冒険者、とは!
冒険者ギルドから程近い場所に位置する大衆食堂、『木漏れ日亭』。安くて多くて美味い、の三拍子が揃った言わずと知れた名店であり、数多くの冒険者が足繁く通っている。
そんな名店で、ささやかなパーティーが行われていた。『リリエルの冒険者登録を祝って』、という名目で。
「り、リリィ、これ美味しいですっ! すごく柔らかいです!!」
「う、うん……誰も取らないからもうちょっと落ち着いて食べようね」
運ばれてきた料理をものすごい速度で平らげるエミリィ。生真面目な侍女の姿はどこへやら。私としては、今のエミリィの方が気楽でいいけどね。
乾杯を済ませたウィルたちも、満足げに料理を口へと運んでいる。確かに、ここの料理は公爵家で食べていたものと同じくらい美味しい。名店と呼ばれるのも頷ける。
そうしてしばらく、賑やかな食事が続き、揃いも揃って注文した食後のデザートが届くまでの間、私はユーリから冒険者ギルドの初心者講習とやらを受けることになった。
まず、冒険者というのは私の認識通り、依頼を受ければ何でもこなす『何でも屋』であること。何でも、と言っても、国に害をなすことや殺人の依頼などは突っぱねるそうだが、他のことなら大抵何でもやる。家を飛び出したペットの捜索だったり、庭の雑草抜きだったり、街中のドブさらいだったり。
そして、そんな様々な依頼には難易度に応じて『等級』が与えられている。同様に、冒険者にもその依頼をこなす実力があるという指標である『等級』が与えられる。
等級は下から順に、『銅級』、『鉄級』、『銀級』、『金級』、『青銀級』、『神銀級』と六つあり、さらにその中でも『青銀級』と『神銀級』以外の等級には、『下位』、『中位』、『上位』と三つの小さな区分がある。つまるところ、全部で十四の等級があるというわけだ。
今の私は当然、冒険者に登録したばかりだから『銅級下位』となる。ここから、依頼をこなした数や、こなした依頼の難易度、ギルドへの貢献度などで等級が上がっていくシステムになっている。
一般的には、『銅級』は冒険者見習い。『鉄級』は一般冒険者。『銀級』と『金級』はそれぞれ実力のある一般冒険者から、ベテラン冒険者。『青銀級』ともなればギルドの中でも重鎮扱いされ、『神銀級』に至っては国から個人的な指名依頼が下されるほどの扱いを受けるらしい。上位二等級に関しては、まるで貴族のようなものだ。
実際、『青銀級』には子爵位が、『神銀級』には伯爵位が国から与えられるというのだから、冒険者というものがこの世界にとってどれほど重要な物なのかは言わずとも分かるだろう。まあ、まだ当分は関係のない話だ。
と、ここで気になるのが、ウィルたちの『紅月』パーティーの等級だ。私の見立てでは、『鉄級上位』から『銀級下位』辺り……つまり、ベテラン冒険者に足を踏み入れつつある一般冒険者辺りではないかと睨んでいる。
「俺たちか? パーティーとしては『銀級下位』、個人としては俺とヴィアーネが『銀級下位』で、サリアが『鉄級上位』だな」
「へえ。魔法使いだと等級が上がりにくいとか?」
「いや、単にサリアだけ冒険者になる時期が遅かったってだけさ。職業によって有利不利はない。完全な実力社会だからな」
私の予想通りだ。となると、冒険者ギルドの等級認定の仕組み自体は、それなりにまともに稼働しているみたいだ。
それからも、二ヶ月に一回納税の義務があったりだとか、受注を強制される緊急依頼だとか、細かい講習を受けながら、届いたデザートを頬張る。
「まあ、小難しいことはないさ。税金さえしっかり払って問題を起こさなけりゃ、追放処分なんて受けないよ」
「そうですね。税金も、怪我などの理由で納めることが難しい場合は、事前に申請していただければ免除することも可能ですし」
甘いデザートを頬張り、顔を蕩けさせながら、ユーリが言った。前世では荒くれ者の集団というイメージが強かった冒険者ギルドだが、この時代ではそうでもないようだ。話を聞く限りでは、困った人々の依頼をこなす善良的な組織のように聞こえる。
「しっかりした組織なんだね」
「まあ、民営とはいえ、街の防衛にも関わるような組織ですからね。少なくとも、王都やアクアレアのように栄えた街では、目立った不正も行われていないはずですよ 」
言い換えるなら、国の目が届かないような小さな街では、行われている可能性がある、と。現状、アクアレアから離れるつもりはないけれど、心の片隅には留めておこう。
デザートも食べ終わり、ユーリによる初心者講習も終わると、今度はウィルが声をあげる。
「ユーリ、これで講習は終わりだよな?」
「うん。そうだけど……どうしたの?」
口を拭いながらユーリが問いかけると、ウィルは神妙な面持ちで答えた。
「……少し、気がかりなことがあってな。できればマスターか副マスターに取り次いでもらいたいんだが」
「あー、マスターは今いないんだよね……副マスターになら取り次げると思うよ。もしかして、街道沿いの魔物のこと?」
ウィルが、静かに頷いた。
『紅月』の皆曰く、私たちが通ってきたあの街道には、本来あそこまで多くの魔物は生息していないはずだという。それがここ最近は、街の行き来に支障をきたすほどだ。
それに加え、あの白いウルフを筆頭とした、特殊な個体の魔物。魔物本来の特性から外れた能力を持つ魔物が増えていた。
これまでの十二年間、王都から出たことのない私には分からないことだけど、ウィルたちからすればそれは異常なことらしい。だとすれば、この異常事態には何らかの原因があるはずだ。それも、何か良からぬことが起こる前兆かもしれない。
「悪いけど、帰ったらすぐに頼めるか?」
「うん、分かった。じゃあ、そろそろ出よっか」
全員が食事を終えていたこともあってか、私たちはそんな二人の言葉を皮切りに続々と席を立った。遠慮なく食堂から立ち去るヴィアーネやサリア、ユーリたちと、支払いを済ませるウィル。若干数名……主にユーリやエミリィが数人前を平らげていたこともあってか、ウィルは顔を引き攣らせていたが、まあ、知らないふりをしておこう。貰えるものは貰っておく主義なのだ。




