第26話「黒影の術」
神社の境内。
無数の黒い手が地面や柱から伸び、総司たちへ襲いかかっていた。
その中心には、先ほど井戸から姿を現した鬼がいる。
「来るぞ!」
総司が双剣を構える。
黒い手が一斉に迫る。
「はあっ!」
総司が二本の刀を振り、迫る手を斬り払った。
隼人も槍を回転させる。
「こいつ、いくらでも出してきやがる!」
蓮は迫る黒い手を一つずつ斬り落としていく。
「手を相手にしていたら、本体に近づけない!」
零奈は弓を構えたまま、鬼の動きを追っていた。
「まだ動かない……」
鬼はじっと四人を見ている。
「どうした?」
鬼が笑う。
「先ほどまでの威勢はどうした?」
総司が睨み返す。
「お前を倒すだけだ」
「ならば――」
鬼の身体から、黒い霧が一気に噴き出した。
「これを受けてみろ」
「何だ……!」
黒い霧が境内を包み込む。
視界が急激に悪くなった。
「総司!」
隼人の声が聞こえる。
「隼人! どこだ!」
返事はない。
「蓮!」
「ここだ!」
声は聞こえる。
だが、姿が見えない。
零奈の声も聞こえた。
「みんな、動かないで!」
総司はその場で足を止める。
霧の向こうから、鬼の笑い声が響いた。
「どうだ?」
「これでお前たちは何も見えない」
鬼の気配が消える。
「俺だけが、この霧の中を自由に動ける」
総司は双剣を握り直した。
「……なら、見る必要はない」
蒼月との修行を思い出す。
目で追うだけが戦いではない。
呼吸。
足音。
空気の揺れ。
気配。
総司は目を閉じた。
「……」
静かに呼吸する。
その時。
微かな音が聞こえた。
ザッ。
総司が身体を捻る。
ガキン!
鬼の爪を刀で受け止めた。
「なにっ!」
鬼の声が響く。
「そこだ!」
総司が二本の刀を振る。
鬼は姿を消した。
「惜しかったな」
声だけが霧の向こうから響く。
総司は追わない。
「今の攻撃……」
「俺たちの位置を確認してから攻撃してる」
蓮が言う。
「だったら、逆に利用できる」
零奈が続ける。
「誰かを狙わせて、他の三人で攻撃する」
隼人が槍を構える。
「俺が囮になる」
「隼人!」
「大丈夫だ」
隼人が笑う。
「こういう時くらい役に立たせろ」
総司は少し考えた。
「……分かった」
隼人がゆっくり歩き出す。
「ほら、鬼!」
「ここだぞ!」
霧の中から鬼の気配が近づいてくる。
一歩。
また一歩。
そして――
「死ね!」
鬼が姿を現した。
「今だ!」
総司が踏み込む。
蓮も同時に動く。
零奈の矢が飛ぶ。
鬼が驚いて身を翻す。
「しまった!」
ザンッ!
総司の刀が鬼の肩を斬った。
「グアッ!」
鬼が後退する。
その瞬間、鬼の視線が井戸へ向いた。
「……!」
総司は見逃さなかった。
「お前……」
鬼が振り返る。
「何だ?」
「今、井戸を見ただろ」
鬼の表情が変わる。
総司は確信する。
「やっぱり、あの井戸を守ってる」
だが、今の反応によって、井戸が鬼にとって絶対に失いたくないものだと確信できた。
蓮も気づく。
「つまり、井戸を壊されたら困るってことか」
鬼が怒りを露わにする。
「貴様ら……!井戸には近づけさせん!!黒影・黒手無限」
黒い手が一斉に伸びる。
総司は双剣を構えた。
「だったら――」
「お前を倒して、確かめる!」
四人が一斉に動く。
総司が正面から鬼へ迫る。
隼人が右から槍を突き出す。
蓮が左から斬り込む。
零奈が後方から矢を放つ。
鬼は黒い手を操りながら、四人の攻撃を次々とかわしていく。
しかし――
先ほどまでとは違う。
総司たちの連携が、確実に鬼を追い詰めていた。
「こいつら……!」
鬼が初めて焦りを見せる。
総司が踏み込む。
「逃がさない!」
鬼が黒い霧をさらに濃くする。
「ならば、俺も本気を出す!」
鬼の身体に刻まれた黒い紋様が、赤く変化していく。
「何だ……あれ」
総司が息を呑む。
鬼の身体から、これまでとは比べものにならないほど強い殺気が放たれた。
鬼が笑う。
「ここからが本当の戦いだ」
総司は双剣を握り直した。
「望むところだ」
第26話 完




