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進軍

メスキートにて



敵は目立った抵抗を見せず、マディー川に掛かる道路を容易に明け渡した。


旧米軍の歩兵部隊が遅滞戦闘を展開しているようだったが、戦車の圧倒的な制圧力の前では、骸を作るばかりであった。


「これより市街地に突入する、伏兵に注意されたし」


我々第35戦車大隊は、侵攻の最前線を走っている。


任された戦車小隊の編成は、10式と16式が2両づつの合計4両だった。


市街地での即応機動力を重視した編成だったので、対戦車戦闘に不安が残る。


16式で主力戦車と正面からやり合うには、かなりの覚悟と根性が必要になる。


第2世代のパットン戦車ならともかく、T72やM1エイブラムスと戦闘になれば、こちらの損害は免れない。


「サーマルに反応は?」


「ありません、何も」


縦隊を維持しながら、4両それぞれが決められた方向を見張る。


車長用キューポラから、右側にゴルフ場を挟んで住宅地が見えた。


車長の目線の先に、もう3人男が居た。


「先頭の戦車を狙う、クタバレジャ○プ共!」


発射された対戦車ミサイルが、噴煙を巻き上げながら勢い良く飛び上がり、トップアタックモードで戦車の上面を狙う。


「ミサイル接近!」


戦車側面に取り付けられたカメラがミサイル飛来を画像識別で探知し、戦車内にピロピロと警報が鳴り響く。


直ぐさま発煙弾が散布され、戦車が煙幕で覆い尽くされる。


普通の煙幕ではなく、赤外線を遮断するタイプのものだ。


熱画像誘導のジャベリンは、煙幕で熱源を見失い、迷走して明後日の方向に落っこちた。


「煙幕から出ろ、敵射手を殺る」


車両を前進させ、ミサイル発射炎へ向けて、榴弾を叩き込んだ。


昔とは違う。


対戦車兵器も進化を続けると同時に、戦車もまた進化を続ける。


「目標沈黙!」


その直後、戦車天板に取り付けられた迎撃装置が作動し、何かが爆発した。


「RPG!」


車長が12.7mm機銃を車内から遠隔操作でRPG射手へ向け、引き金を引いた。


赤外線カメラ越しに映る敵は、黒い血を撒き散らしながら細切れになる。


住宅地に向けて榴弾を放ち、家屋ごと粉砕した。


「3時の方向に熱源多数」


確認すると、小隊規模の敵歩兵が移動しつつあった。


「前方の歩兵、対榴、撃て」


爆炎に包まれ、砂漠の砂と共に煙となって消えた。


「まだ動いてるのがいるぞ、連装銃撃て!」


その後も戦闘は続いたが、僅か1時間でメスキートを守備する陸軍州兵641連隊は壊滅した。




メスキート制圧後にて



「捕虜を一ヶ所に集めろ、野球場の真ん中にだ」


「医療ヘリを大至急寄越してくれ。違うメスキートだ、モスキートじゃない!」


石原達が到着した頃には、戦闘は既に終結していた。


今からやることは、戦車隊が暴れまわった後の始末だ。


捕虜を収容して後送し、必要なら住民への対処も行う。


「曹長トラックが足りません、どうしましょうか?」


「民間から徴用しよう、そこら辺から適当にパクってこい」


なんて言われたが、住民は自家用車で逃げてしまい車は残っていない。


バスやトラックは、向こうも貴重な輸送手段として重宝してるらしく、避難や撤退に使っていた。


「丸焦げだな」


石原の目の前には、道路脇で破壊されたバスがあった。


上部構造は全て吹き飛び、フレームとその影のみが形を残していた。


「爆発の跡から察するに、250キロ爆弾辺りだろう」


アスファルトに散らばった残骸の中に、SCHOOLの文字が記された破片があった。


「なあ岡田、これって……」


考えたくもない事が、起きたのかも知れない。


「気にすんな」


後ろ髪を引かれる気持ちになるのを、命令の言葉で上書きした。


ひとしきり辺りを見て回り、18箇所目の駐車場に訪れた時だ。


1台の赤い車が目に止まった。


「あれとかどうかな?」


石原が指差したのは、ハンバーガー屋の駐車場に停めてあった大型トレーラーだった。


流れ弾で幾つも穴が空いてはいるが、まだ走れそうだった。


だが岡田は怪訝な顔をする。


「これMT車だよな」


「そうだな、でもトラックはATの方が怖いだろ」


「MTは教習所で乗って以来、もうクラッチの使い方も忘れた。お前乗れるか?」


「大型は無理だ」


2人で首を斜めに傾け、岡田は仕方なく運転席に座った。


そしてエンジンを始動して駐車場から出る前に、5回エンストを起こした。


なんとか野球場まで行くと、300人ほどの兵士達が、上半身の上着を脱いで中央に座らされていた。


2丁の機関銃と7丁の小銃が、捕虜を周りを取り囲んでいた。


捕虜の目の色は一つではなく、幾つかの感情が混ざった色をしている。


例えば、憎しみと悲しみ、怯えと安心感、怒りと罪悪感、そんな目をしていた。


「ほら早く乗り込め!負け犬共め!」


拳銃を振り回しながら叫んでいたのは、田口小隊長だった。


「あれ敵の銃だぞ」


田口は旧米兵から鹵獲したM&Pで、大はしゃぎしている。


あれで大将を気取っているらしい。


捕虜を風穴だらけのコンテナに押し込んで、輸送の準備を始める。


「こいつら何処に運べばいい?」


「この先のボルトマートに入れろ」


「後送するんじゃないのか?」


「マディー川の道路が破壊された、敵のコマンド部隊にな」


やられたなと思う反面、捕虜を収容施設まで届けずに済むと思い、少しだけ敵に感謝した。


昨日まで、この場所は疑心で満ち溢れていた。


政府が日本軍が攻めて来ると警告しても、誰もが楽観的に捉えていた。


いや、楽観的に捉えようとしていたのだ。


今の生活が突然崩れる可能性を、常に想定し備えられる人間はそうそう居ない。


確かに、そういう人間も居るには居るが、大抵の場合は頭のネジが外れてたりする。


インターネットには情報が飛び交い、戦争が起きるかどうかという不安を煽られる。


楽観主義者は、どうせいつもの虚仮威しと嘲笑った。


平和主義者は、外交による解決をと叫んだ。


国粋主義者は、敵を殺せと勇ましいことをネットに書き込む。


経済学者は、合理的に考えたら戦争など起きる筈はないと投稿する。


軍事専門家は、軍の動向から戦争が起きる可能性が高いと予想する。


この有象無象から、自分が生き残る為に必要な情報を抜き出さなければならない。


爆撃の火柱が上がる頃には、時既に遅しだ。


すぐに行動しなければならない。


芝生に転がっている彼らは、情報を抜き出すことに失敗したのだろう。


スーツケース一杯に詰め込んだ衣服が、肉体と共に飛び散り、焼けた家の前で死んでいた。


不思議と悲しいという気持ちは湧かなかった。


ただ哀れだと感じ、酷く損壊した遺体から目を逸らしたいと思った。


もし死んだら、自分も同じような感情を向けられるのかと考えてしまい、急に怖さを感じるようになる。


「おい捕虜を降ろすぞ」


生きて虜囚となった兵士達は、次々と収容されて行く。


うなだれながら歩く彼らが、入って行く建物は、本邦で目にするスーパーマーケットと比べ物にならないほど巨大だった。


しかし、右から左へと目線を移動させてみるが、商品棚には何も残っていなかった。


床に散乱したスナック菓子や、割れたビンから察するに、ここで暴動に似た買い物競争が起きたらしい。


物が散乱していない場所は、一ヶ所も存在しなかった。


「荒らされ放題だな、缶詰めの一つも残っちゃねえ」


ボルトマートは旧米最大手の企業であり、規模に比例するが如く建物も巨大だ。


その為、大勢の捕虜を収容するにも適している。


「俺日本人で良かったよ、だって今勝ってるんだからな」


「そうかよ、俺は腹が減って仕方がない。腹の減る仕事だよ」


床に散乱した粉ミルクですら、金粉に見えてくる。


噂で聞いたことがあるが、前線部隊へ送る食糧をわざと減らし、丁度良く飢えさせることがあるらしい。


本当かどうか知らないが、多少飢えてる方が攻撃的になって、敢闘精神が高まるなんて研究結果があるという。


「おい石原、おやつだぞ」


岡田が投げ渡してきた物は、踏んづけられ箱ごと潰れたトースターペストリーだった。


タルト生地の中にジャムが入っていて、外側にはたっぷり砂糖がまぶしてある朝食に食べるやつだ。


「ストロベリー味か、苦手だな」


子供の頃にイチゴ味のパンを食って気持ち悪くなって以来、ストロベリー味ってのに嫌悪感があった。


「文句言わずに食えよ、贅沢は敵だぜ」


箱から取り出してみると、生地が粉々になっていた。


「これじゃ粉砂糖だ」


ビニール袋を開け、逆さまにして一気食いした。




ベルリン フォレクスハレにて



「日本軍は何処まで進むと思う?」


日本の中部米国侵攻を受け、ルドルフ政権の閣僚が一同に集い、会議を行っていた。


「国防軍の予測では、全土占領の確率は23%、ロッキー山脈地帯までが77%です」


鼻を鳴らすルドルフは、眼鏡をずらし裸眼で報告書を読む。


もし日本が中部米の全土占領や、満州国のような傀儡政権樹立を行えば、対立は顕著なものとなる。


共産主義という敵が滅んだ以上、安全保障上の最大脅威に成り得る国家は、大日本帝国なのだ。


「その予測は本当に正しいのか?日本は米大陸を掌握するつもりなのではないか!?」


財務大臣が声を荒らげる。


ここ数年、日本軍が東米を侵略するという脅威論が出回っていた。


日本の潜在的脅威と、今回の侵攻で、その脅威論が補強されつつある。


「日本との関係悪化は避けたい、声明は無難なものにしておこう」


閣僚会議を終わらせ、長い廊下を護衛と一緒に歩いて総統室に戻ると、コンピュータの電源を入れた。


冷蔵庫から水を取り出して、椅子に座る。


「こんにちは総統閣下、大ドイツ婦人会から式典演説の依頼があります」


「断りの電話と文章を書いておけ、あの高圧的な婆さん連中には虫酸が走る」


「今の発言はログから削除しておきます」


つくづくこの人工知能には驚かされる。


明日の予定から、ジョークまで何でも話せる。


もしあの世に誰かを連れて行けるなら、絶世の美人秘書よりも断然こちらを選ぶ。


「総統、党内部での不審な行動を探知しました」


水を飲む手が止まり、振り返って彼女に問いかける。


「詳しく話せ」


「軍関係者が利用する秘匿された掲示板を調査した際、基準値に達する危険思想を検出しました」


「クーデター画策の可能性が高いです」


「その危険思想とはどんなものだ?」


「有色人種の根絶による、真のアーリア至上主義達成です」


それは核兵器による相互破壊確証と、ヒトラー総統死去によって崩れ去った理想郷だ。


ヒトラー総統は死後神格化され、キリストと同等の扱いを受けつつある。


その発言を愚鈍に信奉し、拡大解釈をし続けた者達が、今尚この国に存在している。


「あぁヒトラー総統閣下、貴方の尻拭いは大変ですよ」


壁に飾られた肖像画に向かって、慎重に敬意を払いながら吐き捨てた。

これから忙しくなるので投稿ペースが落ちると思います

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