第19話「上級鬼」
洞窟の奥。
総司は二本の刀を構えたまま、目の前の鬼を睨んでいた。
鬼はゆっくりと拳を握る。
「来い」
「お前の力を見せてみろ」
総司は一気に踏み込んだ。
「はあっ!」
右の刀を振り下ろす。
鬼が腕で受け止める。
その瞬間、総司は左の刀を滑らせた。
「双牙!」
二本の刃が交差する。
だが、鬼は身体を捻ってかわした。
「遅い」
「くっ!」
鬼の拳が迫る。
総司は二本の刀を交差させて防いだ。
ガキィン!
「ぐっ……!」
そのまま後ろへ吹き飛ばされる。
「総司!」
隼人が駆け出そうとする。
「来るな!」
総司は立ち上がった。
「こいつは俺がやる!」
鬼が笑う。
「仲間を気遣う余裕があるとはな」
総司は息を整える。
蒼月の言葉が頭をよぎった。
――二本の剣を、一つの意志で動かせ。
総司は構えを変えた。
右手の刀を前へ。
左手の刀を低く。
「……もう一度だ」
鬼が踏み込む。
「死ね!」
拳が迫る。
総司は右の刀で拳を逸らした。
同時に左の刀が鬼の脇腹を狙う。
ザンッ!
「……!」
初めて、鬼の身体から血が流れた。
隼人が目を見開く。
「入った!」
しかし鬼は笑っていた。
「なるほど」
傷口が再生していく。
「少しは面白くなってきた」
鬼から放たれる殺気が一気に強くなる。
零奈が息を呑む。
「総司……」
「この鬼、本気を出してない」
総司も感じ取っていた。
今までの攻撃は、全て様子見だった。
「お前……」
鬼が口元を歪める。
「俺が何者か、まだ分かっていないようだな」
鬼の額に、赤い紋様が浮かび上がる。
「俺は上級鬼だ」
空気が震える。
「名は――鬼堂」
「人間を何十人食らったと思う?」
総司は刀を握り締めた。
「そんなこと、知るか」
「俺たちはここにいる人たちを助ける」
「お前を倒してな」
鬼堂は大きく笑った。
「いい目だ」
「その目……嫌いじゃない」
次の瞬間、鬼堂が消えた。
「!」
総司の目では追えない。
ドンッ!
身体に衝撃が走る。
総司は壁へ叩きつけられた。
「総司!」
隼人と零奈が駆け寄る。
「来るな……!」
総司は壁に手をつき、立ち上がった。
口元から血が流れる。
それでも双剣を離さない。
「まだ……終わってない」
鬼堂が歩み寄る。
「その程度で立ち上がるか」
「なら、次は――」
鬼堂が拳を振り上げた。
その時。
洞窟の奥から、別の声が響いた。
「鬼堂」
鬼堂の動きが止まる。
「……何だ?」
暗闇の奥。
そこには、さらに複数の鬼の気配があった。
「人間を殺すのは構わない」
「だが、その少年は殺すな」
鬼堂が振り返る。
「なぜだ?」
声の主は答えない。
ただ一言だけ告げた。
「五鬼衆からの命令だ」
鬼堂の表情が変わる。
「……五鬼衆」
総司もその言葉を聞き逃さなかった。
「五鬼衆が……俺を?」
暗闇の奥から、低い笑い声が響く。
「早本総司」
「お前が何者なのか――」
「いずれ自分自身で知ることになる」
総司は双剣を握り直す。
「何を言ってる……?」
しかし、声はそれ以上答えなかった。
鬼堂が再び総司を見る。
「どうやら今日は、お前を殺せないらしい」
「だが――」
「次に会った時は分からんぞ」
鬼堂が地面を蹴る。
その身体が暗闇の奥へ消えていく。
「待て!」
総司が追おうとする。
しかし、零奈が腕を掴んだ。
「追わないで!」
「罠かもしれない!」
総司は悔しそうに刀を下ろした。
「……くそっ」
その時、鉄格子の中から声が聞こえた。
「早く……ここから出してくれ」
総司は我に返る。
「そうだ」
「まず、この人たちを助ける」
三人は協力して鉄格子を壊し、捕らわれていた町の人々を救出した。
洞窟を出る頃には、空が明るくなり始めていた。
隼人が総司を見る。
「初めて上級鬼とまともに戦ったな」
「ああ」
総司は自分の手を見る。
「全然、届かなかった」
零奈が静かに答える。
「でも、逃げなかった」
蓮から預かった言葉を思い出しながら、総司は前を向いた。
「次は勝つ」
その瞳には、悔しさと決意が宿っていた。
第19話 完




