃だ!」


だが敵にも女神が居たようだ。


砲声が轟き、砲弾が風を切って落下する。


「もっと速度を出せ、狙われるぞ!」


だが曹長の声に反し、岡田は車をノロノロと走らせる。


「目一杯踏んでる!手応えがないです!」


エンジンから気が抜けるような音がして、いつもの馬力が出せていない。


速度が落ちた車両は格好の的となり、集中砲火を浴びる。


窓の防弾ガラスに次々と弾痕ができ、金属が鉛を弾く音が、車内に響き渡り続ける。


かに思われたが、攻撃がピタッと止んだ。


「終わったのか?」


突如谷が爆発して、土砂で道路が塞がれた。


「やられたよ畜生」


崩れゆく谷を、呆然と見上げることしか出来なかった。


敵は、先行する味方戦車隊をわざと通過させ、後続である我々と分断させたのだ。


今頃戦車隊は、敵の砲火を浴びていることだろう。


何より致命的なのは、土砂の除去が完了するまで、ここで立ち往生するということだ。


「本部聞こえますか?本部?これ混線してるよ、繋がんない」


後方を見ると、無線機を手に指示を仰ぐ兵隊で溢れていた。


追い付いた輸送部隊も車列に加わり、大渋滞を起こしている。


「車どうだ?」


「ラジエーターに大穴が開いてる、動かない原因はそれだけじゃないだろうけどな」


ボンネットを勢いよく閉じた岡田は、お手上げだと言った。


小隊内の雰囲気は最悪だ。


車は動かない上に、見知った顔の死体を車から引きずり出したからだ。


「この防弾ガラス、確か7.7mm弾にも耐えられるって話だったよな」


大きく凹み砕けた防弾ガラスが、攻撃の凄まじさを物語っていた。


装甲板は多数の銃弾を防いでいたが、貫通した跡が所々目立っている。


「どうやったら防弾を、こんな風に貫けるんだ?」


岡田の疑問には、曹長が答えてくれた。


グアテマラの枢軸平和維持活動(APO)で、対物ライフルに狙撃されたドイツ軍車両が、こんな風になったという。


「APOに行ってたのでありますか?南米は酷いと聞いてましたけど」


「ここよりはずっと楽だったナァ、空軍がいりゃなんとでもなった」


学生の頃なら、税金を軍事費に使うぐらいなら、奨学金免除にでも使えと言っていただろう。


だがいざ現場に立ってみると、そんなことを口にしていた自分を殴りたくなった。


経験は考えを変える。


特に戦争なんて強烈な代物は、25年の間に構築された自己を変貌させるに足る、十分な効力があった。


国家予算の割合を社会保障から軍事費に傾けた結果、今自分達は空を気にせずに済んでいる。


制空権は我が方の手にある。


時折航空機が飛び去って行くが、翼端に日の丸が描かれていない機体は飛んで来なかった。


訓練では、敵制空権下での作戦行動を想定したものも行っていたが、この分だと訓練は無駄になりそうだ。


「工兵隊の到着予定時刻は?」


「1620です、1時間後になると報告がありました」


到着したところで、この土砂を除去するにも、相当な時間が掛かる筈だ。


分断されてしまった戦車大隊に早く追い付かなければならない。




セントジョージ防衛線にて



「前方に多数の熱源反応アリ、敵戦車発見!」


偵察部隊からの無線の後、砲弾が飛び16式が撃破された。


「目標戦車、徹甲、撃て」


掩体に身を隠すパットン戦車に向け、APFSDSを放ち貫いた。


砲弾が弾薬庫に命中し、青い夕焼け空に火柱が舞い上がった。


花火のように火花を散らし、焼け焦がした。


10式は、瞬く間に5両の戦車を撃破した。


搭載されているC4Iシステムのお陰で、戦車同士の連携はスムーズに行えた。


誰がどの目標を狙っているか、ネットワークを通じて瞬時に判断でき、弾も時間も無駄にすることはない。


「パットンはブリキだぜ」


「無駄口叩くな!前方陣地、対榴、撃て」


砲撃で陣地が爆風に包まれ、沈黙したかに見えたが、生き残っていた装甲車から対戦車ミサイルが発射された。


火の玉が飛んで来るのが見え、前方に着弾する。


「ミサイルだ!」


「ただのTOWだ!同一目標、撃て!」


砲撃と機銃掃射で陣地を掃討し、待ち伏せていた敵戦車隊との乱戦に突入した。


敵弾が正面装甲に命中して、もの凄い衝撃が響き渡る。


「クソったれめ!」


徹甲弾を再装填する暇はなかった。


砲身内に残っていた対榴で、車体下部を狙って射撃した。


爆発反応装甲が張り付けられているので、貫通出来るか分からなかった。


車両は爆発も炎上もせず、動かなくなった。


恐らく操縦手を殺傷したのだろう。


「もう1発撃ち込め」


今度は側面に回り込み、砲塔と車体の隙間にあるターレットリングを狙う。


弾が命中して大爆発を起こし、装甲が引き裂かれる。


「なんて数だ、キリがないぞ」


隠れていた敵車両が次々と姿を現しては砲撃を加え、また身を隠す。


「06被弾、走行不能!」


足をやられた味方が、敵の集中砲火を浴びて爆散する。


こちらも動きながら反撃を行い、敵戦車を撃破してゆく。


見晴らしの良い砂漠で、敵はこれだけの戦車を偵察機の目から隠し通していたのだ。


侵攻から一週間と立っていないにも関わらず、敵は防御を固め反撃に備えている。


夕焼けは沈み切り、目の前は青黒い世界に落ち込んだ。


まるで砂の上を、船で渡っているかのような気分だった。


砲撃でパッと明るくなったかと思えば、撃破された戦車の炎で夜が照らされる。


ロウソクのように残骸が、ただ煌煌と燃え続けていた。


60年前に開発された旧式兵器では、幾ら地理的優位を行かそうとも大した脅威にはならない。


そんなことを思っていると、天板に砲弾が命中して、小隊の10式が吹き飛んだ。


「クソ!ミサイルか?」


「いや違う」


ヒュルヒュルと風を切り裂く音が耳に届く。


地上から溶岩が吹き上げるかの如く、土煙が飛び散り爆発を起こした。


「砲撃だ!」


全速力で戦闘地域から離脱し、敵砲の射程圏内から逃れる。


「空軍め、爆撃機が幾つもあるのに取り零しやがって」


高級取りの割りには、仕事が杜撰な空軍へ恨み辛みを吐き捨てながらハッチを開けた。


車長用の重機関銃が爆風で吹き飛び、何処かへ行ってしまっていた。


「各車損害報告」


「こちら04、損害無し」


「05、砲塔旋回装置損傷、それとサスペンションに違和感がある」


敵は後続部隊を分断し、戦車大隊を孤立させ擂り潰す予定だった。


しかし金床は頑丈であったが、振り下ろされるハンマーは、我々の装甲を打ち破ることは出来ないようだ。


上空に二つの機影が飛来し、東の空をロケット弾の白煙でなぞった。


「アラワシだ」


ビール瓶に羽が付いたかのような形状の95式戦闘攻撃機は、瞬く間に敵自走砲部隊を食い尽くした。


この日、35戦車大隊は旧米軍の第3師団と交戦し、辛くも勝利を納めた。


しかし激しい戦闘の結果、少なくない数の車両と弾薬を失った。


この事実は、石原達の前に残骸となって現れた。


「あれ見ろよ、10式が」


撃破され、鉄クズと化した味方戦車の横を通り過ぎる。


辺り一面、残骸とクレーターだらけで月に居るかの様だった。


車列は砲撃で耕された道路を進み、セントジョージ市内へ突入する。


手ぐすねを引いて、何重にも防御を固める敵の都市に向けて、真正面から正々堂々と大手を振って誰かの故郷を侵略しに行くのだ。

投稿が遅れて申し訳ありません


ありがたいことに現実の方が忙しく、いつも睡魔と葛藤しながら書いています。

投稿ペースがこれまで以上に落ちるかもしれませんが、必ず完結させます。

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