第17話「黒森の鬼」
黒森町の入口。
総司たち四人は、森の奥から現れた鬼を睨んでいた。
その鬼は、これまで戦った鬼とは明らかに違っていた。
大きな体。
鋭い牙。
そして、全身から漂う異様な殺気。
「滅鬼団の新人か」
鬼が口元を歪める。
「随分と若いな」
隼人が槍を構える。
「お前が、この町の人たちを襲ったのか?」
「だったらどうする?」
「決まってんだろ」
隼人が踏み込んだ。
「ぶっ倒す!」
槍が一直線に伸びる。
だが――
ガキンッ!
鬼は片手で槍を掴んだ。
「なっ……!」
そのまま隼人を引き寄せる。
「隼人!」
総司が飛び込んだ。
双剣が鬼の腕を斬りつける。
ザンッ!
鬼の腕から血が飛ぶ。
「ほう」
鬼は傷口を見つめた。
「双剣か」
総司は隼人を引き戻す。
「大丈夫か?」
「なんとか……」
鬼が笑う。
「今の斬撃、悪くない」
「だが――」
傷口がみるみる塞がっていく。
「俺には届かない」
零奈が弓を構える。
「だったら、動きを止める」
矢が放たれる。
一本。
二本。
三本。
鬼の脚、肩、腕へ次々と突き刺さる。
「今!」
蓮が一気に距離を詰めた。
「斬る!」
刀が鬼の首へ迫る。
しかし鬼は身体を捻り、刀をかわした。
「甘い」
拳が蓮の腹へ入る。
「ぐっ……!」
蓮の身体が吹き飛ぶ。
「蓮!」
総司が駆け出す。
その前に鬼が立ちはだかった。
「次はお前だ」
「……!」
総司は双剣を構える。
蒼月との修行が頭をよぎる。
二本の剣を別々に動かすな。
一つの意志で動かせ。
「だったら……」
総司が低く構える。
「やってみる!」
右の剣が鬼の腕を狙う。
鬼が防ぐ。
その瞬間、左の剣が反対側から迫った。
「何っ!」
ギリギリで鬼が身体を逸らす。
総司はそのまま回転し、二本の刃を交差させた。
「双剣術――!」
鬼が後ろへ飛ぶ。
「双牙!」
ザシュッ!
胸元に二本の斬撃が走った。
「……!」
鬼が初めて表情を変えた。
総司は息を切らしながら着地する。
「当たった……!」
しかし――
鬼は胸の傷を押さえながら笑った。
「面白い」
傷口が再生していく。
「お前、本当に新人か?」
総司は答えない。
ただ双剣を握り直す。
その時。
後ろから少年の声が聞こえた。
「逃げて!」
総司が振り返る。
先ほど助けた少年が、町の奥を指していた。
「森の中にもっといる!」
「こいつ一人じゃない!」
その言葉と同時に、森の奥から次々と鬼が姿を現した。
十体。
二十体。
さらに増えていく。
隼人が青ざめる。
「おいおい……」
零奈も弓を構え直す。
「数が多すぎる」
蓮が立ち上がる。
「総司」
「ああ」
四人は背中を合わせた。
「町の人たちを助ける」
「そのためにも――」
総司が双剣を構える。
「ここで止める!」
鬼の群れが一斉に襲いかかってくる。
「来い!」
総司たちは鬼の群れへ飛び込んだ。
しかし――
森のさらに奥。
その戦いを見つめる、もう一つの影があった。
「……あれが早本総司か」
木々の隙間から、赤い瞳が光る。
「五鬼衆が気にするほどの男には見えないな」
その鬼は静かに笑った。
「ならば、少し試してみるか」
黒森の夜は、まだ始まったばかりだった。
第17話 完




