何をしたいか
「あいつらの様子はどうだ?」
「今はぐっすり寝てますよ。平太さんこそ大丈夫ですか?」
「正直に言えばちょっと疲れたけどな。あいつらに比べれば、どうって事ねえよ」
二人の弟子の顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。すると女神はふふっと柔らかい笑顔を零した。
月が満ちる真夜中。
俺とセレナは学園長さんの屋敷の暖炉室にいた。
システィスとカタリナは寝室でゆっくり眠っている。
学園長さんは、今ここにはいない。
クルスの事件を終えてめでたしめでたし、とはいかなかった。
厄介事というのは立て続けに起こるもので、最後の魔王軍が攻めてきていたのだ。
学園の生徒や一般市民は避難し、兵士や冒険者は防衛する為に港に集結している。
今頃命を賭して魔物と戦っているだろう。
ったく、こんな夜中に来るんじゃねえっつの。迷惑な奴等だな。
「平太さんはどうするんですか?」
「……」
セレナの問いには、俺は今まで通り魔王だけと戦うのか。そういう意図が含まれていた。
それには直ぐに返事を出すことが出来ず、俺は瞼を閉じて逡巡する。
そして、自分なりの答えを出した。
「俺はなるべくこの世界の戦争には干渉しない。前にも言ったが、この世界の問題は出来る限りアステリアにいる人間が解決するべきだと思っているからだ」
「……はい」
「ベルン王国の時も帝国の時も俺はそうした。自分の考えに、信念に従って」
暖炉に焼べられている火を眺めながら、続けて言う。
「けど、けどな。今回ばかりは破ろうと思ってる。システィスを、カタリナを、弟子を守る為にな。でも、それをしていいのかどうか分からないんだ」
本音を告げると、セレナはう~んう~んと唸りながら頭を捻って、
「平太さんは迷ってるんですよね? 自分の信念を曲げてまで、魔王軍と戦っていいのか……と」
「あ、ああ」
頷くと、セレナは何だそんなことですかと言わんばかりに軽い声音で、
「別にいいんじゃないんですか」
「なんでだよ」
「平太さん……大切なのは信念ではないです。平太さんが今、"何をしたいか"なんですよ」
俺が今、何をしたいか……。
「平太さんがベルン王国や帝国の時に手を貸さなかったのは、あなたが"そうすべき"事だと思ったから。なら今、平太さんが彼女達を守りたいと思って戦うなら、なんの問題はありません。ていうか、そんな事で難しく迷ってるなんて平太さんらしくありませんよ」
そうか……そうだよな。俺らしくないよな。
セレナに悟されて納得する。
俺はあいつらを死なせたくない。なら、その為に力を振るったっていいじゃねえか。
うじうじ悩んでたってしょうがない。
「ありがとよ、お陰で踏ん切りがついた」
「いえいえ。あっでも、もし感謝してるなら一つだけ私の頼み事を聞いて下さい」
「何だよ急に……いいぜ、言ってみろよ」
促すと、セレナは大きなおっぱいをぶるんっと張って、
「私にご飯を奢って下さい。システィスさんとカタリナさんに奢った事は、ちゃんと把握しているんですからね」
……はは、何だそんな事かよ。もっと録でもないことを頼まれると思ってたわ。
「いいぜ、幾らでも奢ってやるよ」
「言いましたね? 言質は取りました。よーし久しぶりに一杯食べちゃいますよ~」
「ま、待って」
やっべ、気軽に了承してしまったが、こいつの腹の容量を考慮してなかった。財布の中身がガチで消えてしまう。
(ま……いいか)
偶にはな。それに、セレナが美味そうに飯を食べるのを見るのも嫌いじゃないし。
俺はバンッと膝を叩いて立ち上がる。
「んじゃ、行ってくるか」
「お気をつけて」
「おう。二人のこと任せたぞ」
「はい」
セレナに見送られ、俺は戦場へと駆けたのだった。




