24. 願いの形
歴史の真相
飛ばしても本編に影響はありません
一粒の星の光もない黒がある。
針の先ほどのほつれも、わずかな曇りもない、まっさらで純粋な黒だ。
「――……る……、……から……」
ねずみが巣に潜り、ふくろうも瞼を閉じた、すべてのものが眠りにつく森の一瞬の蒼い静寂。そこにこぼれた最初の朝露のように、その声は黒の中に揺らぎを生んだ。
「ああ、よかった繋がって」
声の主は見えない。目の前にはただ静かな黒が広がっている。
「はじめまして。あなたとは、ずっと話をしてみたかったの」
声は、随分と親しげに話し掛けた。
「まだ意識がはっきりしていないのね。自分が誰かも思い出せないでいる。けれど不安に思うことはないわ。ここは、あなたの心の一番深く。そして過去でも、未来でも、現在でもない、すべての心の集まる場所」
ちょっと難しいかしら、と声は囁くように笑う。
「ふふ。じゃあ、あなたがあなたのことを思い出せるまで、物語でもどうかしら。ここは時間に影響されないから、焦ることも急ぐ必要もないわ。やがて、あの子の声もあなたに届くでしょう」
なんだか久しぶりだわ。
そう楽しげに呟いて、声はこほんと咳払いしてみせた。
長いお話になるわ。
とても、とても長い……――
――
――――…
むかしむかし。
星と共に目醒めたものがありました。
始まりの〝意識〟は冷たく渇いた星を、長い長い時間見ていました。
やがて星に新しい変化を求めた〝意識〟は、自分以外の〝意識〟を作りました。
星に水が満ちて、大地に炎が脈打ち、風が緑を運ぶ。とても石ころのような星だったとは思えない、大層な変化でした。
生まれた意識たちは、自らを精霊、最初の意識を〝創造主〟と呼ぶことにしました。
星は変化を続けます。
水には魚が、大地には竜が、緑には虫が…そうしてたくさんの生命が息衝き、最後に人が生まれました。
最後の生命に、創造主は自らの〝意識〟を、少しだけ分けました。
精霊たち以外で、星に育まれた住人。
その未知数な存在に、創造主すら見通せない未来を託したのです。創造主は変化を求めていたのですから。
そして、人と共に生まれた新しい〝意識〟がありました。
〝感情〟あるいは〝心〟と呼ばれるもの……
――……その化身となった、竜のお話。
人は、創造主も予測し得ない速度で進化していきます。慈しみと闘争を持ち合わせ、めまぐるしく独自の文化を築くのです。
そんな人の世を、竜も見ていました。始まりの意識が星を眺めていたように、長い長い時間見つめていたのです。
人が増え、個々の領地を懸けて戦うことも珍しくなくなった頃、竜ははじめて人のもとに降りました。
戦場にはたくさんの心が転がっています。
敵を討ち取った歓喜も、痛みに苦しむ叫びも、家族を心配する不安も、様々に。竜は何が起こっているのかさっぱりで、首を傾げました。
右の陣地に竜は尋ねます。
「これはなにをしているの?」
ですが、竜は人の言葉の喋り方を知りません。人々には咆哮し、今にも襲って来ようとするように映り、攻撃されてしまいます。傷を負うと鋭い感覚がありました。初めての痛覚は、竜を戸惑わせるばかりです。
なんとか逃れた竜は、左の陣地に尋ねます。
「たたかっているのはどうして?」
竜は知りませんでした。人と竜が争うことこそ見てはいても、己も竜であるということを。竜は知らなかったのです。自分がとても大きく、ひどく恐ろしい姿をしていることを。
人々は矢を放ち、武器を携え、竜を追い払いました。
「当然だね。ちびっちゃい人は山のようなおまえが恐ろしいのさ」
風の精霊が溜息をつきます。
「人と関わってどうしようっていうんだ。あいつら何かにつけてすぐ頭に火がついちゃって」
炎の精霊があくびをします。
「人に意味なんて尋ねても無駄だよ」
水の精霊も大地の精霊も、同じように竜をたしなめました。
最後に生まれた〝意識〟は末のきょうだいのようなもの。彼らにとって竜はまだ幼い赤ん坊なのです。
何も知らない竜は精霊たちに尋ねました。
「どうしてみんなは生まれたの?」
精霊たちは顔を見合わせると、胸を張って言いました。
「創造主がそう作られたから」
水が枯れれば生命も枯れてしまいます。炎が失われたら、やはり冷たい氷が命を絶やしてしまうでしょう。
風が止めば新しい息吹が芽生えることもなくなり、大地が死んでしまうと再び石ころの星に戻ってしまいます。皆、それぞれに意味がありました。
では人と共に生まれ、〝意識〟で唯一肉体を持った自分は、何の意味があるのだろう。
幼い竜は長い長い時間を掛けて、考えるようになります。
人の歴史を見つめながら、〝心〟の化身ですから、竜はやはり人と関わってみたくなりました。
人と会話する術を身に付けた竜は、けれど、話をすることはままなりません。恐ろしい姿の竜に、誰が近付いてくれるでしょう。
何度も何度も対話を試みて、追い払われるうちに、だんだんと竜は疲れてしまいました。
どうして人と関わってみようとしたんだろう。理由すらも忘れて、竜は誰も来ない森の中で、ひっそりと眠りについたのでした。
それからまた数えきれないほどの朝と夜が過ぎて、ある時竜は目を醒まします。
自分の頭上でなにやら音が聞こえてきたのです。
なんだろう?と首を持ち上げようとして、慌てた声が続きました。
「びっくりした。こんな所で眠っている先客がいたなんて。起こしちゃった?」
地面を割って現れた竜に、被った土を払いながら人間の娘は尋ねます。
それが、竜と娘との出逢いでした。
「こわがらないの?」
「怖がるって?」
「みんな逃げたり、怒ったりするもの」
「ああ、あなた、随分とおっかない姿だもんねぇ」
それから娘は、薬草を採集する傍ら、竜に会いに来ました。
育て親のもとで薬の作り方を学んでいることや、季節や草花の名前、師から教わった物語や伝承、〝お願い〟をすると不思議な力を使えること……
竜もまた、娘の話す物語と、子守唄を楽しみにするようになり、ふたりは大切な友達となりました。
「あなたはやさしいひと。だからきっと歌声もおねがいも、やさしいのね」
けれども、穏やかで幸せな日々は、長くは続きませんでした。
その日娘は物語でも子守唄でもなく、竜へお別れをしに来たのです。領土を広げる戦争が大きくなり、森の近くにも、兵隊は刻々と迫っていました。
「あなたは行かないの?」
「村には逃げられない人も多い。万が一に備えても、残らなければ」
「あなたが残るなら、付いていく」
「それは……だめ。よく聞いて」
火を吹けない竜では、自分の身を守ることも難しいのです。娘があんまり辛そうに言うので、竜は頷きました。
娘は傍にいられない代わりに、竜へ祝福と名前を残します。
「コール。人は生き物だから、間違うこともある。それがあなたを傷付けることもあるでしょう。でもね、コール。誰もあなたの美しい心まで汚せない。あなたの心はあなただけのもの。気高く生きて」
両腕を広げても包むことのかなわないコールの頭を、それでも娘は抱きしめました。
「……さあ、いいこだから、ここを離れて。〝お願い〟よコール」
娘と別れてから十の夜を数えた日、ついに娘の住む村に火の手が迫ります。
黒々と空に立ち昇る煙を見て、コールは娘のもとへ向かいました。娘を置いて離れることができなかったコールは、近くの山に潜み、森の様子を窺っていたのです。
コールが初めて目にした村は、すでに炎の中にありました。家も畑も人も、たくさんのものが焼けていました。
イタイ。アツイ。タスケテ。クルシイ。
娘の優しい子守唄を聴き慣れたコールには久しい、苦しみの心が溢れる村で、コールは無我夢中で娘の姿を探しました。
娘はいました。血を流す身体を縛られ、今にも炎に焼かれようとしていたのです。
さまざまなことを教えてくれた娘ですが、コールには教えていないこともありました。
自分が名前もない孤児であることと、まだ魔法が珍しい時代で、魔女は恐れられる存在であることです。
コールは長く大きな身体で娘を囲い、兵隊を寄せ付けない壁を作ります。
炎から助け出すことはできましたが、しかし、娘は立ち上がる力もないほど衰弱していました。
「どうして来てしまったの。ここは危ないわ」
娘は掠れた声で笑いました。
「あなたのこもりうたを、また聴きたいから」
コールが答えると、あはは、ともう一度娘は笑います。なのにどうしてか、コールには娘と森で話をする時間のような、温かな思いがしません。
「こんな喉じゃ、無理かしら。ごめんね、歌ってあげられなくて」
娘の顔にコールが頭を寄せると、娘は震える手で、そっと強靭な顎に触れます。
「あなたは優しい心を持った子。どうか憎しみに囚われないで。そして、忘れないで。あなたが願えば、世界が応えてくれることを」
ぱたりとその手が地面に落ちました。コールが呼んでも閉じられた目が開くことはありません。
コールは生き物がこうなる姿をたくさん見てきました。眠ることとは違って、終わってしまうと目が醒めないのです。
目を開けてほしくて娘を呼びながら、コールはひとつの想いを強く願いました。
なんでもいい、誰でもいいから、この人を終わらせないで!
この人を、たすけて!
それが、心の竜の初めて使った魔法でした。
真昼の空に星が軌道を描き、まばゆい光の輪を編み出します。
突然のことに驚くコールは、さらに驚愕することになりました。指先ひとつ動かせなくなった娘の身体が光を帯び、空に現れた陣に導かれるように浮き立ったのです。
そして、娘は光の粒となると、輪と共にあとかたもなく消えてしまったのでした。
コールはいなくなった娘の姿を探して、辺りを見渡します。
奇妙な出来事や竜の出現に戸惑う兵隊たち。屋根が崩れていく炎に包まれた家々。娘はどこにもいません。
混乱したコールは、面影を求めて土を濡らす娘の血を舐めました。
すると、一瞬だけ満たされた後、お腹が空いたような感覚を覚えます。知識の少ないコールには、それが空腹と錯覚してもおかしなことではありませんでした。
酷い飢餓感に襲われ、舐めて、舐めて、ただの土だけになっても、コールは乾きを満たそうと土を舐めます。
ぽろぽろとコールの瞳から、雫が落ちていきました。水は後から後から流れて止まりません。
竜という種は、長い生涯をつがいと共に過ごす種族です。
その希少さから仲間を見つけることが困難な竜は、つがいをとても大切にする情の深い生き物でした。
また、竜が結ばれる際はお互いの血を交わし合い、魂の結びつきを強めることで成立します。
同族のいないコールが、共に生きたかった存在は、赫い髪の娘だったのです。
いない。いたい。いたい。いない。いたいよぅ。かなしい。かなしい……
コールは悲しみを理解しました。どこにもいないつがいへの、深い愛情と悲しみが、コールの心を蝕んでいきます。
コールは気付いていませんでした。
空に星が軌跡を描いたのは、自らの〝お願い〟が形になったものだと。娘を助けたい一心で願った魔法は、別の世界への境界すら越えてしまったことも。
娘を探してがむしゃらに村を彷徨い始めたコールに、身の危険を感じた兵隊は矢を浴びせました。コールの巨体は、やはり、人々に恐怖を抱かせるばかりなのです。
コールは邪魔をされる煩わしさと焦りから、やめて!と咆哮しました。声を上げただけのつもりでした。
口から吐き出されたのは、凄まじい灼熱の渦でした。幾人もの兵隊を巻き込んでしまったことで、いよいよコールは兵隊から敵とみなされます。
火を吹くつもりなんてなかったのに。コールは自分自身が恐ろしくなり、全てから逃れるように空へ飛び立ちました。黒く歪んだ見様見真似の翼でした。
翼のなかったコールには、今まで来ることができなかった創造主の住処を訪れます。
雲の中にあり、人は存在を感知することもできない空間です。
「たすけて。あの人がいなくなっちゃったの。そうぞーしゅはなんでもできるって聞いたの。コールはどうすればいい? どこにいるか、わかる?」
コールの必死の訴えは、けれど、創造主も答えることはできません。娘はこの世界のどこにもいないのです。
「いたいの。とってもいたいの。舐めても治らなくて、悲しいの。どうしたらいいのか、わからないの」
創造主の代わりに、水の精霊が言いました。
「それはおまえが心を持っているためだろう?」
精霊たちには感情の動きはありません。あるがままに受け入れて、流れるままに沿う。そうした存在でした。
「ココロがあるからいけないの? じゃあ、ココロなんかいらない。いらなかった。ココロの化身になんか、なりたくなかった!」
だけどそんな精霊たちでも、コールの言葉には悲鳴を上げました。
「なんということを。創造主から生まれた我らが己の存在を否定するなど、創造主への侮辱だ」
地の精霊が厳しく糾弾します。
「いや! ココロ取って、取ってよぅ! 悲しいのはもういやだよぅ!!」
コールが〝意識〟たちの輪から追放される様子を、創造主は見つめていました。
創造主が自己を持つということは、星のあらゆる均等を簡単に変えることもできてしまうのです。
何も答えず、何も与えず、創造主もまたあるがままに身を任せる存在でしかありません。
地上に戻ったコールは、どれほどの距離を飛び、どれほどの娘への想いを抱えたでしょう。
つがいを失い、〝意識〟たちにも見放されたコールに、漠然とした孤独な世界が広がります。コールはこの気持ちに覚えがありました。人といくら会話を試みても叶わなかった時です。
そうだ。もう眠りたい。眠って、今度はこのまま目が醒めなければいい。
険しい山脈で見つけた洞窟で、コールは静かに眠りにつきます。
娘と過ごした日々と、子守唄を思い出しながら、優しい時間だけを夢にみて。
途方も無い時間が流れました。
人の数が増えるほど、人の領域もまた広がっていくものです。
ある王国の探検家は、何者をも拒むような結晶の森の洞窟で、結晶と一体化して眠る禍々しい姿の竜を見つけました。
探検家の報告により、結晶の採掘と、結晶に閉じ込められた竜の研究が始まります。
結晶は豊富な魔力を含む新しい鉱物でした。それは悠久の時間零れ続けた竜の涙が作り上げたものだとは、ついに誰も気付くことはありませんでした。
結晶を削り、学者たちが熱心に竜を調べるうちに、その時はやって来ます。
竜が目醒めてしまったのです。
果てしない歳月を孤独な眠りで過ごした竜は、自分が何者かを忘れていました。
ただどうしようもない悲しみと、行き場のない激情だけで荒れ狂う、凶暴な竜と成り果ててしまったのです。
無事だった者の報せにより、あらゆる国が竜の討伐を決断します。
兵隊が多様な武器を携え、魔法使いたちが束になっても、竜は弱るどころかより怒りに任せて暴れていくようでした。
この時代となると魔法の存在が広く知られて、魔法使いは身を隠さずとも良くなっていました。その多くは医術者や研究者、兵隊へと志願して、生活をしているのです。
薄れた思い出の中にある魔法の存在と傷の痛みが、竜を刺激しているなど彼らが知る術はありません。
被害は甚大でした。
たくさんの街と人が喪われていきました。
それなのに人々が竜を止める手立てが、一向に見出せないのです。このまま星が滅ぶのだと絶望する者も多くいました。
竜は肉体こそ持っていますが、創造主自ら作り出した〝意識〟のひとつ、〝死〟はありませんでした。
どれほど傷付いても死ぬことができない竜もまた、絶望していました。
こんなに痛いのに、苦しいのに、終わりがない。
希望は突然降りてきました。
王国の兵士のひとりが、奇妙な模様が描かれた一冊の手記を差し出したことで。あの時、村にいた兵隊の中に、空に描かれた陣を描き写そうとした者がいたのです。
研究を続けてはいるも、未完成な魔法陣で、何が起こるか未知数だと兵士は告げます。
稀代の星読み士すら、首を横に振りました。けれど、不思議な可能性を感じる。その言葉に、人々は願いを掛けました。
そして、見たこともない赫い髪色の娘が、光の中から現れたのです。
竜もまた、予感に王国へと向かっていました。
自分の失われた何かに、当てはまるものを見つけたかのように。
娘は短剣も持ったことがなさそうな細腕な上に、別の星の話までする始末。
けれど確かに、この世界の住人だったとも言うのです。ある理由で重傷を負った自分は、気が付けば別の文化の人々に助けられ、一命を取り留めていたと。帰り方も分からないまま、その星で一度寿命を全うしたのだと。
次に目醒めた時、娘は生まれながらに、ふたつの記憶を持って過ごしていたと語ります。
王国は慎重に娘の話を聞きながら、この世界の状況と竜についての話をします。娘は青褪めた顔を覆い隠しました。
自分の知らない間に、一体何があったというのか。必死に娘は解決の糸口を探しました。
その時です。
けたたましい警報が鳴り、誰かが叫びました。
「竜だ!!」
続いて、警報の音すら掻き消す、耳をつんざくような金切り声が王国中に響き渡りました。
娘は沸き上がる焦燥のままに窓際へ飛び出します。
夜空に砲撃音が轟くと、闇の中に竜の姿が娘にも確認できました。その巨体が、片翼に砲撃を受けて城下町へ崩れ落ちていきます。
「コールっ!」
娘は制止も聞かず竜のもとへ駆け出しました。
戦場と化した街を目指しながら、娘は竜へ呼び掛けます。激しい砲撃音の中で何度声を覆い被さられても、呼び続けました。
竜は時折煩わしげに尾をしならせることはあっても、何かを探すように首を振っていました。
しかし激しくなる攻撃に、ついに反撃のために魔法を編み始めたその時。
戦場に歌声が巡りました。とても状況に似つかわしくない、子守唄の優しい旋律です。
竜が魔法をほどき、動きを止めました。躊躇うように、次第に竜への攻撃も静まっていきます。
娘が竜の傍まで辿り着くと、竜は頭をゆっくりと降ろし、娘の頬に擦り寄せます。
「……あなたなのね……」
「ええ」
そんな竜の頭を、娘は恐ろしげもなく撫でてやるのです。
「……どうして、きてくれたの?」
竜は、自分の記憶と名前を取り戻しました。
「悲しそうなあなたの心が、聞こえたから」
コールの瞳から流れる涙を娘が拭ってみますが、あまりの大粒さに意味をなさず娘は笑いました。
「いっぱいいたくて悲しくて、いっぱい人を攻撃したの。あなたの言ったことを守れなかった」
「そう……それはあなたに心がある生き物だから。いっぱい間違うこともあるわ」
「うん。よくなかったの。まちがえたら、ちゃんとごめんなさいしなきゃだめなの。だから、あなたに、最後に魔法をかけてほしいの」
「それはどんなお願い?」
「こもりうたを歌って。うんとぐっすり、眠たくて、起きられないくらいの」
「ええ。それじゃあ一緒に眠りましょう」
「一緒にいてくれるの?」
「ええ。長い間、ひとりにさせてごめんなさい」
「……どうしよう?」
「どうしたの」
「あなたといられるんだって、うれしくって、うれしくってうれしくってうれしくって、とってもうれしいの」
「ええ。またコールに会うことができて、嬉しくてどうにかなっちゃいそう」
「ねえ。ねえ?」
「うん?」
「心があったから、うれしいんだね。心があって、よかった。コールはきっと、このきもちを知りたくて生まれたの」
「……ええ。コール、素敵な気持ちを教えてくれてありがとう」
「ありがとー」
「おやすみなさい」
「おやすみー」
「――……お願いが叶うなら、もしも生まれ変わることがあったなら、平和な世界で、私とまた、巡り合って。あなたのために、何度でも歌うから」
娘は優しい旋律を紡ぎます。
すべての悪い夢から竜を守るように。




