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報告

 食堂を後にし、ギルドに帰ってきた私たちは、ユーリの案内で応接室へと通される。ほんの少しの待ち時間を経て、彼はやってきた。


「すまない、待たせたね」


 眼鏡をかけた長い髪の男。歳は三〇代前半といったところか。冒険者というよりは、文官のような格好をしている。


「いえ。わざわざすみません、副マスター」

「いやいや。ギリアードがいない今は僕の仕事だからね。気にしないでいい」


 ギリアード、というのが誰かは分からないが、話の流れから察するに、今はいないというギルドマスターのことだろう。権力を振りかざす様子もなく、優しげに微笑んだ彼は、ユーリが運んできた茶を口に含んだ。


「ユーリくんからは『街道沿いの異常』についての報告だと聞いているが、本当かい?」

「はい。ここ最近問題になっている、魔物の増加についてです」


 副マスターの対応は、主にウィルに一任されていた。パーティーのリーダーなのだから当然だろう。普段の砕けた彼からは予想もできないような丁重な言葉遣いに、思わず顔が引き攣りそうになった。

 副マスターと相対して座るのはウィルだけではない。私もだ。倒した魔物の素材を保管しているのが私だということもあるし、何より、特殊個体の魔物についての説明は、私の方が上手くやれる。


「リリエル、頼めるか?」

「うん」


 テーブルの上に、通常個体の魔物の素材と、特殊個体の魔物の素材を出す。副マスターはそれぞれ手にとって、難しい顔をした。


「これは、王都レリウムからアクアレアまでの帰還中に倒した魔物の素材です。一般的な魔物の素材とは別に、通常とは異なる特殊な個体の素材が混じっているのがお分かりになるかと思います」

「ふむ、確かに。これは……ウルフ種かな。こっちは手触りからしてベア種か。色合いが通常のものとは全く異なるね」

「ええ。色が違うだけならまだよかったんですが……問題は、奴らが通常の個体よりも強力な力を宿していたことです」

「というと?」


 素材を手にとったままの副マスターの問いに、ウィルは一つ頷いて、私の方に目線をやる。ここでバトンタッチということだろう。


「ここから先は、王都から同行してくれた、魔法使いのリリエルに説明を代わります。特殊個体の殆どを倒したのは、彼女の魔法ですので」


 バトンを渡され、私はその場で立ち上がって礼をする。


「お初にお目にかかります。新人冒険者のリリエルと申します。以後、お見知り置きを」

「私は冒険者ギルド副マスターのアルバート・ウェインだ。よろしく頼む」


 副マスターもまた立ち上がり、頭を下げた。権力者というのは苦手だが、この人は身分が下の人間にも礼儀を払えるまともな人間だ。ここは私も、礼節を持って対応しなければならない。



 そうして、私は道中遭遇し、倒した特殊個体の説明を始めた。魔力抵抗が種としては異常に高い白いウルフや、通常よりも遥かに頑強な肉体を持つ赤いヒュージベアと呼ばれる魔物。他にも、数種の特殊個体の報告を終えると、副マスターは複雑な表情で息を漏らす。


「ふむ……概ね、他の者からの報告とも一致しているね」

「他にも特殊個体と遭遇した者が?」

「ここ最近ね。ここまで大量に素材を持ち込んでくれたのは、君たちが初めてだ。おかげで調査も進むだろう。感謝する」


 副マスターは再び頭を下げると、疲れ切ったような表情で、茶を啜った。恐らく、この異常な事態の調査や処理に追われて、まともに休めていないのだろう。目の下には深い隈がある。不在だというギルドマスターも、この異常な調査に乗り出しているに違いない。


「……街道沿いの異常については、こちらでも隊を組んで調査を進めているところだ。もしかすると、その元凶を排するために、緊急依頼を発令することになるかもしれない。そうなった時は、是非力を貸してほしい」

「勿論です」


 ウィルを始め、『紅月』の面々は胸に拳を添えていた。それに倣って、私も同じような仕草を取る。副マスターは、そんな私に視線を向けた。


「それから、リリエルくん。君はまだ『銅級下位』の冒険者ということだが、ここにある特殊個体の魔物の殆どを君が倒したというのは事実かい?」

「……? はい。殆どといっても、半数ほどですが」


 街を出てすぐに遭遇した白いウルフや、その後に遭遇した数匹は私が倒したが、そこから先はウィルたち『紅月』のメンバーだけで倒した個体も少なくない。ベテラン冒険者の域に足を踏み入れているだけあって、三人の状況適応能力は高いものだった。


「そうか。なら、『特別昇格試験』を受けるといい。合格すれば『鉄級下位』の資格が手に入る。詳細は後でユーリくんに聞いてくれ」

「は、はぁ……」


 なんだかよく分からないが、その試験に合格すれば無条件で昇格するというのだから、受けて損はないだろう。『銅級』で受けられる依頼は危険度が最も低く、それだけで暮らしていけるほど稼ぎが良いわけでもないから、ある程度の等級までは手早く上げてしまいたい。


「それともう一つ……ここにある素材の使い道についてだが」


 そこから先は、副マスターとしてではなく、冒険者ギルドとして、私の持つ素材の買取の交渉が始まった。結果的に、素材の買取だけでなく、特殊個体の報告の報酬なども含めれば、商人の護衛で得た金額よりも多額の報酬を受け取ることになってしまった。

 食堂で予想よりも多く散財してしまったウィルはこれに歓喜。応接室を後にした私は、ここまでの『荷物持ち』としての報酬と『護衛』としての報酬で、少なくはないお金を手に入れたのであった。

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