第12話「父の名」
翌朝。
滅鬼団本部。
総司は訓練場へ向かっていた。
昨日、蒼月刃から聞いた言葉が頭から離れない。
――お前の父親は、昔……。
「……父さん」
総司は立ち止まる。
父が何者だったのか。
自分は何も知らない。
ただ、強い剣士だった。
そう思っていた。
しかし――
蒼月の様子は、それだけではなかった。
⸻
「早本」
後ろから声がした。
振り返ると、神崎蓮が立っていた。
「隊長がお前を呼んでいる」
「俺を?」
「ああ」
二人は隊長室へ向かう。
⸻
「入れ」
「失礼します」
部屋の中には相馬剣一がいた。
そして、その隣には――
蒼月刃。
「来たか」
総司は蒼月を見る。
「昨日の話……」
「ああ」
蒼月は一冊の古い記録を机に置いた。
「お前の父親についてだ」
総司の目が見開く。
「父さんを知っているんですか?」
「直接会ったことがある」
「……!」
蒼月は記録を開く。
そこには一人の男の肖像画があった。
総司は息を呑む。
「父さん……」
⸻
記録に書かれていた名前。
早本真一郎。
総司の父だった。
その下には、滅鬼団での記録が残されている。
元第一討伐隊所属
階級――副隊長
そして――
鬼王・黒神羅との交戦経験あり。
「父さんが……鬼王と?」
総司は信じられない様子で記録を見る。
相馬が口を開く。
「お前の父親は、今から十年以上前に鬼王と遭遇した」
「その時、黒神羅と一人で戦った」
「結果は?」
総司が尋ねる。
蒼月が答える。
「生きて帰ってきた」
総司は驚く。
「……鬼王から?」
「ああ」
⸻
しかし。
蒼月は表情を曇らせる。
「ただし、その戦いで父親はあるものを見た」
「あるもの?」
「鬼王の力の一端だ」
「そして、黒神羅が何を探しているのかも知った」
総司は身を乗り出す。
「何を探していたんですか?」
蒼月は黙った。
「……それはまだ言えない」
「なぜです!」
総司が声を荒げる。
「妹が連れ去られたんです!」
「美月が鬼王城にいる!」
「俺は何も知らないまま、ただ強くなれって言われても――」
蒼月は総司を見つめる。
「だからこそだ」
「……え?」
「何も知らないまま鬼王の前に行けば、お前も美月も死ぬ」
総司は言葉を失う。
⸻
その時。
相馬が一枚の紙を取り出した。
「もう一つ、分かったことがある」
そこには五年前の村襲撃事件の記録があった。
「お前の両親を殺し、美月を連れ去った鬼」
総司の視線が記録に向く。
「身元は分かっていない」
「だが、残された痕跡から五鬼衆との関係が疑われている」
総司の拳が震える。
「五鬼衆……」
「ああ」
相馬は頷く。
「そして最近、その鬼が再び動き始めた可能性がある」
⸻
総司は拳を握り締める。
「なら、俺はもっと強くならないと」
「今のままじゃ……美月を助けられない」
蒼月が立ち上がる。
「その覚悟があるなら、一つ聞く」
「何ですか?」
「お前は、双剣を本当に極めたいか?」
総司は迷わなかった。
「はい」
「ならば――」
蒼月が一本の木刀を投げる。
総司は受け取る。
「今日の夕方から俺の訓練を受けろ」
「……!」
「ただし、甘くはない」
「覚悟しておけ」
総司は木刀を強く握る。
「お願いします!」
⸻
その日の夕方。
訓練場。
蒼月と総司が向かい合っていた。
「まず、お前の弱点を教える」
「俺の弱点?」
「お前は双剣を使っているが、二本の剣を同時に振っているだけだ」
総司は驚く。
「……」
「右手と左手が別々の意思を持っていない」
「それでは双剣の本当の力は引き出せない」
蒼月が木刀を構える。
「双剣とは二本の剣を持つことじゃない」
「二本の剣で、一つの動きを作ることだ」
⸻
「来い」
総司が踏み込む。
「はあっ!」
右。
左。
連続攻撃を繰り出す。
しかし――
カンッ!
蒼月の木刀が総司の腕を打つ。
「遅い」
次の瞬間。
肩。
腹。
脚。
「ぐっ!」
総司は地面に倒れた。
「これが……双剣特務隊長……」
蒼月は木刀を下ろす。
「立て」
総司は歯を食いしばる。
「はい!」
⸻
その頃。
鬼王城。
美月は一人、窓の外を見ていた。
遠くに見える空。
「お兄ちゃん……」
その瞬間。
胸元の呪印が強く光る。
「……っ!」
美月は胸を押さえる。
頭の中に、知らない声が響いた。
――来い。
――お前の兄が近づいている。
美月の顔から血の気が引く。
「誰……?」
暗闇の奥から、鬼の声が聞こえた。
「鬼王様は、お前の兄を待っている」
⸻
一方。
滅鬼団本部。
総司は夜になっても木刀を振り続けていた。
「美月……」
一振り。
「待ってろ……」
二振り。
「必ず迎えに行く」
三振り。
父の背中を追いながら。
いつか自分も――
鬼王の前へ立つために。
⸻
そして。
滅鬼団の緊急鐘が鳴り響いた。
ゴォォォン――!
総司が顔を上げる。
「何だ……?」
本部中の隊士たちが一斉に動き始める。
相馬が叫ぶ。
「全隊士、戦闘準備!」
「鬼の大群が――」
「滅鬼団本部へ向かっている!」
総司は双剣を手に取った。
修行は始まったばかり。
しかし――
次の戦いは、すぐそこまで迫っていた。
⸻
第12話 完




