16.だから面白いんだろ
銃口が、マキトへ向けられていた。
シエルは大剣を構えたまま、呼吸を浅くする。
刃を振るえば届く距離ではない。
踏み込めば間に合わない距離でもない。
だが、動けなかった。
相手がただの暴漢なら、まだよかった。
震える手で銃を握り、恐怖に駆られて叫んでいるだけなら、威嚇か、制圧か、守りながらの撤退か、選べる手はあった。
けれど、目の前の男は違う。
警察官の制服を着ていた。
胸元は埃でくすみ、袖口には乾いた血がこびりついている。
靴は汚れ、膝のあたりには擦れた跡がある。
顔には疲労がにじみ、額に汗が浮かんでいた。
それなのに、目だけが妙にぎらついていた。
職務を果たそうとしている者の目ではない。
追い詰められた者の目でもない。
何度も同じことをして、まだ続けるつもりの目だった。
「押してよ」
男――タクヤが言った。
声は軽い。
けれど、冗談ではなかった。
マキトのスマートフォンには、バトル申請の通知が表示されている。
承認すれば戦闘が成立する。
拒否しても、タクヤが引く保証はない。
シエルは大剣の柄を握り直した。
彼女の役目は、旦那さまを守ることだ。
ならば、タクヤを斬ればいい。
分かっている。
だが、シエルが動くより先に、タクヤの指が動けば終わる。
銃という武器そのものが恐ろしいのではない。
この距離、この状況で、訓練を受けた者がマキトだけを狙っていることが危険だった。
シエルは、視線をわずかにずらす。
正面のタクヤだけを見ていてはいけない。
その直感は、正しかった。
路地の入口に、金髪の女が立っていた。
サキュバスを思わせる姿。
甘く整った顔立ち。
派手な髪。
片手には剣。
軽い足運びで、いつでも前へ出られる位置を保っている。
魔法職ではない。
少なくとも、後衛に下がって呪文を唱えるタイプではない。
シエルと同じ前衛。
だが、ただの前衛ではなかった。
立ち姿に隙がない。
笑みを浮かべているのに、足先だけは獣のように獰猛だ。
タクヤが銃でマキトを縛っている間、彼女は別方向から斬り込める場所を押さえていた。
シエルは短く告げる。
「旦那さま。あちらにも敵がいます。武器は片手剣。おそらく、私と同じ前衛職です」
マキトは、目だけを向けた。
「レアリティは?」
「断定はできません。ですが……UR級と見てよろしいかと」
空気が重くなる。
シエル一人では絶対に勝てない。
そう言い切れる相手ではない。
だが、マキトを銃から守りながら、同時にあの女を止めるのは別の話だった。
「私一人では、旦那さまを守り切れない可能性があります」
声だけは冷静に出した。
焦りを見せれば、敵に伝わる。
敵に伝われば、そこを突かれる。
それでも、胸の奥は強くざわついていた。
タクヤは銃でマキトを狙っている。
金髪の女は横からいつでも斬りかかれる位置にいる。
バトル申請は保留中。
戦闘が始まれば、相手は確実にマキト本人を殺しに来る。
シエルが弾を防げば、女が走る。
女を止めに行けば、タクヤが撃つ。
マキトを抱えて逃げようにも、角度が悪い。
最初からこの形を作られていた。
罠だった。
「旦那さま。これは……非常に危険です」
マキトは、通知に表示された名前を見ていた。
タクヤ。
分かるのはそれだけ。
彼がどういう人生を送ってきたのか。
なぜ警察官の制服を着たまま、プレイヤーを狩っているのか。
隣の金髪女とどんな関係なのか。
マキトは知らない。
だが、知らなくても分かることはある。
汚れた制服。
乾いた血。
疲れ切った顔。
それでも銃を下ろさない手。
もう昨日までの人間ではいられないと悟ったような目。
マキトはそこから、タクヤが自分と近い場所にいると嗅ぎ取った。
壊れた世界で、自分の決めたルールで動ける人間。
「……ふ」
その場に似合わない声が、マキトの喉から漏れた。
シエルは一瞬、怯えているのかと思った。
「ふ、ふふ……ははっ」
違う。
マキトは笑っている。
銃口を向けられ、逃げ道を塞がれ、命を握られているこの状況で。
「はは、はははは……!」
小さな笑いが、少しずつ大きくなる。
怯えているのではない。
追い詰められて壊れたのでもない。
最初から、壊れている側の笑いだった。
「あははははははははっ!」
ついにマキトは、こらえきれなくなったように声を上げた。
シエルは振り返りかけた。
「旦那さま?」
マキトの目が、楽しそうに細められていた。
追い詰められた人間の目ではなかった。
銃を向けられている。
逃げ道は塞がれている。
敵のキャラクターはUR級。
バトル申請を承認すれば、命を狙われる。
その状況で、彼だけが心底楽しそうだった。
タクヤの眉が動く。
金髪の女も、少しだけ笑みを細める。
影の中のメルシーすら、息を潜めた気配があった。
マキトはタクヤを見る。
「いいな、お前」
シエルは、その言葉に嫌な予感を覚えた。
「お前は何も間違っちゃいない」
息が詰まる。
マキトは、タクヤを正義や倫理で否定しなかった。
人殺しだと吐き捨てもしない。
むしろ、嬉しそうだった。
「間違ってるのは、こんな状況になっても、まだ昨日までと同じ平和な日常が続くと思ってる連中の方だよな」
タクヤの目つきが変わる。
理解されたことへの戸惑い。
見透かされたことへの苛立ち。
そして、どこかで否定しきれない感情。
それらが混じっていた。
マキトは続ける。
「分かるよ。お前の気持ち」
「旦那さま、何を……」
シエルの声は、届かなかった。
「俺も一昨日、対戦申請を出しまくったのに、一件も受理されなかったからな」
場違いなほど軽い口調だった。
だが、シエルには分かる。
マキトは本気で言っている。
タクヤは許せない悪人ではない。
マキトにとっては、ようやく現れた相手だった。
昨日までの常識にしがみつかず、壊れた世界を壊れたまま受け入れている人間。
だから、面白い。
シエルは一歩、踏み出しかける。
「旦那さま、いけません。承認すれば、相手は確実にあなたを狙います」
「知ってる」
「でしたら――」
「だから面白いんだろ」
マキトの指が、スマホへ伸びた。
拒否すれば安全。
そんな状況ではない。
承認しても危険。
拒否しても危険。
ならば、マキトが選ぶ理由は一つだった。
「答えはイエスだ」
画面が反応する。
「どっちかが死ぬまでやり合おうぜ」
タクヤのスマホにも通知が表示された。
《バトル申請が承認されました》
戦闘が成立する。
一瞬、タクヤは動けなかった。
怯えない。
命乞いもしない。
警察のくせに、などと典型的な怒りの表情もみせない。
それどころか、マキトは自分を面白がっている。
タクヤは、その反応に気味の悪さを覚えた。
同時に、腹の奥が熱くなる。
また、舐められている。
そう思った瞬間には、指が動いていた。
銃声。
シエルが前へ出ようとする。
しかし、路地の入口にいたミオも同時に踏み込む気配を見せた。
弾を防ぐか。
女を止めるか。
判断は一瞬で済ませなければならない。
そのわずかな迷いが、致命的になりかけた。
マキトの足元の影が揺れる。
黒い影が跳ね上がり、そこからメルシーが飛び出した。
巨大なハルバートが、銃弾の軌道へ割り込む。
金属音が鳴った。
弾丸は完全には止まらない。
逸れた弾が、マキトの頬をかすめていく。
赤い線が走った。
「本当クズ亭主――じゃない、バカ亭主! 私が守らなかったら死んでたんだから!」
メルシーの怒鳴り声は、普段の煽りとは違っていた。
怒っている。
だが、それだけではない。
本気で焦っていた。
マキトは頬の血を親指で拭う。
「ああ。お前がいるから俺は無理できる」
メルシーが、一瞬だけ固まった。
「なっ……」
タクヤも目を見開く。
もう一人いたのか。
そう理解するより早く、マキトは走り出していた。
路地へ向かって一直線に駆ける。
タクヤはすぐに追おうとする。
メルシーは反射的にタクヤへ向かおうとした。
今なら潰せる。
銃を持っているとはいえ、相手は人間だ。
距離を詰めてしまえば、メルシーの方が速い。
だが、マキトの声が飛んだ。
「メルシー! シエルの援護に回れ!」
「はあ!? あいつを潰したほうが早いでしょ!」
「俺の遊びに口出しすんな!」
「丸腰のくせに何言ってんのよ!」
マキトは振り返らない。
「二対一なら、いくらポンコツでも勝てるだろ?」
メルシーのこめかみが跳ねた。
「誰がポンコツよ! ポンコツはこの女だけでしょ!」
シエルはわずかに眉を寄せる。
「今、その反論は必要でしょうか」
「必要よ!」
ミオは、楽しそうに笑っていた。
マキトは路地の奥へ消える。
タクヤが後を追う。
戦場が二つに割れた。
「さて、二対一でお前のキャラが潰されるのが先か!」
マキトの声が、路地から響く。
「それとも、お前が俺を殺すのが先か!」
タクヤは追うしかなかった。
マキトが生きている限り、戦闘は終わらない。
ミオミオがどれだけ耐えても、タクヤ本人がマキトを仕留められなければ意味がない。
マキトの挑発は、正しくタクヤを縛っていた。
「ルールは簡単だな!」
その声が遠ざかる。
メルシーは舌打ちしながら、シエルの隣に並んだ。
「あとで覚えてなさいよ、バカ亭主」
「今は目の前の敵に集中してください」
「分かってるわよ、ペ天使」
シエルは大剣を構える。
金髪の女――ミオミオは、片手剣を軽く揺らした。
「ミオミオ、二人相手なんだ。こわーい」
甘い声。
けれど、体は少しも逃げていない。
シエルはメルシーへ短く言う。
「援護します」
「命令?」
「協力の申し出です」
「ペ天使に助けられる趣味はないんだけど」
「旦那さまを守るためです」
その一言で、メルシーは黙った。
シエルは白い光を走らせる。
支援がメルシーへ届き、彼女の動きが一段軽くなる。
「勘違いしないでよ。妻は一人で十分なんだから」
「今はその話をしている場合ではありません」
「今だけ、便利に使ってあげるって言ってんの! シエル!」
「構いません。今だけは、私もあなたを利用します。メルシー」
二人が同時に踏み込んだ。
シエルの大剣が正面から迫る。
メルシーのハルバートが横から逃げ道を潰す。
重さと鋭さ。
圧力と嫌らしさ。
本来なら噛み合わない二人の攻撃は、マキトを守るという一点だけで形になっていた。
ミオミオは軽い笑みを浮かべたまま、片手剣を合わせる。
まともに受けない。
シエルの大剣を刃の角度で流し、メルシーのハルバートを半歩ずれてかわす。
剣と剣がぶつかるたび、ミオミオの足元に淡い光が散った。
《デビルズ・ステップ》。
回避率を引き上げる補助スキル。
防壁のように攻撃を消すわけではない。
傷を無効化するわけでもない。
ただ、当たるはずの一撃が少しだけずれる。
届いたと思った刃が、薄皮一枚で逃げられる。
踏み込んだ先に、もう相手はいない。
力ではシエルたちが押していた。
数でも有利。
勢いもある。
だが、決定打が入らない。
ミオミオは攻めてこなかった。
守る。
流す。
避ける。
位置をずらす。
勝つ必要はない。
タクヤがマキトを殺すまで、耐えればいい。
シエルの大剣が軋む。
メルシーのハルバートにも嫌な振動が伝わる。
ミオミオの片手剣は、軽く揺れるだけだった。
「早く倒さなきゃ、ダーリンに殺されちゃうよ?」
甘ったるい声が、刃の間から落ちる。
メルシーが舌打ちした。
「うっさいわね……!」
彼女はさらに踏み込もうとする。
メルシーの強みは、相手に傷を入れてデバフを通すことだ。
一撃でも当たれば、状況は変わる。
速度を落とし、防御を鈍らせ、この膠着を崩せる。
だから、無理にでも刃をねじ込みたくなる。
「メルシー、押しすぎです」
シエルが止めた。
「あと少しなのよ!」
「焦らされています。彼女は、こちらの注意が散るのを狙っています」
「分かってるわよ!」
メルシーの声には苛立ちが混じっていた。
分かっている。
分かっていても、急がなければマキトが危ない。
シエルも同じだった。
それでも、ここで崩れれば終わる。
正面から押し切るには、ミオミオの回避が厄介すぎる。
迂闊に深追いすれば、逆に隙を差し返される。
一進一退の攻防がしばらくの間続く。
三人の刃が交差し、火花が散る。
その時だった。
路地の奥から、マキトの声が響いた。
「シエル、メルシー、来てくれ」
助けを求めるようにも聞こえる声だった。
シエルの胸が跳ねる。
メルシーの目つきが変わる。
ミオミオは勝ち誇ったように笑った。
「あはは、ダーリンに捕まっちゃったのかなぁ?」
その言葉に乗れば、終わる。
シエルは大剣を構えたまま、半歩下がった。
メルシーもハルバートで牽制しながら距離を調整する。
背を向けない。
走らない。
焦りを殺して、少しずつ路地へ寄っていった。
◇
――少し前。
タクヤは、マキトを追って歓楽街の路地へ入っていた。
相手は丸腰の一般人。
銃もない。
武器もない。
キャラクターも置いてきた。
焦るな。
ミオミオが耐えている間に、自分が仕留めればいい。
そう言い聞かせても、呼吸は自然と浅くなった。
狭い路地。
割れた瓶。
崩れた看板。
消えかけたネオン。
倒れた自転車。
開けっぱなしの店の裏口。
いくらでも隠れる場所はある。
タクヤは拳銃を構え、壁際を進んだ。
訓練は受けている。
銃の扱いも知っている。
物陰に潜んだ相手への警戒も、頭では分かっている。
だが、背後に残した状況が悪い。
ミオミオは二対一で戦っている。
相手はUR級が二人。
片方は影から飛び出して弾を逸らした。
まだ他にも手札があるかもしれない。
長引けば不利だ。
自分が先にマキトを殺すしかない。
その思考が、タクヤの視野を狭めていく。
路地の奥は行き止まりだった。
そこには、回収されないまま放置されたゴミ捨て場があった。
平穏が崩れてから、一度も収集車は来ていないのだろう。
破れた袋から生ゴミがこぼれ、潰れた弁当容器や空き缶が足元に散っている。
鼻を刺すような腐臭が、狭い空間にこもっていた。
タクヤは顔をしかめる。
その奥から、スマホのアラーム音が鳴っていた。
一定の間隔で、耳障りな音が響く。
タクヤは銃口を下げずに進む。
ゴミ山の前の地面に、マキトのスマートフォンが置かれていた。
画面が光り、設定されたアラームを鳴らしている。
マキトの姿はない。
タクヤの背筋に冷たいものが走った。
囮。
そう理解した瞬間、反射的に振り向く。
背後を取られた。
そう思った。
だが、そこにもマキトはいない。
タクヤの判断が止まる。
一瞬。
本当に、わずかな間だった。
その一瞬を、マキトは待っていた。
ゴミ袋の山が崩れた。
腐臭と汚水が散り、破れた袋の中からマキトが飛び出す。
普通なら、人間が隠れようと思わない場所。
タクヤが無意識に候補から外していた場所。
そこに、マキトはいた。
手には棒状の何か。
正体を確かめる余裕はなかった。
「残念。そっちじゃねえよ」
低い声と同時に、棒状のものがタクヤの銃を持つ腕へ叩き込まれる。
銃口が跳ねた。
タクヤが撃とうとするより早く、二撃目が手首へ落ちる。
骨に響く痛みが走り、拳銃が指からこぼれた。
マキトは落ちた銃を蹴り飛ばす。
タクヤは歯を食いしばった。
負けたわけではない。
まだ終わっていない。
警察官としての訓練が体を動かす。
拳を出す。
組みつこうとする。
腕を取ろうとする。
だが、マキトは綺麗に戦わなかった。
武術ではない。
格闘技でもない。
正々堂々とした殴り合いでもない。
反撃できる場所から順番に潰す。
銃を持っていた腕。
踏み込む膝。
息を奪うために腹。
掴もうとする肩。
棒状の何かが、何度もタクヤの体へ叩きつけられる。
タクヤは耐えた。
体格で圧倒されているわけではない。
技術で完敗しているわけでもない。
だが、崩された。
焦っていた。
ミオミオが耐えている間に決めなければならなかった。
腐臭で集中が削られていた。
アラームに意識を引かれた。
振り向く方向を読み違えた。
そして何より、マキトがその全部を利用していた。
タクヤの手が、蹴り飛ばされた拳銃へ伸びる。
マキトは笑っていた。
息を荒げ、頬から血を流し、ゴミの臭いをまといながら、それでも目だけは楽しそうに輝いている。
狩る側だったはずなのに。
タクヤは、自分が狩られているのだと理解した。
棒状の何かが振り下ろされる。
鈍い音。
タクヤの体が地面に崩れた。
すぐには動けない。
マキトが拳銃を拾う。
構えはぎこちない。
扱い慣れているわけではない。
だが、奪った。
それだけで十分だった。
タクヤは荒い息を吐いている。
生きてはいる。
ただ、立ち上がる力は残っていなかった。
マキトは路地の入口へ向かって声を張る。
「シエル、メルシー、来てくれ」
その声だけを聞けば、助けを求めているようにも聞こえた。
実際は違う。
マキトは、タクヤを潰した後に呼んでいた。
しばらくすると、シエルとメルシーが路地へ入ってきた。
二人はミオから目を離さないまま、慎重に後退していた。
ミオも追い詰めきれない。
やがて、三人の視界がゴミ捨て場へ届く。
そこには、地面に倒れたタクヤがいた。
マキトは拳銃を奪っている。
もう片方の手には、奇妙な杖が握られていた。
以前、素材を合成して生成されたものの、使い道が分からないまま放置されていたゴミアイテム。
《血霧の杖》。
名前だけは物騒だった。
だが、魔法職でもないマキトたちにはまともに扱えず、倉庫の肥やしになっていた品だ。
今のマキトにとっては、それでよかった。
長さがある。
硬さがある。
殴れる。
それだけで、武器になる。
杖の先には、ゴミ袋の汚れとタクヤの血がこびりついていた。
マキトは腐った臭いをまとい、少し息を切らしながら笑う。
「悪い。ちょっと手間取った」
シエルは言葉を失った。
マキトは逃げていたのではない。
最初から、タクヤを誘い込んで潰すつもりだった。
銃を持った相手に追われる状況さえ、罠の材料にしていた。
メルシーが、呆れと怒りを混ぜて言う。
「……あんた、何してたのよ」
マキトは肩をすくめた。
「本気で遊んでた」
シエルは倒れているタクヤを見る。
守られていただけではない。
マキトはマキトのやり方で、相手を狩った。
ミオミオの顔から、甘い笑みが消えていた。
あざとい表情も、軽い仕草もない。
片手剣を握る指に力がこもる。
タクヤはまだ生きている。
荒く息を吐いている。
だが、動けない。
バトルは終わっていない。
シエルとメルシーは、マキトの前に立つ。
マキトは奪った拳銃を手にしていた。
正しく扱えるかどうかは問題ではない。
タクヤの手から奪った。
その事実だけで、盤面は変わっていた。
ミオミオが静かに言う。
「……ダーリンに、何したの?」
声は甘い。
けれど、目は笑っていなかった。
マキトは血のついた頬を拭い、いつものように口元を歪める。
「まだ死んでねえよ。たぶんな」
シエルが大剣を構える。
メルシーがハルバートを担ぎ直す。
タクヤは地面で息をしている。
ミオミオの目から、最後の甘さが消えた。
ここからが、本当の決着だった。




