02.らしいけど誰だよお前ら
「だから、本当に誰なんだよ。お前ら」
マキトの問いに、白い鎧の少女――シエルは、はっとしたように表情を戻した。
「申し訳ありません、旦那さま。まずは、私からご説明を――」
そう言って、一歩前へ出る。
自然な動きだった。
本人に、深い意図があったわけではない。
ただ、マキトへ穏やかに話しかけようとして、その前へ立っただけ。
けれど、その位置は結果として、マキトと黒いバトルドレスの少女――メルシーの間へ割り込む形になっていた。
メルシーの目が、細くなる。
「……へえ」
先ほどまで苛立ちだけを浮かべていた赤い瞳が、急に冷えた。
マキトには分からない。
だが、シエルには分かった。
メルシーの視線が、自分の顔から腕へ、大剣へ、足元へ移る。
次に、マキトとの距離を測る。
リビングの広さ、家具の位置、天井までの高さ、ハルバートを振るえる角度。
すべて、一瞬で確認していた。
この女は、考えている。
自分と同じ男を選んだ相手を、どう殺すか。
ただし、マキトには傷一つつけずに。
「……旦那さま」
シエルの声が、先ほどまでより僅かに硬くなる。
「少しだけ、後ろへお下がりください」
「は? いや、だからまず説明を――」
「説明は、すぐにいたします」
シエルは大剣の柄へ手を添えた。
「この者を、あなたのそばから排除した後で」
一瞬の静寂。
次の瞬間、メルシーが楽しそうに口角を上げた。
「なぁに? 天使サマってば、思ったより話が早いじゃん」
背中の尻尾が、ゆっくり持ちあがる。
「でもさぁ……あんた、勘違いしてない?」
メルシーは、巨大なハルバートの石突きを床へ落とした。
フローリングに、ひびが入る。
「そいつを選んだの、あんただけじゃないから」
「……やはり、あなたも」
「そういうこと。だから、消えるのはあんたの方」
シエルの青い瞳が、わずかに揺れた。
「……あり得ません。どうして、あなたまでこの方を選んでいるのですか」
メルシーは一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに顔を歪めた。
「それ、こっちが聞きたいんだけど。あんたみたいな白々しい女と男の趣味が被るとか、最悪なんだけど」
「趣味で選んだわけではありません。私は、この方のもとへ来るべくして参りました」
「へえ。随分と都合のいい運命ね。で、何でその運命とやらが、私のクズ亭主の部屋に割り込む理由になるわけ?」
「割り込んだのは、あなたの方です」
「そ。なら――死ねば?」
メルシーが踏み込むより、シエルの方が早かった。
巨大な大剣が、白い光の軌跡を引いて振り下ろされる。
メルシーは舌打ちしながら、ハルバートの長柄で受け止めた。
金属同士がぶつかったとは思えない轟音が響いた。
「うおっ!?」
マキトの体が、衝撃で一歩よろめく。
目の前のローテーブルが、真ん中から砕けた。
買ってきた弁当の入ったコンビニ袋が、紙切れのように舞い上がり、壁へ叩きつけられる。
「ちょ、待て待て待て!」
マキトが叫ぶ。
「ここ家! 俺の家! お前らのイベント会場じゃねえから!」
聞いていない。
メルシーがハルバートを押し返し、そのまま刃を横薙ぎに振るう。
シエルが体を捻って避けた。
刃の先端が、彼女の鎧には触れないまま、背後のソファを真横から両断する。
「……は?」
マキトの声が掠れた。
まだローンがあるのか、それとも両親は払い終えているのか。
そんなことすら知らない実家のソファが、今、目の前で二つになった。
「お下がりください、旦那さま!」
「下がる場所をお前らが壊してんだよ!」
シエルの大剣が振り上げられる。
メルシーが跳ぶ。
白い刃が空を切り、その余波だけで天井照明が弾け飛んだ。
ガラス片が降り注ぐ。
マキトは咄嗟に腕で顔を庇う。
だが、落ちてくるはずの破片は、一つとして彼に触れなかった。
割れたガラスは、まるで見えない壁に弾かれたように軌道を逸らし、左右の床へ散らばった。
マキトがそれを理解するより先に、メルシーが着地する。
「邪魔なのよ、乳だけのペ天使!」
「あなたに言われる筋合いはありません! その口の悪さで旦那さまのおそばにいられると、本気でお思いですか!」
「はっ。抱きしめて甘やかせば男は全部自分のものになるとか思ってそうな女が、正妻ぶってんじゃないわよ!」
「少なくとも、伴侶を屑と罵る方よりはましです!」
「クズ亭主はクズ亭主でしょ! 見なさいよこの顔! 顔がいいからって調子に乗りそうな顔してるじゃない!」
「なんで初対面の奴から顔で悪口言われなきゃいけないんだよ!」
マキトの抗議を無視して、二人の武器が再びぶつかる。
今度は台所側の壁が崩れた。
電子レンジが棚ごと吹き飛び、床へ落下して無残に潰れる。
温めを終えたばかりの弁当が、容器ごと瓦礫の下へ消えた。
「あっ……俺の晩飯!」
シエルの大剣がメルシーの肩口を狙う。
メルシーは低く身を沈め、刃の下を潜り抜けた。
そのままハルバートの柄を回し、シエルの足元を払う。
シエルは天輪を淡く輝かせ、倒れる寸前で体勢を立て直す。
踏み込んだ白い靴が、階段の一段目を砕いた。
続く一撃で、手すりが消えた。
「やめろ! マジでやめろ! そこ二階に上がるところだから! 親の部屋とかあるから!」
「旦那さま、ご安心ください! あなたには決して傷一つ――」
「家の心配してんだよ! 俺一人無事ならいいとかじゃねえんだよ!」
メルシーが鼻で笑った。
「自分だけ守られてるくせに細かい男ね」
「家を壊してる奴が言うな!」
「私じゃなくて、先に斬りかかったこの女に言いなさいよ!」
「旦那さまへ危害を加えようとする方を見過ごすわけにはまいりません!」
「加えようとしてたのはあんたにだけよ! クズ亭主は必要なんだから殺すわけないでしょ!」
「だから何の話なんだよ!」
マキトの疑問には、誰も答えない。
二人の動きは速く、鋭く、あまりにも正確だった。
シエルの大剣は、巨大さからは想像もつかないほど滑らかに振るわれる。
メルシーのハルバートは、長大な柄を持ちながら室内の僅かな隙間を縫って迫る。
互いの体には、まだ決定的な傷は入っていない。
なのに、家だけが耐えられない。
壁が抜ける。
天井が傾く。
階段が潰れ、二階を支えていた柱が折れかける。
そしてその間、マキトのいる場所だけは、奇妙なほど綺麗に残されていた。
倒れてきた棚は、彼の肩先を避けて砕ける。
吹き飛んだ木片は、彼の足元から数センチの位置で床へ突き刺さる。
シエルの斬撃も、メルシーの薙ぎ払いも、絶対にマキトへ届かない軌道を通る。
二人とも、相手を倒すことと同じくらい、マキトを傷つけないことへ神経を割いている。
それほどの技量がある。
それほどの技量がありながら、なぜ家を守る方向には一ミリも働かないのか。
「お前ら……っ」
マキトの声は、もう怒鳴る寸前だった。
だが、その声を掻き消すように、最後の衝突が起きる。
シエルの大剣と、メルシーのハルバート。
白い光と赤黒い光が、真正面からぶつかった。
凄まじい衝撃が、家全体へ走る。
柱が折れた。
天井が落ちた。
屋根が、瓦礫と埃を伴って崩れ落ちる。
マキトは反射的に身を縮めた。
轟音。
粉塵。
崩落。
数秒後、静寂が来た。
マキトは、ゆっくりと顔を上げる。
夜空が見えた。
ついさっきまで天井があった場所に、星の見えない曇った空が広がっている。
リビングは存在しない。
台所も、階段も、二階もない。
両親の家具も、テレビも、食卓も、全てが瓦礫の中へ埋まっている。
隣家には傷一つない。
道路にも被害はない。
マキトの足元にある床の一角だけが、冗談みたいに原型を留めていた。
その上に、彼は無傷で立っている。
シエルとメルシーも、瓦礫を挟んで互いを睨んだまま動かない。
マキトは、ゆっくり拳を握った。
手が震えている。
恐怖なのか、怒りなのか、自分でも分からなかった。
だが、次に口から出た声は、近所中に聞こえるほど大きかった。
「……お前らぁぁぁぁっ!」
シエルとメルシーが、同時に振り向く。
「ふざけんなよ! 何してくれてんだお前ら!」
「だ、旦那さま、これは――」
「言い訳するな! 見ろ! 家だったものを見ろ!」
マキトは両手で瓦礫を指し示した。
「俺、今日普通に仕事から帰ってきただけだぞ!? 飯温めて、明日も会社かよって絶望してただけだぞ!? それが何で、知らねえ爆乳二人に旦那だクズ亭主だ言われた挙げ句、嫁争いで実家を更地にされなきゃならねえんだよ!」
「ば、爆乳は今関係ありません……!」
「あるわ! 目の前の情報量が多すぎるんだよ! 鎧! 尻尾! でかい武器! でかい乳! 知らねえ女が二人! 家は瓦礫! どっから整理しろってんだ!」
メルシーが顔をしかめる。
「建物一つくらいで大騒ぎしすぎじゃない? 必要なら、あとでどうにか――」
「お前が親父に説明しろ!」
「は?」
「旅行から帰ってきた親父に、お前が言え! 『息子さんを亭主に選んだら、白い爆乳と喧嘩になって、ご自宅を綺麗に消し飛ばしました』ってな! 俺は嫌だぞ! そんな意味分かんねえ理由で親父に殺されるの!」
「だ、誰が白い爆乳ですか!」
「そこに反応するな! お前も原因の一人だろうが!」
シエルは、叱られた子供のように肩を落とした。
「……申し訳ありません、旦那さま。ですが私は、あなたをお守りするために……」
「俺を守る前に俺の生活を守れよ! 今夜どこで寝るんだ俺は!」
メルシーが、小さく鼻を鳴らした。
「その辺の瓦礫で寝れば? クズ亭主にはお似合い――」
「黙れ」
低い声だった。
メルシーの言葉が、途中で止まる。
マキトは、瓦礫の上から二人を睨みつけた。
「いいか。お前らが天使だろうが悪魔だろうが、何だろうが、俺には関係ない」
シエルが息を呑む。
「俺の家を壊したのはお前らだ。だから、ここから先は俺の言うことを聞け」
「……はぁ?」
メルシーの眉が跳ね上がった。
「あんた、自分が誰に向かって――」
「知らねえよ。知る必要もない。家一軒壊しておいて、まだ好き勝手できると思ってんなら頭湧いてるだろ」
震えは止まらない。
今、目の前にいる二人がどれほど危険かは、嫌というほど見せつけられた。
一人でさえ人間の手に負えるものではない。
その二人へ向かって命令するなど、正気ではないかもしれない。
それでも、ここで黙れば、全部奪われたままだ。
「俺を旦那扱いするのなら、俺の命令に従え」
「……旦那さま」
「許可なく戦うな。俺の住む場所で武器を抜くな。お前らの因縁だの立場だのは知らん。俺の前では、俺の判断を優先しろ」
マキトは、崩れた家をもう一度指さした。
「あと、家の修理代。今からかかる宿代。余計な出費は全部、お前らに返させる」
メルシーの顔が引きつる。
「何で私まで――」
「共同責任だ。嫌なら今すぐ出ていけ。警察でも刑務所でも好きなところへ行って、そこで好きなだけ殺し合え」
そこで、二人は妙な沈黙を落とした。
シエルは苦しそうに目を伏せる。
メルシーは何か言い返そうとして、言葉を飲み込んだ。
マキトは、その反応を見逃さなかった。
「……何だよ」
「……」
「出ていけって言ってんだ。嫌なんだろ? だったら勝手にしろよ」
「それは……できません」
シエルが、小さく答えた。
メルシーが振り返る。
「ちょっと、シエル!」
「旦那さまには、知っていただく必要があります」
「話すなって言ってんのよ、この馬鹿女!」
その焦り方で、マキトは確信した。
弱みがある。
家一軒を壊せるほどの女二人が、自分の前から消えろと言われただけで動けない理由が。
「シエル」
マキトは、短く命じた。
「話せ」
シエルはメルシーの罵倒を受けながら、それでもマキトへ向き直った。
「……私たちは、本来、この世界へ単独で存在できるものではありません」
「単独で存在できない?」
「はい。私たちは、あなたとの繋がりを足場として、こちらの世界へ現れています。現在は元の世界にいた頃より大幅に力を失っていますが、それでも伴侶となった方の近くにいることで、人格と力を安定させることができます」
「伴侶?」
マキトは眉間に皺を寄せる。
「それが、旦那だのクズ亭主だの言ってた理由か?」
「はい……」
メルシーが奥歯を噛む。
「だから、そこまで話す必要ないでしょうが……!」
マキトは、もうメルシーを見ていなかった。
「俺が、その契約を断ったら?」
シエルの表情が曇った。
「……私たちは、この世界で理性と人格を保てなくなる可能性が高いです」
「具体的には?」
「意識を失い、本能と力だけで動く存在に……こちらの言葉でいうなら、モンスターに近い状態へ落ちるかと」
「離れた場合は?」
「直ちにそうなるわけではありません。ですが、距離が開き、時間が経つほど、力も精神も不安定になります」
メルシーが、苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「これで満足? こいつに首輪の場所まで教えてあげてさ。ほんっと、甘すぎて吐きそう」
マキトは答えなかった。
視線だけで、二人を見比べる。
白い鎧の女。
黒いドレスの女。
さっきまで、家を壊された怒りしかなかった。
だが、今は違う。
こいつらは強い。
大幅に弱体化していると言いながら、短い喧嘩だけで家を消した。
それでいて、自分だけは一切傷つけなかった。
人間の常識から完全に外れた力を持っている。
なのに、その理性を繋ぎ止めているのが、自分だという。
マキトの胸の奥で、何かが音を立ててひっくり返った。
今日までの自分は、会社という枠の中で、誰かに使われる側だった。
新人だから。
社会人だから。
生きていくためだから。
言われた通りに働き、決められた時間に起き、決められた場所へ行く。
これから先も、それが延々と続くのだと思っていた。
だから、死んで異世界転生した方が楽ではないかと、くだらないことを考えた。
その夜、自分の家は消えた。
代わりに、化け物みたいに強い女が二人、目の前に落ちてきた。
しかも、どちらも自分がいなければまともに立っていられない。
「……なるほど」
マキトの口元が、僅かに上がる。
シエルが、不安そうに彼を見る。
「旦那さま……?」
「お前ら、俺がいないと駄目なんだな」
「……っ」
メルシーが顔を歪めた。
「調子に乗るな、クズ亭主。あんたなんて、ただの足場で――」
「足場がなくなったら怪物になるんだろ?」
「……」
「だったら話は早い」
マキトは、瓦礫の上で二人を見下ろした。
ついさっきまで、自分の家を壊した化け物にしか見えなかった女たちが、今は違う。
自分の手に入った、切り札に見える。
「今日から俺が上だ」
シエルの瞳が揺れる。
「俺の命令を聞け。俺が必要だと思った時に、お前らの力を使う。勝手な喧嘩も、勝手な行動も禁止だ」
「旦那さま……それは……」
「嫌なら契約を切る。二人揃って正気をなくして、ここで仲良く潰し合え」
メルシーが、怒りに羽を震わせる。
「この……下種野郎……!」
「知ってる。で、どうする?」
「……っ」
先に答えたのは、シエルだった。
彼女は大剣を消し、瓦礫の上で静かに膝を折る。
「……分かりました」
青い瞳が、苦しそうに伏せられる。
「此度のことは、私たちの責任です。旦那さまが怒られるのも当然です。私は……あなたに従います」
「シエル、あんた本気!?」
「私たちは、旦那さまのお住まいを失わせてしまいました。それに、これ以上この方を危険へ巻き込むわけにはまいりません」
「巻き込んだ原因の大半はあんたでしょうが!」
「いいえ、半分はあなたです」
「ぐっ……!」
メルシーは悔しそうに歯噛みし、やがてマキトへ視線を向けた。
「……覚えてなさいよ、クズ亭主」
「何をだよ」
「今は従ってあげる。でも、いつか絶対、あんたを私の尻に敷いて泣かせてやるんだから」
マキトは鼻で笑った。
「それは家の修理代を稼いでから言え」
「ほんっとうにムカつく!」
その声で、ひとまず殺し合いは終わった。
だが、問題は目の前に残っている。
「……で」
マキトは振り返った。
瓦礫の山。
屋根のない実家。
崩れた家具。
消えた晩飯。
「これ、今日どこで寝るんだよ」
シエルが、申し訳なさそうに両手を握り合わせる。
「私が何とか――」
「何とかできるなら、先に家を直せ」
「私では、建築物の復元は……」
「使えねえ」
「も、申し訳ありません……」
メルシーが鼻で笑う。
「天使サマ、役立たず」
「お前も直せないなら同類だろ」
「私は破壊と妨害が専門なの。建てる趣味なんてないわよ」
「胸張って言うことじゃねえよ」
マキトは、瓦礫の中から無事だったスマートフォンと財布を拾い上げた。
どういう技術なのか知らないが、二人の戦闘中、マキトの手荷物まで傷一つついていない。
無駄に器用な奴らだった。
「宿探すぞ」
「私たちも、ですか?」
シエルが問う。
「お前らをここに放置して、また殴り合われたら今度は近所が消えるだろ。それに離れたら不安定になるんじゃねえのか」
「はい……旦那さまのおそばにいられるのであれば、私は――」
「嬉しそうにするな。監視だ、監視」
「それでも、嬉しいです」
「……お前ら、本当に面倒くさいな」
「失礼ね。面倒なのは白い方だけでしょ」
「黒い方も同じくらい面倒だよ」
家を出る、という言葉すら今の状況では妙だった。
門扉だけが残っている敷地を出て、マキトは道路へ足を踏み出す。
そこで、スマートフォンの画面を確認した。
着信や通知が大量に入っている。
家が崩れたせいで近所から何か来ているのかと思った。
だが、違った。
SNSのおすすめ欄に、見慣れない投稿が次々と流れてくる。
普段のマキトの画面に表示されるのは、仕事の愚痴、軽い炎上、流行の動画、時々犬の写真くらいだ。
ゲームの情報など、ほとんど流れてきたことがない。
その画面が、今は異常な投稿で埋まっていた。
『駅前に剣持った女がいる。警察来てるけど近づけない』
『誰かラグオダ詳しい奴いる? この衣装、あのゲームのキャラじゃないか?』
『兄の部屋に知らない女が現れた。兄のことダーリン呼びしてる』
『空に光の柱が出た。これ何?』
『武器が本物っぽい。撮影じゃない』
『同じ報告多すぎない?』
マキトは、画面を指で滑らせながら眉をひそめた。
「……俺、ゲームのアカウントなんかフォローしてねえぞ」
普段なら目に入るはずのない話題が、無関係な人間の画面にまで押し寄せている。
遠くでサイレンが鳴る。
別の方向からも聞こえる。
そして、住宅街の向こう側、ビルの隙間から、淡い光の柱のようなものが一瞬だけ空へ伸びた。
「……これ、俺ん家だけの話じゃねえのか」
シエルとメルシーは答えなかった。
二人とも、初めて見る現代の街ではなく、その空に現れた光を見ていた。
メルシーが、小さく舌打ちする。
「嫌な感じ」
「何か分かるのか?」
「まだ分かんない。でも、私たちだけが来たって空気じゃない」
シエルも、不安げに頷いた。
「おそらく、他にも……」
「説明は宿で聞く。今ここで揉めるなよ。今度何か壊したら、マジで契約切るからな」
メルシーの羽がびくりと揺れた。
「いちいちそれを脅しに使うな、クズ亭主!」
「効いてるうちは使う」
「最悪!」




