ドラゴン
「学園長さん」
「あら、ヘイタ君」
港に着くと学園長さんが居たので声をかける。彼女の額には、うっすらと汗が滲み出ていた。
「ごめんなさいね」
と、不意に謝ってくる。何に対してだろうかと考えていると、学園長さんは続けて唇を滑らした。
「あの子達を救ってくれて。本当は私の役目なのにね」
「あー……」
そうか、この人はもう知っていたのか……。
きっと彼女は、カタリナとシスティスが暗殺ギルドやクルスに襲われた事を言っているんだろう。
でもそれは仕方のない事だ。事件が起きる前に魔王軍が攻めてきていて、彼女は防衛するため戦場に赴かなければならなかったのだから。
そして、攻撃を防ぐ結界を維持しないといけないのでその場を動けない。だから助けに行けなかった。
貴女の所為ではない。
そう伝えるが、学園長さんは皮肉気に首を振った。
「私の落ち度よ。クルスの悪意を見抜けなかった……。だから貴方には本当に感謝しているわ。ありがとう」
「まぁ、俺はあいつらの師匠ですから」
歳上の女性から真摯に感謝されるのはどうにも照れ臭かったので、誤魔化そうと気軽に言葉を返した。
「それよりも」
俺はパッと辺りを見渡す。
海の向こう、空の下には数え切れない程の魔物が蠢いていた。
それもそんじょそこらの雑魚ではなく、その全てが竜種ドラゴン。
ドラゴン供はこの国を墜とそうと、今も上空から攻撃を仕掛けていた。
しかし、未だに被害はゼロ。それは、シルヴィア共和国を丸ごと覆う程の結界を張っている学園長さんのお陰である。
あれだけいるドラゴンの攻撃を凌いでいられるなんて、学園長さんの魔力量はハンパねぇんだな。
が、時間の問題だろう。いくら彼女でもこのまま防ぎきれるなんて到底思えない。
だから……。
「守り切れますか」
勝てそうか、とは聞かない。聞かなくても分かりきっているから。
「今のところ無理そうね。国の兵士や冒険者達が応戦してるけど、一匹一匹が強すぎるのよ。最低でもワイバーン、後は全部上級のドラゴン。状況は絶望的だわ」
ここから少し離れた場所、結界の外で様々な種族の戦士達がドラゴンと戦っている。
薄暗いので曖昧だが、多分押されている。悲痛な絶叫が何度も木霊するのだ。
俺はまだ出会った事が無いのだが、やはりドラゴンってのは魔物の中で強い部類なのか。
「学園長さん。ちょっくら数を減らしてきますんで、残りは頼みます」
「……貴方が戦ってくれると言うなら凄く助かるけど、平気なの? ドラゴンは強い上に生命力が高いから、倒すのは容易ではないのよ」
「あれ、心配してくれるんですか?」
「当たり前じゃない。今の貴方も、歴とした私の生徒なのよ」
茶化そうと思ったら、また真剣に返されてしまった。
やっぱこの人やり手ですわ。このギャップで迫られたら、男なんてイチコロですもん。
現に今、オトされそうになったし。
「まぁ見てて下さいよ。その不安が杞憂だってことを証明しますから」
そう言って、俺は足に力を溜めて飛び跳ねる。
結果の手前に降り立つと、独りでに結界に穴が開いた。
多分、学園長さんが気を利かせてくれたのだろう。ありがたい。
結界から一歩外に出ると、そこはもう荒れ狂う戦場だった。
「その場に固まるな、散れぇ!!」
「ブレスが来るぞ! 盾役前に出ろ!」
「ギャオオオオオオオッ!!」
「腕がぁぁ!!」
「だ、誰か助け――」
阿鼻叫喚。
ドラゴンという上位種によって、人が路傍の石の如く蹴散らされていく。
対抗し得る上級冒険者、それに連なる兵士も存在するが、いかんせん数が多すぎるのだ。
一匹を討伐するのですら骨が折れるのに、それが数十、数百となったら手に負えないだろう。
それなのに、ドラゴン相手によくここまで耐えた切ったなと感心を抱く。
俺は倒れ伏す兵士達の隙間を掻い潜り、先頭へと踊り出た。
「何故こんな所に少年が!?」
「おい下がれクソガキ、死にてぇのか!!」
次々と飛んで来る警告を無視して、竜と対峙する。
「グルルゥオオオオオ……」
「おお、これがドラゴンか。やっぱり本物は迫力があるなぁ」
モンスターの代表と言ったらドラゴンだよな。
それにしてもカッコいいなぁ……。
ドラゴンって無条件にカッコいいわ。
小学校の遠足の時、土産店で剣が入っているドラゴンの鞘のキーホルダーってつい買っちゃうのよね。
結局刺さって痛いし邪魔だから机の引き出しに封印するんだけど。
そんな昔のことを思い出した俺はドラゴン供を睨みつけながら、静かに口を開いた。
「おい、"死にたくなかったら消えろ"」
『――――――――ッ!?……ガァァァアアアッ!!!』
「だよなぁ」
奴等に向けて殺気を飛ばしたのだが、ドラゴンは一瞬怯むだけですぐに雄叫びを上げ敵意を向けてくる。
流石ドラゴンだな。明らかに俺の方が格上だと示したのに全く闘争心が萎えていない。
……戦いたくは無かったが、それなら仕方ないか。
「じゃあ――」
コキコキと、首と手の骨を鳴らす。
先ずは、地上にいる奴等を片付ける。
「思う存分、闘おうか」
「オオオオオオオオオオッ!!」




