第18話「森の奥へ」
黒森町を埋め尽くすように、鬼の群れが押し寄せてくる。
総司は二本の刀を構えた。
「隼人、右!」
「任せろ!」
槍が振り抜かれ、迫ってきた鬼が吹き飛ぶ。
「零奈!」
「分かってる!」
矢が飛び、鬼の足を射抜く。
動きが止まったところへ、蓮が走り込んだ。
「そこだ!」
一閃。
鬼が灰になって消える。
四人は互いの動きを確認しながら、少しずつ鬼の群れを押し返していった。
「いいぞ!」
隼人が叫ぶ。
だが、総司は周囲を見回した。
おかしい。
倒しても倒しても、森の奥から新しい鬼が現れてくる。
「こいつら……」
総司は森を見る。
「どこから来てるんだ?」
「たぶん、森の奥にいる」
零奈が答える。
「この町を襲った鬼たちの巣があるはず」
その時、助けた少年が震えながら口を開いた。
「……地下」
「え?」
「鬼たちは、森の中にある洞窟から出てきてる」
「洞窟?」
「うん。町の人たちも、そこに連れていかれた」
総司はすぐに決断した。
「なら、行くしかない」
隼人が驚く。
「森の奥に?」
「ああ」
「でも、町に残った鬼は?」
蓮が刀を構えた。
「俺たちが抑える」
零奈も頷く。
「総司、行って」
「分かった」
総司は少年を見る。
「ここで待っててくれ」
「……うん」
「必ず戻る」
少年は小さく頷いた。
総司は森へ走り出した。
「俺も行く!」
隼人が追いかける。
「勝手に一人で行くな!」
「私も!」
零奈も続く。
蓮は一瞬だけ町を振り返った。
「こっちは任せろ」
三人を見送ると、蓮は残った鬼へ向き直った。
「さあ……ここからは俺たちの仕事だ」
森の中。
総司、隼人、零奈は木々の間を駆け抜けていた。
「……静かすぎる」
隼人が周囲を見る。
さっきまで大量にいた鬼の姿が、突然なくなっていた。
「罠かもしれない」
零奈が弓を構える。
総司は足を止めた。
「待て」
「どうした?」
総司は地面を見る。
そこには無数の足跡が残っていた。
鬼のものだけではない。
人間の足跡も混じっている。
「町の人たちだ」
足跡は森の奥へ続いている。
「急ごう」
しばらく進むと、巨大な岩壁が現れた。
その中央に、大きな洞窟が口を開けている。
「ここか……」
洞窟の入口には血の跡が残っていた。
隼人が槍を握り直す。
「行くぞ」
三人が洞窟へ入る。
中は暗く、湿った空気が漂っていた。
奥から、かすかに声が聞こえる。
「……助けて……」
総司が走る。
「待ってろ!」
洞窟の奥には、鉄格子が並んでいた。
その中に、黒森町の住民たちが閉じ込められている。
「滅鬼団……?」
「助けに来てくれたのか……」
総司は鉄格子を確認する。
「今出す!」
刀を振り下ろそうとした、その時。
「やめておけ」
暗闇から声が響いた。
三人が振り返る。
洞窟の奥から、一体の鬼がゆっくりと歩いてくる。
先ほど町で戦った鬼よりも、遥かに小柄。
しかし、その身体から放たれる殺気は比べものにならない。
「こいつ……」
隼人が息を呑む。
鬼は笑った。
「ここまで来るとはな」
「新人隊士にしては、よくやる」
総司は双剣を構える。
「お前が、この人たちを連れてきたのか?」
「ああ」
「なぜだ」
鬼は鉄格子の中を見た。
「食料だ」
総司の目が鋭くなる。
「……ふざけるな」
「人間は鬼にとって食料だ。それだけの話だ」
「そんな理由で……」
総司の手に力が入る。
鬼は笑う。
「怒ったか?」
「ならば――」
一歩踏み込む。
「お前の怒りがどれほどのものか、見せてもらおう」
次の瞬間。
鬼の姿が消えた。
「!」
総司が振り向く。
背後。
すでに鬼の拳が迫っていた。
ガキィン!
総司は双剣を交差させて受け止める。
「ぐっ……!」
足が地面に沈む。
「速い……!」
鬼はさらに力を込める。
「さあ、早本総司」
「お前の双剣を見せてみろ」
総司は歯を食いしばった。
この鬼は、これまでの敵とは違う。
そして総司はまだ知らない。
この鬼との戦いが、彼にとって初めての――
上級鬼との死闘になることを。
第18話 完




