第20話「黒森町の帰還」
黒森町へ戻る道を、総司たちは町の人々と共に歩いていた。
洞窟から救出した人たちは、疲れ切っていた。
その中には、総司たちが最初に助けた少年の家族もいた。
「母さん!」
少年が走り出す。
「無事だったのね……!」
母親が少年を抱きしめる。
その光景を見て、総司は静かに息を吐いた。
「……よかった」
隼人が隣に立つ。
「お前、少し笑ってるぞ」
「そうか?」
「ああ」
「……そうかもな」
総司は町を見渡した。
自分が鬼と戦う理由。
それは復讐だけではない。
目の前にいる人たちを守るためでもある。
少しずつ、そのことを実感し始めていた。
町へ戻ると、蓮が待っていた。
「遅かったな」
「悪い」
「無事ならいい」
隼人が胸を張る。
「こっちは全部片付けたぞ!」
「何体倒した?」
「えっと……」
隼人が指を折る。
「忘れた!」
零奈が呆れた顔をする。
「数えてなかったの?」
「戦いながら数えられるかよ!」
蓮が小さく笑う。
四人の間に、以前よりも自然な空気が生まれていた。
その時、総司の表情が変わった。
「……鬼堂のことを報告しないと」
「ああ」
蓮も真剣な顔になる。
「上級鬼が単独で動いていた。それだけじゃない」
「五鬼衆の名前も出た」
零奈が頷く。
「五鬼衆が総司を知っていたことも」
総司は黙っていた。
鬼堂が言っていた言葉が頭から離れない。
――お前が何者なのか。
自分はただ、両親を鬼に殺され、妹を奪われた人間だ。
それ以外に何があるというのか。
「……父さん」
総司は小さく呟いた。
その日の夕方。
滅鬼団本部へ戻った四人は、相馬隊長へ任務の報告を行った。
「上級鬼と遭遇しただと?」
相馬の表情が険しくなる。
「はい」
総司は鬼堂との戦いについて話した。
「鬼の名前は鬼堂。五鬼衆から命令を受けていたようです」
相馬はしばらく黙っていた。
「……五鬼衆が動き始めたか」
隼人が尋ねる。
「そんなに危険なんですか?」
「お前たちが今、戦うべき相手ではない」
相馬ははっきりと言った。
「五鬼衆は上級鬼の中でも別格だ」
総司が口を開く。
「でも、いつか戦わなければ美月を助けられません」
相馬は総司を見る。
「そのためにも、今は力をつけろ」
「はい」
報告を終え、四人が部屋を出る。
総司だけが残った。
「隊長」
「何だ?」
「俺の父さんについて、知っていることはありませんか?」
相馬は黙った。
「……今はまだ話せない」
また同じ答えだった。
総司は拳を握る。
「分かりました」
部屋を出る。
その夜。
総司は一人、訓練場にいた。
双剣を握り、何度も木刀を振る。
「もっと速く……」
一振り。
「もっと強く……」
二振り。
「五鬼衆にも勝てるくらいに……」
そこへ足音が近づく。
「まだやっていたのか」
蒼月刃だった。
総司は振り返る。
「蒼月さん」
「上級鬼と戦ったそうだな」
「はい」
「どうだった?」
総司は少し考える。
「……勝てませんでした」
蒼月は頷く。
「それでいい」
「え?」
「今のお前が勝てる相手ではない」
蒼月は総司の双剣を見る。
「だが、生きて帰った」
「それが一番重要だ」
総司は黙って聞いている。
「焦るな」
「お前が本当に強くなるには、まだ時間が必要だ」
蒼月は背を向ける。
「明日から、特別訓練を始める」
「特別訓練?」
「双剣使いとして、お前を一から鍛え直す」
総司の目が輝いた。
「お願いします!」
蒼月は振り返らずに手を上げた。
「覚悟しておけ」
「かなり厳しいぞ」
総司は笑った。
「望むところです」
その頃。
遠く離れた鬼王城。
鬼堂は膝をついていた。
目の前にいるのは、五鬼衆の一人。
「早本総司は生きています」
「そうか」
鬼は静かに笑った。
「それでいい」
「奴には、まだ死んでもらっては困る」
第20話 完




