第16話「4人での初任務」
滅鬼団に正式入隊してから、二週間。
早本総司は、朝から訓練場にいた。
二本の刀を握り、何度も木刀を振る。
「右が遅い」
背後から声が飛んできた。
総司が振り返ると、蒼月刃が腕を組んで立っていた。
「またそこですか?」
「何度言わせる。双剣は二本を同時に振ればいいわけじゃない」
蒼月が木刀を拾う。
「右を振る時、左をどう動かす?」
「右の攻撃を補うように……」
「違う」
蒼月が一歩踏み込んだ。
「右も左も、どちらも攻撃だ」
木刀が一閃する。
総司の目の前で止まった。
「二本あるなら、二つの攻撃を同時に成立させろ」
総司は黙って木刀を見る。
「……難しいですね」
「だから修行するんだ」
蒼月は木刀を返した。
「今日の任務が終わったら、また鍛えてやる」
「ありがとうございます」
その時だった。
「総司ー!」
訓練場の入口から隼人が走ってくる。
「隊長が呼んでるぞ!」
総司は木刀を置いた。
「任務?」
「ああ。しかも今回は俺たち四人で行くらしい」
「分かった」
総司は刀を腰に差した。
第一討伐隊の隊舎へ向かうと、蓮と零奈もすでに待っていた。
相馬隊長が机の上に地図を広げている。
「今回が、お前たち四人にとって初めての任務になる」
隼人の顔が明るくなる。
「ついに俺たちだけで?」
「浮かれるな」
相馬の一言で隼人が姿勢を正した。
「任務地は北東部の山間にある町、黒森町だ」
「三日前から、住民の行方不明が相次いでいる」
零奈が地図を覗き込む。
「人数は?」
「現在確認されているだけで七人」
総司の表情が険しくなる。
「鬼の仕業ですか?」
「可能性が高い」
相馬は地図の一点を指した。
「特にこの辺りで目撃情報が集中している」
「ただし、鬼の姿を直接見た者はいない」
蓮が口を開く。
「つまり、まだ鬼の種類も強さも分からない」
「その通りだ」
相馬は四人を見渡す。
「無理に戦う必要はない。鬼の強さが分からなければ、一度撤退して報告しろ」
総司は頷いた。
「了解です」
「それと、もう一つ」
相馬の声が少し低くなる。
「今回の任務では、周辺に上級鬼が出たという情報もある」
空気が変わった。
隼人が槍を握る。
「上級鬼……」
総司の脳裏に、あの骸の姿が浮かんだ。
圧倒的な力。
簡単には通じなかった攻撃。
そして、妹・美月のことを知っていた鬼。
総司は刀の柄を握る。
「今度こそ……」
蓮が横を見る。
「焦るな」
「分かってる」
「本当に分かっている顔じゃない」
「……うるさい」
隼人が笑った。
「まあ、いつもの総司だな」
零奈も小さく笑う。
「でも、今回は四人一緒」
「一人で突っ込まないで」
総司は三人を見る。
「分かった」
四人は本部を出た。
馬車で数時間。
黒森町へ近づくにつれ、辺りの景色が変わっていく。
木々が増え、道も狭くなる。
やがて町が見えてきた。
しかし――
人の姿がない。
「……静かすぎる」
零奈が呟く。
総司は馬車から降りた。
町の入口には「黒森町」と書かれた古い看板が立っている。
その下には、深い爪痕が残されていた。
「鬼がいる」
総司が言う。
蓮も刀に手を添える。
「間違いない」
隼人が槍を構えた。
「じゃあ、行くぞ」
四人は町の中へ入っていった。
店は閉まっている。
家の扉も開いたまま。
だが、人だけがいない。
「誰もいない……」
零奈が周囲を探る。
「待って」
突然、零奈が立ち止まった。
「どうした?」
「血の匂いがする」
四人は顔を見合わせる。
匂いを辿っていくと、一軒の民家にたどり着いた。
総司が扉を開ける。
中には家具が倒れ、壁には爪痕が残っていた。
だが、死体はない。
「襲われたのに、死体がない?」
隼人が呟く。
その瞬間。
二階から物音がした。
「誰かいる!」
総司が階段を駆け上がる。
二階の奥。
閉ざされた部屋の中から、かすかな声が聞こえた。
「……助けて」
総司が扉を開ける。
そこには一人の少年が震えながら座っていた。
「大丈夫か?」
少年は総司を見るなり、泣きながら飛びついてきた。
「鬼が……」
「鬼がみんなを連れていった……」
「どこへ?」
少年が震える指で窓の外を指す。
町の奥。
深い森へ続く道。
「あそこ……」
「森の中に鬼の巣がある」
総司は双剣を抜いた。
「行こう」
蓮が止める。
「待て」
「まずこの子を安全な場所へ――」
その瞬間。
森の奥から――
低い咆哮が響いた。
町全体が震える。
少年が怯える。
「来た……」
総司は刀を握り直した。
森の中。
無数の赤い目がこちらを見ていた。
そして、その中心から――
一体の鬼がゆっくりと姿を現す。
「滅鬼団……」
鬼は笑った。
「ようやく来たか」
総司たちは武器を構える。
正式な隊士となって初めての任務。
それは――
想像していたよりも遥かに危険な戦いの始まりだった。
16話完




